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生地も、つくりも、超一流
- 伊藤
- 太香子さん、
今日はよろしくお願いいたします。
- 惠谷
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 伊藤
- 今回のこのパジャマは、
太香子さんからご提案をいただいて、
こうして実現しました。
どうもありがとうございます。
- 惠谷
- そうでしたね。
すごくいいシルク生地があるから、
まさこさんどうですか?
ってご連絡を差し上げて。
- 伊藤
- 太香子さんがそれほどまでに言われる生地って
どんなものか、気になったんです。
あらためてお伺いできますか。
- 惠谷
- はい。
まず、糸がすばらしいんです。
この生地に使われている糸は、
ポリウレタンという伸びる糸のまわりに、
シルクの糸をくるくる巻き付けて
カバーリングしてあるんですね。
だから、伸縮性もありながら、
肌に当たる部分は全てシルクになりますから、
肌触りがとにかくなめらかで着心地がいいんです。
- 伊藤
- なるほど、特殊な糸を使っているんですね。
- 惠谷
- シルクの生地というと、ツルツルしていて、
肌触りがヒヤッと冷たく感じる、
と思われるかたもいらっしゃいますが、
これは、糸自体も、織り方も本当に質がよくて、
「ツルツル・冷たい」とはむしろ逆なんです。
やわらかく、肌になじむ印象があって、
安心して使えるから、
weeksdaysさんでぜひ何か作らせていただきたいな、
と思ったんです。
そうしたらまさこさんが、パジャマがほしい!
と言ってくださって。
- 伊藤
- 質のいいシルクなら、ナイトウェアがいいな、
と思ったんです。
作ってくださってすごくうれしいです。
- 惠谷
- 実は、縫製の工程で、
「こうしてほしい、ああしてほしい」という
こちらからのたくさんの細かな希望に対して
しっかり対応してくださるシルク屋さんって、
なかなかないんです。
でも今回は、シルクを専門に扱っている工場にお願いして、
すべて「できます」と言っていただけたので、
こうして形にすることができました。
- 伊藤
- わぁ。
たとえば、どんなリクエストを出されたんですか。
- 惠谷
- まず、こういったサテン織の生地って、
ふつうはツルツルしている面を
表に使うんですけど、
これはバックサテン(裏面にサテン織の面を使う)
にしてもらって、
肌触りがいい面が肌に当たるようにしています。
- 伊藤
- パジャマですもの、
肌触りがいいのが重要ですよね。
- 惠谷
- 端は袋縫い(生地の端を内側に折り込んで縫う)
にしているので、
肌に触れる部分はすべてシルクになります。
- 伊藤
- あ、端の処理でよくあるロックミシン(布の端が
ほつれないようにミシンでかがり縫いをする)ではなく、
袋縫いなんですね。
すごく丁寧な作り方。
このパイピング(ほつれ防止のために生地の端を
別の布でくるむ装飾)も、
すごく美しいです。
- 惠谷
- ああ、よかった。
ボタンもくるみ(布で包んだボタン)にしたので、
高級感がありますよね。
- 伊藤
- ほんとうに。
細部まで惚れ惚れします。
- 惠谷
- 着心地についても、
動いても肩が抜けないように、
ちょっと「前肩」にしました。
- 伊藤
- たしかに、
着ているとどんどん襟が後ろに
流れていっちゃう服ってありますよね。
- 惠谷
- 襟が重いと後ろにいってしまうことが多いんですけど、
これは立体裁断で、
実際の肩よりもすこし前に肩ラインを作っているので、
後ろに流れず、肩にしっかり乗ってくれます。
- 伊藤
- なるほど。
立体裁断だから、着崩れないんですね。
- 伊藤
- パンツの形もすごくきれいでした。
- 惠谷
- ワンサイズなので、
余裕を持ったパターンにしています。
股上も深めなので、
しゃがんでも後ろのウエストラインが
下にずれにくいです。
- 伊藤
- ウエストのゴムもしっかりしてますね。
- 惠谷
- そうそう、
私、ゴムが中で回ってねじれるのに
ストレスを感じてしまうので、
後ろで留めてあります。
- 伊藤
- わかります。
いつも気持ちよく着られるの、
うれしいですね。
- 惠谷
- それと、サテン生地って、
ツルツルした面にスナッキング(ひっかけによってできる
生地の引きつれ)がつく恐れもあるでしょう。
でもこれはバックサテンなので、
気にならないと思いますよ。
- 伊藤
- そうか。
できても裏面だから、
傷が目立ちにくいんですね。
- 惠谷
- ええ。形も崩れにくいと思いますよ。
サテンって、本来は伸びない布帛(ふはく=織物)
ですから、例えばひざやひじの部分のように
いつもテンションがかかる部分がポコっと出て、
形がついてしまうこともあります。
でもこれは中にポリウレタンが入っているので、
伸縮してくれます。
- 伊藤
- しゃがむときには伸びるけど、
また元に戻るんですね。
つっぱらないから、
きっと寝返りもしやすいですよね。
- 惠谷
- そうです、そうです。
ストレッチが入っているシルクというのは、
なかなかないと思います。
- 伊藤
- 伸びるのに、
こんなにきれいに縫えるってすごいですね。
- 惠谷
- そうなんですよね。
そこはやっぱり、
シルクだけを扱っている工場さんならではの
仕上がりかなと思います。
- 伊藤
- ほほお。
抜かりのない美しさです。
すやすやと
去年の暮れから春先にかけて、
うまく眠れない日が続きました。
そこで私は試しました。
まずはお酒を控えてみる。
または寝酒をする。
枕を変える。
部屋を暗くする。
12時近くまで寝ない(いつもは9時台)。
‥‥あれこれやったのち、
どれが効いたのか分からないまま、
よく眠れるようになっていた。
あれはいったいなんだったのだろう?
「眠れない」ことをあんまり考えすぎても、
いけないのかもね。
今週のweeksdaysは、
cohanのシルクのパジャマ。
いつもの自分のベッドでも、
はたまた旅先でも。
シルクのパジャマはいつも私と一緒。
コンテンツは、
デザイナーの太香子さんのインタビューですよ。
どうぞおたのしみに。
ワンピースみたいなコートを
- 林
- こちらのノーカラーオーバーコートも、
伊藤さん、展示会ですぐに選ばれていましたよね。
サロペットより先に見つけられていました。
- 伊藤
- はい。ぱっと目に入り、羽織ってすぐに、
「これが欲しい!」と思ったんです。
- マリア
- うれしいです。
トレンチっぽさがあるんですけれど、
イージーな着心地が魅力です。
- 伊藤
- 今、マリアさんも着ていらっしゃる。
- マリア
- 私、今ベルトなしで着ているんです。
- 伊藤
- そっか! ベルトなしでも、かわいいですね。
撮らせてください、マリアさん。
すっごく、似合っていますよ。
- マリア
- ありがとうございます。
- 伊藤
- 横とか後ろも見せていただいていいですか?
- マリア
- ぜひぜひ。
- 伊藤
- ベルトをすることも?
- マリア
- はい。ベルトをする場合は、
キュッて結ぶと後ろがきれいに出るので、
ワンピースっぽく着ることが多いですね。
- 伊藤
- 肩から背中のアンブレラヨークは、
本格的なトレンチコートのそれにくらべて、
ふわっとしているんですよね。
- 林
- ゆったり、膨らみがあって。
メンズのトレンチコートだと、
雨除け、通気という、
完全に機能的な意味合いでつけるアンブレラヨークが、
デザインとしていかされています。
このふっくら感は、メンズにはない印象ですよね。
- 伊藤
- ほんとにワンピースっぽく着られるんですよ。
かわいいの。
- マリア
- あとこれ、全然シワにならないので、
旅行に最高だと思います。
- 伊藤
- そっか! 素材は‥‥。
- 林
- コットンとナイロンですね。
- マリア
- ナイロンが35パーセント入っています。
- 伊藤
- ナイロンが入ってるから、
シワになりづらいんですね。
わたしも着させてもらおう。
- マリア
- やったー! うれしい!
デザイナーに見せたいです、
「伊藤さんが着てるよー!」って。
- 伊藤
- ふふふ、ありがとうございます。
- マリア
- これも通年で、重宝すると思います。
- 伊藤
- 夏でも、朝夕は涼しいところに
行くこともあるから、いいですよね。
あと、これも言いたいんです、
裏の始末がすごいきれい。
縫製が丁寧なんですよ。
裏地はないんだけれど、
見えても全然、気にならない。
- 林
- たしかに。このコート、
軽さを出したいから裏地をつけていないんですけれど、
縫い目をパイピングしてきれいに仕上げています。
じつは、サブブランドの展開が増えてきたなかで、
私たちの生産拠点も海外工場に手伝ってもらうことが
増えてきているんです。
今回のアイテムは、ともに中国製造なんですが、
日本の工場と同じクオリティの縫製や仕上げをしています。
- 伊藤
- そうだったんですね。
ボタンがひとつ、っていうのも、
思い切ったデザインですよね。
- 林
- たしかにそうですね。
- 伊藤
- どういうイメージでデザインされたんでしょう?
- マリア
- デザイナーに聞いたら、
軽く羽織るちょっと大きなコートが欲しい、
しかもストレスなく着られるものをと考えたそうです。
リボンをキュッと結んだときに
後ろのシルエットがかわいく出ることも
デザインのポイントにしたと言っていました。
- 伊藤
- そう、このベルトで表情が出るんですよね。
結ばずに左右のポケットに端を入れて、
プクッてさせてもかわいいですし、
マリアさんのようにリボンを外してもいいですし。
- マリア
- そうですね。
リボンは、なしでもありでも、いろいろ楽しめるので、
すごくコーディネートの幅が拡がるんです。
伊藤さんがこれをセレクトしてくださったのは、
さすがだなと思いました。
- 伊藤
- そんな! もう一目惚れでしたから。
- マリア
- 直感で選んでくださったんですね。
会社に戻ったらデザイナーに伝えよう!
きっとモチベーション上がります。
- 伊藤
- ぜひ、よろしくお伝えください。
サロペットとコートは、
別のかたがデザインをしているんですか。
- マリア
- そうですね。
コートは女性デザイナー、
サロペットは意外かもしれませんが男性デザイナーです。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 林
- サロペット、ウィメンズっぽい見た目なんですけど、
じつはUSネイビーのサルベージトラウザーズっていう、
軍物の古着のパンツが元々のイメージソースなんです。
つまり、メンズから出てきてるアイデアなんですよ。
- マリア
- この男性デザイナーがつくるメンズ服、
女性のお客さんも買ってくださっているんです。
表参道店もそうなんですけれど、
メンズとウィメンズでコーナーを分けずに、
JOHNBULLの世界観ということで、
混ぜて並べているんです。
そうすると、メンズの品番であっても意識せず、
女性が「いいかも」と選んでくださることが
すごく多いんです。
- 伊藤
- お客さまも、男性と女性が一緒に
いらっしゃったりするんでしょうか。
- マリア
- ファミリーで、というお客さまも
たくさんいらっしゃいますよ。
パパ、ママ、子どもで買ってくださったり。
- 伊藤
- 子どもっていうのはちっちゃい子じゃなくて?
- マリア
- 高校生や大学生だと思います。
うれしいんですよ、
ファミリーで買いに来てくださるって。
- 伊藤
- それはいいですね。
すごいことですね。
- マリア
- 「ママが買ったJOHNBULLのスウェットを
娘にとられて」とか、そういう話を聞くと、
「やったー!」と思います。
ジェネレーション問わずの服がつくれたんだ、って。
- 伊藤
- いいですね。ジェネレーション、性別も問わず。
- マリア
- 私の買ったカーゴパンツも、
よく主人がこっそり穿いています。
サイズが一緒ぐらいなので。
- 伊藤
- 「あれ? なんだか見たことのあるパンツ、
穿いてない?」みたいな。ふふふ。
- マリア
- 「それ私の!」って。アハハ。
- 伊藤
- これだけ長い歴史のあるブランドだと、
シニアのお客さまもいらっしゃるんですか。
- マリア
- そうですね。
上の世代のお客さまによく聞かれるのが、
特にデニムについてなんですけれど、
「今、どういうシルエットを選んだらいいのかわからない」
ということなんです。
- 伊藤
- 年々、ちょっとずつ違いますものね。
- マリア
- そうなんですよ。で、お勧めすると
「買ってよかった!」って言ってくださる。
- 伊藤
- わたしも聞きたいです。
最近のデニムのシルエットは、
どういう感じがいいんでしょう。
- マリア
- シルエットはワイドがトレンドではあるんですけど、
うちだと、今は、裾にかけて少しカーブしたような
かたちがよく売れていますね。
あと、濃い色より、
少しライトな色や、加工をしたもの。
- 林
- デニムの色にもトレンドがありますよね。
- 伊藤
- おもしろいですね。
- マリア
- フェード加工も、わざとらしくならないよう、
そして大人が穿いても大丈夫なように、
自然なフェードを意識しています。
加工する工場もおつきあいの深いところで、
すごく上手ですし、話も、工程もスムーズなんです。
- 伊藤
- JOHNBULLの12のブランドは、
デザイナーさんは違っても、
トーンが同じですよね。
その秘密も知りたいな。
一番上の人が、全体を見ているんですか?
- マリア
- その担当者は、社長ですね。
大まかな方向性を社長が決めています。
- 伊藤
- どんなかたなんですか?
- マリア
- 52歳の男性です。
古着も好きで買い集めていますし、
今のファッションも好きで。
- 伊藤
- わぁ、絶対おしゃれさんですよね。
やっぱりでもそうじゃないと、
このお仕事、できないですよね。
マリアさん、林さん、
JOHNBULLのこともふくめて、
いろいろなお話を聞かせてくださって、
ありがとうございました。
- 林
- ありがとうございました。
- マリア
- 伊藤さん、児島に、
ぜひ工場見学にいらしてください。
- 伊藤
- わぁ! 行きたいです。
デニムのことももっと知りたいですし!
今後ともよろしくお願いします。
- マリア
- こちらこそよろしくお願いします。
ありがとうございました。
たくさんのサロペットから
- 林
- 展示会には、サロペットの型数も多かったんですが、
伊藤さんがそこからこの一着を選ばれた理由は、
どんなことだったんでしょう。
- 伊藤
- やっぱり、最初は、素材ですね。
- マリア
- うん、素材、かわいいですよね。
- 伊藤
- 最初からデニムのサロペットだと、
ちょっと冒険しすぎなのかなぁと思ったんです。
- マリア
- たしかにそうですね。
- 林
- 女性のかたは、ほんとに、そうですよね。
これは程よく軽めのコットンリネン。
- マリア
- この素材を選ばれるお客さま、多いですよ。
コットンリネンのパンツを買って、
すごくかたちがよかったとか、
パターンがよくてはき心地がよかったとか、
だったらちょっとデニムにも
トライしてみようかな、って、
そんなふうに拡がっていくんです。
- 伊藤
- それに、「weeksdays」のお客さまは、
おそらくベーシックなものを
すでにお持ちかなと思うので、
このサロペット、いいんじゃないかなと。
しかも金具を使っていないんですよね。
- マリア
- 胸のリボンで調整ができますので、
好きな位置で穿けます。
ちょっと低くしたり、高くしたり。
- 伊藤
- リボンを結んで調整する。そこもいいな、って。
パッとシャツを中に着たら、
大人っぽいんじゃないかな?
