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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

19. 芸能と風俗は、似ています。


今日の回は、タバコという観点から見る仕事や、
風俗という観点から見る芸能が、浮かびあがります。
制作現場につきものの「タバコ」の議論のつづきから、
のんびりとおとどけする、第2シーズンの最終回です!

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

三宅 糸井さんは、
どういう理由で、タバコをやめたんですか?
糸井 いまでも、タバコは好きなんです。
臭いというより、香りだという気がするし、
いまでも好感は持っています。

ただ、キザな言いかただけど、
ぼくは、「社長」になったんですね。

いままでも、ずいぶん長い間、
会社をやってきたし、
社長という肩書ではいましたけど、
やっぱりそれは
「独身者がふざけて作った会社」
だったんです。

ところが、最近は二〇人ぐらい
社員がいるのですが、
それぞれ、結婚したり、出産したり、
将来どこに住もうかと考える人がいたり……
そういう人が増えてきたんですね。

だんだん、
責任を感じるようになったんです。

自分自身でも、やっぱり、
無責任で放ったらかしにするよりは、
責任のある仕事をしていったほうが
いいと思うようになってきていました。

そこで、まず禁煙の前に、
年に一度の人間ドックを
受けるようになったんです。
「自分が健康に社長業をすること」
も、仕事の一部ですから。

人間ドックって、あれは、
ウミガメの出産のように
涙を流しながら胃カメラを飲んだり、
下剤をかけて夜中に苦しみながら、
腸からなにかを入れられたり……
ほんとにイヤなものですけど
「これはもう仕事だ」と思ったんです。

自分の命が大事なんだというよりは、
健康であるかどうかチェックしておくことは
社員の人生を抱えている人間の仕事なんだ、と。

「そういうふうに俺は責任を持つから、
 おまえらも子ども生めよ」

そう言える存在じゃないと、
社員に失礼だなと思うようになったんです。
三宅 なるほど。
糸井 ただ、健康でいつづけるために
受ける人間ドックのなかで、
パカパカ、タバコを吸っている自分は、
ちょっとズレているなぁと思いはじめました。

体に異常が発見される率を、
タバコを吸うことで、自分ですすんで
高めているようなものなんだから、
やめられるならやめよう、と思ったんです。
そういう「社長になったから」というのが、
禁煙のひとつの理由でした。

ただ、もうひとつは……
仕事で会議をするために、
よその会社に行くんですけど、
最近は、あらゆる会社のあらゆる会議が、
禁煙になっちゃいまして。
そうすると、タバコを吸っていると、
なんだか、どうも不利なんです。
三宅 ああ、それは、わかります。
糸井 明らかに、
つまらないことを言っているヤツが、
根性で押し通そうとしている企画を
邪魔する時なのに
「ちょっと、タバコ吸いたくなったから、
 出かけてきます」
と言うと、押しが弱いんですよ。
三宅 なるほど、なるほど。
糸井 いままでだと、
「さぁ、行くぞ!」というときには、
かならず一回
タバコを吸ってから勝負に出たんだけど、
そうもいかなくなってきて……。

それと、タバコを吸わないけど
かっこいい人を、ずいぶん
見るようになっちゃったものだから、
「あっちに参加できないものかなぁ」
と思うようになってきました。

なんか、
攻めこまれている気がしていて。
三宅さんは、いまは
マイルドセブンを吸っているんですか?
三宅 前はライトを吸っていたんですけど、
いまは一応、スーパーライトにして、
タールを二ミリグラムだけ
減らしたということで、
そこによりどころを求めているだけなんです。
禁煙はしていません。
糸井 ということは、
昔の自分からしたら、
批判的なタバコを吸っているわけですよね?
三宅 そうです。
糸井 やっぱり、喫煙者が
追いつめられている感は、ありますね。

かつてはどこでも
パカパカ吸えていたテレビ局が、
どんどん禁煙になっていくのは、
ぼくもやっぱりショックでしたね。

日テレも、フジテレビも、
吸えないですよね?

日テレが全社で
タバコがだめになったときは、
禁煙ガムを噛んでいる人がいたり……
土屋さんにはじめてお会いしたときも、
とにかくタバコの話ばかりしていましたね。
土屋 そうですね。
三宅 われわれなんかだと、
お台場にいるよりも
現場にいることが多いですから、
外でロケや編集や打ちあわせをしている、
ということが多いんです。

だから、お台場で
タバコが吸えなくても
不自由はしないんですが……これが、
外の編集所や、外のスタジオで、
吸えなくなってしまったら、
やばいなぁと思うでしょうね。

昨日行ったスタジオが、
千代田区の北の丸公園の近くだったので
「千代田区は歩きながら吸えない」
ということは意識しました。

道路に
「歩きながらのタバコはだめです」
と書いてあったので、
ちゃんと灰皿のあるベンチで吸うとか、
そういうふうにしていましたけど、
そこは、ちょっとつらかったですね。
糸井 そもそも、
吸っていい場所を規制されることが、
ハラ立ちますよね?

