
昨年、一昨年とたいへん好評いただいたので、
ことしもやります、年末年始の恒例企画、
「私のほぼ日プレイリスト」。
ほぼ日刊イトイ新聞の膨大なアーカイブの中から、
「音楽のプレイリスト」をつくるみたいに、
おすすめコンテンツを選んでしまうこの企画、
今回の選者は、ほぼ日刊イトイ新聞の読みものを
編集している、10人の書き手の乗組員です。
ということで、3年目のテーマは「自薦」!!
24年のほぼ日ヒストリーの中から、自ら担当した、
とっておきのコンテンツをたっぷりご紹介します。
12/26(月)から1/5(木)まで11日間の毎日更新。
この年末年始に、どうぞおたのしみください。
たまに読み返すインタビュー。その1
こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
ぼくはインタビューをつくるのが主な仕事で、
そのため数が多めということで、
今日と明日の2日間にわけて、
ご紹介させていただくことになりました。
まず1日めです。テーマはとくにありません。
自分の担当記事は、
基本、自分で企画を立てて取材しているので、
どれも思い入れがあるのですが、
そのなかでも、
たまに読み返すものからいくつか選びました。
ちなみに、
『レ・ロマネスクTOBIのひどい目』からは、
ひとつも選んでません。
選びきれませんでした。
あれは自分で読み返していても最高で、
シリーズ全体として
TOBIさんという人をあらわしているような、
そんなインタビューなので。
ともあれ、それでは、ご紹介していきますね。
この年末年始、
ゆっくり読んでいただけけたらうれしいです。
俳優、作家、映画監督、漫画家など
物語に関わっている人にインタビューするとき、
ときどき聞いている質問があります。
「なぜ、人間には物語が必要だと思いますか?」
というものです。
あいまいな質問でありながら、
本質的な答えが返ってくることも多いので、
ふだんは、あるていど、場があたたまってから
「あいまいな質問なんですけど」とことわって
聞くようにしてるんですが、
このときの池松さんのインタビューでは
実質50分くらいしか時間がなかった。
なので、冒頭で聞いてみたんです。いきなり。
そしたら、あの答えが返ってきました。
こちらが質問を言い終わるか終わらないかの、
いわゆる「食い気味」な感じで。
パッカーーーンと、
初球をホームラン打たれたような感じでした。
いやあ、びっくりした。し、気持ちよかった。
梅佳代さんに撮ってもらった写真もいいです。
根本さんのうみだす「どうぶつ」たちは、
はるか昔に絶滅した生き物のようにも、
形を変えた神さまのようにも見えます。
どっちにしても、生の兆しと言いますか、
ふしぎな「生命感」があるんです。
あるときに、写真家の田附勝さんが
「俺は会ったことないんだけど、
なんだかおもしろいものをつくってる人が
福島にいるからインタビューしてきなよ。
うみだしてるって言うより、
排泄してるって感じで、すごくいいからさ」
と、根本さんのことを教えてくれたんです。
表現は独特なんですが、その言葉に、
自分の中で
「ウソをつかない人ナンバーワン」である
田附さんの敬意と本気を感じて、
お話を聞きに行ってきたという次第です。
ものの本質とは
見えないもののなかにあるんじゃないか、
と根本さんは言います。
本質。興味深い話です。
自分は、
その人がやっていることの「本質」に
少しでもふれてみたくて、
毎回こうして、人見知り気味のために
いちいち気を重くしながら、
インタビューに挑戦しているのかなあと
思ったりしています。
そういえば根本さん、
何年か後に岡本敏子賞を受賞されてました。
昔から、哺乳類の分類のひとつである
「鯨偶蹄目」のことが気になってたんです。
漢字からすると、
クジラのグーテーモクってことですけど、
そこには、クジラだけじゃなく、
カバやキリンやオカピなんかもいるんです。
えっ、クジラとカバって同じ仲間なのかと、
なんだか不思議で、
でも、本格的に調べようとはしなかった。
この取材で、田島木綿子先生から、
