もくじ
第1回座長と劇団と私 2019-03-19-Tue
第2回ゼロの感情 2019-03-19-Tue
第3回「本当」じゃない理由 2019-03-19-Tue
第4回原点はずっとある 2019-03-19-Tue
第5回期待される答え 2019-03-19-Tue
第6回私が思う「やめること」 2019-03-19-Tue

「記事」を考える日々を経て、東京で「広告」を考える日々を始めました。
言葉にする仕事をしながら、言葉にできないものをいつも探しています。

「やめること」の舞台裏話

「やめること」の舞台裏話

担当・宝来

第2回 ゼロの感情

宝来
今回、あらためて劇団の話を聞きたいんですが、
いいですか?
座長
それはいいけど、宝来ちゃんは演劇を経験したのって
めちゃめちゃ面白い経験だったんじゃない?
宝来
そうですね。
なにもわからない状態で飛びこんだので(笑)。
座長
まわりの人があまり経験しないことなんだから、
私の話よりもそっちの話のほうが面白いんじゃないの?(笑)
宝来
いやいや(笑)。今回は座長の話を聞かせてください。
私、今30代なんですけど、
座長は30代の頃に劇団を立ち上げたんですよね?
座長
うん、そうね。
宝来
そこから40代、50代って
ずっとやり続けてきたわけですけど、
最後、迷いなく解散しましたよね?
それがずっと不思議だったんですよ。
座長
あ、本当? そう?
でも、お客さんとか他の劇団員からは
解散した後もずっと言われてたね。
「もうそろそろ、舞台しないの?」って言われては、
「だからしないって」って(笑)。
宝来
そこが、本当に未練がないというか、
スパッと割り切ってるなぁと。
座長
あんまりものに執着しないからかなぁ。
例えば、積み上げてきた実績とか、そういうことに‥‥。
宝来
あぁ、それはなんか、座長を見てるとなんとなくわかります。
座長
あ、わかる?
宝来
もとは子ども向けだった劇団を
「大人が楽しめる演劇もやりたい」って
途中から方向転換したのもすごいと思ってたので。
座長
子ども向けの劇団としてそこそこ有名になってきてたから、
あのまま続けてたらまた違う形になってたかもね。

宝来
その、最終的に20年くらいやってた劇団をやめるって
決めたのはなんだったんですか。
理由というか。
座長
やめた理由?
‥‥なんかやっぱり、自分でわかったんじゃないかなぁ。
宝来
引き際、みたいなことですか?
座長
「あぁ、もういいかなぁ」って。
別に「やりきったー!」とかそういうことじゃなくて、
「あぁ、もういいかなぁ」って。
宝来
うーん、わかるような、わからないような‥‥。
座長
「もういいかな」っていうことを明確にするために
最終公演をやったんじゃないかな、と思う。
自分の中に「もういいかな」っていうのがあるんだけど、
ずっとやってきたことをやめる決断への
なんとなくのぐずぐず感も一緒にあって。
着地点をつくるというか、
自分の中の「もういいかな」っていうのを
形にしたかったんじゃないかな。
宝来
あぁ、ひとつの節目として。
座長
別にそれってマイナスの感情でもなくて、
プラスの感情でもなくて、
ただ単に、「あ、もういいかな」って。
達成感があって「よし!もういいかな!」とか、
「嫌だー!もういいかなぁ~」っていうのじゃなくて、
「あ、もういいかな」って。
宝来
ポジティブもネガティブもない、自然に出た感覚なんですね。
座長
うん、本当にゼロ。フラットな状態なの。
その「もういいかな」をなにかしら形にしたのが
最終公演だと思う。
もうちょっといい格好しようと思って言うなら、
まわりの人たちにも、その区切りの「点」を見せたかった。
宝来
区切りとして、ピリオドを打つ、みたいな「点」ですよね。
座長
そうそう。もうこれが最後だからね、って。
劇団員に「今まで一緒によくやってきてくれたね」って、
見に来てくれたお客さんにも
「どうも今までありがとうね」って。
そういうのを伝えたかったっていうのが、
「もうちょっといい格好しよう」の言葉かな。
宝来
あぁ、はい。
座長
それをもっと格好つけていえば「感謝」とか、
「ありがとう」を伝えたかったということかもしれないし。
言葉を変えればね。
宝来
そっか。そうですね。
座長
でも、本当のことをいえば
自分が「もういいかな」っていうのを形にしたかった。
手の上に乗せるみたいに、
質感というか体感として自分に味あわせたかったんだね。
宝来
たぶん、どっちも本当だけど、
座長の本心としてはそうなのかもしれないですね。

(つづきます)

第3回 「本当」じゃない理由