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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。
フジテレビの三宅さんと、日本テレビの土屋さん。
それぞれのテレビ局の、
バラエティ番組を代表するようなテレビマンと
「おもしろさ」を軸にして話してみたかったんです。
ぼくは、テレビはとてもおもしろかったし、
テレビはまだまだこれからもおもしろいと思いたいから。
話しているうちに、ずいぶん「笑い」とは遠そうな言葉が、
見えてきたのでした。
「志」だとか、「魂」だとか、そういう言葉が。

共通の師匠・萩本欽一さんから教わった
演出法の話題を皮切りに、
「企画づくり」「番組づくり」を真正面から考える鼎談!
「企画が思いつかない」と嘆く人の顔も明るくなるような、
勇気の湧いてくる仕事論を、まるごとおとどけします。
現役ディレクターの間で「虎の巻」のように流通するかも?
大好評だった企画が、再び、パワーアップして戻ってきた!


1. 遊びと仕事の境界線はありません

フジテレビの三宅恵介さんの仕事を、糸井重里は、

「三宅さんが関わった仕事のなかで
 いちばん感心しているのは『さんま大先生』です。
 あの番組って、じょうずに引きだす人さえいれば、
 生きてる人は全員おもしろい、というコンセプトで
 作っているじゃないですか。画期的だと思うんです。
 起きたことは、すべていいことだったんだ、と……」

と、語っています。
『ひょうきん族』から『おそく起きた昼は…』まで、
フジテレビの代表的なバラエティ演出家の三宅さんに、
『電波少年』を作った土屋さんが質問するところから、
3人の鼎談は、はじまってゆきました。

生き馬の目を抜く業界で、仕事と家庭の両立は可能なの?
1回目は、社会人にとって共通のそんなテーマをどうぞ。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 三宅さんとは、
娘どうしが仲良くさせていただいていて。
話を聞いてると、
たのしそうなつきあいなんです。
三宅 うちの娘と、
糸井さんのおじょうさんが、同じ学校の出身で。

学年はうちのほうが、ふたつ上なんですけど、
気があって、よく家に遊びにきてくれるんです。
やっぱり、感性が似ているみたいですね。
「おもしろがるところ」とかが。
糸井 そうですねぇ。
三宅さん、クリスマスの催しだとか、
いろんなことをしてるんですよね?
そこに娘が遊びに行ってたって。
三宅 よくやってましたねぇ、昔は(笑)。
糸井 土屋さんは、
三宅さんのことを、
仕事人間だと思っていたでしょう?
土屋 ええ。
だから、今のお話を聞いて、驚きました。
三宅 家庭は、大事にしています。
家庭あっての自分、ですからね。

娘の小学校卒業の時には、
自分に何ができるかって考えて、
「じゃあ記念のビデオを作ろう」
ということになりました。
娘の学校にひとりで行って、
生徒全員のコメントを撮って、
自分で編集して、みんなでお金を集めて……。

最後、卒業式の日に「何組誰々」と、
校歌がBGMで流れるところに、
クラス全員の名前を
ロールで出したビデオを完成させました。
なかなか感動的で、好評だったんですけど、
そういうのは、好きでやってるんですよね。
糸井 すごいなぁ。

娘さんを見ていると、
マイホーム的に
べったりしているわけではないけど、
「ものすごく大事にされて育っている」
ということが、伝わってくるんです。

それって、
三宅さんの作る番組にも出ていますよね。
三宅 そうですか?

ぼくは、
生活も仕事も、あんまり、変わらない。

どこまでが遊びで、どこまでが仕事か、
あんまり境がないほうが、
いちばんラクだなと思ったんです。
糸井 遊びと仕事の境がないディレクターって、
多いタイプではないですよね。
土屋さんは、会社が違うけど、
そういう人、あんまり知らないでしょう?
土屋 たまたま最近、
「仕事とプライべートとの
 境ってあるんですか?」
と聞かれたことがありました。

ぼくの答えは
「境目はないです。
 だからずっと仕事をしてます」

と、三宅さんとは逆になっちゃったんです。

さっき、三宅さんが、
たまたま糸井さんのお嬢さんと
話しているのを聞いて、
「あ、ぜんぜん違う雰囲気だ」と思いました。

ぼくは、娘のともだちに対して、
あんなふうには話せないと言うか……。
糸井 土屋さんのお子さんは、
けっこう大きいんですよね?
土屋 ええ。
上は男が21歳で、下に娘がいますけど、
やっぱり、
「仕事をしている最中に、
 子どもたちがどんどん大きくなった」
という感じです。