これ、たっぷりしているので、
「weeksdays」で扱うのはワンサイズでいいな、と思い、
ユニセックスのSサイズを選んで、
フリーサイズとして販売をさせていただきます。
いろんな背の高さの人が着ても大丈夫でしたよ。
ウエストも相当ゆったりしていますし。
逆に、あまりにもゆったりのまま着ると、
もしかしたら中が見えちゃうかも? と
心配になるくらい。
満員電車に乗るときなどには、
リボンでキュッと結んでもらえたらいいですよね。
- マリア
- はい、そうですね。
このサロペットは、真夏まで穿いていただけますよ。
最近、ほんとに暑いので、
こういうストレスフリーな服は便利ですよね。
- 伊藤
- 夏だったら、
水着の上に着るのもかわいいかもしれないですね。
- マリア
- かわいいですね! かわいい!
- 伊藤
- 逆に、タートルでもいい。
もしかしたら一年中着られるのかも。
ちょっと前まではリネンが入っている生地は夏のもの、
って感じでしたけど、
最近みんな重ね着とかして、積極的に着ていますよね。
- マリア
- そうですね。
日本といえばデニム?
- 伊藤
- 歴史の長いJOHNBULLですから、
ずっとファンだというお客さまも
たくさんいらっしゃるんでしょうね。
- マリア
- はい、買い足してくださるお客さまが
おおぜいいらっしゃいますね。
そして、ここ最近だと日本のお土産で買ってくださる
外国のお客さんも増えてきました。
- 伊藤
- 海外のみなさんは、どうやって知るんでしょう。
- マリア
- 東京の表参道に旗艦店があるんですけど、
そこにふらりと立ち寄ってくださったかたが、
「すごくいいものだね」と買ってくださって、
その後、日本に来るたびに
何回もリピート買いをなさったりするんです。
家族に買って行かれる、と聞いたりして、
とてもうれしいんですよ。
- 伊藤
- どこの国のかたが多いですか。
- マリア
- アジアのお客さまも多いですけれど、
欧米、とくにヨーロッパのかたが多い印象ですね。
みなさんデニムが「Made in Japan」であることを
気にして見てくださいます。
今は“日本といえばデニム”なんですよ。
ジャパニーズデニムは、
ひとつのお土産物になっています。
- 伊藤
- 日本といえばデニム!
今や世界でそういう評価があるんですね。
たしかにデニムの需要って、
最近、すごく高まっているように思います。
- マリア
- はい。デニムは今、流行っています。
トレンドということもありますよね。
- 伊藤
- 古着のトレンドも、そうですよね。
海外から買い付けた古着でも、
日本の古着屋さんが店頭に並べるものは
「きれいで安心」と言われるんですって。
日本ってそういう安心感があるんでしょうね。
- 林
- たしかに。
- マリア
- 今、古着市場は日本が最先端なんです。
日本の古着屋さんは、
世界のトレンドセッターなんですよ。
日本の古着屋さんが今いちばん
流行りものを取り扱っているというか、
提案をしているんですって。
- 伊藤
- ちょっとうれしい話ですね。
- マリア
- 海外でも日本の古着屋さんを意識している
ヴィンテージショップが多いと聞きますよ。
日本にわざわざヴィンテージショップ巡りで
来たりするんですって。
- 伊藤
- わたしは最近行かないけれど、
街に、いっぱいありますものね、古着屋さん。
- マリア
- いっぱいありますね。
売れているとも聞いています。下北沢はほんとに。
- 伊藤
- ところで、マリアさんは今、
JOHNBULLでどういう役割のお仕事を
なさっているんですか。
- マリア
- 私はプレスで、
JOHNBULLの文字情報もそうなんですけど、
シーズンビジュアルなどを
各ブランドで担当しているんです。
- 伊藤
- 12のブランドを、全部?
- マリア
- そうなんです。
- 伊藤
- 頭の切り替えはどうするんですか?
- マリア
- 私の働いているところは、
わりと近くに企画の人たちがいて、
企画段階から横で見ているので、
このブランドは今こういう方向性に行っているんだな、
というのを日々感じて、それを反映させています。
- 伊藤
- どういうふうに写真を撮ろうとか、
モデルさんは誰を選ぼうとか、
どういうシチュエーションで展開して、と、
そういうことを?
- マリア
- はい。
- 伊藤
- しかも展示会って、
年に2回だけじゃないですよね。
- 林
- そうです。たくさんやってるんですよ。
メインのところは年6回なんですけど、
プラスαでさらに何回か。
- 伊藤
- 大忙しですね。
- マリア
- そうですね。
- 伊藤
- この冊子も、マリアさんが?
- マリア
- はい。それはフリーマガジンで、
最近のJOHNBULLを伝える
ZINE(ジン)として出しているんです。
- 伊藤
- これだけ多忙なのに、こんなことまで。
- マリア
- 「やってみたらおもしろいかな」と思って。
紙のカタログは5年ぐらい前に
やめているんですけど、これは、あえて、紙で。
- 伊藤
- すごい! オンラインの時代ですから、
カタログはデジタル化しているけれども、
こういった大事なコンセプトを伝えるために、
あえて、紙媒体を選ばれたんですね。
- マリア
- そうなんです。
そして、紙でつくるからには、
すぐには捨てられないような、
読み応えのある楽しい一冊にしたくて。
つくってみたらおもしろくて、
思いのほか好評だったので、
この第2号をつくりました。
本社の、縫製を担当している人たちも、
すごく喜んでくれました。
- 伊藤
- そうですよね。紙媒体って、うれしいですよね。
これをマリアさんが編集をしているんですね。
- マリア
- そうですね。
もちろん実際のライティングや撮影は、
外部のプロのかたにお願いをしていますけれど。
- 伊藤
- エディトリアル全般を見る役割ですから、
マリアさんは編集長ということですよ。
- 林
- たしかに。
- マリア
- そんな、編集長!
- 伊藤
- 52ページあるんですね。
- マリア
- 『OLIVE』っぽさを、少しだけ意識しています。
- 伊藤
- 『OLIVE』をご存知なんですね!
- マリア
- 『OLIVE』好きですよ。
- 伊藤
- そっか、マリアさんは13歳で日本にいらしたから、
思春期に、日本の雑誌文化に触れている。
- マリア
- そうですね、90年代でした。
当時の私は『making plus(メーキングプラス)』っていう
『装苑』から出ていた雑誌を愛読していました。
型紙がいっぱいついてる雑誌だったんです。
日本の雑誌にハマっていましたね。
- 伊藤
- そうなんですね!
- マリア
- 雑誌が楽しかった時代ですよね。
『装苑』もそうですし、
『Zipper』とか、その時代。
- 伊藤
- それこそ『Zipper』は女の子で、
男の子はなんでしたっけ?
- マリア
- 『Boon』かな?
- 林
- ぼくは『Boon』読んでましたよ!
中学生ぐらいだったと思うんですけど・
- 伊藤
- 雑誌で世代がわかりますね。
林さんがJOHNBULLに入ったのは、
どんな経緯だったんですか?
- 林
- 会社にいるデザイナーから
誘ってもらったっていうのがシンプルな理由ですが、
デニムをはじめ、こういうものづくりが元々好きで、
とくに日本製は前職でも携わってきたので、
新しい場所で何かできたらいいなと思ったんですよ。
JOHNBULLでは、企画にも多少携わりつつ、
営業として働いています。
- マリア
- バイヤーさんに向けた営業ですね。
- 林
- ある程度ものづくりを理解してるので、
“別注”を担当することも多いんです。
- 伊藤
- 今回、わたしたちが
「こういうふうにしたい」とお願いしたことが、
すごくスムーズに進んでいくので、
ほんとうに助かりました。
- 林
- よかったです、ありがとうございました。
- 伊藤
- 今回、ノーカラーオーバーコートは
そのままオーダーさせていただいたんですが、
コットンリネンサロペットのほうは
ネイビーが「weeksdays」の限定色です。
こういったケースはあるんですか?
- 林
- この企画に関しては「weeksdays」だけです。
でもほかのアイテムに間しては、これまでも、今も、
ショップからの別注がありますよ。
- 伊藤
- そんな展開もなさっているんですね。
岡山のデニム工場から
- 伊藤
- マリアさん、林さん、
今日はどうぞよろしくお願いします。
- マリア
- こちらこそよろしくお願いします。
- 林
- どうぞよろしくお願いします。
- 伊藤
- さきほどお聞きしたら、
マリアさんは13歳のときに
ロシアから日本にいらして、
5年間ほどは日本語に苦戦したそうですね。
今はもうすっかり日本語に堪能で、
JOHNBULLではプレスのお仕事をなさっていて、
きっと文章などの校正もあると思うんですが、
それも全部ご自分でなさっているとか。
- マリア
- はい、JOHNBULLから出る文字情報は、
ぜんぶ私が目を通しています。
10代のときに日本語を吸収したのが
よかったんでしょうね、
漢字の読み書きも大丈夫ですよ。
両親も同じぐらい日本にいるんですけど、
25年ぐらい経っても、
言葉は全然覚えられないって言ってます。
- 伊藤
- ご家族で日本にいらしたのは、
どういう経緯だったんですか。
- マリア
- 当時は、ロシアがペレストロイカという
改革の後のタイミングでした。
日本の企業がロシアに重機を買い付け、
それを操作したり直したりする
スペシャリストだったのが、
エンジニアである私の父。
その父といっしょに、家族みんなで、
日本に移り住むことになったんです。
- 伊藤
- お父さまは、今もそういうお仕事を?
- マリア
- はい、父は今もエンジニアです。
今はロシアの会社ではなく、
日本の会社で仕事をしているんですよ。
- 伊藤
- そうなんですね。
今日は、「weeksdays」で初めてご紹介する
JOHNBULLについて
いろいろお話しいただけたらと思っています。
JOHNBULLは、林さんにお招きいただき
展示会にお邪魔したのが最初でした。
そうしたら、かわいい服との出会いがあって。
- 林
- ありがとうございます。
- 伊藤
- その話の前に、
よかったら、ブランドの歴史から
お話しいただいてもいいでしょうか。
- マリア
- はい。もともとは学生服をつくっていた会社でした。
本社が岡山県倉敷市の児島にあるんですが、
当時、あたりには学生服を縫う工場が多く、
私たちの会社も自社工場を持っていたんです。
- 林
- それが、1960年代、
学生服の需要が減っていき、
児島の生地や縫製の工場は、
どんどんデニムをつくりはじめました。
うちも、そんな工場のひとつだったんですよ。
- マリア
- 創業は1952年という、
もう70年以上になる古いメーカーなんですよ。
そこがJOHNBULLという名前で
デニムブランドを立ち上げました。
そして1963年、個人商店から
「株式会社ジョンブル」が生まれたんです。
こういう業態で、日本でそれぐらいの老舗は、
たぶん他にあまりないと思うんです。
- 林
- 新宿に「ジョンブル」というお店ができたのは
株式会社になって10年後、1973年のことでした。
そこから徐々に広く知られるようになり、
やがて、サブブランドが増えていって。
- 伊藤
- 国産デニムメーカーとして、
とても早いスタートだったんですね。
そんな背景を知らないままでした。
展示会ではJOHNBULL以外にも
サブブランドの製品がいろいろありましたね。
いくつくらい、あるんでしょう。
- マリア
- JOHNBULL以外に11のブランドがあります。
ここまで多く枝分かれしているのは、
今がいちばんかもしれません。
- 伊藤
- その枝分かれしているブランドは、
どういう違いがあるんですか?
- マリア
- コンセプトが違うんです。
それぞれで、デニムを展開しているんですけれど、
たとえば「DENIM DELIGHT DAYS
(デニムデライトデイズ)」っていうブランドは、
そのときどきの自由なデニムを表現しています。
その時代の気分に合わせて、
加工やシルエットを決めます。
今だったら、けっこう、脱色であるとか。
- 伊藤
- ウォッシュ加工をしたり?
- マリア
- はい、それからフェードがかかったデニムだったり、
ちょっとワイドめのダボッとしたものも。
- 伊藤
- なるほど。それでは逆に
スタンダードなのもあるっていうことですよね。
- マリア
- はい、スタンダードも押さえつつ、
トレンドっぽいデニムだったり、
よりちょっとオーセンティックなもの、
ヴィンテージが好きなかた向けのものなど、
いろいろなサブブランドがあります。
だからデニムの型数を合計すると、もうほんとうに、
とにかく、すごく、たくさんあるんです。
- 伊藤
- それなのに、今回、わたしが選んだのは、
デニムではないんですよね。
せっかくJOHNBULLを紹介するのだから、
このサロペットも、
デニムでつくったほうがいいのかなぁ、
‥‥と思ったんですけれど、
この、コットンリネンがとても素敵で。
林さんも「コットンリネン、いいですよね」って
おっしゃってくださって。
- 林
- そうでしたね。
春夏にはコットンリネンが
すごく軽くて着やすいので、
いいんじゃないかなと思ったんです。
- マリア
- 私は、伊藤さん、さすがだなぁ、と思いましたよ。
サロペットやオーバーオールは、
JOHNBULLが大得意としているアイテムなんです。
もうずっとつくり続けているので、
しっかりノウハウもありますし、着心地がいい。
もちろん見た目のよさもポイントなんですけど、
ちょっとしたこと、たとえば肩紐の太さだったりで、
着たときにストレスにならないんです。
よく撮影でご一緒する
カメラマンさんやヘアメイクさんからも、
JOHNBULLのサロペットはとにかく着やすい、
仕事ですごく使いやすいと、好評をいただいています。
- 伊藤
- 撮影の時って、しゃがんだりとか、
けっこう身体を動かすから、
サロペットって便利なんですよね。
- マリア
- そうなんですよね。
JOHNBULLのサロペットは、
ちょっとしたところのサイジングだったり
ポケットの位置なども工夫をしているんです。
ポケットってちょっと下すぎると
ストレスだったりしますから。
あと見た目で言うと、切り替えの位置で
スタイルよく見えるかどうかが決まるんですが、
そのバランスがとてもいいんです。
- 伊藤
- やっぱり長年たくさんつくって来られたから。
- マリア
- はい。毎シーズン、それぞれのブランドで、
新しい型が必ず出ているんですよ。
- 伊藤
- それも、何型も!
- マリア
- ちょっと数えきれないくらいです。
- 伊藤
- 特にサロペットの型数が多いのには、
何か理由があるんですか。
- マリア
- つくるのが得意で、それがご好評を頂いているので、
バリエーションをつくっている、ということですね。
- 林
- ルーツはアメリカのオーバーオールなんですけれど、
そこからいろんなスタイルに派生していって、
今はウィメンズのサロペットで
好評をいただいています。
- マリア
- JOHNBULLについてよく言われるのは、
“クオリティのわりにはお値段がお手頃”
ということなんです。
- 伊藤
- たしかに。
なぜ“お手頃”にできるんですか?
自社工場を持っているから、でしょうか。
- 林
- そうですね。1963年に自社の縫製工場を建設し、
ずっと自社でやっているので、
リーズナブルな価格で出せているのだと思いますね。
- マリア
- そして、倉敷、岡山の中でのお付き合いも長年あるので、
縫製以外の工程も、つくるフローがスムーズなんです。
直接の取引なので、
間にほかの会社が入ることもありませんし。
- 林
- “長年のお付き合い”があってのことです。
地場産業ですから、人付き合いが重要なんです。
- 伊藤
- なるほど、それなら「急に値段が上がっちゃったから、
工場を変えなきゃ」ということもなさそうですね。
- マリア
- そうですね。
- 伊藤
- 本社と工場は倉敷で、支社が東京に?
