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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

10. ドキュメンタリーの周到な演出

テレビ番組の
おもしろさの基準を語り続ける企画……。
だからこそ、今日は、
避けることのできないテーマのひとつである
「視聴率」について、話しはじめてゆきます。
さらに濃さを増してゆく会話を、
テレビを好きな人も、仕事論として読む人も、
できたら、ゆっくり、読んでみてくださいね。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 「テレビの前で演じること」
について、別にタレントではない自分が、
たまにテレビに出ることをふりかえると……
ぼくの特色って、おそらく、
「すごい真剣に、
 人が聞いてもいい裏ばなし」
をすることだとは思うんです。

土屋さんともよく裏ばなしをしているんだけど、
見事に、だいたいは
人が聞いても、だいじょうぶなんです。
それがぼくの人生だし、
ぼくのキャラなんだけど、
そうなると、それを演じている自分はいない……。
三宅 糸井さんにも、
どこか演じていたところがあって、
実生活が、だんだん
近づいてきたんじゃないでしょうか?
糸井 そうか……。
三宅 糸井さんの家庭や仕事での姿は
違うのでしょうけど、
生活とテレビとは、
近づけざるをえない風に
なっていったのかなぁとは思うんです。
土屋 三宅さんは、完全に演じられてましたよね。
糸井 三宅さんは演じてました。
ペンネームじゃないのに
ペンネームにしていましたよね?
三宅 うん。
それこそほんとに、
萩本さんの『欽ドン』で学んだことなんです。

ADとして前説に出るわけですけど、
ぼくのジーパンに穴が開いていることを
大将は話すんです。

「こいつは大学出てるのにね、
 金がなくて
 ジーパンに穴があいてるから……」

そこを必ずつっこむから、毎週、
そのジーパンを履いていったのですが、
「出る以上は笑わせないといけない」
というのは、大将から教わったんです。
土屋 前説は、得意だったんですか?
三宅 いえ、やらされてたんです。
そのうち、だんだん、若手芸人が
やるようになっちゃったんですけど、
当時はADが前説をやるなかで
「ウケている」という空気を覚えたんです。

「寒いときにはどうすればいいか?」
も、そこで覚える。
前説のうまい先輩から学ぶことがありましたし。

ぼくは、学生のときに
モノマネが好きだったんですが、
そういう昔からやっていることを、
いまだに出しているんですよ。
知らない人のところに行ってやると、
そのモノマネが受ける。

そうなってくると、
出る以上は印象づけようと思って、
赤いシャツを着るようになって……。
糸井 いやぁ、仕事してますねぇ。
三宅 「赤いシャツを着てるディレクター」
と覚えられないと
意味がないだろうと思ったんです。

そうしていくと、
取材のときには赤いセーターを着たり、
ロケでもその方が目立つから
役に立つということになりまして……
いろんな人が、かならず
赤いものをプレゼントしてくれたり、とか。
糸井 社会性がある特色ですね。
三宅 まあ、パンツまで赤ですからねぇ。
糸井 今も、靴下、赤ですね。
三宅 今、ぼくは
勝負下着をはいてるんですけど、
これはこないだ蔵前で買ったんです。
お相撲さんが、こう、勝負してるだけの下着。
糸井 (笑)あははは。
三宅 これ、ウケるんですよ。
糸井 やっぱり、仕事、してますね!
三宅 これ、飲み屋で
公表したりするとウケるんです。
糸井 土屋さんは、そういうのはやっていますか?
土屋 途中から、
わかんなくなっちゃうんですよ。

『電波少年』で背中で出ていることには、
自分なりに理屈があった。
だけど、そのうち前を向くようになると、
だんだん、キャラがキープできなくなる。
糸井 (笑)わかる。
土屋 めんどくさがり屋だから、
そこの努力をしなくなって
「もういいや」っていう感じになりました。

糸井さんじゃないけど、
キャラと実体の境目が
わかんなくなってきちゃった。
糸井 うん、うん。
三宅さんは、
なんか、話が一貫してましたね。
土屋 そうですよねぇ。
ぼくが萩本さんからいちばん学んだことは、
「ドキュメンタリーを、裏でどう演出するか」
なんです。

