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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

16. 全力投球をできる土壌。


「おもしろい」という確固たる評価も得て、
とんでもない視聴率を取ったあとには、
だからこそ自由に作れる番組があるのかと言えば、
「それだけではない状況」が、あるのだそうです。
土屋敏男さんによる、松本人志論は、熱いですよ!

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

三宅 ずっと思っていたんですけど、
松本くんって、
たけしさんにすごく似ている感じはします。

紳助さんと一緒にやっている番組も、
ずっと好きで、見ているんだけど。
土屋 つまり、松本は
『一人ごっつ』もそうですし、
この前も早朝番組とかをやっていて、
「もともと、数字がない時間帯でやるんだ」
というテレビへの対しかたをするわけです。

だけど、ほんとは
「早朝なんだけどスゴイですよ!
 二〇%行きました!」
という声を、待ってるんだと思います。

このへんが、
テレビとお笑いの関係のなかでは、
どうしても出てきてしまう話なんです。

ほんとうは、
九%でも、すごいわけですよね?
糸井 いまって、もう、たとえば、
最盛期のバンドのライブを映しても、
九%みたいなもんじゃないんですか?
土屋 そうです、そうです。
糸井 だから、気にしなくていいんですよね。
土屋 しかし『ごっつええ感じ』で
二十何%を取ってるし、
『ガキの使い』でも二十何%を取ったし、
ということもあるわけなんです。
一度そういう規模の数字を取っていると……。

「いやいや、数字なんてもんはどうでもええ。
 オレはしたいお笑いをやる」


ほんとは、それでいいはずなんです。

だけど、『一人ごっつ』なんかで、
ひとりで出ますよね。

実際におもしろいし、
自分もおもしろがっているんだけど、
でもずっとそれでは
テンション続かないのは、ひょっとしたら
「二〇%じゃないから」なのかもしれない、
とぼくは見ていて感じるんですね。

だから、二〇%じゃなくても、
ほんとにおもしろいんだからいいんだよ、
という価値観を、きちんとテレビの側から
言ってあげないと、
テレビのお笑いって、ほんとうに
ダメになるとぼくは思っているんです。
三宅 なかなか、むずかしいですよね。

でも、ダウンタウン、
すごい好きなんだなぁ。
そういうチャレンジする姿勢が。
しかも、それを、たのしみながらやっていて。
糸井 フジテレビでさ、
外人のアテレコの
『ワールドダウンタウン』って、
あれは、つまんないような気もするけど、
おもしろいような気もするっていう、
不思議な番組で(笑)。
三宅 あれは、
『ごっつ』をやってた連中が、
また、ちょこちょこやりはじめて。
糸井 どうしていいか、わからないんですけど、
あれって、見ちゃうことは見ちゃうんです。

ただ、主役には、なってないわけですよね。
土屋 「テレビだと、このへんがありかな?」
そういう球の投げかたをしてる気がします。

要するに、やっぱり、松本は
「やっぱり、オレの笑いはこれだ!」
と全力投球をしても、
テレビではだめだよなぁ、
と思いこんでいる節がありますから。
三宅 今は、そうですよね。
だからこそ、
たけしさんもそうなのかも知れませんし。
糸井 松本さんやたけしさんに比べると、
さんまさんの考えかたって、
ぜんぜん違いますよね。

つまり、さんまさんにとって、お笑いは
「ものすごく大事だけど、
 大したもんじゃない」
というもののような気がするんです。

自分を追いこんで
お笑いをやっているたけしさんや、
松本さんだとかは、もっとお笑いのことを、
大したもんだと思いたいと言いますか……。
そこが違うような気がするんです。

また、宮崎駿さんの話に
なってしまうんですけど、
『となりのトトロ』を作ったときには、
はじめは、お話の中に
「ネコバス」はいなかったらしいんです。

だけど、
「映画を当てなきゃ!」という局面で、
アレを放りこんだんですね。


そのネコバスを投入する部分が、
もしかしたら、
あまりにも純粋に笑いを作るときの
たけしさんや松本さんに
欠けているものかもしれないなぁ、
という気がするんです。