子どもたちが
「かわいい」と言われるような時代には、
ぼくは、ほとんど家にいなかったので、
ものすごい精神的な壁があるんですよ。

だけど、
そういうものなんだろうな、と言うか、
テレビ屋っていうのは
それが宿命なんだろうな

と思ってたら……三宅さんが、
そうじゃないらしいと伝わってきた。
だから、衝撃的だったんです。

ぼくはやっぱり、三宅さんと言えば
「ひょうきん族」のディレクターなんです。
今日は、才気走っているというか、
破壊的な人を想像して、
ここに来たんですが、それが違っていたと…

「笑い」って、
やっぱり壊すところがあるじゃないですか。
三宅 ええ、壊しますね。
土屋 笑いに関わる人は、
「自分も壊して、人も壊して」
みたいなところに進んでいくんじゃないか、
と思っていたところがあるんです。

三宅さんは、そういうところは、
もう、抜けてしまったということでしょうか?
三宅 土屋さんがおっしゃっていることは、
よくわかります。

ただ……自分のことで言うと、
まだADの頃に、
萩本欽一さんの前で思ったんですよ。

「この人には、もう、
 何をつくろったりしてもダメだな」と。

こちらがふつうにしていないと、
「話をすること」さえできないんです。


萩本さんに限らず、
すごい人たちには、ヨイショしても、
心の内をすぐ見破られてしまう。
だから、こちらとしてはもうふつうに、
イヤなものはイヤだとか、
おもしろくないものはおもしろくないとか、
ふつうにいかないとダメだと。

かっこよく言ってしまえば、
「人間的に大きくなることで
 ついていかないと、やっていけない」

と言いますか。

だから、嫌われてもいいから、
「大将、もう時間ですから」と、
ハッキリ言ってしまうだとか、
自然に、ふつうにしていかないと、
小手先ではダメだなぁということを、
萩本さんからは、教わったんです。


今日の仕事論:

「ぼくは、生活も仕事も、あんまり変わらない。
 遊びと仕事の境がないほうが、ラクなんです。
 一流の人には、こちらがふつうにしていないと、
 話をすることさえできない。
 ヨイショしても、心の内を見破られてしまう。
 一流の人には、人間的に大きくなることで
 ついていかないと、やっていけないと言いますか」
                  (三宅恵介)

※3人の鼎談は、明日につづきます。
 バラエティ番組は、どう工夫するとおもしろいか?
 そんなポイントを、じっくり話してくれるんです。


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「おもしろ魂。」<第2弾>
2004-09-02 第2回 番組は、ひとりだけで作るもの?
2004-09-03 第3回 ネタ番組ブームについて。
2004-09-06 第4回 生きのこる、ということ。
2004-09-07 第5回 引き出しの多さ。
2004-09-08 第6回 正体がわからないという魅力。
2004-09-09 第7回 芸人とスタッフのぶつかりあい。
2004-09-10 第8回 息が合うかどうか、ということ。
2004-09-13 第9回 自分を好きでいるすばらしさ。
2004-09-14 第10回 ひそかにメモをしている姿。
2004-09-15 第11回 近づきすぎたらダメな人。
2004-09-16 第12回 テレビは何をこたえているのか?
2004-09-17 第13回 演者をあたためることが、演出。
2004-09-20 第14回 引かば引け!
2004-09-21 第15回 誰だって、先は、見えていない。
2004-09-22 第16回 全力投球をできる土壌。
2004-09-23 第17回 時間をかける、ということ。
2004-09-24 第18回 「ちょっと」と「ずっと」の間。
2004-09-27 第19回 芸能と風俗は、似ています。




これまでの「おもしろ魂。」<第1弾>
2004-06-15 第1回 遊びと仕事の境界線はありません
2004-06-16 第2回 萩本欽一さんから考えかたを学ぶ
2004-06-17 第3回 テレビ制作者がたどってゆく道
2004-06-18 第4回 会社員がものを作るということ
2004-06-21 第5回 おもしろさの基準
2004-06-22 第6回 ぶつかりあいが生む力
2004-06-23 第7回 新社屋を建てると落ちる
2004-06-24 第8回 フジテレビの遺伝子
2004-06-25 第9回 視聴率主義について
2004-06-28 第10回 ドキュメンタリーの周到な演出
2004-06-29 第11回 一度は天狗になるべき
2004-06-30 第12回 いい番組が終わっちゃう?
2004-07-01 第13回 番組制作の優先順位
2004-07-02 第14回 魂を伝えるということ
2004-07-05 第15回 おもしろさを守る砦

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2004-06-15-TUE

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