「クジラは、昔、カバとわかれた」ことを
あらためて教えてもらって、
生物の進化のおもしろさを知りました。
川田伸一郎先生からも
「モグラの目は、進化の結果、退化した」
など、興味深いお話をたっぷりと。
生物の進化って、ぼくら人間からすると
本当に不思議でおもしろいけど、
本人たちにしたら当たり前なんですよね。
日本におけるゴッホ研究の第一人者である
大坂大学の国府寺司(こうでら・つかさ)先生は、
倉敷の大原美術館で見た
ゴッホの《アルピーユの道》にいたく感動し、
ゴッホ研究を志したそうなんです。
が。
のちに、その絵が贋作だったことがわかった、と。
その話を聞いたとき、
本物ってなんだ、偽物ってなんだ、
人生を左右してしまうほどの宝物をくれたのなら、
その偽物は、ある意味本物なんじゃないか‥‥と、
いろんなことが頭に浮かんで、
先生に話を聞いてこようと決めました。
贋作というのは、人を騙して何百万、何千万円、
へたしたら何億円もせしめようとするもの。
へんな言い方ですが、
「本物ソックリに描きましたんで10万円です」
という「複製画」にはない、
「見る人の心を虜にしちゃう魅力」とか「念」が
宿っていたりするんでしょうね。
博覧強記の荒俣宏先生に
「とっておきの奇書を見せてください」とお願いして
取材現場へ向かったのですが‥‥。
開口いちばん先生は
「今日、わたしは『愛書家』としてここへきました。
ですので愛書家の話をします」
と、おっしゃったのです。
企画が現場でまったくちがうものになり、
表面上は平静を装いながらも、
えっ、センセイ奇書は‥‥と思ったのですが、
結果として、
とんでもなくおもしろい取材になりました。
昔のヨーロッパの本気で大金持ちの貴族が
自分のためだけに1冊だけ、
それも活字からつくらせた豪華本の逸話なんかもう。
巨大な本も、あまりに巨大すぎたなあ。
これ、遠近法とかじゃないんです。真実の写真です。
秋田県の上小阿仁地区で、
たったひとりで活版印刷の新聞を発行していた
加藤さん。
取材も原稿も紙面割付も活字拾いもぜんぶひとり。
なかでもすごいのはやっぱり印刷の工程で
「活字を拾うのに3日、印刷に1日、
拾った活字を棚に戻すのに、また3日」かかると。
それで「週に1回」が精一杯なんです、と。
加藤さんのお宅にはお電話がなくて、
連絡を取りたいときは、お手紙か、
ご近所のかたに取りついでもらっていたのですが、
何年か前、久々にご連絡したら、
すこし前にお亡くなりになったとうかがいました。
あの印刷工場、いまどうなってるんだろう。
インタビューの最後で加藤さん、言ってるんです。
「いまある活字がすり減って
ダメになるのと同時に、俺の命も終わるよ」って。
加藤さんの活字も、長いお役目を終えたのかな。
もういちど、加藤さんとお話したかったです。
巴山くんは、わりと昔からの知り合いですが、
ふだんから連絡をとってるわけじゃなく、
SNSでつながってはいるけど
おたがいに「いいね」とかはしないくらいの、
うすーいつながりだったのです。
一度か二度、飲み屋で飲んだことがあるかな、
くらいの間柄でした。
そんな巴山くんが、あるとき、
Facebookに
「9ヶ月水をやり続けていたソテツの種から
やっと芽が出てきた」という、
おかしな投稿をしていたのが妙に気になって、
話を聞きに行ったんですよ。
あんな結末が待ちうけているとは知らずに。
巴山くんって、巻き込まれ型人生っていうか、
何かを引き寄せちゃうタイプっていうか、
「ひどい目」にばかり遭っていたころの
レ・ロマネスクのTOBIさんに
匹敵するくらいの「素質」があるんです。
いまは、また、ぜんぜん会わなくなったなあ。
元気にしてるかな、巴山くん。
ほぼ日の「小ネタ劇場」って、
まあ、基本的にはおもしろいっていうか、
バカバカしいっていうか、
くすっと笑える、
ほっこり(?)投稿が多く集まるんですが。
あるときに、
まったく異質な投稿が届いたんです。
掲載していいものか、一瞬躊躇するほどの。
でも、いざ掲載してみたら、すごい反響で。
個人的にも、あまりに心に残ったんで、
投稿者のNさんご夫妻に