- マリア
- はい、2拠点ですね。
パタンナーさんは倉敷にも、
東京の南青山事務所にもいて、
企画担当者が行ったり来たりしています。
工場に伝えたほうが早い、ということがあったら、
企画者が東京から倉敷に行って打ち合わせをします。
そういうことは、よくやっているんですよ。
- 伊藤
- デザイナーさんは何人ぐらいいるんですか?
- マリア
- ‥‥(頭の中で数える)いっぱいいますね。
10人ぐらいかな?
- 林
- 兼務をしている人もいますよね。
- 伊藤
- あの膨大なアイテム数をシーズンごとに出すには、
そのくらいの人数は必要ですよね。
季節は確実に
友人がお菓子と一緒に持ってきてくれたのは、
一輪の椿。
つぼみがまだぎゅうっと固く、
花が何色かも分からない。
一輪挿しにさして、
温かいところに置いておいたらいつか花が開くのかしら?
毎朝、起きると、
この椿のことが気になって、
どんな様子かうかがってみる。
一日、二日‥‥
最初の一週間はとくに変化もなく、
もしかしたらこのまま枯れてしまうのかも?
と諦めかけたその時、
あれ?
つぼみが前より膨らんでる!
それからは、
朝どころか、日中ちらちら様子見をする毎日。
今は6分咲きくらいのその椿の色は、
うすいピンク。
小さなこの花の成長が、
なんだかうれしい春なのでした。
今週のweeksdaysは、
JOHNBULLのコートとサロペット。
季節は確実に春に向かっているのです。
たくさんの魅力
zattu を代表するモデルであり、
ブランドスタート時より担当をしている私にとって、
一番最初に発表され、
個人的な思い入れもあるのが
MAC TO-TOです。
ハリがあり、シワになりづらいことから、
ふだん使いだけでなく、
出張にも欠かせないバッグとして、
5色(グレー、グラファイト、マルチ、
ブルー、パープル)を
交互に使用しています。
とくに、ブランドスタート初期からのカラーで、
今では定番となったグレーは、
ノートパソコンや折り畳み傘、筆記用具、
化粧ポーチ、本、おやつ、着替えなど、
多くのものを入れて毎日のように使いました。
ボロボロになった質感にさえ
愛着を持って使い続けていたのですが、
「さすがにそれは‥‥」と、
ある時デザイナーより使用ストップが。
それも今では良き思い出です。
(現在は2つ目のグレーを使っています。)
zattuにはたくさんの魅力があります。
まず、補強を考慮した、包み込むような縫製のため、
丈夫で、多くの荷物を入れることができること。
手前と後ろに高低差があるなど(後ろが少し高い)、
ひそかにアシンメトリーな作りが、
控えめでありながら存在感があること。
そして持ち手の太さも違います。
「えっ? 持ち手の太さが違うの?」と
驚かれるかもしれませんが、
これは、デザインのためというよりも、
実用的な意味があります。
太さが違うことで、持った時に掴みやすく、
かつ、肩にかける際に引っ掛かりが生まれて
滑り落ちづらいので、肩の負担が減るんです。
内側のポケットは、
ジップのぎりぎりのところまで被せがあり、
ジップを開けていても中身が見えません。
それだけではなく、スナップボタンを留めて
上蓋のように中身を隠すこともできます。
素材は、マイクロファイバースエードという合成皮革。
飛行機の内装にも使われるというだけあり、
とても軽量で水や摩擦に強く、色移りがありません。
単色のものは中性洗剤で手洗いもできます。
また、スエード調の毛足で艶があり、
発色が良いのも特徴です。
MAC TO-TOは、
一般的なトートバッグより大きめですが、
私はパンツスタイルが多いため、
斜めがけでも手提げでも
全体のバランスがとりやすいように感じます。
2022awシーズンの
シーズン限定カラーとして発表されたブルーは、
その発色の美しさを活かすように
ワントーンで落ち着いた色目のスタイリングを。
定番のグレーは、下地の色目が浮き出て、
杢のような奥行きを感じる艶感のある発色を活かし、
全体をグレーで統一させ、陰影を楽しんだりします。
下地の色目が浮き出て、杢のような奥行きを感じる
艶感のあるグレーは、
本スエードのベージュのファティーグジャケットに
ベージュのパンツ、ブラウンのバンズと合わせて、
カジュアルでマニッシュなスタイルが
品よくまとまります。
これからも
友人が持っていて
気になったことがきっかけで出会ったzattu。
今ではわたしの日々に欠かせないバディです。
スエードのような見た目が大人っぽいけれども、
リアルスエードではなく、
マイクロファイバースエード使用。
だからお手入れがしやすい。
日々移動が多く、汚れを気にしている場合ではない
あわただしいわたしにぴったりです。
仕事、プライベート問わず愛用しています。
軽いという点も助かります。
もともとメンズっぽいテイストがすきです。
そして、トートバッグが好みで
学生の頃からキャンバス地のものを
大小さまざま使ってきました。
ですので、zattuの中でも迷わずMAC TO-TOをチョイス。
年齢を重ねるうちに、様々なシーンが出てきました。
すこしシックな装いにしたい時などは
カジュアルすぎると感じることも。
そんなときもこの子たちは涼しい顔をして
寄り添ってくれます。
Tシャツにデニムのようなカジュアルな日にも、
ちょっとドレッシーにかっこつけたい日にも合う。
たいへん助かります。
何より大容量。
数泊の旅が多いわたしの旅にも欠かせません。
パソコン、本を何冊か、着替え、
ポーチなど細々としたものたち。
カメラ一台の日は、それも。
ぜんぶ思うがままにどさっと入れます。
フラップがあるのでごちゃっとしていてもだいじょうぶ。
全部受け止めてくれるタフな相棒です。
調子に乗って後先考えずいれると重くなりすぎちゃうので、
そこだけ注意しないといけませんね。
グレーのほうはもう数年使っています。
使い倒してくったりした様もすきです。
先日うっかり中でお茶をこぼしてしまって(大ショック!)
一念発起し、しっかり洗ってみました。
知らず知らずのうちに
オリジナルと色がずいぶん違っていたことにびっくり。
想像よりだいぶ育っていました。
この杢のような質感により
汚れが目立っていなかったみたいです。
ぜんぜん気づいていなかった。
今後しっかりメンテナンスしていかないとなぁ
という気持ちになりました。
だいじな相棒なのにごめん。タフさに甘えていたね!
コーディネートしやすいようにモノトーンを選んでいます。
たとえば、全身が黒の時はグレーを。
ワントーンのコーディネイトもすきなので、
グレーやグレージュでまとめてみることもあります。
シルバーのアクセサリーとリンクするのもいいかな、
とやってみたりも。
昨年手に入れたブラックは少しネイビーがかっているので、
ネイビーのグラデーションもいいなぁって計画しています。
今年の春は、ひさしぶりにネイビー気分なのです。
わたしは身長が高めなこともあり、
大きいバックを合わせると
バランスがよいような気がしています。
全身を眺めたときに、
ちょっと物足りないなってとき、
荷物は少なくても大きいバックをばさっと持ってみます。
そうするとちょっと様になる気がするのは
わたしだけでしょうか。
このバッグたちと一緒にさまざまな土地に旅しました。
「まだまだぜんぜん平気っす」
そんな顔をしているタフでクールなMAC TO-TOくん。
これからもどうぞよろしくね!
※こちらは、MAC TO-TOより大きなサイズで
ショルダー調節のついたBIG MACSです。
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
3月6日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
zattu
HENRIK
ワンピースにサンダル。
Tシャツにパンツにスニーカー。
自分にとっての定番アイテムを、
色違いで揃えているため、
毎日、同じようなスタイルをしています。
(まるで制服のように。)
着心地のよさと、、洗濯などの手入れの楽さから
この夏はこのままいきそう‥‥。
でも雰囲気変えたい!
そんな時に出会ったのがzattuのリュックです。
展示会で目にした時、
なんだかすごく気になったんです。
「これ、持ってみたい!」
こういう気持ちって、すごく大切ではないかと思うのです。
デザイナーの布袋さんと赤澤さんのおふた方がおっしゃる、
「シンプルだけど、じつはデコラティブで、
ちょっと違和感があるデザイン」というところが、
ぐっときた理由でしょうか。
なんだか「かっこいいん」です。
私がとくにいいなと思っているのは、
口が「シュッ!」と気持ちよく開くところ。
間口が広く開くため、
中のものを取り出す時、
ガサゴソと手探りで探さなくてもいいんです。
それから見た目に軽やかなところ
(もちろんじっさい軽い)。
街にぴったりなリュックです。
(伊藤まさこさん)
LUCKYWOOD
カトラリー
カジュアルに使えて、
お値段控えめ。
かつ使い心地よく、見た目も美しい。
そんなカトラリーって、
あまりないものだなぁ‥‥と思っていたら、
そのすべてを満たしていたのが、
この「LUCKYWOOD」(ラッキーウッド)の
カトラリー。
オールステンレスなので、
食洗機にも入れられるところがうれしい。
忙しい朝、
こんなカトラリーがあると、
とっても助かります。
アイテムは、
テーブルフォークとナイフ。
デザートフォークにナイフ、スプーン。
それからスープスプーンの6つ。
手の小さい私は、
デザートフォーク、ナイフ、スプーンを、
ふだん使いにしています。
もしサイズを迷われたら、
ご自分の使いやすいカトラリーのサイズを
参考にしてくださいね。
(伊藤まさこさん)
シャンパン、チーズ、チョコレート
友人たちの旅支度が気になる私。
「荷物はなるべく厳選してコンパクトに。
足りないものがあったら現地調達」
という人もいれば、
「あれもこれもと詰め込んじゃう。
だからいつも大荷物」という人も。
フムフム、なるほど。
旅支度は、
その人の性格やふだんの暮らしを反映するようで、
聞いてみるとなかなかにおもしろいものです。
私はというと、
前者の現地調達タイプで、
パスポートとクレジットカード、
多少の現金、
スキンケアアイテムさえあれば、
あとはもう「なんとかなるさ」。
というより「どうにかするさ」。
だから機内持ち込みの荷物も、
大きなものはパソコンくらい。
いたってシンプルです。
でもじつはバッグは大きめをえらぶんです。
今週のweeksdaysは、
zattuのトートバッグ。
去年のパリでは、
CDG空港で買ったものを、
このトートバッグに入れて持ち帰りました。
シャンパン、チーズ、それからチョコレート。
たくさん買ってもいっぱい入る。
ほらやっぱり、大きなバッグできてよかった。
ニーチェア・わたしの使い方 伊藤まさこ
軽井沢の山荘で
オイルフィニッシュのニーチェアエックス、
私は軽井沢の山荘に置いています。
ここは60平米に満たない小さな空間なので、
置く家具は、
「主張をせず、家を引き立たせてくれるもの」
それから、
「コンパクトで移動しやすいもの」
このふたつの条件を満たすものが
いいなと考えていたのです。
4段のスキップフロアの手前が、
リビングと小さなダイニング(入り口もここに)、
奥がベッドルームになっているのですが、
ニーチェアの定位置はベッドルームの窓際。
滞在中は広げて読書をしたり、
窓の外をぼーっと眺めたり、
時には膝にパソコンを乗せて原稿を書いたり。
座った時の安定感と、
包まれている感じがいいからかな、
ここにいる時間がとても長いんです。
また、
季節や時間によって窓からの光が変わるので、
自分にとってのちょうどよい明るさを追いかけながら、
ニーチェアを移動。
私でも簡単に持てる「軽さ」も魅力のひとつです。
折りたたんだニーチェアの横に置いたのは、
私が初めて両親に買ってもらった椅子、
そしてその横は「こんなのがあったらいいな」
そう思って作ったハーフラウンドテーブル。
今まで家具はあまり考えなしに、
デザインに惹かれてえらぶことが多かったのですが、
この山荘に置く家具は、
デザイン以外にちょっとした自分の想い
(ちょっと大げさにいうとストーリーみたいなものを)を
加えたかった。
山荘が建ったのは私と同じ生まれ年の1970年。
ニーチェアの誕生も1970年。
なにか縁を感じたというのも、
置きたくなった理由のひとつなのでした。
シート生地にグレーをえらんだのは、
以前weeksdaysで作ったクッションと
共通性を持たせたかったから。
結果、白と黒でまとめた空間を、
グレーが取り持ってくれました。
ニーチェアの肘掛け部分、
オイルフィニッシュの木の色合いは、
リビングの梁とも相性よし。
窓の外に木がたくさんあるので、
フローリングはやめようとか、
木の家具はなるべく置かずに、などと思っていたのですが、
この「ところどころの木」というのが、
インテリアに温かさをくわえてくれたようです。
ニーチェア・あのひとの使い方 西巻径さん
西巻径さんのプロフィール
にしまき・けい
株式会社「藤栄」で
生活用品の卸売りを経験後、企画・開発に移り、
2018年からニーチェアエックスの担当に。
現在はディレクターを勤め、
商品の企画・開発、イベント企画、
広報物の制作やWEB・SNS運営などの
広報活動に携わる。
商品では50周年記念モデルや、
今回のオイルフィニッシュモデルを担当。
夫・息子(4歳)と3人暮らし。
料理・器集めが趣味。
7年のおつきあい
藤栄に入社して今年で14年目という西巻さん。
ご自宅で使っているニーチェアは、
オイルフィニッシュの開発をする際に
試作品でつくったものだそう。
だからこのロッキングタイプの
ニーチェアエックスは、7年もの。
カラーは迷わずキャメルにしたのだとか。
最近、シート生地を新しくしたそうですが、
えらんだのはやっぱりキャメル。
「もうちょっとかっこいいインテリアだったら、
ホワイトやグレーも合いそうですが、
今の家にはこの色が合うかなと思って‥‥」
今の家に住み始めて5年。
グレーのカーペットや、木の引き戸、
コンパクトなキッチンもなんだかいい感じ。
入居する時にリノベーションしたのかと思いきや、
ほとんど手を加えていないのだとか。
「住んでいる人が自由に手を加えていいんです。
めずらしいですよね」
と西巻さん。
仕事のデスクを置いた棚板や、
キッチンの棚板はご自分たちで取りつけたんですって。
家具は独身時代から使っているものにくわえて、
友人が使っていたという、
トリップトラップのチャイルドチェアや、
ボーエ・モーエンセンのチェアが仲間入り。
モーエンセンのチェア(J39)は、
いろいろなお宅の取材をしていくうちに、
ニーチェアと一緒に置かれていることが多い、
ということに気づいたそう。
「ああ、いいな。ニーチェアと合うな。
そう思って憧れていたんです」
もともとインテリアに興味があったという西巻さん。
大学の卒業論文のテーマはなんと、
「アーツアンドクラフトからたどる
ロングライフなデザイン」!
料理や暮らしを中心としたライターのお母さまの影響で、
幼い時から、器や家具などを
見る(触れる)機会も多かったそう。
「子どもの時は、母にそんなに器を買ってどうするの?
