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宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」

 

darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の第5回目です。
ピクミンの創作現場にどんどん近づいていきますよ。
敵、はどんな存在なのか?
背景のヒミツは? そして、主人公はオリマーなの?
というようなことについて、聞いていきます。

糸井 そういえば、ピクミンって「ノー言葉」ですね。
宮本 日記とか、そういうの以外は?
糸井 日記、いらないくらいだもの!
ぼくは、日記は、ちょっと、しらけたんです。
「狭くしないでくれ!」って思って。
おれが考えているのはそれじゃないのに、
「妻、いたのかよ、おれは!」って。
それは、「ちょうどいいところ」っていうのがないので
文字を書く以上、そうなるなっていうのは
わかるんですけれど。何も書かないわけにはいかないものね。
意外な評判っていうのは、ありますか?
こんなところに人は感じるんだなあ、っていうのは。
宮本 そうやなあ、あまり、評判を聞いていないんです。

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広報部 最初、テスト段階で、ピクミンがチャッピイに
食べられたとき、テストプレイしてくれた
女性社員が泣いたんですよ。ほろっと。
それはどうですか?
宮本 それもねえ、……泣くかもしれんな、って思ってた。
意外な、ねえ……
糸井 ほぼ日で「ゆーないとさん」という、
自由な女の子にゲームのレビューを書いてもらったんです。
すごく奔放なものを期待していたんだけれど
意外と、まとまっていた。
すでに宮本さん、織り込み済みだったんだろうな、
っていう感想が、ちゃんと出てきた。
彼女がオトナになっちゃったのかな、
とも思ったんだけど、これは、宮本さんが
そういうことをすべて
織り込み済みだったのがいけない(笑)。

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宮本 そうかもしれない。
意外なところ、ねえ……けっこう、逆に、
いっぱい入れているので、自分自身もできあがってから
始めて気づいたこともあるんですが
そういうこともふくめて、全部わかっているんですよ。
糸井 書き出したら一万とかになるだろうね。
宮本 どこにひっかかってくるっていうのは
人それぞれなんですけれど、
予定外のことは起きていないですね。
マリオと、どう比べられるかなということは考えて、
「対極に置こう」というふうには思っていたんです。

糸井 マリオのことは、やっぱりそういうふうに、
考えるんだ!
宮本 考えるんです。
高校生くらいの女の子が
恥ずかしくないキャラクターにしたい、
というのは考えていて、この絵を選んだんです。
けっこう、妙な絵になるように
仕上げたはずなんですけどね。
変な顔はできないマリオ、というか、
任天堂フォーマットにはまったものがあるので
ピクミンも、そうじゃないように
つくったはずなんですけれど
「任天堂らしいね」と言われたり……

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糸井 そりゃあ!
宮本 「ちょっと可愛すぎて、ダサイ」と言われたり。
娘の周辺の、中学校の女の子とかに。
かなり、気持ち悪がってくれたらいいのに。
気持ち悪いのに、動いているのを見ると、
離れられなくなる、というのがいいのに。
糸井 「可愛すぎて」って言うのか~。
宮本 日本にある「ヘタウマ」ではない、
グローバルな感じで、というふうには
なったと思うんですが。
糸井 背景のすごいリアリズムというのは
すごく意識してますよね。

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宮本 これはね、デザイナーが勝手にやってくれたんですが
最初、パソゲーのようなスタイルで進めているときは
ちょっとかっこいい、ファンタジーみたいな絵が
出てきていたんです。
途中で、ふと、リアリズムでやってみたいという
実験をしてくれて、
切り株を一個つくってくれたんです。
それがすごくよかったんですよ。
糸井 マリオじゃないものね。
宮本さんちの、庭の写真なんだって?
宮本 家の庭、というのは本当は違うんですが
家を含む周辺でまず取材をしてきてつくったんです。
素材をね、地面や切り株を上から写真に撮ってね。

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糸井 切り株なんかある環境なの!
いまどき……(笑)。
宮本 あるんですよ(笑)。
それで引き伸ばしてみたら、
ピクミンの絵と、相性がよかったんですね。
けっこう、クリエイティブは、持ち寄りで。
でも、そういうチームだけでつくっていると、
ぼくらが入っていかないとね、
「1」って書いた円盤を出すことは
許せない人たちなんですよ。
糸井 あのへんがぼくには響くんですよね。