つまり、
「ネコバスを入れたら、
 当たるに決まってるからなぁ……」
と言ってやめてしまうような気がする、
と言いますか。

だけどほんとうは、
「ネコバスは当たるぞ。
 それはいいことだぞ」
と入れたほうが、
いいような気がするんです。
土屋 宮崎さんは、
アニメ映画というところにしか
行きようがないじゃないですか。

ただ、お笑いというジャンルで言うと、
たとえばDVDを出していくとか、
松本なら以前には
『ビジュアルバム』(ビデオ作品)
みたいなことをやったわけです。

最近、『ごっつ』のDVDが出たけど、
やっぱりあれもよく売れているわけで……
そうなると、テレビ以外にも、
発散の場面があるとも言えるんです。
糸井 だったらいっそのこと、
思いっきり揺れ動いたほうが
いいのかもしれないですね。
土屋 結局は、笑いからは
逃げられないわけですし、
「息が合う」と思っている人とは、
いろんなことをしたいと
思っているだろうなぁ、と想像するんです。
三宅 たしかに、
萩本さんやさんまさんは、
ある種、戦略的でもありますよね。

大将は「二〇%取るためにやる」とか
「こうやらないと三〇%は取れない」
と考えるほうだし、さんまさんも、
視聴率を取るためだったら、
ネコバスのような要素も入れますよね。
土屋 たけしさんと松本は、しないですよね。
「ネコバス入れるぐらいだったら……」
というほうで。
糸井 三宅さんは、ご自分としては、
演出していてネコバス要素は入れるんですか?
三宅 ネコバスは、いまは入れないかなぁ……。

テレビに関わっていますし、
いまやっているぶんで、
いっぱいいっぱいではあるんですけど、
なんだか
「自分で、テレビを
 おもしろがっていないなぁ」
ということは、すこし感じるんです。

おもしろがれないとイヤだとは思っているので、
ネコバスの要素よりは、
違う要素を求めているのかもしれません。

いまは、舞台をやったり、
ネタをベースにした
ステージをやったりもしています。

柳沢慎吾くんの舞台は、
結局二時間の予定が
三時間になっちゃったりするんですけど、
そうするとやっぱり、
テレビの制約のなかだけでは
表現できないことをやれるんです。

お客さんも確実に笑うし、入るし、
という実感はあります……
ただ、そちらだけではなくて、
テレビのことをおもしろがりたいなぁ、
という気持ちはあります。

たしかに、昔よりは
おもしろがりかたが少なくなっていますが、
なんかやっぱり、
おもしろい企画をやって、
自分でおもしろがっていないと、
だめだと思うんです。
  (次回に、つづきます)


今日のひとこと:

「『ごっつええ感じ』で
 二十何%の視聴率を取ってるし、
 『ガキの使い』でも二十何%を取ったし、
 ということもあるわけなんです。
 一度そういう規模の数字を取っていると、
 『いやいや、数字なんてもんはどうでもええ。
  オレはしたいお笑いをやる』
 ほんとは、それでいいはずなんです。
 だけど、『一人ごっつ』なんかで、
 ひとりで出ますよね。
 実際におもしろいし、
 自分もおもしろがっているんだけど、
 でもずっとそれでは
 テンション続かないのは、ひょっとしたら
 二〇%じゃないからなのかもしれない、
 と、ぼくは見ていて感じるんですね。
 だから、二〇%じゃなくても、
 ほんとにおもしろいんだからいいんだよ、
 という価値観を、きちんとテレビの側から
 言ってあげないと、
 テレビのお笑いって、ほんとうに
 ダメになるとぼくは思っているんです」
             (土屋敏男)

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 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
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 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-22-WED

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