なんて言っていたらしいんですが、
今では母が遊びにくると、また器が増えたわねと言われる。
同じ道をたどるものだなって思ってます」
そのお母さまからは、
「せっかくなら、よいものを買って、
メンテナンスしながら長く使いなさい」
そう言われて育ったとか。
常々、
「ベーシックなもののよさってなんなのだろう?」
と、自分に問いかけているという西巻さん。
年齢を重ねたり、家族が増えていくにつれ、
インテリアの好みは少しずつ変わっているけれど、
変わっても受け入れてくれる、
ベーシックなものをえらびたいと思っているとか。
そういう意味でもニーチェアは、
変化を受け入れてくれる懐の深さがあるんですって。
ニーチェアのよいところは、
折り畳んでコンパクトになるところ。
それから、
軽量なので移動が楽というところ。
「テレビに向かって置いたり、
ソファと向かい合わせにしたり」。
置き場所をちょこちょこ変えているそう。
また、オットマンは4歳の息子さんの椅子としても。
「足がちょうどつくんです」
なんと、生まれたばかりの頃は、
ロッキングの揺れが寝かしつけに重宝したんですって。
「今は家事をするために何度も立つので、
揺れの反動で立ち上がりやすい
ロッキングが重宝していますが、
もう少し自分の時間が持てるようになってきた頃に、
ゆったりくつろげるニーチェアエックスも
欲しいなと思っています」
仕事でも、そして使い手としても、
日々、ニーチェアと向き合う西巻さん。
ニーチェアの新しい魅力に気づかせてくれた取材でした。
開発者・新居 猛さんの遺伝子を
- 伊藤
- 新居さんの思いを継承する、
というお話がありましたが、
今回、足し算ではなく、引き算をしたわけですから、
大丈夫じゃないかなって想像しました。
無垢の木を活かす、という考え方は、
新居さんもきっと賛成してくださったと思いますよ。
- 一柳
- ああ、たしかに。そういう部分でいくと、
まだ他にもいろいろな引き算を考えていこう、
という思いもあります。
たとえば、いっぱい紙を使う取扱説明書はやめて、
デジタル化し、QRコードでアクセスしていただくほうが
いいのかもしれないな、とか。
- 伊藤
- たしかに、それは悩みますよね。
取扱説明書はいずれ捨てるものだから、
ということもあるでしょうが、
ニーチェアには紙の取扱説明書が似合う、
という見かたもあるかもしれないですし‥‥。
もしかしたら、しっかり読みものが入って、
ずっとそばに置いてもらえるような小冊子だったら
どうだろう? とか、考えてしまいますよね。
ご高齢のかたには、
紙の説明書がいいかもしれないですし。
- 西巻
- なるほど、そうですね。
たしかにニーチェアをお求めになるお客さまの
年齢層はとても幅広いです。
お問い合わせでも、
自分で組み立てられないっていう
ご高齢のお客さまがいらっしゃるので、
組み立てのサービスも始めているんです。
- 伊藤
- そうなんですね。
そうそう、送られてきたときの箱も嬉しいんですよ。
- 西巻
- 嬉しいです、喜んでいただけて。
- 伊藤
- たとえば、その箱に組み立て方を載せるのは?
- 西巻
- ニーファニチアさん(新居さんの会社)が
ニーチェアをつくっていた時代は
そうだったんですよ。
箱を開けると内側にレトロなイラストがあって。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 西巻
- それはそれでかわいいんです。
それも、いいですよね。
- 伊藤
- 紙を減らすということならば、
それプラスQRコードがあればいいのかも?
- 西巻
- それはたしかに。
おもしろいですね、考えてみます。
- 伊藤
- ところで今回の色ですが、
定番のホワイトに加えて、
新色のセージグリーンと
ペブルグレーが加わりましたね。
どちらも55周年からの特別な色だとうかがいました。
- 一柳
- はい、新しく加わったのは、
優しさや軽やかさを感じる2色です。
セージグリーンは、
自然との調和を象徴し、癒しをもたらすハーブの色。
ペブルグレーは、
かすかにベージュをまとった柔らかい石の色です。
- 伊藤
- どちらもいい色ですね。
- 西巻
- ありがとうございます。
開発時に、コンセプトに合わせて新色を考えるんです。
SNSなど日々情報に接する中で
ありのままの自分でいることが
すごく難しくなってきているなと感じ
せめてニーチェアに座っている時には
ほっと一息ついてもらって、
ありのまま、自然のままの自分に向き合う時間を
過ごしてもらえたらなと、
自然、癒しというキーワードから考えた色なんです。
- 伊藤
- これを使われるみなさんの反応もたのしみですね。
しっかり紹介コンテンツをつくります。
- 一柳
- ありがとうございます。
まだまだ、ニーチェアをご存知ない、
という方もいらっしゃるので、
こうして伊藤さんたちに紹介いただけるのが
ほんとうに嬉しいです。
先日、糸井重里さんが伊藤さんの山の家を訪ねる、
というコンテンツがありましたよね。
その中で、伊藤さんが、陽の光の動きに合わせて、
家の中で移動しながら
ニーチェアで本を読まれてると知り、
素敵な使い方だなって。
- 伊藤
- 持ち運びができるから、
そういう使い方ができるんですよ。
糸井さんも気に入って座ってらっしゃいましたよ。
- 一柳
- 糸井さんのくつろがれている様子も、
ほんとうに嬉しくて!
糸井さんの顔を見て、
以前、大学の環境心理学の教授に
ニーチェアについてお話を聞いたのを思いだしました。
ニーチェアは外にも持ち運びできるので、
その環境での座り心地を心身が覚えていて、
家に戻って座った時にも、
そのリラックスした感覚がよみがえるというんです。
- 西巻
- ニーチェアを使うことは、
「自分の好きな場所でくつろぐ」という意味で、
“マズローの欲求5段階説”
(生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・
承認欲求・自己実現の欲求)の「自己実現の欲求」を
応えているとおっしゃっていただきました。
- 伊藤
- おもしろいですね!
先日「なぜ今、伊藤さんはニーチェアなんですか」
ということを訊かれて考えたんですが、
無垢の木が多かったり、
絨緞だったりする家の中で、
ちょっと金属っぽいものや
石っぽいものを足してもいいのかな、
という気持ちがあったんだなと思いました。
ニーチェアも脚が金属ですから、
ちょっと都会的な印象が出るんです。
- 一柳
- まだ和室での生活が多かった時代に、
もっと椅子での暮らしが増えるだろうと
考えたんじゃないでしょうか。
新居さんが最終的に
ニーチェアの脚の素材に選んだのが
金属パイプだったんです。
木工の家具屋さんは、
木を使って椅子をつくることを考えますが、
新居さんは、きっとこれからを暮らす人々のことを考え、
できるだけ簡易で丈夫に、そして安価で、
さらに良い座り心地を追求したのだと思います。
その中で、脚は金属、手に触れる部分は木、
座面は布というように素材を選んでいったんです。
それが、違和感なく融合しているんですよね。
- 伊藤
- 適材適所、ですね。
脚が木だったら
違ったものになっていたでしょうか。
- 一柳
- 実は、ニーチェアの変遷を見ると、
かなり初期には木でつくっていたという記録があるんです。
けれども折り畳み機能の追求や、
量産するうえで加工のしやすさから、
金属のパイプに替えたという経緯があるんですよ。
木の脚のものは、ほんとうに最初の、
1952年製の写真が残っています。
- 伊藤
- 木でつくることも可能なんですね。
でもやっぱり、
このシャープさは出ないように思います。
- 一柳
- はい、木では、新居さんが思い描くものが
できなかったようです。
- 伊藤
- 誕生から55年を迎えて、今もこうして
わたしたちの暮らしに馴染むデザインって、
ほんとうにすばらしいことだと思います。
一柳さん、西巻さん、
どうもありがとうございました。
西巻さんには、ご自宅でお使いの様子を
取材させていただくことになっています。
とてもたのしみにしています。
- 西巻
- 私もたのしみです。
- 一柳
- 逆に、私たちからも伊藤さんの山の家を
取材させていただくことになっていますね。
どうもありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。
55年目のチャレンジ
- 伊藤
- 今回、“ウレタン塗装なし、オイルフィニッシュ”の
ニーチェアエックスを、「weeksdays」で
販売させていただくことになりました。
意外だったんですが、オイルフィニッシュというのは
ニーチェアにおいて後発商品なんですね。
それも、ごく最近の。
- 一柳
- はい、そうなんです。
オイルフィニッシュの
ニーチェアエックスがうまれたのは、
2019年のことでした。
このオイルフィニッシュに行き着くまでの流れ、
説明させていただいてもいいでしょうか。
- 伊藤
- もちろんです、ぜひ聞かせてください。
- 一柳
- ここに展示している
新居 猛さんがつくった椅子は
いちばん古いものが1966年製で、
ニーチェアエックスになってからは
1970年、72年、80年とあるんですけれど、
どれも木の部分は“ウレタン塗装”なんです。
- 伊藤
- 木材に樹脂を使ったウレタン塗料を塗って
表面を仕上げる方法ですね。
現行の「ニーチェアエックス」も、
基本、同じですよね。
- 一柳
- はい。日本の家具は、1950年代や60年代から、
ウレタン塗装が主流でした。
速乾性があって工場での量産に向いており、
使っていても耐久性が高く、
独特の輝きゆえの高級感があるので、
「いい仕上げ」という安定した評価がありました。
ニーチェアもずっとウレタン塗装を使ってきましたが、
同時に、ニーチェアをつくった新居 猛さんが
すごく大事にしていたのが、
肌に触れたときの心地よさでした。
ニーチェアは肘かけの部分が直接手に触れますよね、
そこはやっぱり癒されるものがいいということで、
素材に天然木を使用し、
その思いを私たちも大事にしてきたわけです。
- 伊藤
- はい。
- 一柳
- 今では木には天然素材の特性があるものとして、
量産品でも使う部材に個体差があってよし、
と誰もが考えると思いますが、
当時は均一なものがよい、
むしろ“木目の違いが気になる”という人も多かったんです。
そもそも店頭で見たものと届いたものが違うのが
好まれなかったんですね。
そういうことって、
木目が不均一だと起こりえるでしょう。
- 伊藤
- ということは、見た目を均一化させる必要があった?
でも木は天然のものですから、
たとえば節目が目立つものだってありますよね。
- 一柳
- そうです。素材の段階で、
木目の印象の強いものはブラウン色に塗装して、
目立たないようにして使っていたんです。
ナチュラル色のウレタン塗装は無色なので、
木目や節が見えてしまうんですよ。
- 伊藤
- そうだったんですね。
- 一柳
- よほど目立つものは、倉庫に保管していたんです。
せっかく使える肘かけを
木目が適さないというだけで
廃棄してしまうのはもったいないですし。
- 西巻
- とても印象の強いこの木目は、
縄目杢(なわめもく)といい、
縄が巻いてるような模様のものがあります。
木の成長段階で台風などで揺れ、もまれると、
そういう跡ができるのだそうです。
つまり“すごく頑張った木材”ですよね。
- 一柳
- ほかにも、小枝が芽を出そうとした跡や、
傷がついたところを治そうとした跡が
独特の節や木目模様になって残る場合があります。
「木目が気になる」というのは、
そういう模様を指すことが多かったんです。
- 伊藤
- でも、それを使わずに倉庫に保管しても、
どんどん溜まっていきますよね。
- 西巻
- そうなんです。
それで、ニーチェア誕生50周年の2019年に、
記念モデルとして、はじめて木目や節を出した
オイルフィニッシュの
ニーチェアエックスをつくって販売をしてみました。
そうしたら、「こんなふうに個性があった方がいい」
というお声をいただいて。
「この木目がかっこいい」
「これだったら自分だけの椅子になる」と
おっしゃっていただけました。
あえてこういうものが欲しい、
ずっとこれを待っていました、とまで‥‥。
ご自宅でお使いの家具に
木の質感を活かしたものが多い方は、
ウレタン塗装のツルッとした感触が
気になっていた、とおっしゃるんですよ。
- 伊藤
- 「ずっと待っていました」、
うれしい反応ですね。
- 一柳
- はい。つくってよかったです。
時代がかわり、肘かけの調達も大きく変わり、
材木を2年先ぐらいまで手配しているような状況の中、
今までのように均一化されたものだけを選んで使うと、
偏りがあるものが溜まるばかりです。
けれども時代とともに
木に対しての理解がすごく変わってきたのを感じ、
ありのまま、自然のままっていうコンセプトで、
“この節は個性です”とうたいたかった。
じつは50周年のときはそこまでコンセプトを
はっきりと打ちだしていなかったんですが、
あらためて、今回、ニーチェア誕生55周年に
オイルフィニッシュを出すにあたって、
はっきりと、そういう方針を打ち出したんです。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 一柳
- 今回、55周年のテーマを「Elegant Flexibility」
(エレガント フレキシビリティ)としました。
ご愛用の皆さんが、
軽やかに持ち運べるニーチェアを
それぞれの日常に合わせて取り入れ、
自分らしい暮らしをしていることを知り、
とても素敵だと感じています。
ニーチェアは、そんな暮らしに寄り添い、
考え方や生き方が変わる中でも、
軽やかに、そしてしなやかに、
ずっと一緒に歩み続ける存在でありたいと考え、
このテーマにしたんです。
私たちは、新居さんがいなくなっても、
なんとかニーチェアを継承したいということで、
この事業を始めているものですから、
“変える”ということに対して、
とても慎重になってしまうところがあったんですけれど。
- 伊藤
- なるほど。
- 一柳
- ずっとウレタン塗装だけを続けてきたのもそれゆえです。
けれども継承して10年が経ち、
お客さまのニーズやご要望の変化を感じて、
今の時代に合ったニーチェアにしてあげたいな、
っていうところがあって。
- 西巻
- じつは、そのニーズはそれより以前からあって、
ウレタン塗装を削った、というお客さまもいるんです。
サンドペーパーで削って、
自分でオイルを塗りました、って。
- 伊藤
- わかります。ニーチェアではありませんが、
わたしが子どもの頃、
父にはじめて買ってもらった椅子も、
ウレタン仕上げだったんです。
おとなになって修繕をするときに、
ウレタン塗装を全部きれいに削って、
オイルフィニッシュに加工しました。
- 一柳
- そうなんですね!
