- 座長
-
ちょっと話はそれるかもしれないけど、
私、前に‥‥40代の頃かな?
海外でも活動する音楽家の方に演劇のお仕事をいただいたの。
演奏の幕間に劇をしてほしいっていう依頼で。
- 宝来
- はい。
- 座長
-
で、忘れられないことがあって。
打ち合わせをしてた時にね、
その方が真顔で「ひとつ質問していいですか?」って。
- 宝来
- なんだろう‥‥。
- 座長
-
私もなんだろうと思って「どうぞ」って言ったら、
「これからの目標はなんですか?」って。
「どんなふうに生きたいですか?」って言われたの。
- 宝来
- おぉ‥‥。
- 座長
-
その人は「音楽で海外と日本の架け橋になりたい!」
みたいなことをものすごく熱心に語ってくれて、
その後に目をキラキラさせながら真剣に言われたのよ。
でも、私は「‥‥ん?」ってなって(笑)。
- 宝来
- 予想外すぎて(笑)。私もそうなると思います。
- 座長
-
その時に一瞬、格好つけようかなとかも思ったし、
相手が満足のいく答えを探して答えるっていう方法も
あったわけさ。
その場をきれいに納める方法としてね。
一応、相手からしたら、私も劇団の座長やってて、
キャリア的には美術的な感性を仕事にしてきて、っていう
それなりの立場だったから。
- 宝来
-
「きっと具体的な目標を持っているに違いない」って
思われたんですね。
- 座長
-
その期待に対して応えるべきこともあるじゃない?
でも、私は「‥‥ん?」ってなって。
で、言ったのが「ないとだめですかね?」って(笑)。
- 宝来
- 心境をすごく的確に‥‥(笑)。
- 座長
-
いや、でもね、後から考えると、
「こういう人になりたいな」くらいは
漠然とあったから、それを言えば良かったかなとも
思ったんだけど。
- 宝来
- あぁ、はい。
- 座長
-
でも、その方が求めてたのはそういう答えじゃないよね。
「自分がなにをすべきか」ってことなのよね。
どこを目指していくのか、なにに貢献していくのか、
演劇でどうやって人を魅了していきたいのか‥‥。
そういう事柄を聞きたいのよね。
- 宝来
- そうですよね。その回答を期待されてる。
- 座長
-
でも、自分は探してみたけどなかったんだよね。
だから時々、その時に戻って私が言えることって
なんだろうってすごく思い出す。
本当は、自分はなにを言いたかったんだろうって。
- 宝来
- あー‥‥。なるほど。
- 座長
-
でも、その時に言えなかったのは
相手の期待の圧だったり、
「その回答が欲しかった!」って
相手に思ってもらえるのを欲しがる自分も
確実にそこにいたわけ。で、今もいるのよ。
あれから歳を重ねてきて、
あの時の私は本当はなにを言いたかったのかなって
考えることが今の課題なの。
- 宝来
- それは難しいというか、すごく悩みますね。

- 座長
-
それを考えてて、なんとなくわかってきたのが、
やっぱり無意識に「こうあらねばならない」って
刷りこまれてるものってあるなぁって。
自分で刷りこんでる部分もあるから、
良い悪いじゃないけど。
- 宝来
-
まわりの期待に対して応えないといけない、
みたいなことですか?
- 座長
-
それもだし、自分がやったことに対して
誰かの賛辞があったり、
出来・不出来の評価があったりすると、
その「こうあるべき」が自分になってしまうよね。
- 宝来
-
自分の良い・悪いよりも、
誰かに「いいね!」って言われたものが
自分の価値になるみたいな。
そこに流されたくないって思っても、
やっぱり誰かの評価って気になったりするんですよね。
- 座長
-
うん、私もあるし、誰でもあると思う。
やっぱり多かれ少なかれ当たり前の欲求で、
「認めてもらえた」って原始的な快楽だと思うのね。
でも、できればそういう自分が思いこんでるものから、
自分を少しずつ解放してやりたいな、と思ってる。
まわりからは「つまんない人間」になっていくように
見えるかもしれないけど(笑)。
- 宝来
- そうですか?
- 座長
-
外の基準で「つまんない人間」にならないために
誰かの「いいね!」を気にしてるんだと思うのよね。
でも、それを一旦やめて、自分基準っていうのを
自分の中に持てたら嬉しいなって。
- 宝来
-
そこは私も考えていきたいです。
私も自分の中の原点を無視して
外ばかり見てないかなって思ったので‥‥。
- 座長
-
自分が考えてることも本当のことかどうかわからないけど、
結局なにをするにしても、自分が原点なわけだからね。
- 宝来
-
そうですよね。
なんだか劇団の話から思いがけない話にはなったんですが、
面白かったです。
- 座長
- いつも通りの雑談みたいになってない?(笑)
- 宝来
- 大丈夫です(笑)。ありがとうございました!
(つづきます)