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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

3. ネタ番組ブームについて。


日本テレビの土屋敏男さんは、
「新しいお笑いブームが来ている」
という言葉に、違和感を感じているそうです。

道化師という職業が数千年前からあるように、
お笑いを求める気持ちは、ブームではなくて、
常にあるものだと捉えているからだそうです。

土屋さんは、
若手芸人が出るネタ番組を見ているなかで、
日本テレビの『エンタの神様』の視聴率がいいのは、
ネタがかなり短く編集されているからであると指摘し、
さらに、
「類似の編集なしのいわゆるネタ番組が、
 視聴率としては、伸びなやんでいる」
と、かつて、
ネット上の連載記事で、書いていたのでした。

「お笑いブームと見間違える現象は、
 視聴者生理に合わせたテレビの編集テクニックが
 新しいのであって、従来のものを否定するほどの
 笑いの登場ではない」と土屋さんが考えてる中で、
フジテレビの三宅さんは、最近の若手の芸人さんが、
たくさん出てくる番組をどう思っているのでしょう?

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

土屋 テレビって、そもそも、絶対に
ひとりじゃできないものなんです。

ぼくも、
『電波少年』などでは、常に、
ひとりでやりたいとは思っていながら、
番組が終わった後で、
「あの仲間だから作ってこれたんだ」
と気がついたようなところがあります。

それでも、
片岡飛鳥は『27時間テレビ』という
あんなに長い放送でさえ、
「ひとりでやりたい」と思うタイプで……。
三宅 それで、あいつは、
その「ひとりでやりたい」を、
やりきりましたよね。
土屋 ええ。

最初から、ひとりでできないに
決まっているものを
「ほんとは、ひとりでやりたい」
と思ってしまう片岡飛鳥が、
やりたいことを
やってしまいましたよね……。

ふつうは、どこかであきらめるわけです。
だけど、番組の匂いが、
ずっと統一されている気がしました。

今回の『27時間テレビ』にも、
山ほどスタッフロールが
出ているわけだから、
手伝ってもらうことは
あったんでしょうけど、
きっと現場では、隅々まで
「片岡は何て言ってるの?」
「片岡、これでいいか?」
というように作ったんだろうなぁと思います。

片岡くんの側も
「そこは、どうなっているの?」と、
ずっと粘っていたはずだろうと想像しました。
三宅 そうです、そうです。
土屋 『27時間テレビ』の
次の日に日本テレビに行くと、
もう、まわりがすごかったです。

「おもしろかったね」
「おもしろかったね」
と、あまりにも言いあうので……
もちろん、ぼくも、
おもしろかったとは思っているけど、
日テレの中で、そこまで手放しで
「よかったね」と言いあうのは、
それはどうなんだ?と思うくらいでした。
三宅 それは、そうですよね。
土屋 その
「おもしろかったね」を、
夕方ぐらいまで、
ずーっと言われ倒したものですから、
もうしょうがなく
「わかった。じゃあオレが来年、
 フジの27時間の裏で、27時間やる!」

って言ったんですよね(笑)。
三宅 (笑)
土屋 言わないと、
「よかったね」の大合唱が
終わらない気がしましたから。

ウチの会社で
「おもしろかった」の
絶賛の嵐だけで
終わっちゃマズイというか……。

その日はたまたま、
お笑いのディレクターや
プロデューサーに接触がなかった日だから、
そう言わなきゃいけなかったんですが、
きっとそいつらは
「悔しい!」
と思っているはずなんですよ。

「やられた! ここまでやるか!」と。
だから、そいつらにとっては、
あの番組は、
ものすごくよかったと思います。
テレビ全体にとって、
ものすごくいい番組だったと思うんです。
糸井 制作者たちに、
火をつけたとも言えるんだね。

ただ、
『27時間テレビ』について、
「お笑いブームだから当たった」
という意見があったとすると、
三宅さんはどう思いますか?
三宅 いや、もちろんそうだと思います。
糸井 あ、そうですか……
そういう認識は、
内部の人にもあるんですね。
三宅 だと思います。
土屋 いま、
芸人さんの弾数は多いですよね。
層が厚い。
糸井 みんなおもしろいんですもんね。

