- 宝来
-
今回、あらためて劇団の話を聞きたいんですが、
いいですか?
- 座長
-
それはいいけど、宝来ちゃんは演劇を経験したのって
めちゃめちゃ面白い経験だったんじゃない?
- 宝来
-
そうですね。
なにもわからない状態で飛びこんだので(笑)。
- 座長
-
まわりの人があまり経験しないことなんだから、
私の話よりもそっちの話のほうが面白いんじゃないの?(笑)
- 宝来
-
いやいや(笑)。今回は座長の話を聞かせてください。
私、今30代なんですけど、
座長は30代の頃に劇団を立ち上げたんですよね?
- 座長
- うん、そうね。
- 宝来
-
そこから40代、50代って
ずっとやり続けてきたわけですけど、
最後、迷いなく解散しましたよね?
それがずっと不思議だったんですよ。
- 座長
-
あ、本当? そう?
でも、お客さんとか他の劇団員からは
解散した後もずっと言われてたね。
「もうそろそろ、舞台しないの?」って言われては、
「だからしないって」って(笑)。
- 宝来
-
そこが、本当に未練がないというか、
スパッと割り切ってるなぁと。
- 座長
-
あんまりものに執着しないからかなぁ。
例えば、積み上げてきた実績とか、そういうことに‥‥。
- 宝来
- あぁ、それはなんか、座長を見てるとなんとなくわかります。
- 座長
- あ、わかる?
- 宝来
-
もとは子ども向けだった劇団を
「大人が楽しめる演劇もやりたい」って
途中から方向転換したのもすごいと思ってたので。
- 座長
-
子ども向けの劇団としてそこそこ有名になってきてたから、
あのまま続けてたらまた違う形になってたかもね。

- 宝来
-
その、最終的に20年くらいやってた劇団をやめるって
決めたのはなんだったんですか。
理由というか。
- 座長
-
やめた理由?
‥‥なんかやっぱり、自分でわかったんじゃないかなぁ。
- 宝来
- 引き際、みたいなことですか?
- 座長
-
「あぁ、もういいかなぁ」って。
別に「やりきったー!」とかそういうことじゃなくて、
「あぁ、もういいかなぁ」って。
- 宝来
- うーん、わかるような、わからないような‥‥。
- 座長
-
「もういいかな」っていうことを明確にするために
最終公演をやったんじゃないかな、と思う。
自分の中に「もういいかな」っていうのがあるんだけど、
ずっとやってきたことをやめる決断への
なんとなくのぐずぐず感も一緒にあって。
着地点をつくるというか、
自分の中の「もういいかな」っていうのを
形にしたかったんじゃないかな。
- 宝来
- あぁ、ひとつの節目として。
- 座長
-
別にそれってマイナスの感情でもなくて、
プラスの感情でもなくて、
ただ単に、「あ、もういいかな」って。
達成感があって「よし!もういいかな!」とか、
「嫌だー!もういいかなぁ~」っていうのじゃなくて、
「あ、もういいかな」って。
- 宝来
- ポジティブもネガティブもない、自然に出た感覚なんですね。
- 座長
-
うん、本当にゼロ。フラットな状態なの。
その「もういいかな」をなにかしら形にしたのが
最終公演だと思う。
もうちょっといい格好しようと思って言うなら、
まわりの人たちにも、その区切りの「点」を見せたかった。
- 宝来
- 区切りとして、ピリオドを打つ、みたいな「点」ですよね。
- 座長
-
そうそう。もうこれが最後だからね、って。
劇団員に「今まで一緒によくやってきてくれたね」って、
見に来てくれたお客さんにも
「どうも今までありがとうね」って。
そういうのを伝えたかったっていうのが、
「もうちょっといい格好しよう」の言葉かな。
- 宝来
- あぁ、はい。
- 座長
-
それをもっと格好つけていえば「感謝」とか、
「ありがとう」を伝えたかったということかもしれないし。
言葉を変えればね。
- 宝来
- そっか。そうですね。
- 座長
-
でも、本当のことをいえば
自分が「もういいかな」っていうのを形にしたかった。
手の上に乗せるみたいに、
質感というか体感として自分に味あわせたかったんだね。
- 宝来
-
たぶん、どっちも本当だけど、
座長の本心としてはそうなのかもしれないですね。
(つづきます)