「weeksdays」の対談としては、
ちょっとめずらしいかたの登場です。
Panasonicでデザイン担当の執行役員をつとめる
臼井重雄(うすい・しげお)さん。
雑誌の取材がご縁で知りあった伊藤さんいわく、
「こんなに大きな会社の偉い人なのに、すごーく面白い!」
という、興味ひかれる人物だったんです。
その臼井さんが京都のオフィスで
「weeksdays」のHalf Round Tableを
使ってくださっていると知り、
「ぜひ見にいかせてください」とお邪魔してきました。
四条という京都の町の中心にあるオフィスの、
陽のさんさんとさしこむ臼井さんの部屋で、
臼井さんの専門である家電のデザインの話から。
じぶんのためのインプットのこと、
みんなのためのアウトプットのこと、
人を育てるということ、そして経営のこと。
話は、いろんな方向へひろがっていきましたよ。

写真=梅戸繭子

臼井重雄さんのプロフィール

臼井重雄 うすい・しげお

1990年松下電器産業(現パナソニック)に入社。
AV機器や、テレビ、洗濯機など家電のデザインを担当。
2002年より、アジア向けの家電のデザインを担当。
2007年に上海のデザインセンターを立ち上げ、
現地発のデザインを生み出す組織へと成長させる。
2018年、京都に「Panasonic Design Kyoto」を設立、
2019年デザイン本部長に、
2021年執行役員に就任。

04
引き算をしよう

臼井
僕が1990年にプロダクトデザイナーになったとき、
デザインは技術の視覚化でした。
中に入ってる技術をいかにお客さんに伝えるかみたいな。
だからいい音のものだったら
いい音が出ることを強調したデザインのラジカセを作った。
音を誇張する、みたいな感じですね。
でも僕が日本に戻って来た2016年、
みんなに言ったのは「引き算をしよう」ということでした。
電子レンジに何百個のメニューがあっても、
使ってない機能があったらお客さんは使いづらい。
じゃあいらないものを省いてって
ほんとにプリミティブなものを作った方が
いいんじゃないの、って。
伊藤さんの軽井沢のおうちなんて
もうまさに引き算の家みたいな感じじゃないですか。
無駄なものがいっさいない。
「え、ドアもないの?」みたいな。
巾木すらない、カーテンもいらない、
「え、バスタブ? いらないでしょ」って。
あれはもうすごく伊藤さんならではの
「行き切った」感じだけれども、
僕たちもそれに近いものっていうか、
引き算をしようよ、と。
でも引くのって、すごく難しいんですよ。
ことに、会社の中でやるのは。
足すより引くのが難しい。
伊藤
そうですよね。
私「ほぼ日」では引き算担当。

カーテンも巾木もいらない。ダイニングテーブルもなし。(撮影=有賀傑)
臼井
それ、すごく大事ですよ。
お客さん側から見たときに。
伊藤
「これ欲しいけど、ここにロゴやタグがなければいいのに」
っていうのありません?
臼井
あります、あります。
伊藤
そういうもやもやを一気に解消してるのが
私たちのお店です。
臼井
うん、うん。
そうだ、これ伊藤さんに紹介しましたっけ。
伊藤
あら、これ、開化堂さんの茶筒?
臼井
そうそう、でもね、蓋を開けると‥‥。
伊藤
あれ? あっ!
臼井
これ家電なんですよ。
伊藤
えっ! スピーカー?
臼井
蓋の開閉がオン・オフで、
こうして蓋をすると音楽が止まるんですよ。
伊藤
商品ですか。そんなの作ってるんですか。
臼井
これね、ミラノ・サローネ(国際家具見本市)に
出るっていうときに作って、賞をもらったんです。
実際に生産もしたんですよ
1個30万円で100個限定で作り、一瞬で売り切れました。
会社の中では
「こんな30万円のBluetoothスピーカーなんて
誰が買うねん」みたいな話になってたらいまわしになって、
それでもなんとか。