- 伊藤
- ウレタン塗装仕上げとオイルフィニッシュ、
どちらが良い、ということではなく、
暮らしに馴染むかどうか、ですよね。
わたしは山の家ではオイルフィニッシュ、
東京の家ではウレタン塗装のものを使っています。
- 西巻
- それぞれの良さがありますよね。
ウレタン塗装は経年変化が少なく
傷や汚れがつきにくいですし、
オイルフィニッシュはメンテナンスが必要ですが
より自然な風合いや経年変化をお楽しみいただけます。
そんなふうにそれぞれの個性がありますね。
- 伊藤
- そうですよね。
- 一柳
- ニーチェアはウレタン塗装が原点ですから、
それはそれでしっかりと
つくり続けていきたいと思っています。
けれどもニーチェアの座り心地をもっと広く、
多くの人に感じていただくため、
今の時代に合ったオイルフィニッシュという
選択肢を増やした、ということですね。
部屋とともに育つ
最近、リビングとダイニングの椅子の量を、
少し減らしました。
山の家に持って行ったり、
別の部屋に移動したり。
数脚は友人に譲ったりもしました。
去年の引っ越しを機に、
フローリングから絨毯敷きになって、
家の中の色や質感が変わったからでしょうか。
ちょっと変えてみてもいいかな、
そんな風に思ったのでした。
たとえいいと思って集めたものでも、
「いい」がありすぎると、
窮屈に感じることもある。
野菜も間引かないとうまく成長しないように、
家の中に置くものにも適量があるのですねぇ‥‥。
さて「適量」になった我が家のインテリアに、
ためらいなく置いたのは、
ニーチェアエックス。
布とステンレス、
それから肘掛け部分の木のバランスが絶妙。
使わない時は畳める、というのも、
今の私に合ってるみたい。
今回、ご紹介するのは、
木の風合いを活かしたオイル仕上げ。
これが、とっても感じいい。
部屋とともに育っていく、
そんな気がしています。
ひとりじゃなく、みんなで考える (戸髙晋輔さんの工房 後編)
- 伊藤
- デッサンから最終的に「これで行くぞ」って
いうところまで、
どのくらいの時間をかけるんですか。
- 牧野
- 「おふろの椅子」は半年くらいだったかな。
ものによるんですけどね。
- 伊藤
- 最終的には全員で集まって決めたんですか。
- 富田
- いや、メールのやり取りです。
- 戸髙
- それがとても具体的で速いんです。
角の丸みのことを「アール」というんですが、
どのくらいにしましょうかと問うと、
すぐに数値で出してくれる。
そういうことが、すごく速くて曖昧さがなく、
とてもやりやすいんですよ。
- 牧野
- アールについては、おもしろい結論が出たんです。
僕らが選んだのは、サンドペーパーを同封して、
自分で好きなアールに削ってもらおうということ。
ぼくは「あんまりかけない派」なんです。
ただ切りっ放しの角はハダカで座ったら痛いから、
ちょっとだけサンドペーパーをかけます。
- 伊藤
- それをお客様が好みに応じて削るんですね。
- 牧野
- 材料となる座板、脚、ドミノチップと、
仕上げ用のサンドペーパーと当て木、
組み立て方の説明書を同梱しているんです。
かんたんですよ。
サンドぺーパーを1回かけるだけで
けっこう角は削れますよね。
それに、自分で削ると愛着も湧いてくる。
ちょっと上手く削れるようになると、それがまた嬉しい。
- 戸髙
- 凝りたい人はもっとしっかり磨いたり、
手をかけることもできますよね。
- 伊藤
- いわゆる組み立て家具の面倒なところは、ない?
- 戸髙
- そこ、すごく考えたんです。
つまりたくさんの道具が必要だとか、
金づちは、接着剤は、って考えて、
「なるべくなくてもできる」ものにしました。
- 伊藤
- 組み立てには、木づちも金づちも要らない、
ということですか。
- 戸髙
- それは、あった方がいいです。
叩いてもよい硬いものがあったほうが。
ただ、なくても、手で叩いて
組み立てられるようにはなっています。
- 牧野
- 僕は手だけでできましたね。
床面を使って、体重をかけて、ドンドンって。
- 戸髙
- 接着剤も、なくて大丈夫ですけれど、
入れたい人は使ってもいいですよ。
- 牧野
- ちなみに、脚は座板に直角に入るんですが、
ふつうはハの字に開くんですよね。
でもその加工は大変で、コストがかかる。
垂直なら比較的簡単にできるので、
その分コストダウンをしました。
で、垂直の脚がイヤかというと全然イヤじゃなくて、
これでじゅうぶんなんです。
- 戸髙
- 座板の厚さも、ある程度コストを意識して。
流通している材の使いやすい厚さも考えて。
- 富田
- 最初のものから、ちょっと薄くしたんですよね。
5ミリぐらい。
- 牧野
- 薄くしすぎると、脚を入れたときに、
強度が保てないんですよね。
ある程度深くないといけない。
それでこれがぎりぎりだね、と。
ところでこの椅子、
お風呂だけじゃなくて、
普通に座ってもいいですね。
- 伊藤
- はい。たとえば、薪ストーブに
薪をくべる、とか、
玄関で靴紐をむすぶ、とか。
「ちょっと座りたい」ことって、
あるんですよね。
- 富田
- ああ、ちょっと座る。たしかに。
- 牧野
- 踏み台に使ってもいいし。
神棚のお供えとか、
壁掛け時計を直すとか、
食器棚や台所の上のものを取るとか、
そんなときにも使えますよね。
- 戸髙
- はい、強度的には大丈夫です。
- 牧野
- それとですね、今、これが最終的な
パッケージの案なんですけれど、
ここに、今、僕らグラフィックで、
組み立て方とか、使用上の注意を、
僕がイラスト描いて、
富田さんがデザインして、
同梱しようとしているんです。
- 富田
- はい。
- 牧野
- で、箱にちょっと隙間ができるんですよね。
普通は緩衝材を詰めるんですけど、
ここに、おまけのタオルを
つくって入れようとしてて。
- 伊藤
- え? タオル。
- 富田
- 隙間にオリジナルタオルを詰めたら
かわいいんじゃないかって。
お風呂用品だから
タオルがおまけに入っていたらいいね、って。
- 牧野
- 僕がイラストを描いて、
ヤブクグリのマークをつけて。
これは、みなさんに喜ばれたいっていうのと、
特に通販で緩衝材がいっぱい入ってくるのが、
好きじゃなくて。
捨てるだけのものよりも、
布が入ってるのって嬉しいよね、って。
- 伊藤
- うんうん。
- 牧野
- (富田さん、戸髙さんに向かって)
このこと、思いついたばかりだから、
ちゃんと会議に通そうね。
- 伊藤
- 「ヤブクグリ」の会議があるんですね。
- 牧野
- 定例会議も開いているんですよ。
毎月1日に、朝6時からオンラインで。
- 伊藤
- 朝6時!
- 牧野
- みんなそれぞれ仕事があるので、
出勤前に集まるんです。
- 富田
- 6時から、だいたい1、2時間。
8時ぐらいまでですよね。
- 牧野
- 人によっては出勤だったり、子供を送りにと、
もうどんどん出て行くんですけどね。
- 伊藤
- どんな話をなさるんですか。
- 牧野
- まず会長で林業係の合原万貴さんから、
今の日田で起きている、たとえば木材価格の変動とか、
最近取り組みとして現場で始めていることとか、
そういったことを報告してもらうんです。
あと、こんなイベントがありますよ、とか。
そして事務局長で宿係の黒木陽介くんが司会をして、
いろんな提案事項をひとつずつ、
みんなで決定していきます。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 富田
- 伊藤さん、急かして申し訳ないけれど、
これから東京に戻られるんですよね。
そろそろ出ないと、飛行機に間に合わないです。
- 伊藤
- たいへん、もっとお話をききたいくらいでした。
でも、また、ぜひ、伺わせてくださいね。
- 牧野
- そりゃもう、ぜひ。
- 伊藤
- 「ヤブクグリ」のみなさんにお目にかかって、
ますます日田が好きになりました。
今日はどうもありがとうございました。
完成、楽しみにお待ちしています。
戸髙さんも、工房まで見せてくださって、
ありがとうございました。
- 戸髙
- いえいえ、いつでも遊びにいらしてください。
ありがとうございました。
- 富田
- ありがとうございました。
- 牧野
- またお酒ご一緒に。
- 伊藤
- ぜひ!
思いついたら、まず試作 (戸髙晋輔さんの工房 前編)
- 伊藤
- 日田から車でしばらく走り、
家具職人・戸髙晋輔さんの
「TODAKA WOOD STUDIO」にお邪魔しています。
椅子の製作のことをお聞かせいただけたらと思います。

▲右から戸髙晋輔さん、牧野伊三夫さん、富田光浩さん。
- 戸髙
- どうぞよろしくお願いします。
これがマルサク佐藤製材さんから、
「おふろの椅子」用の材料として
分けていただいてる杉材です。
- 牧野
- これは、自分たちでつくる
「組み立てる日田杉のおふろ椅子」セットの方ですね。
- 戸髙
- そうです。いわゆる「柾目」ですね。
木材の中心から外側に向かって放射状に切ったもの。
木目が年輪に対して直角になります。
対して「板目」というのがあって、
木目が年輪と平行になります。
見た目の印象が異なり、
どちらかというと柾目の方が高価です。
「ハダカですわる椅子」(チョンマゲ/ゆきさん)も
「組み立てる日田杉のおふろ椅子」も、
日田杉の良さを生かして、
よりグレード感を出そうと、柾目、
それも心材の「赤太」とよばれる部材を使いました
「ハダカですわる椅子」はつくりがとても丁寧で、
一般的な風呂椅子で
こんなことをしているところはないぐらいの、
つくりのよさをめざしました。
いっぽう「組み立てる」のほうは、
材料は同じようにグレードの高いものですが、
組み立てをお客さまがすることによって、
価格を抑えたものになっています。
- 伊藤
- 材料がいい、というのは、
具体的にはどういうことなんでしょう。
- 戸髙
- 大きな丸太の中から切り出しているので、
素材そのものがいいんです。
いいというのは水に強くて、簡単には傷みづらい。
そしてほどほどの堅さがあるので、
風呂椅子として長く使えると思います。
- 牧野
- このデザインを決めるまでに、
かなりのやり取りをしましたね。
いろんなサンプルをつくりました。
- 戸髙
- 実は没ネタだらけです。
こんなふうに。
- 伊藤
- へぇ~。すごい。
- 戸髙
- まだ他にもあるんですけど。
- 伊藤
- それぞれ、かわいらしいですね。
ちょっと重そうなものもありますけれど。
こういったデザインは、どんなふうに?
- 戸髙
- 絵が届くんです。
こういうのつくってみてほしい、って。
- 伊藤
- 絵は牧野さんが?
- 牧野
- はい、僕も描きますし、
富田さんも描きますよね。
- 戸髙
- そのスケッチをわりかしイメージ通りにつくるとこうなる、
というのが最初の試作ですね。
「やっぱり商品としてはちょっとね」
と、木工作家としては思うところもあるんですけれど、
とりあえずそのまま、つくってみるんです。
それで実際に使ってみる。
- 伊藤
- 富田さんと牧野さんが使ってみるんですね。
- 牧野
- あと福岡に住むアートディレクターの
伊藤敬生さんにも使ってもらいます。
- 戸髙
- すると「大きいよね」とか感想が出るんです。
「都会のお風呂は狭いんです」って。
で、だんだんちっちゃくしたりして。
ほかにもありますよ、これはくりぬき型。
- 伊藤
- あ、すごくかわいいですね!
- 戸髙
- これも「こんなに手をかけても‥‥」って思いながら。
- 牧野
- これ、制作費がかさみすぎちゃって、
価格がいくらになるかわからないですよね。
- 伊藤
- そうですよ。
- 戸髙
- でも、おもしろそうだからやってみよう、って。
プロダクト的には難しくても、
つくり手としてはやってみたくなりますね。
- 牧野
- 座板が分厚いのも、おもしろいんじゃない? とか。
- 伊藤
- ほんとですね。
組み立てのほうも、
いろいろなサンプルをつくったんですか。
- 戸髙
- はい、いろんなパターンをつくりました。
- 牧野
- そして最終的にこれが一番いいということに。
- 伊藤
- 最終的なものは誰かのデッサンが
元になってるんですか。
それともだんだん、こうなった?
- 牧野
- これは戸高さんが考えたんだよね。
- 戸髙
- いや、でも最初に「こんな感じがいいかな」
というような、
ふんわりしたデッサンはいただきましたよ。
- 伊藤
- そのふんわりは牧野さんによるもの?
- 富田
- 牧野さんですね。
- 戸髙
- それぞれのふんわりを、
一回、形にすると、
それがぐんと具体的になっていくんです。
「ここはこうしよう」とか
「ここがいいね、残そうよ」とか、
次になにをすればいいかがはっきりする。
だから最終系はデッサンがなく、
修正を重ねての「モノ」なんです。
それをもとに同じ製品がつくれるように、
計画を立てるんですよ。
- 富田
- 何回くらい試作をしたんだっけな。
3回?
- 牧野
- そう、富田さん、僕、伊藤さんで
宅配便で受け渡しをして、
最後に戸高さんに戻す、
というのを1回とすると、
3回はやっていると思う。
それで改良版をつくって、また宅配便。
- 富田
- そうでしたね。
時間がかかってしょうがないですね。
使っている段ボールが
だんだんボロボロになっていって、
送るときにはお菓子とか石けんとかいれたりして。
- 戸髙
- つくって使ってみないとわからないですからね。
- 牧野
- 家具なんで、実際手に取ったり、
持ちあげたり、触ったり、
使ってみるのって大事なんです。
「木」の個性をいかして (富田光浩さん 後編)
- 伊藤
- 「ヤブクグリ」での製品づくりには、
富田さんと画家の牧野伊三夫さんが、
デザインなどの面で参加なさっているわけですよね。
- 富田
- はい、僕と牧野さんと、
最初に出てきた「福岡宣伝係」の伊藤敬生さんの3人が、
デザイナーっていう形でデザインしています。
ちなみに「おふろの椅子」は僕のデザインです。
ポイントは、脚を強化する棒がないから、
洗いやすいし、カビにくい。
構造がシンプルで、きれいでしょう。
- 伊藤
- たしかに、継ぎ目のところに
カビたり、水分が溜まって黒ずむんですよね。
- 富田
- そうなんですよ。
なのでこれは、最初からそこをなしにしよう、
という考え方でつくったんです。
最初、低いほう(「チョンマゲ」)をつくり、
サンプルを3人の家を巡回して使ってみたら、
伊藤さんの奥さんから、
低くて座りにくいという意見が出たので、
座面の高いバージョン(「ゆきさん」)ができたんです。
この「ゆきさん」は伊藤さんの奥さんの名前です。
- 伊藤
- そうなんですね。
じゃあ「チョンマゲ」の由来は?
- 富田
- 「チョンマゲ」は僕のことなんですよ。
くだらない話なんですけど、
富田の富って「うかんむり」じゃないですか。
でも、もう何年も付き合ってる飛騨の方が、
「わかんむり」(冨)でメールを送ってきたんです。
それをちょっと冗談めかして言ってたら、
牧野さんが面白がって、
「富田くんはチョンマゲが付いてる方だよ」って。
なので、これは僕のこと。
僕がデザインしたからと、
俺のことをふざけてネーミングに使ったんです。
意味はわかんなくていいよ、
おもしろけりゃっていうことで。
- 伊藤
- そういうことだったんですね。
なるほど。
そういえば「三隈川かっぱめし」のポスターも、
ユーモアたっぷりでしたね。
- 富田
- はいはい、かっぱめし。
あれがリニューアルをして、いま、
「三隈川いかだすし」になったんですよ。
細長い海苔巻きをいかだに見立てた
すしの折詰弁当です。
- 伊藤
- わぁ、それもおいしそうですね。
- 富田
- 日田は林業地だったので、
トラックがない時代は、
杉の原木を切って筏に組み、下流に流していたんです。
そういう歴史は「日田杉資料館」で
ごらんいただけるんですけど、
今はもうダムがそこら中にでき、
そういう運搬方法はありません。
僕らは、その頃をしのんで、
「ヤブクグリ」結成の頃、
本当の材木を組んだ筏を浮かべたことがあるんです。
まあ、そんなようなことで、
年に何アイテムかずつ、
できれば杉を使うものを中心にして、
生活の中にあって、
自分たちが欲しいなって思うものを、
もうどんどんつくってしまおうと。
ぼくらのつくるものって、
すごく簡単なものに見えるでしょう。
- 伊藤
- いや、そんなふうには見えませんよ。
じつはとても考えられていることが、わかります。
- 富田
- ありがとうございます。
例えば、今回の「きほんのまな板」もそうなんです。
木には年輪があるじゃないですか。
その中心の部分が赤いので赤太(あかた)、
外は白太(しろた)っていうんですけど、
その赤太だけを使っているんです。
- 伊藤
- 赤太には、硬いとか、反れにくいとか、あるんですか。
- 富田
- はい、硬いんです。
やっぱり時間をかけて育った芯材なので、
水を吸い込んでも、乾きやすい。
しっかりした部分なんですよ。
木は生長過程で幹から枝が生えるので、
そこが、製材をしたときに「節」になります。
このまな板はその節を除けてつくっているんです。
- 伊藤
- 節はやっぱり、あると気になりますか?
