「weeksdays」の、
ことしのゴールデンウィークのスペシャルコンテンツは、
土切敬子さんと伊藤まさこさんの対談です。
取材の帰りに偶然のように訪ね、
ちいさな「琺瑯ライスカップ」を買ったのがきっかけで、
すっかり「だいどこ道具ツチキリ」の
ファンになった伊藤さん。
店主である土切敬子さんに、
お店のこと、暮らしのこと、生活道具のことを
たくさんお聞きしました。
さらには、来し方行く末のことまで、
話題がひろがりましたよ。
全7回、たっぷりおとどけします。

撮影=有賀傑

土切敬子さんのプロフィール

土切敬子 つちきり・けいこ

武蔵野美術大学大学院修了後、
テキスタイルデザイナーとして大手布団メーカーに勤務。
吉祥寺にあった紅茶専門店(メーカー)で
アートディレクターを務めたあと
2017年、自宅の一部を改装し
「だいどこ道具 ツチキリ」を開く。
自分で実際に使ってよかったもの、
気に入ったもののみを取り扱う。
店と続きになっている自宅のキッチンでは
使い方の提案をすることも。
著書に『おしゃべりな台所道具
~話し出すととまらなくなる、道具のおいしい話~』

がある。
「KITCHEN TOOL WONDERLAND 
だいどこ道具ツチキリ ほぼ日支店」
も好評。

だいどこ道具ツチキリ
181-0001 東京都三鷹市井の頭5丁目2-28
OPEN 11:00~18:00(火・水・木 定休)
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01
お店をつくる前のこと