より詳しい話をおうかがいしてきたんです。
そこで聞いたふたりの高校時代のお話って、
ある意味でありふれた、
よくある青春の1ページかもしれないけど、
どうしてこんなに、グッと来るんだろう。
いまだに、なんでだかわかりません。
かつて飯倉片町の交差点に、
すごい味のある洋館が建っていたんです。
インターナショナルクリニックという
個人経営のお医者さんで、
エフゲニー・アクショーノフ院長が
在日外国人の患者さんを診ていたんです。
先生は、戦争など歴史に翻弄された結果、
国籍を持っていませんでした。
そういうご自身の身の上のこともあって、
日本で不自由な暮らしをしている
外国人の面倒をみていたということです。
お金がない人からは、診療代を
「生サバ」で支払われたりしながら‥‥。
先生が亡くなり
クリニックの建物をひきはらう直前に、
ずっと先生とはたらいてきた
看護師の山本ルミさんに、取材しました。
あの建物は、もう、影も形もありません。
でも、記憶の中の飯倉片町の交差点には、
いまも、
すべてを悟ったような感じで建ってます。
自分は中学くらいから長渕剛さんのファンで、
大学のときには、
長渕さんのファンサークルに入っていたほど。
だいたい、えてして、
ぼくらみたいな熱心なファンというものは、
「ソックリさん」や「偽物」に対しては
一般人より厳しい眼差しを向けてしまうもの。
自分も、そんなところがありました。
でも、Takuyaさんの歌を初めて耳にしたとき、
自分でも不思議だったんですが、
めちゃくちゃ「感動」してしまったんです。
むしろ、ハスに構えてたんですよ?
ライブの前は。
なのに。
目の前でTakuyaさんが歌いはじめた瞬間に、
心を持っていかれてしまったんです。
たしかに「似てる」んです。とんでもなく。
でも、似ているだけでこんなに感動するって、
そんなこと、あるんだろうか?
そこでご本人にインタビューしてきたんです。
「どうして俺は、あなたという
長渕剛の『偽物』に感動したのか?」‥‥と。
ヒロトだ! 目の前にヒロトがいる!
あえての「呼び捨て」で申し訳ございません。
でも、ずっとそんな気持ちでした。
ソックリさんじゃなくて、本物のヒロトです。
「バンド論。」という特集のアンカーとして
ダメ元でオファーをしたんです。
そしたら、なんと、出てくださったのです。
ぼくなんかより熱心なファンのみなさんには、
有名な話ばかりかもしれません。
でも、ロックンロールとは、ブルーズとは、
マーシーとは‥‥バンドとは。
目の前で、ヒロトが、話してくれている!
コロナ禍がはじまったばかりのときだったか、
クロマニヨンズのライブに行ったんです。
マスク着用で、発声も禁止でした。
アンコールの「エイトビート」のときかな、
客席の後ろの方からステージへ向かって、
ダーッと全力で走ってくる人がいたんです。
その人、ステージの直前で
5人がかりくらいのスタッフさんに
全力で止められていました。
褒められた行為ではまったくないんですが、
その人の気持ちを想像したら、
なんだか心が震えました。
爆音でもちろん聞こえなかったけど、
「ヒロトー!」って叫んでいたにちがいない。
このときの自分も、あんな感じだったと思う。
インタビューのあいだじゅう、
心のなかで「ヒロトー!」と叫び続けていた、
ような、
夢のような「51分54秒」でした。
(つづきます)
2022-12-29-THU
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イラスト&タイトル:あーちん
あーちん
2002年生まれ。9歳のとき、お母さんのすすめで
「ほぼ日マンガ大賞2012」にエントリーし、
約1000通の応募のなかから見事入選。
小学生漫画家として、『くまお』の連載をスタート。
初の単行本『くまお はじまりの本』を出版。
2年半の連載の後、小学校卒業をきっかけに、
『くまお』は246回で終了。
続く、中学時代は、好きなたべものを描く
『たべびと』を連載。
終了までに144品のたべものを描きあげた。
現在、日本の北のほうで、大学生活エンジョイ中の20歳。