- 富田
- 気になる方が多い、とは言えますね。
まな板は包丁が当たるからでしょうね。
ゆえに、節を除けると、
1本の木から少ししか取れません。
数に限りがあるわけです。
そもそも材木って、1年とか2年とか、
天然乾燥をして水気を抜かないといけない。
木って切った瞬間って、もう本当に、
じょぼじょぼ、っていうくらい水が出るんです。
そのままだと、ぐにゃぐにゃになっちゃうから、
天然乾燥に加えて、機械乾燥もして、
材料を調達しているんですね。
だからそもそもすぐ製材できるものに限りがあるうえ、
節を除けて選んでいるので、
何百枚っていう注文が来た時に、
なかなかパッとつくれないんです。
つまり、「きほんのまな板」は、すごく贅沢な、
マグロでいうとトロみたいなところだけを
使っているんです。
- 伊藤
- そうなんですね、なんだかありがたいです。
- 富田
- けれども、まな板は節を気にしなくてもいい、
という考え方もあって、
木工作家の戸髙さんの家では、
節が入っているものを実際に使っています。
だから、次のステップとして、
赤太だけではもったいないので、
「節が入っちゃうけれども、いいんじゃない?」
っていう規格商品をつくろうと。
実際、ふろのフタはそうなんですが、
今回、伊藤さんとつくる
「小さいまな板3枚セット」は
3枚のうち、節のあるものが1~2枚、混じりますね。
- 伊藤
- わたし、料理をしながら思ったんですよ、
ニンニクちょっと切りたいなとか、
そういう時ね、節があっても、
小さなまな板って便利じゃないかなって。
3枚セットなら、1枚に強い匂いが付いても、
別のを使えばいい、っていう感じで、
気軽に使えるセットがいいなって。
- 富田
- たしかにそうなんです。
節というのは、しばらく使ってると、
ぽこって穴があいて
落ちたりすることがあるんですよ。
うちの「おふろのフタ」は穴があいちゃいましたが、
そのまま使っています。
それはもっと黒々した節のものですけれど。
まな板でポロって取れるとまずいかな、
という心配もあって、
今までは製品化をしてなかったんです。
でもゆくゆくはこういうふうに
「節ありが混ざりますけど、いいですか」
という製品を考えてもいいんじゃないか、
っていう話も出ていたので、
今回はとてもいい機会をいただきました。
節があるから使わないというのは、
あまりにも、もったいないので。
今回は「節あり」もつくりつつ、
大きいほうも伊藤さんのリクエストで
厚みを削りましたね。
- 伊藤
- はい。オリジナルも、もちろんいいんですが、
より気軽に使えるものをと思って。
だんだん年を重ねてくると、
毎日使うものの重さが気になるんですよ。
でもこれなら軽いです。
乾きやすいですし、
なにより、刃あたりがすごく良かったです。
すごいいい香りがするのも、
使ってる時に嬉しいんですよね。
- 富田
- なるほど。
いいですよね、乾きが速いって。
杉材って、特別、速いんです。
乾かす時は、長辺を下にするといいですよ。
水分が長辺から抜けるんです。
- 伊藤
- わたしはいつも、まわりに隙間をあけて置き、
ちょっとしたら、天地を返して乾かします。
そして完全に乾かしてから、棚に仕舞います。
「おふろのフタ」について、
ほかに、富田さんから
お伝えしておきたいことはありますか。
- 富田
- 湿気のうんと多い場所で使いますから、
木材という性質上、絶対に反りが出ることですね。
でも、そうしたら裏返して使ってください。
そうすると元通りになっていきます。
それを繰り返していくと、
全然反らなくなっていきますよ。
- 伊藤
- なるほど、そんなふうにして
木の性質と向き合って使うものなんですね。
「ヤブクグリ」のはじまりは (富田光浩さん 前編)
- 伊藤
- 富田さんは、画家の牧野伊三夫さんといっしょに
「ヤブクグリ生活道具研究室」の商品にかかわって、
パッケージのデザインもされていますよね。
きっかけは、どういうことだったんですか。
- 富田
- もともと牧野さんとは古いおつきあいなんです。
飛騨産業という家具の会社が2011年に創刊した
小冊子『飛騨』というフリーペーパーがあり、
創刊から終刊まで、牧野さんとお仕事をご一緒しました。
- 伊藤
- その『飛騨』に、富田さんがかかわるきっかけは
どんなことだったんでしょう。
- 富田
- もともと僕は家具が好きだったんですけれど、
ずっと北欧家具を使っていたんですね。
岐阜県の出身なのに、飛騨の家具は使っていなかった。
それがある日東京の神谷町にある飛騨産業のショールームに
時間があったので入ったら、
一脚の椅子が目にとまって、
あ、いいなと思って座ろうと手前に引いたんです。
そうしたら、それが想像より軽かった。
「軽くて面白いですね、この椅子」って言ったら、
これは杉の圧縮材でできてるから軽くて丈夫なんです、
という説明を、お店のかたがしてくださいました。
面白い会社だなと思ったんですよ。
なぜかっていうと、
杉って、たくさん山に植えられているのに、
材料としては日本中で使われなくなってきていて、
問題になってるっていうのを知っていたので、
圧縮して軽く丈夫な素材をつくって
家具にすることを考える会社が、
ふるさとにあったんだって知らなくて。
それで驚いてその場で一脚買いました。
そして、この会社の仕事がしたいと思い、
飛騨産業に営業の電話をかけたんです。
- 伊藤
- すごいですね、すばらしい行動力。
- 富田
- それで飛騨に行き工場見学をさせてもらったとき、
ペライチ(用紙1枚)で文字だけの
企画書を持って行ったんです。
- 伊藤
- それは、飛騨産業のデザインに関わる
すべてのことをやりたいです、というような?
- 富田
- いえいえ、とんでもないです、
小冊子をつくりませんか、
っていうことだけです。
- 伊藤
- なぜ小冊子だったんでしょう。
- 富田
- いい家具って一回買ったら、
長い付き合いが続くものですよね。
そんなに頻繁に買うものではないけれど、
結婚するとダイニングテーブルを買ったり、
子どもができたら勉強机を買ったり、
そんなふうに人生には「家具を買う節目」がやってくる。
そのときに、「どこで買おうかな」ってなると思うんです。
だったら飛騨産業を思いだしてほしい。
だから、以前買ってくださった人に
定期的に小冊子を送って、
思いだしてもらえるようにするといいんじゃないですか?
‥‥っていうのを文字で書いたんです。
そしたら、ぜひ企画してみましょうっていうことになって、
その時に牧野さんにお声掛けをしました。
絵を描いてくださいって。
その時からすでに、牧野さんは
彼のふるさとの北九州市の情報誌
『雲のうえ』の編集委員をなさっていたので、
『飛騨』についても編集委員として
一緒に入らせてください、ということになり、
第1号を2011年に発刊したんです。
そしてそのことが、日田に繋がっていくんですよ。
- 伊藤
- 富田さんと牧野さんが『飛騨』の仕事を
ご一緒したことが、日田に?
- 富田
- はい。取材で牧野さんと温泉に入っていたとき、
こんなことを言ったんです。
「九州に日田っていうところがあるんだけど、
飛騨と似てるんだよねぇ」って。
- 伊藤
- そういえば、名前も似ていますよね、
飛騨と日田って。
- 富田
- そうなんです。
語源を調べると同じっていう説があって、
山ひだの奥の土地の「ひだ」が由来だというんです
(山襞:山の尾根と谷が入りくんで、
襞のように見える土地のこと)。
さらに調べると、どちらも盆地で、林業地。
- 伊藤
- へえー!
牧野さんは日田のことをよくご存知だったんですか。
- 富田
- 九州のあちこちにスケッチ旅行に行って、
荒廃した山林の状況を知った牧野さんは、
『間伐材』という名の雑誌をつくろうと
思っていたそうなんです。
牧野さんは福岡に住むグラフィックデザイナーの
梶原道生さんというかたと知り合いで、
彼は彼でふるさとである日田のためになにかしたい、
と考えていたそうで、
一緒に日田を訪れたのがきっかけで、
牧野さんもどんどん日田に惹かれていったそうです。
そんな牧野さんに、
「富田くんも、ちょっと行ってみようよ」と誘われて、
日田に遊びに行ったんですよ。
そしたら最初に紹介されたのが、
黒木陽介さんという、日田市の観光協会の方。
彼のフットワークの軽さや、
仲間からの信頼の篤さがあって、
ぼくもどんどん日田に知り合いが増えていきました。
そうして知り合ったみんなで
日田をベースに人と森の関係を考えようという集まり
「ヤブクグリ」を結成したのが、2012年のことでした。
- 伊藤
- 「ヤブクグリ」は何人、メンバーがいらっしゃるんですか。
- 富田
- いま、22人です。
職種もばらばらで、
役割もそれぞれあって。

▲右が富田光浩さん、真ん中が牧野伊三夫さん、
左はヤブクグリ会長で林業係の合原(ごうばる)万貴さん。
- 伊藤
- 全国的に知られるようになった
「日田きこりめし」をつくったのも
ヤブクグリのみなさんなんですよね。
- 富田
- そうなんです。
「昔、こんな弁当を、きこりが食べていたかも?」
と、牧野さんが想像で描いたラフをもとに、
丸太に見立てた煮ごぼうを
付属のノコギリで切って食べるという、
煮物中心の和食のお弁当を
寳屋(たからや)の佐々木美徳さんと
いっしょにつくったんです。
佐々木さんは「ヤブクグリ弁当部」なんです。
器は、製材した杉の端材を使っていますが、
これはマルサク佐藤製材の佐藤栄輔さんが
「林業係」としてやってくれています。
- 伊藤
- 「ヤブクグリ」には料理屋さんもいれば、
製材所のかたもいらっしゃるんですね。
だからアイデアをすぐに形にすることが
できているんですね。
- 富田
- そうなんですよ。
ぼくは「名刺係」、牧野さんは「冊子係」。
ほかには建築家もいれば、林業家もいれば、
印刷屋さんもいます。
「ゆくゆくは杉の家を一軒つくりたいね」
って言ってるんです。
- 伊藤
- わぁ、すごい。
そういえば日田では、丸太がいっぱい
あるところに伺いましたよ。
- 富田
- 九州木材市場ですね。
あそこの田中昇吾さんも
「林業係」をしているんです。
- 伊藤
- その「きこりめし」ができたあとで、
さらにいろいろな製品を
つくるようになっていくんですよね。
そのいきさつは‥‥?
- 富田
- 「きこりめし」の次に、
本当は小冊子を出そうとしたんですけど、
資金がないっていうことになってしまって。
けれども助成金を待っていても、いつ下りるかわからない。
じゃあ、モノをつくって、販売して、
それを活動資金にすればいいんじゃないか、
っていうことで、日田杉の木工製品を世に出していこうと、
「ヤブクグリ生活道具研究室」を結成したんです。
最初につくったのは「日田杉の椅子」でした。
九州木材市場から仕入れた原木を
マルサク佐藤製材で製材し、
家具職人の戸髙晋輔さんが「木工係」として、
自身の工房「TODAKA WOOD STUDIO」で
手づくりをしました。
- 伊藤
- なるほど。
YAECAの布を使ったスツールもありますよね。
- 富田
- そうです、そうです。
布地は福岡で箱崎縞を織る
「メゾン はこしま」に依頼しました。
それで、椅子の次が、「おふろのフタ」、
「ハダカですわる椅子」などおふろ用品を、
そして「木目がうつくしい日田杉の赤太で作ったまな板」
ができていきました。
新サイズ登場のお知らせ
人気アイテムに新サイズ登場のおしらせです。
2月20日(木)午前11時より、
以下の商品の新サイズがweeksdaysに登場します。
容量が3倍のとてもお得なサイズです。
BELLEMAIN
ハンドセラム No.1
今年の冬から春にかけて、
爪が欠けやすくなった時期がありました。
そんな時に使い始めたのが、このセラム。
爪の内側にオイルを一滴ずつたらし、
爪全体に馴染ませて‥‥
使い始めて1ヶ月経った頃、
あきらかに自分の爪が変わったように感じます。
「爪の内側にオイルを」とか、
「甘皮は切ってはダメ」とか。
大谷さんが教えてくださった目から鱗のお手入れ法。
コンテンツも合わせてどうぞ。
(伊藤まさこさん)
BELLEMAIN
ハンドモイスチャライザー No.2
洗いものに掃除に洗濯‥‥
手を使うことの多い、家仕事。
(そうでなくても、手は体の中でも
酷使しがちなパーツです。)
冬のみならず、春も夏も秋も乾燥していて、
荒れやすいのが悩みの種でした。
このままでは手がかわいそう‥‥
と思った時に出会ったのが、
べリュマンのケアアイテム。
まずは二層式ハンドローションを馴染ませ、
その後、このハンドモイスチャライザーを重ねると、
肌が瑞々しくなるんです。
さらにうれしいのは、つけ心地が軽やかなところ。
手と同じように足もケアすると、
しっとりもちもち自慢の素足になります。
コンテンツも合わせてどうぞ。
(伊藤まさこさん)
友だちに会いに
日差しがだんだん春めいてきて、
ああ、このまま春になるのかな?
なんて錯覚してしまう今日この頃。
さて今年はどこに行こう?
旅の計画を練るのも今の時期です。
京都はあの人、
パリに行くならあの人に会っておかないと。
そろそろあの人に会いに金沢に行きたいなぁ。
私の場合、
旅とは「そこに住む友人に会いに行くこと」。
各地に、
会いたい人がいるって、
うれしいし、ありがたいことです。
大分の日田という町は、
今までなぜだか縁があって、
何度か訪ねているけれど、
「来ましたよ」というより、
「ただいま」と言いたくなる。
そうしょっちゅう来ているわけではないのに、
この「ただいま感」はなんなのだろう? と思うと、
やっぱり「人」なのでした。
今週のweeksdaysは、
台所で、お風呂で、
日田に行かずとも日田を感じられる、
なんともいいかおりのする、
日田杉を使ったまな板と、お風呂のあれこれ。
愉快な仲間「ヤブクグリ」が登場するコンテンツも
どうぞおたのしみに。
奇跡のようなもの
- 伊藤
- 2つのパールがくっついた
「ふたご」の形が生まれるのは、
どういう仕組みなんですか。
- 山本
- これ、偶然なんです。
生産効率を上げるための方法として、
1つの貝に真珠の核を2つ入れて、
2粒、同時に養殖するやり方があるんですが、
それがたまたま貝の中でくっついてしまったのが、
「ふたご」の形です。
- 伊藤
- つくろうと思ってできるものじゃないんですね。
その核を入れる職人さんが
いらっしゃるということですね。
- 山本
- はい。
核入れの時に、
ふわっと開いた状態の貝の体内にメスを入れ、
淡水二枚貝の貝殻を加工した丸い核と、
真珠の素になる細胞を添えます。
その細胞が核をつつみこみ出来るのが真珠です。
- 伊藤
- なるほど。
まん丸になったり、
バロックになったりするのは、
どういう違いがあるんでしょう。
- 山本
- メスを入れて空間をつくるのですが、
入れた核が移動すると空間が出来るんです。
その空間の形状や、メスの後が塞がらないと
その跡に沿って真珠のカタチが
形成されるんですよ。
- 伊藤
- そういうことなんですね。
でもやっぱり、真珠屋さんとしては、
まん丸に出来上がるのが理想なんでしょうか。
- 山本
- そうですね。
うちの従伯父の場合は、
生産効率を落としてでも丁寧に育てるような
養殖の仕方をしているので、
いびつな形は出にくいんですけれども、
それでもやっぱりバロックはできます。
- 伊藤
- そうですよね、
生きものですものね。
- 山本
- ええ。
昔は真珠全体の生産量も多かったので、
バロックパールはあまり使われていなかったんです。
今はその面白さをデザインとして
気に入ってくださったりしています。
またよほどカタチやテリの悪い、
業界用語で「裾玉」と呼ばれるものは真珠層を削って、
もう一度再生核として使ったりもします。
- 伊藤
- 再利用できるんですね。
- 山本
- はい。
貝自体も、貝柱は食べることができますし、
食べられない部分は肥料化をして畑に撒いたり、
海にまんべんなく撒けば、
海がいい状態になると漁業関係者に聞きました。
- 伊藤
- 天然のものだから、
自然にもかえりやすいんですね。
- 山本
- 土や海にかえしても、環境を汚しません。
ですから、パールも含めて、
貝に無駄な部分はひとつもないんです。 - 伊藤
- 真珠って、すごい。
- 伊藤
- 今回はキャッチもつくっていただきました。
いろんなピアスを持ってらっしゃる方も、
キャッチをこのパールに変えるだけで印象が変わって、
新鮮につけられるかなと思って。
- 山本
- パールのキャッチ、いいですよね。
これはまん丸なので、
前にもってきてもかわいいと思いますよ。
- 伊藤
- あ、ほんとうだ!