伊藤
土切さん、今日はありがとうございます。
とても忙しく過ごされているとききました。
今、いろいろなことをなさっていますよね、
今、おじゃましている「だいどこ道具ツチキリ」のほかに
ネットではほぼ日支店もあるし、近くにあたらしいお店の
「おちゃ道具ツチキリ」を昨年11月に開業なさって。
土切
そうなんです。ところがあたらしいお店のこと、
当初、簡単に考えすぎていたんです。
そちらでは、道具の作家さんにも
展示をしていただきたいと計画をしていたんですけれど、
依頼したら1年後ぐらいには開催できるかな? 
と思っていたら、人気のかたは2年、3年先まで
予定が埋まっているんですね。
伊藤
そうなんですよね。
土切
それをちょっと甘く見ていたんです。
だから「スケジュールをどうしよう?」と。
伊藤
では、軌道に乗るまではここの支店として?
土切
はい、活用方法を考えなくちゃなりません。
あと、実感したのは、
みなさんにお知らせすることの難しさでした。
ここ(だいどこ道具ツチキリ)を
ようやく広く認知してもらえるようになって、
お客さまが来てくださるようになったからといって、
あたらしいお店のことまではなかなか伝わらないんですね。
伊藤
そうなんですね。
今は、あたらしいお店と、ここを、
行ったり来たり?
土切
向こうは信頼している方に任せているので、
週一、木曜日だけ在店します。
基本はここにいますよ。
伊藤
ここのオープンはいつでしたっけ。
土切
8年前ですね。もう9年目になります。
伊藤
あたらしいお店を出したきっかけは何だったんですか。
土切
ここが安定してきて、
ちょっと飽きちゃったな、っていうか
商品も増え過ぎてしまって
お茶まわりと台所のものを分けたいな、と
思っていた時、
ちょうどいいご縁があったのを機会に出したんです。
伊藤
あたらしいお店はお茶まわりの道具のお店ですよね。
作家ものも含めて。
土切
はい、コーヒー、日本茶、紅茶、中国茶など
のみものまわりの道具と、
こちらには器ものがほとんどないので、
器が販売できればと思って始めたんです。
茶葉も置いていますよ。
伊藤
土切さんって、
もともとデザイナーだったんですよね。
それが、こういうご商売を立ち上げたのは、
どんなきっかけがあったんですか。
土切
はい、お布団やタオルの会社で
テキスタイルデザインをしていました。
それから、小さな紅茶の店に在籍して。
そこでもデザイナーでしたが、
小さな店ですから、
商品を仕入れて売るという流れにもふれて、
もしかしたら自分でもこういうことが
できるんじゃないのかなって。
伊藤
紅茶メーカーには何年?
土切
5年ぐらいです。
その時は、なんとなくという感じで
流通のことがわかったつもりでしたが、
今思うと、もっとそのときに
卸のこととかを、
しっかり勉強しておけばよかったなと思います。
その前は会社が大きくて分業していたから
まったくわからなかったんです。
伊藤
なるほど。
土切
それでデザインとは全然違うことだけれど、
昔から好きなものを自分で仕入れて
売ってみようかな、と思ったんですよ。
伊藤
きっと、料理が好き、
ということが始まりですよね。
土切
そうですね。料理からですね。
そして、出た学部が美大のプロダクトだったので、
いろんな素材を一応は勉強して、
その頃からモノを見ることは好きでした。
伊藤
その「モノ」は使えるものですか。
土切
そうですね。使えるものですね。
でも、学生の時は、
ファインアートをやっていたんですよ。
なんだか違うなあ、と思いながら‥‥。
その時代は、美大で学ぶならば、
アートの方に行かなきゃだめだっていう、
流れみたいなものがあったんです。
ついた先生の考えに影響されてしまうんですよね。
でもだんだんと、とくに社会に出てから、
自分にはアートは向いていないというか、
そっちの方じゃなかったってわかりました。
伊藤
大学のときに持っていた違和感が、
社会に出てはっきりしたんですね。
土切
そう。学生の頃なんて、
「デザインなんかしません」とか、言っちゃって! 
もう(笑)。
伊藤
わかります! 
私も学校では洋服のデザインを専攻していたのですが、
アシンメトリーだったり
凝ったデザインがいい点をもらえる。
でもわたしはふつうに着る服が
つくりたいって思っていました。
だからデザイン科では全然だめな学生でした。
土切
なるほど。ほんとそうですよね、
学校って、奇抜なことをしないとだめ、
みたいなところがありましたよね。
伊藤
わたしが卒業後にアパレルに行かなかったのは、
そういうところもあったのかも。
でも普通のものにも必ずデザインがあるわけで。
土切
私はそのまま院に行って、
先生にはファインアートに進めと言われ、
個展を開いたりもしてたんです。
伊藤
院にまで行かれて? 
道のりが長かったんですね。
土切
はい。ところが院の2年が終わったら、
「そのまま創作活動に進むのは、なんだか違う」
と思って、デザインの仕事をしようと、就職したんです。
それでインテリアの生地をつくるようになりました。
院に行くときはデザインなんかしたくありません、
なんて言っていたのにね。
伊藤
でも、きっと今、デザイナーの経験が
ちゃんと活かされていますよね。
土切
そうなんですよ。ほんと、そうなんです。
伊藤
そのあとに、紅茶メーカーのお手伝いを?
土切
はい、そうなんですけれど、
最初の会社にいたのは6、7年で、
そのあとに子育てになって、
10年間ぐらい、仕事をしていなかったんですよ。
伊藤
その時期があったんですね。
土切
ちょうど伊藤さんがたくさん
本を出されていた頃ですよ。
私、読んでいました。
伊藤
ありがとうございます。
20年ぐらい前のことですね。
土切
伊藤さんとは子どもが同い年なので、
『こはるのふく』(伊藤さんの著書。こども服の本)を
参考にしたりして、暮らしていました。
伊藤
じゃあその10年間は完全に子育てを?
土切
そうなんです。37歳で産んでいるから、
子育てを楽しもうと思って。
そして子どもが小学校の高学年になったら、
同級生の親が紅茶店のオーナーで、
私も発送の手伝いくらいだったらできるかも、と。
伊藤
ほんとにアルバイト的に。
土切
発送を担当したら、包むのがけっこう楽しくて。
そのうち、私はもっと他に
お役に立てることがあるかも、と、
グラフィックデザインを担当するようになり、
そこから5年くらい続けました。
(つづきます)
2025-05-02-FRI