素人を舞台の上に乗せるようなところを
学んだ延長線上に、
電波少年ができたんだと思います。

松村が半ズボンで永田町に行くと、
「なんで電話一本かけられないんだ?」
と怒られるんだけど、その「不自由さ」が、
ドキュメンタリーとしておもしろいわけです。
三宅 うん、うん。
ひょうきん族も、ドキュメンタリーですからね。
土屋 ええ。
三宅 やっぱり、
『全員集合!』という、
ほんとに作りこんだものがあったので、
ドキュメンタリーに
せざるをえなかったんです。
糸井 「追いつめられて出ちゃう自分」
って、かならず起点になりますよね。
昔も今も、そういうところがあるんだろうなぁ。
三宅 ただ、
それに関しては、懸念もあるんです。
ひょうきん族は、全員集合という
作りあげられたことに対して、我々が、
壊す笑いを、ドキュメンタリーで作る……
すると、
「ああいうものがおもしろいんだ」
ということになって、
ある時から、バラエティがみんな
「作りあげるものではないもの」
になってしまったんです。

それはそれで、悪くはないんですけど、
作りあげるものも
できればいいかなぁとは思っています。
『水10!』なんかでは、
コントをやろうとしているから、
徐々に流れはできはじめていますけど、
どうしても、「壊す笑い」のほうが、
エネルギーがあって強いですからね。
糸井 ドキュメンタリーということで言うと、
三宅さんの作っている
「遅くおきた昼は…」は、
いつもついつい見ちゃうんです。
三宅 ありがとうございます!
糸井 「これを見ているオレは何?」
と思いながら、見ちゃうんです。
あの番組は、なんなんですか?
三宅 スタートは
「おばさんの井戸端会議」ということでした。

最初は音楽番組ということで作っていたから、
それぞれの好きな曲を持ってきて、
曲をかけて、それにまつわる
お話をしていただけだったんです。

だけど、あるときから、もう裏が
『サンデープロジェクト』
だとか、男のニュースばかりだったので、
「不平不満愚痴で女三人」
で女の駆けこみ寺みたいなものに
しようということになりまして……。

あの番組には、
約束ごとは、ひとつしかないんです。

「ある意見に対して、
 イエスが三人になっちゃうと
 つまんないから、
 二人がイエスと言ったら
 一人がノーと言う」


そこだけなんですよ。
糸井 あぁ……なるほどなぁ。
その約束ごとは、
全員が認識しているんですか?
三宅 はい。
不思議なことに、
最初は森尾由美さんだけが
結婚していたのに、
そのうちに、未婚だった
松居直美さんが婚約して結婚して別れて、
さらに貴理子さんが結婚してと、
三人の「二対一」の
ドキュメンタリーになっていったんです。

ですから、見てくださる女性は、
「自分はあの三人のなかでは
 どういうポジションなのかなぁ?」
と、かならず
想像できるんじゃないかと思うんです。
糸井 あれって、
企画書が見たい番組ですよね。
あれはあれで、企画書を作るわけですよね?
三宅 はい。もちろん。
土屋 三宅さんの番組を見て
「女三人集めて、本音で
 しゃべらせたらなんとかなるんだ」
とマネした番組は、
たぶんたくさんあるんだと思う。
だけど三宅さんの番組には、実は
「二人がイエスと言ったら一人がノー」
というきちんとした
演出が用意されているわけで……


そこまで見抜けるテレビマンって、
ほとんどいないですよね。

その演出が、
番組を作る面ではすごく大事なところなのに。
三宅 あの番組は、そこしかないんです。

今日の仕事論:

「『おそく起きた昼は…』は
 不平不満愚痴で女三人と、
 女の駆けこみ寺みたいなものに
 しようということになりまして……。
 あの番組には、
 約束ごとは、ひとつしかないんです。
 『ある意見に対して、
  イエスが三人になっちゃうと
  つまんないから、
  二人がイエスと言ったら
  一人がノーと言う』
 そこだけなんですよ。
 不思議なことに、
 最初は森尾由美さんだけが
 結婚していたのに、
 そのうちに、未婚だった
 松居直美さんが婚約して結婚して別れて、
 さらに貴理子さんが結婚してと、
 三人の『二対一』の
 ドキュメンタリーに
 なっていったんです。
 ですから、見てくださる女性は、
 『自分はあの三人のなかでは
  どういうポジションなのかなぁ?』
 と、かならず
 想像できるんじゃないかと思うんです」
             (三宅恵介)

※明日は、出演者との関係のとりかたや、
 番組タイトルのつけかたなどを語る回です。
 これも、また、他の仕事をしている人たちも
 ヒザを打って明日の企画に活かしたくなるような、
 発見に、満ちているんです。どうぞおたのしみに。
 
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 お送りくださるとさいわいです!
 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
 あなたの感想や質問を、参考にしながら進めますね。


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2004-06-28-MON

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