ピアスとしてもつけられますね。
- 伊藤
- ピアスのほうは
6種類の大きさでつくっていただいたんですが、
パールの大きさというのは、
何によって違ってくるんでしょう。
- 山本
- 核の大きさの違いです。
7ミリをつくりたかったら6ミリの核、
5ミリのパールをつくりたかったら4ミリの核を入れます。
表面積が狭い小さい方は比較的つくりやすいんですが、
大きくつくるのって、難しいんですよ。
- 伊藤
- なるほど。
どのくらいの時間をかけて育つんですか。
- 山本
- 通常、約10カ月くらいです。
春先、2~3月に核を入れはじめて、
12月~1月が採取シーズンです。
核を入れる作業を丁寧にしないと、
最悪の場合には貝が核を吐き出してしまって、
真珠が出ないこともあるんです。
- 伊藤
- えっ。
吐き出すこともあるんですね。
- 山本
- はい。
10カ月の間は、貝の中は見えないので、
1週間ごとに掃除をしたり、
外から様子を見ながら世話をします。
- 伊藤
- お掃除も!
核を入れて海に帰せば、
あとは待つだけというわけではないんですね。
- 山本
- そうなんです。
基本的に穏やかで栄養豊かな漁場がいいのですが、
波や海水温など海の目まぐるしい変化を正しく読み、
その時々の貝の健康状態を理解して、
最善の作業をしなきゃいけないんです。
- 伊藤
- わぁ、なかなか大変ですね。
以前お伺いしたときにお目にかかった従伯父さまが、
「パールづくりは漁業と一緒」
とおっしゃっていましたね。
- 山本
- まさにそうなんです。
貝自体が生きものですし、
台風や赤潮(海水中のプランクトンの異常増殖)のような
自然環境にも左右されます。
なので、真珠の養殖という仕事は
自然の大変さと楽しさがありますね。
- 伊藤
- こんなふうに伺うと、
ここにあるひと粒が、
もう、奇跡のようなものに思えてきます。
- 山本
- そうなんです。
僕たちも貝がつくってくれた真珠を大切に引き受けて、
丁寧にお客さまにお渡しするようにしたいと
いつも思っています。
- 伊藤
- 生きものなんだなと思うと、
とくべつに輝いて見えますね。
大切にしなくちゃ。
どうもありがとうございました。
- 山本
- ありがとうございます。
また伊勢にも遊びにいらしてくださいね。
採れたままの形
- 伊藤
- 山本さん、今日はよろしくお願いいたします。
- 山本
- こちらこそよろしくお願いします。
- 伊藤
- 今回、weeksdaysでパールのピアスとキャッチを
扱わせていただくことになりました。
ありがとうございます。
- 山本
- こちらこそありがとうございます。
- 伊藤
- あらためて、ヤシマ真珠さんの歴史から伺えますか。
- 山本
- はい。
ブランドがうまれたきっかけは、
76年前に、高祖父、
つまり僕の祖父のそのまた祖父ですね、が
伊勢の英虞湾(あごわん)で
真珠の養殖をはじめたことでした。
祖父の代になってから、
養殖・卸・小売に分業しようとなり、
小売を担当したのが僕の祖母。
「弥志磨真珠養殖場」という場所の名前からとって、
「ヤシマ真珠」という販売会社をつくりました。
まだ代替わりはしていないんですが、
高祖父から数えて、真珠の仕事は
僕で5代目ということになります。
- 伊藤
- お祖母さまが小売を始められたのは、
何年くらい前のことなんでしょう。
- 山本
- 54年前ですね。
養殖の方は、今は従伯父が担当しています。
70歳近いんですけれども、
現役で働いています。
従伯父もそうですが、後継者不足なんですよ。
この伊勢の真珠養殖って、
全体的に若手が不足している状況なんです。
- 伊藤
- このまま後継者が見つからないと、
どうなるんでしょう‥‥?
- 山本
- 続けていくのは厳しくなるでしょうね。
でも、最近僕と同じ年代で、
「おじいちゃんが真珠の養殖をしてました」という
孫世代の方たちがUターンしてきているんです。
色々な職種の人たちなんですが、
もし今後、そういう方たちが
副業として養殖に携わってくれるといいな、
というのが僕の希望です。
IT系だったり、デザイナーだったり、
それぞれ本業を持ちながら、
副業として真珠の養殖に取り組んでいます。
そういう方たち3~4人でグループをつくって、
養殖を専業にした場合なら2~3人でできるだろう
生産量を確保できたら、というのが、
新しい養殖の形として、今、僕が考えていることです。
- 伊藤
- それはすごくいいですね。
山本さんも、以前は販売員だったと伺いました。
- 山本
- はい。
僕が新卒で就職したのはジュエリーの会社で、
最初の仕事が東京の百貨店の接客でした。
ちょうどリーマンショックの直後で、
就職状況も厳しいときだったので、
こちら(伊勢)へ帰って来たときのため、
真珠の仕事に役に立つ仕事を、と考えて。
- 伊藤
- ジュエリーの会社ということは、
真珠の専門店ではなかったんですね。
- 山本
- ええ。でも、それがよかったんです、
いろいろな種類のジュエリーを扱っていたので、
広い知識が身につきましたし、
接客も勉強させていただきました。
でも、やはり真珠がいちばんおもしろかったです。
- 伊藤
- わぁ! それは、どんなところが?
- 山本
- 真珠って、
百貨店でお客さまにおすすめしやすいんです。
まずお客さまがよくご存知ですから、
たとえばネックレスなら、
丸くてきれいな玉が揃っているものが質がいいと
すぐにわかっていただけます。
鑑別書(真珠の種類、色、輝きなどの検査結果を
記載した書類)を添えることで、
クオリティが高いことを数字でもお伝えできますし。
- 伊藤
- それはわかりやすいですね。
とくに百貨店に買いに来られる方は、
品質、安心感を求められる方が
多そうな気がします。
- 山本
- そうですね。
けれど、こちらに帰って来て思ったことは、
もっといいご紹介の方法があるんじゃないか、
ということでした。
真珠を、決まったデザインで、
数値化されたクオリティをもとにおすすめすると、
「数字がいいから、いいものだ」
という先入観が生まれてしまうことがあるんです。
ほんとうは、お客さま自身がきれいだと感じるものを
選んでいただくほうがいいと思うんですよ。
もちろん品質には自信がありますが、
最初にお客さまが感じたことを大切にしたい、って。
- 伊藤
- 伊勢に戻られて、
おすすめの仕方を変えられたんですね。
- 山本
- はい。ファーストインプレッションで
「あっ、きれい」と感じたものを選んでいただくのが
一番いいと思いました。
真珠についての数値的な情報は、
その次にお伝えしています。
鑑別書をご希望されるお客さまには、
ご購入いただいた後に、
鑑別機関に発行依頼をするようにしています。
- 伊藤
- 第一印象って、すごく大切ですよね。
じっさいのお客さまは、
やっぱり丸くてきれいな形のパールを
お求めになる方が多いですか。
- 山本
- 冠婚葬祭用としては、
きれいな丸いものがやはり人気ですね。
でも最近だと、
普段からつけられるアイテムとして、
バロックパール(不定形の真珠)が注目されてきていて、
「丸くない真珠も素敵」
と感じる方が増えてきたきたように思います。
- 伊藤
- それは、時代の変化でしょうか。
- 山本
- そうですね。
5~6年前からメンズパールが流行りはじめたのが
大きなきっかけだったと思います。
そこでバロックパールが注目されたんですよ。
まん丸だと女性らしい印象になるけれど、
ちょっといびつな形で、
ゴツゴツしたバロックパールなら、と、
男性に受け入れられたんです。
それが女性のお客さまにも浸透し、
今、うちでバロックパールを買われる方の7割は
女性のお客さまなんです。
- 伊藤
- うんうん。
わたしが「泛白(uhaku)」のイベントで
これをつくりたいなと思ったきっかけも、
丸いパールはすでにお持ちの方が多いから、
バロックの方が新鮮じゃないかなと思ったんです。
自由な感じがしますし、
新しくて、かわいいなって。
無理にデザインしようというのではなくて、
自然な形をそのままピアスにしたいなと思ったんです。
- 山本
- まさに「この自然な形が気に入ったから」
と買ってくだったり、
「丸型のパールは
母から受け継いで持っているから、
毎日気軽につけられるものがほしい」
とお求めになる方もおられます。
- 伊藤
- イベントのときも、お客さまがみなさん、
「自分だけの形」みたいな感覚で選ばれていて、
それがすごく楽しそうでした。
- 山本
- バロックパールには、
同じ形がありませんからね。
他の宝石は、採掘してきて、
それをカットしてつくるんですけど、
真珠は貝自体がつくったものがほぼ完成形ですから。
海からのおくりもの
去年は何度か三重を訪ねる機会がありました。
この土地の案内人は、
古くからの友人で陶芸家の内田鋼一さん。
彼の目を通しての、
三重がねぇ、
もうほんとうにいいんですよ。
場所や人、
おいしいもの、
それからやっぱり「もの」。
魅力的な出会いがたくさんで、
回を重ねるごとに、
この土地が好きになっていったのでした。
中でもぐっときたのは、
間崎島のアコヤ貝から採れる真珠。
養殖場に行き、
貝から真珠を取り出す作業をさせていただいたのですが、
それはなんともいえない
尊い(けして大げさではなく)経験でした。
ふだん何気なく身につけている真珠は、
海から作られているんだ。
わかっていたはずでしたが、
やっぱりじっさいに見るって、
すごいのです。
今週のweeksdaysは、
パールのピアス。
自然にできた形がなんとも愛おしい。
ふぞろいのパールをどうぞ。
20年のあいだに
- 伊藤
- 今も、「Fatima Morocco」の工房には
同じ職人さんがいらっしゃるんですか。
- 大原
- 変わってないです。
当時15歳だった子が、もう35歳になりました。
▲こちらがその職人さん。名前を「ミロドさん」といいます。
- 伊藤
- ずうっと付き合いがあるんですね。
20年経って、さらに腕が良くなったことでしょうね。
- 大原
- はい、生産のスピードも上がりましたよ。
- 伊藤
- いい関係ができてるんですね。
- 大原
- そうですね、お互いに年を取りましたけど!
- 伊藤
- バブーシュを作る職人さんと
カゴを作る職人さんは、
違う方なんですか。
- 大原
- まったく別の方なんです。
カゴはカゴで、バブーシュはバブーシュ、
それぞれ、家業なんですよ。
若い職人さんは、
お父さんの仕事を手伝って、一人前になるんです。
最初は型紙しか取らせてもらえなかった15歳の彼も、
今やほんとうに立派な職人になりました。
- 伊藤
- 20年ってそういう歳月ですものね。
その20年の間に、ちょっとずつ
アイテムを増やしたりも?
- 大原
- そうですね。バブーシュもデザインを増やしたり、
カゴは、その年の流行を取り入れたりしています。
絨毯や食器は、
ずっと同じようなものを買い付けていますけれど、
バブーシュとカゴは変化がありますね。
- 伊藤
- コロナ禍で、需要は変わりました?
- 大原
- 大きく変わりました。
それまでのトップセールスはカゴだったんですが、
コロナ禍になって、バブーシュが逆転しました。
外に行かないからでしょうね、カゴ需要が減り、
リモートワークでおうち時間が増えたことで、
バブーシュの人気が高くなりました。
いまはまた、カゴを求める方も
増えてきましたけれど。
- 伊藤
- そういえばパリの荒物屋で売られている
マルシェカゴはモロッコ製ですよね。
パリでは日常的に
ふつうのおじさんが持ってたりして、
可愛いなあと思うんです。
- 大原
- はい、全部、モロッコ製ですよ。
可愛いですよね、パリのおじさんたち!
- 伊藤
- みんな、無造作に、床や地面に置いたりして。
- 大原
- 現地でもそんな使い方をしてるんですよ。
ロバに乗っけて荷物を運んだりとか、
八百屋さんが野菜を売るとき、
ニンジンやタマネギを入れたり。
もう生活の必需品なんです。
- 伊藤
- 高温多湿のベトナムだと、湿気でカビちゃうから、
プラスチックテープのカゴが普及したといいますが、
モロッコは乾燥しているから
天然の素材が使えるんですね。
- 大原
- そうです。もう、本当に乾燥しています。
湿度が10%以下なんです。
そうだ、それでお伝えしなくちゃいけないんですが、
バブーシュに使っている羊の革、
モロッコは古いなめし方なので、
においがちょっと残るんです。
それでも、羊なので、山羊よりはずっと軽く、
そもそも乾燥したモロッコではいっさいにおわないんです。
ただ、日本の梅雨時など湿気が多い時に、
ちょっとだけ気になる場合があります。
その時は、必ず陰干しをしてくださいと伝えています。
そうすればにおいはなくなっていきますから。
- 伊藤
- そうなんですね。
バブーシュのお手入れですが、
拭いたりしてもいいんでしょうか。
- 大原
- 汚れたら、から拭きでお願いします。
洗ったり濡れぶきんで拭いたりなど、
水に濡らすことはしないでくださいね。
白は汚れやすいという印象があるかもしれませんが、
じつは、そんなに汚れないんですよ。
- 伊藤
- そうですよね、わたしも経験的に
汚れにくい素材だなと思っています。
このバブーシュ、初めてという方にも
ぜひ使っていただきたいですね。
- 大原
- はい、ぜひ。
バブーシュを1回履くと、
普通のスリッパには戻れないって、
皆さん、おっしゃいます。
- 伊藤
- そうかもしれないです。
大原さん、今日はありがとうございました。
- 大原
- こちらこそありがとうございました。
ちゃんとするんだったら、ちゃんとしなきゃ
- 伊藤
- 大原さんがモロッコに自社工房を持とうと思った、
ということは、
きっとその1年で、つくったバブーシュが
日本の市場で手応えがあったということですよね。
- 大原
- いえ、ぜんぜん売れていませんでしたよ。
- 伊藤
- えっ?!