「こいつらもいいな」
「あいつらもいいな」

時間ごとに見ていても、
ぜんぶの芸人さんたちが、
自分の場所を表現してるじゃないですか。
土屋 時間があるときに
「じゃあ、『はねるのトびら』の
 メンバーにつないでもらいましょう!」
と言っても、
ぜんぜん成立してしまうわけだし、
もちろんさんまさんも
ガーッと行くわけだけど、
品庄も今田も「オレたちはこれだ」という
弾をガンガン飛ばしてくれたし……。
糸井 片岡飛鳥という人は、
『はねトび』の番組の
監修をやっているにも関わらず、
『27時間テレビ』での
あの連中の役割としては、
全員をひとところに集めて、
ワンカメでやるという
方針を取ったわけで……。

あそこに、
見事にプロの腕を感じました。
あのメンバーは、使い道によっては、
いっぱい使えるような
気がするじゃないですか。

だけど
「あ、まだこんな評価をしているんだ」
というのが、
正しいなぁと思ったと言いますか……。

いちばんかわいがっているはずの
片岡さんが
「おまえら、まだまだ
 『1ダースいくら』の単位だよ」
という使いかたをしているところには、
「見ている人は、ちゃんと見ているなぁ」
と思いました。

しかも、それでも
やっとだったということを、
お客さんも、わかっていますよね。
感心したなぁ。

番組全体では、やっぱり、
みんなが入り乱れる
「真夜中の大かま騒ぎ」が、
ひとつのピークでしたよね。

あれは、みんなが困りながらも
自分の仕事をしていくという……
飛び抜けておもしろかったです。
三宅 あれは、バトルですからね。
糸井 あの戦争は、よかったよねぇ!
土屋 よかったですね。
糸井 それぞれ、
力を出しきれるはずがないのに、
ちゃんと出しきってるんですよね。
土屋 全員が、アイコンタクトっぽい感じで
「こいつしゃべっていないな」
というところに持っていったり……。

だから、最後のほうで、
みんながネプチューンに気をつかって
パスをまわしたのに、
本人たちが来ないから、
全員、一瞬怒ったみたいなところが
見られたりとか……。

ゴール前でボールを出してるのに、
ネプチューンは
あれだけ吉本ペースで来て、
急にボール出されて……
ああどうする?とか、
あの状況は本人達はきついだろうなあ、
とかドキドキしながら見てました。
三宅 だから、
ほんとはコワイ現場だということですよね。
ああいう場面だと、
腕の差が、ハッキリ出てしまう。
土屋 スリリングでした。
糸井 お笑いブームが来ている、
ということについては、
どう思っていらっしゃいますか?
三宅 コンビだとかなんだとかは、
ずいぶんいっぱいいるなぁ、
と思いますけど、
いま、流行っているのは、
いわゆる「ネタ番組」ですよね。

たとえば日テレさんの
『エンタの神様』でも、たしかに
「企画としてのお笑い」
は流行っているけど、
出てくるひとりひとりの裏に、
ブレーンが何人かいそうな感じはします。

そういうことになると……ともすると
「もしかすると、
 そいつ本人じゃなくても
 いいのかもしれない」

とも感じるんです。
ネタでやっていくぶんには
おもしろいけど、
ネタ番組じゃないところに来たときに、
どうなるかが気になります。
糸井 「存在で勝てるか」と……。
三宅 今度は、キャラクターだったり、
持っている腕の出しかたが
要ることになりますから。

そこでも
やっていけるだろうというのは、
すごい少ないとは感じます。
そこをどうするかだろうとは考えるんです。

実際のところは、
いま、ネタ番組に出てくる
ほんとうの若手というよりは、
もうちょっと上の「天然素材」の年代……
宮迫くんだとか、あのへんの連中が、
ほんとにいちばんがんばっているんだと、
ぼくは思っています。
  (次回に、つづきます)


今日のひとこと:

「いま、流行っているのは、
 いわゆる、ネタ番組ですよね。
 たとえば日テレさんの
 『エンタの神様』でも、たしかに
 企画としてのお笑いは流行っているけど、
 出てくるひとりひとりの裏に、
 ブレーンが何人かいそうな感じはします。
 そういうことになると……ともすると
 『もしかすると、
  そいつ本人じゃなくても
  いいのかもしれない』
 とも感じるんです。
 ネタでやっていくぶんには
 おもしろいけど、
 ネタ番組じゃないところに来たときに、
 どうなるかが気になります。
 今度は、キャラクターだったり、
 持っている腕の出しかたが
 要ることになりますから。
 そこでもやっていけるだろうというのは、
 すごい少ないとは感じます。
 そこをどうするかだろうな、
 とは考えるんです」
               (三宅恵介)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
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 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-03-FRI

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