宮本 そういう無茶が通るのは、
年寄り……ぼくですけど、がいて
「おれはコレで譲らない!」
というから、
じゃあ、せめて、もうちょっとキレイにしましょうよ、
と、半透明にしてくれたりして。
糸井 あの「1」のあたりは、
ぼくのセンスと同じなんですよ。
「いいバット」「もっといいバット」
というような発想なんですよ。
「タコケシマシーン」に近いものがありますよね。

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宮本 それでもいいじゃない、
わかってほしいことは、そういうことじゃないから、
ということなんだけどね。
糸井 たとえば宮本さんが
ざっとこうだっていったもので
上がってきたものを、ジャッジすることが
多かったんだ? 絵に関しては。
シアワセだね、それ!
宮本 勝手に書いてくれたのを見て、
これがいい、って。
糸井 うらやましい……
宮本 だからぼく、ほとんど絵を書いてないですよ。
ディレクターがデザイナーを集めて
いくつかの映画とかを見せて、
「こういうわけのわからない世界観のものを
 つくってくれ」と言っただけ、とか。
あとはぼくが頼んでるのは、
「いいか、“敵”を作っているんじゃないんだよ。
 “ピクミンを見せるために、大事なもの”を、
 作ってるんやから!」
戦う相手キャラクターの
仕様っていうのがいっぱい出てくるんですよ。
でも、そんなに作らないからって。
そのキャラクターは
ピクミンの何を見せてくれるのかっていう意味で、
つくるんだ、って。
糸井 何種類くらいいるの?

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宮本 10種類くらいが基本で、
バリエーションはいっぱいあるけど。
糸井 宮本さんが現役で作り続けている人だな、
って感じるのが、
敵が10種類っていうの、
逆行ですよね……
宮本 普通のゲーム作りだと
70以上ですからね。

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糸井 主人公っておそ松くんと一緒で、
無個性で、あんまりいじれないんだけど
友達とか敵でバランスをとる。
それでいちばんうまくいったのが
トイ・ストーリーの作者だと思うんですよ。
トイ・ストーリーって、
いいもんと悪いもんがいて、
悪いもん側のおもちゃたちって
ものすごくチャーミングじゃないですか。
ぼくは最近、よく話に出すんだけど、
天国と地獄の想像図を書いたとき
天国ってぜったい白っぽくてタイクツだと。
地獄はいろんなバリエーションがあって、
結局、人間って、何がいいんだって言われたとき
こたえられないようにできてるんだ。
どれだけ悪いもの、っていうか、影を描けるかで
光っていうのは、その残りの部分なんだよ、
って話をしていたんです。
でも今の話ってそれを越えていて、
光を強調するために、
影の描き方を、できるだけ少なくしてもいい。
事件を起こすっていうか、ぶつかりあったところに
光がキラキラするんじゃないか、
っていう理屈だから。
越えた、ね。
天国の話じゃないけど、
無個性といえば、無個性ですよね。この主人公。
宮本 このゲーム、特殊で、自分が主人公なんですけれど
自分が操作しているのはピクミンである。
オリマーを操作して、いちばん愛着がわくのが
オリマーのはず、なのに、ピクミンに行くんです。
こういうゲーム、ないことはないですけれど、
比較的少ないタイプのゲームですよね。
主人公は、遊ぶ人にとってはオリマーじゃあかんわけで
ピクミンでなきゃいけない。
けど、ピクミンっていうのは、
色んな演技をして反応が少々悪くても
怒れない。
だから、キャラクターとして
プレイヤーを見せやすい構造なんですよね。

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糸井 しょっちゅう自分がいることを忘れるもんね。
逃げろ! ってときに、
あいつら(ピクミン)と自分を、
重ねてるもんね。
宮本 Cスティックでピクミンの隊列の形を変えて
矢じりのようにスピーディに動いたり
ハートの形になったりとか
火の鳥が小さな鳥の群でできてるみたいなことを
志した時期もあるんですけど
どうもうそっぽくて。
そこで、もっと勝手に動く群になったんですけどね。
そういう意味では変わってるんです。
2002-05-31