- 大原
- それでも自社工房を持とうと踏み切ったのは、
「ちゃんとするんだったら、ちゃんとしなきゃダメ」
と思ったからなんです。
「こんなにたくさんオーダーがあるから工房を作ろうよ」
じゃなくて、
「ちゃんとしなかったら、
ちゃんとしたオーダーも来ないよ」と。
- 伊藤
- すごい!
それでも、日本できっと売れるという
確信があったわけですよね。
- 大原
- ありました。
バブーシュが受け入れられるはずだと思ったのは、
ライフスタイルっていうか、
家の中のことを整えるっていうことを、
まだ多くの人がやっていない時代だったから、
これから家の中で使うものに
伸びしろがあるはずだと思ったんです。
今から20年前のことですね。
- 伊藤
- 20年前というのは、世の中の流れとしても、
家の中に目が向いていった頃ですね。
そんなテーマの雑誌が創刊されたり。
- 大原
- はい。そして自分でも何となく
「家の中をちゃんとしたいな」って思ったんです。
好きでファッションという仕事をやって来たけれども、
「外に行くときは着飾ってるのに、
家に帰るとけっこうどうでもいい格好をしているよな、私」
という自覚もあり、
部屋着ひとつにしてもきちんとしよう、
スリッパもちゃんと履きたいなって思ったんですよ。
でもデパートの売り場へ行っても、
可愛いスリッパはない。
- 伊藤
- そうですよね。
- 大原
- でもセレクトショップに置かれている
素敵なカゴや洋服の横に、
こういう可愛いバブーシュがあったら、
そこに集まる感度の高い人が
買ってくれるんじゃないかな、
って考えたんです。
- 伊藤
- そういう卸し先も、ご自身で開拓を?
- 大原
- はい、営業の電話をしました。
ずっとアパレルにいたので、
先輩や同僚に紹介してもらったりもしましたが、
飛び込み営業もたくさんしました。
「持って行くので見てくれませんか」って。
- 伊藤
- 反応はいかがでしたか。
- 大原
- 最初は「ぜんぜんわかりません」と
断わられることのほうが多かったです。
- 伊藤
- でも、めげずに。
- 大原
- そうですね。
多店舗展開をしている
人気セレクトショップのバイヤーの方も、
最初は「良さはわかるけど、売れるのかなあ‥‥」
っていう反応でしたが、それでも
「ひとまず10足ずつ」というような発注をいただいて。
それが20足になって、50足になって、100足になって、
本当に1000足まで行くぐらい、徐々に、徐々に。
- 伊藤
- お客様の反応が良かったんですね。
家族やお客さま用に買い足される方もいそうです。
- 大原
- 1回履いてみると、履き心地がいいから、
そんなふうに思ってくださる方もいらっしゃると思います。
1年ぐらい履いたら買い換えの需要もありますし。
- 伊藤
- 確かに当時、いいスリッパは少なくて、
わたしもすごく探しましたよ。
バブーシュも、まだめずらしくって、
それこそ20年ぐらい前に出した本で紹介したら、
読者のみなさんから「こんなのがあるんですね!」
「初めて知りました」という反応をいただきました。
- 大原
- スリッパは廊下やトイレ、キッチンなど、
床が冷たい場所だけで履くもの、
という印象がありましたよね。
絨緞や畳の部屋ではスリッパを履きませんし、
ルームシューズという文化もなかった。
でも、こんなに可愛いのがあったら、
家に帰ったとき、ちょっと気持ちが上がる。
そういうものって、いいんじゃない? と思って。
- 伊藤
- バブーシュが出迎えてくれるわけですものね。
玄関でいちばん最初に目にするものですから。
- 大原
- そうなんです。
- 伊藤
- その当時、わたしが使っていたバブーシュは、
もうちょっと平べったくて、
底がふかふかしていなかったです。
でも「Fatima Morocco」のバブーシュは、
見た目もスリムでデザインが洗練されていますし、
クッションがきいていますよね。
- 大原
- うちのは、完全にオリジナルなんです。
おそらく伊藤さんが当時お求めになったのは、
モロッコの市場で売られていたものだと思います。
あれは確かに可愛いんですけど、ちょっと革が硬い。
なぜかというと、一般的なものは、
硬い山羊の革を使っていることが多いんですよ。
うちは、肌理こまやかで軟らかい羊の革を使っています。
底の厚みも、2.5倍ぐらいあるんですよ。
- 伊藤
- 2.5倍!
たしかに、一般的なバブーシュって、
歩くとペタペタと足音がしますよね。
底を厚くしたっていうのは、具体的にはどんなふうに?
- 大原
- クッションになるスポンジの量を増やしたんです。
そうすることでペタペタしなくなるだけじゃなく、
足をピタッと包んでくれます。
- 伊藤
- そっか、暖かさのひみつは、そこに。
- 大原
- はい、冬、暖かいんですよね。
けれども夏は涼しいんです。
内側も羊革で、呼吸してくれるから、
蒸れるっていうことが少ないんです。
- 伊藤
- 私、夏に、山の家でずっと履いていましたが、
「ぜんぜん暑くないし、気持ちいいな」って。
素足で履いてもいいですよね。
- 大原
- はい、革のバブーシュを素足で履くのって、
気持ちいいですよね。
一年中、履けますよ。
これ、右も左もないんですけど、
履いているうちに自分の足の形に沿って、
左右が決まっていくんです。
- 伊藤
- そういえば、そう。何となく決まりますね。
モロッコに惹かれて
- 伊藤
- 「weeksdays」のコンテンツ、
そしてテレビ(「世界はほしいモノにあふれてる」)や
書籍で大原さんをご存知のかたも
多いと思うんですけれど、
「はじめまして」の方もいらっしゃると思いますので、
あらためてお話を伺わせていただけたらと思います。
どうぞよろしくお願いします。
- 大原
- こちらこそどうぞよろしくお願いします。
- 伊藤
- 大原さんはモロッコの「雑貨」に魅せられ、
それをお仕事になさっているわけですが、
いまに至る経緯を教えていただけますか。
- 大原
- 20代のとき、
アダム・エ・ロペ(ADAM ET ROPÉ)という
アパレルのお店で働いていたんです。
そこでモロッコの製品に触れて、
「モロッコってどこなのかな?」と、
そんなところから気になったのが始まりです。
当時はまだインターネットも無い時代で、
モロッコの旅行ガイドブックにしても
そんなに厚くない本が出版されているくらい。
ほかに頼りになるのは地球儀か地図くらいでした。
それでも少しずつ知識ができるうちに
どんどん好きになっていったんです。
はじめてモロッコに行ったのは2000年、
36歳の時のことでしたから、
モロッコを好きになって約10年後にやっと行けました。
そこからもう夢中になって、
3年ぐらいは日本とモロッコを往復する日々でした。
そして40歳の時にバックパックを背負って
1か月かけてひとり旅をした時、
「モロッコのことを仕事にしよう」と思ったんです。
- 伊藤
- その時になさっていたお仕事は?
- 大原
- 会社を辞めてスタイリストをしていました。
その頃から「物を買って売ったりする仕事をしたいな」と、
漠然と思ってはいたんですが、
どうしたらいいのか、よくわかっておらず、
それが突然のように「あ、モロッコだ!」と繋がって、
41歳の時に「本格的に買い付けをしよう」と
あらためてモロッコに行ったんです。
- 伊藤
- スタイリストのお仕事は何歳から何歳ぐらいまで
なさっていたんですか。
- 大原
- 32歳から41歳ぐらいまでですね。
アパレルのお店を辞める時、
お客さまに芸能関係の方がいらして、
「辞めるなら手伝ってくれませんか」という感じで
お声がけをしてくださったんです。
それで軽い気持ちでスタイリングの手伝いを始め、
いつの間にか10年近く経ってしまって。
- 伊藤
- そうだったんですね。
「モロッコのことを仕事にしよう」ということは、
何度も訪ねるうちに、現地に頼れるお知り合いが
できていた、ということでしょうか。
- 大原
- いえ、それが、そんな仕事で組めるような知人は、
誰もいなかったんです。
それで、知り合いの知り合い、
というふうに伝手をたどって、
雑貨に詳しい方を紹介してもらい、
工房や産地に連れて行ってもらったんですが、
その人が紹介するものが、どうもピンと来なくて。
やっぱり自分の目で見て「いい!」と思ったものがいい。
なので、原点に戻って、市場などで見つけて
「これ、いいな」と思ったものを、
「これはどういうふうに作るんだろう」
「いったい誰が作っているんだろう」と
掘り下げていくことにしたんです。
1年間ぐらい、そんな試行錯誤に費やしました。
最初はスタイリストと兼業していたんですが、
それも辞めて、モロッコの雑貨に集中して。
- 伊藤
- 最初に買い付けたもの、覚えてらっしゃいますか。
- 大原
- いちばん最初はバブーシュ、そしてカゴでした。
- 伊藤
- 最初が、バブーシュ!
- 大原
- そうなんです。
けれども最初にいいと思ったバブ-シュは、
すごく可愛いんですけれど、
素材も品質も良くなかったんです。
「このままじゃ、日本では絶対売れない」と思いました。
それであらためて、高品質な物作りのできる
職人探しを始めたんですよ。
モロッコのメディナ(旧市街)の中には、
バブーシュのエリア、カゴのエリアとか、
つくるものでエリアが固まっているんですね。
そしてバブーシュのエリアの工房で、
まだ15歳ぐらいだけれど腕のいい、
お父さんと一緒にやっている若い職人さんを見つけ、
彼のいる工房に別注をしたんです。
- 伊藤
- そこで、オリジナルの物作りが始まったんですね。
- 大原
- はい。けれども、スムーズにいかないんですよ。
腕はいい。けれども、価値感や習慣、時間感覚の違いで、
約束の期日が過ぎてしまうんです。
たまに日本から行って
「できましたか」と言ってもだめなんですよ。
まめにやりとりをしないと進まない。
それで、現地に住んでいる日本の女性を探して、
手伝ってもらうことにしたんです。
- 伊藤
- 時々、様子を見に行ってもらったり、
急かしたり?
- 大原
- そうです、そうです、まさしく「急かしたり」です。
私が2カ月に1回、モロッコに通っていたので、
その時「こういうのを作って」とお願いして、
私が日本にいる間は、モロッコに住む彼女が
生産管理をするというスタイルにしました。
それを1年ぐらいやってから
「自分たちの工房を作ればいいんじゃない?」
って思ったんです。
それで、その職人さんたちに来てもらって
立ち上げたのが、今も続いている
「Fatima Morocco」の工房です。
春に向けて
いつだったか、
近所の友人宅に、
おかずを届けに行った時のこと。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、
「はーい」と玄関のすぐ向こうからの声。
引き戸をがらりと開けると、
せっせとバブーシュの裏側を拭いている友人がいました。
「さっきまでお客さんが来ていたからね」
4足かそれとも5足分だったか。
そうか、すぐにしまわずに、
さっと乾拭きをして、
ちょっと置いてから元に戻すんだ。
いつもこざっぱりときれいな理由は、
そんなところにあったんだ。
古い一軒家に住む友人は、
バブーシュのみならず、
台所も洗面所もお風呂場も、
彼女ならではの暮らしの工夫が散りばめられていて、
行くたびに、なるほど、とか、
こうすればいいんだ!なんて発見があったのでした。
今週のweeksdaysは、
ファティマ モロッコのバブーシュ。
春に向けて、
すてきな色をそろえましたよ。
杉工場のベッドフレーム わたしの使い方 02 おさだゆかり
おさだゆかりさんのプロフィール
北欧雑貨店「SPOONFUL」店主。
2005年に「SPOONFUL」を立ち上げ、
現在はオンラインショップと予約制の実店舗を運営しつつ、
全国各地でイベント販売を行う。
毎年6月には「北欧雑貨をめぐる旅」と題した
北欧ツアーを開催し、現地を案内している。
著書に『北欧雑貨をめぐる旅』(産業編集センター)、
『北欧スウェーデンの旅手帖―雑貨がつなぐ街めぐり』
『北欧雑貨手帖』(アノニマ・スタジオ)、
『わたしの住まいのつくりかた
北欧風リノベーションとインテリア』(主婦と生活社)、
『わたしの北欧案内 ストックホルムとヘルシンキ』
『北欧 ヴィンテージ雑貨を探す旅』
(産業編集センター)などがある。
昨年の5月に自宅を改装しました。
今の集合住宅に住み始めてから14年経ち、
一時は引っ越しも考えましたが、
ここに住み続けると決め、
仕事場兼住居のこの空間を
もっと快適にするために、
14年ぶりに2回目の改装をすることにしました。
改装のテーマはいくつかありました。
ワークルームとリビングの収納スペースの見直しや
ユニットバスの入れ替え、
そしてベッドルームを改装することも
テーマのひとつでした。
それまでずっとシングルベッドで、
セミダブルに変えたかったのですが、
クローゼットの扉との兼ね合いで
セミダブルは置けなかったのです。
そこでリビングに大きなクローゼットを
新たに設けることにして、
ベッドルームはベッドと
本棚だけの空間にすることにしました。
ベッドの買い替えは
人生の内でそう何度もあることではなく、
今回は一生使えるものにしようと決めました。
一生ものを手に入れるタイミングはなかなか難しいですが、
年齢との兼ね合いが一番大きくなると思います。
人生の1/3は眠りという言葉をよく耳にしますが、
ベッドこそ妥協しないで選びたいですし、
本当にいいものと出会いたいものです。
平均寿命まで生きると仮定するとあと30年、
意外とあっという間に過ぎる年月かもしれません。
しかも若い内の30年ではなく、終わりに向かう30年は、
年を追うごとに身体の不調が出てくることは想像できます。
だからと言って年齢を重ねることを
マイナスにばかり捉えず、
そうなった時のために快適に過ごせるように
備えておくのがいいのではと最近は考えています。
軽井沢のお家の改装をしていた
伊藤まさこさんと食事をしている時に、
寝室を作り変えていて、
きちんとした作りのベッドを探していると話しました。
するといいベッドフレームがあるのよ、
と教えてくれたのが杉工場のベッドフレームでした。
低めのつくりは空間が広く感じ
(でも掃除機はちゃんと入るのも
うれしいポイントでした)、
ヘッドボードがないため、
ベッドとして主張しないところがとてもよいのです。
ベッドのフレームはナラ、
スノコにはヒノキが使われていて、
わが家のヘリンボンの床ときっと合うだろうな、
と想像していましたが、
実際に置かれてみるとその相性は抜群でした。
14年前に一回目の改装で一番のポイントだったのは、
床を無垢のヘリンボンにすることでした。
長い年月をかけて経年変化が楽しめるのは
無垢の木の最大の魅力です。
マットレスが納品されるまでの間、
ベッドフレームとヘリンボンの床の
美しい組み合わせを毎日眺めてはうっとりしていました。
同時に探していたマットレスと敷きパッドは
京都の寝具メーカーのものにして、
ベッドリネンはデンマークのTEKLAのストライプや
marimekkoのロッキという柄を使っています。
今まで寝具は白無地でしたが、
目先を変えて、シンプルな柄や色使いのベッドリネンで
変化をつけています。
ベッドルームを心地よい空間にしながら、
よりよい睡眠の時間を心がけています。
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