妙なイライラがあるんです。
ギリシア時代かなにかの大昔に、
女たちが男に向かって怒って
「もうセックスをさせませんよ」
というストライキを起こしました、
っていうような伝説があるそうなんです。
その伝説は

「男は
 『カンベンしてくれ、かあちゃん!』
 と言いました」
というようなオチがついてるはずだけど、
ぼくはそれを聞いた瞬間に
ハラが立って仕方がなくなったんです。

「そんなことを言うなら、
 もう、しなくていいよ!」
自分のことでもないのに、
いきなり怒りだすタイプでして……。
三宅 「セックスをさせません」
って、おごり、ですよね。

そもそも
「させない」という言いかたがイヤです。
糸井 うん。
ぼくはもう、いっそ、
走りだしてしまいたくなる。

そういう
「そこまで言われるなら、もういいよ!」
という中に、ついに
タバコが入っちゃったような気がするんです。
「ここでだけは、吸ってもいいですよ」
「あー、あんた、そこはダメダメダメ」

そう言われつづけるなかで、
この野郎!という気分が高まって……
結局、ダーッと海に向かって走って
「もう、禁煙する!」
と言ってしまったというか。
三宅 セックスに関して言うと、
絶対に女性のほうが強いですよね。
糸井 そうなんですよ。

だからぼくは、たとえば風俗営業の店で
「……なんでこんなところに来るの?」
と言われてしまったとしたら
「もう、わかった!」と怒りだして、
時間が終わるまでは
待合室で静かに本を読んでいるタイプで……。
三宅 (笑)
「こんなところだから来たんだ」
という返しかたもあるんですよね。
糸井 (笑)うん。

ただ、最近思ったんですけど、
売春婦とお客さんの関係って、
いちばん遠いものなんですよ。

ちょっとでも近かったら
「ひとりの人間」になるわけです。
娘だったり、妹だったり、
と考えると、話は別になりますから。
三宅 遠い関係ではあるけれども、
そこで
「せっかく縁があって……」
という場合も、あるわけでしょう?
糸井 ええ。
縁あって、
ここにふたりあり、と(笑)。
土屋 だから、やっぱり、
まるで、恋人気分のような
「親しさを与えるマニュアル」を
持っているお店が、
一流の風俗店なんでしょうね。
糸井 山本夏彦さんが
『恋に似たもの』という
すばらしいエッセイを書いていますけど、
やっぱりあのタイトルが
見事に本質をあらわしていて……。

この「恋に似たもの」を売っている仕事の
微妙なおもしろさって、
芸能そのものにもつながるというか。

芸人さんと芸妓さんの生きかたって、
共通点があると思うんです。
風俗って
「観客ひとりの大イリュージョン」ですし。

それから、芸人さんも
「お客さんがほんまに大事ですがな」
と自分を投げ出すし、それを
ほんとに親身に言えるわけだけど、
それって、けっこう本気だし、
けっこうウソですよね。
三宅 ええ、そうでしょうね。
土屋 芸人も風俗も、才能のある人は、
お客さんとの親しさも、
マニュアルには見えないわけですよね。
道ばたでフェロモンを
ポロポロ落としながら
歩いていられるような才能を持った女性は、
いまの話で言うと
「一流の芸能人」ということになりますね。
糸井 芸人さんに舞台と楽屋裏があるように、
たとえば、風俗の女性と
外でデートするということになったら、
これはやっぱり、現実と非現実の
微妙な淡いを歩くことになるわけで。

単純に言えば
「過去を知っている男と
 つきあうということ」だし、
「結婚はしないであろうというつながり」
でもあるし……これは、
両方にとってむずかしいことだから、
間に「笑い」を挟まないことには、
関係が成立しなくなるでしょう。

「ここから先は来てはいけない」
というのが、
かならず、両方に、あるわけだから。

このへんも、
芸人さんと共通点のある話ですね。
  (第2弾を終わります)


今日のひとこと:

「芸人さんと芸妓さんの生きかたって、
 共通点があると思うんです。
 風俗って
 『観客ひとりの大イリュージョン』ですし。
 それから、芸人さんも
 『お客さんがほんまに大事ですがな』
 と自分を投げ出すし、それを
 ほんとに親身に言えるわけだけど、
 それって、けっこう本気だし、
 けっこうウソですよね。

 芸人さんに舞台と楽屋裏があるように、
 たとえば、風俗の女性と
 外でデートするということになったら、
 これはやっぱり、現実と非現実の
 微妙な淡いを歩くことになるわけで。
 単純に言えば
 『過去を知っている男と
  つきあうということ』だし、
 『結婚はしないであろうというつながり』
 でもあるし……これは、
 両方にとってむずかしいことだから、
 間に『笑い』を挟まないことには、
 関係が成立しなくなるでしょう。
 『ここから先は来てはいけない』
 というのが、
 かならず、両方に、あるわけだから。
 このへんも、芸人さんと共通点のある話です」
             (糸井重里)

※今日で、3人のテレビについての鼎談は、
 いったん、2シーズン目の最終回になりました。
 ……今後も、また集まって、
 「おもしろさ」について、真正面からの鼎談をおこない、
 「ほぼ日」で、連載してゆくかもしれませんので、
 どうぞ、その日を、たのしみにしていてくださいませ。

  このコーナーへの感想をはじめ、
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 お送りくださると、さいわいです。


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2004-09-27-MON

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