ミラノ・サローネで受賞したときのトロフィー(木馬型)。
伊藤
まさしく京都をベースになさっているから
できたものっていう感じがしますよね。
臼井
Kyoto KADEN Lab.(京都家電ラボ)
というプロジェクトで、
ほかにも京都的な家電のプロトタイプがあるんです。
水道の水のように、
豊富に物をつくれば人々の暮らしが豊かになる、
それがこれまでのPanasonicだったけれど、
今はそれをやる会社がたくさん出てきてる。
日本の家電メーカーもどんどんなくなってきている。
じゃあ今のPanasonicは何をやるのっていうと、
こういうことをやらないと生き残れないんじゃないか。
それでプロトタイプを作っているんですよね。
伊藤
私たちが知ってるPanasonic製品、
冷蔵庫とかドライヤーとか
家の電気基盤みたいな「必要なもの」のほかに、
こういうこともなさっていこうと。
臼井
そうですね、はい。
より文化的な側面、日本らしさを入れ込んで、
もう1段階ステップアップしたいなと。
バランスが難しいんですけれどね。
やりすぎるとトゥーマッチになっちゃうから。
でもこういうプリミティブなものを試行錯誤中です。
まだ、答えはないんですけど。
伊藤
私が臼井さんに提案してるのは、
おうち1軒まるごと、なんです。
リノベーションして、
さりげなくPanasonicのものがあるっていう。
「あ、冷蔵庫がこういうふうに置かれてるんだ。
こういうふうに食洗器って使えばいいんだ」
みたいな自然光が入る一戸建てのショールーム。
そういうのがあったらいいんじゃないかなあと思って。
‥‥って勝手に言ってるんですけど。
臼井
でも京都だったらあるかもしれないですね。
町家の再生プロジェクトと一緒にやるとか。
中国では家の中を丸ごとPanasonicでリノベして
老人ホームや住宅をやったりしてるんですよ。
伊藤
壁の色と家電を揃えるとか、
そういうのもいいかもしれないですね。
臼井
そうですね。確かに。
伊藤
そういえば移動できるテレビも驚きましたよ。
臼井
そういう、僕たちの既成概念を
壊していくことはできると思うんですよね。
伊藤さんの軽井沢の家を拝見してから
ずっと家のことを考えているんですよ。
たとえばコンセントって隠せないのかな、とか。

暮らしをどこまで引き算できるか?と考えながら作った軽井沢の山荘。コンセントもなければないでどうにかなる。ただ「ちょっと不便くらいがいい」と思えるのは、別荘だからなのかも?(撮影=有賀傑)
伊藤
深澤直人さんのアトリエでは、
壁のむこうに空調機器があって、
天井近くのスリットから温冷風が流れ、
床近くのスリットでは吸気をするしくみになっていて、
いつも風がめぐって常に快適な温度と湿度でした。
それもデザインですよね。
臼井
うちの空調チームが、今まさに、
そういうことをやってますよ。
東京の⽇本橋に実験施設をつくって、
時にはお客様と共創しながら
デザイン起点でのソリューション開発を推進しています。
今、エアコンってすごく飛び出してるんですよね。
省エネをしようと思うとどうしても
奥行が必要になるんですよ。
伊藤
軽井沢は、もともと夏でも
空調機器がいらなかった地域なんですけれど、
だんだんいるようになってきて、
うちのところもおそらく5年先には暑くなるから、
先につけちゃいましょうって。
だから天井に埋め込みました。
家を作るときって、家具の配置を考えがちだけれど、
それよりも電気の配線をどうするかとか、
そういうのをきれいにすることを
すごく考えましたね。
臼井
順番からいうとそうですよね。
伊藤
とはいえ、かんたんには作れないですものね、家。
私の東京の住まいも賃貸ですし。
‥‥Half Round Tableの話に戻りますが、
スペースや見た目だけじゃなくて、
角がないことで近くを歩くときの動線が
とてもスムーズになるんです。
臼井
いま置いている入口脇も、絶対そうですよね。
四角だったら当たっちゃう。
伊藤
これで半円がすごくいいなと思って
薪ストーブも半円形でつくってもらったんです。
臼井
あれ、いいですよね。
伊藤
はい。そしたら職人さんがやってみましょうって言って。
結果、やっぱり動線がうまくいって。
臼井さん、家電にも半円はいかがですか。

形や色合いは、Half Round Tableを意識してデザイン。結果、同じ空間にあってもすっきり。(撮影=有賀傑)
臼井
半円家電! あはは。
伊藤
そう、半円家電。
臼井
天井の角に取り付けるコーナーエアコンっていうのを
昔やってたんですけどね。
コーナーに置くと風が部屋中に拡がる、っていうので。
伊藤
あら、それ、やってないんですか、今。
臼井
今はやってないんです。
(つづきます)
2025-12-09-TUE