田中さんの「書く」をめぐる冒険田中泰延×糸井重里
担当・曽根千智
第6回 ご近所の人気者になりたい
- 糸井
-
「グルッと回って結論は?」ってなると、
「ご近所の人気者」っていうところへ行くんだよ。
- 田中
-
「ご近所の人気者」。
- 糸井
-
「ご近所の人気者」っていうフレーズは、
『じみへん』で、中崎タツヤさんが書いた言葉なんですよね。
- 田中
-
なるほど。
- 糸井
-
凄味がありますね。
もう1つ、中崎さんので永遠に忘れまいとしたのがあって。
男が出てきて、お母さんがやってることが、
すごく馬鹿に見えるんですね。庶民の家ですから。
で、馬鹿さ、くだらなさ、弱さ、下品さみたいなものに
腹が立って、「母さんは、何かものを考えたことあるの?」と
もう怒りのようにぶつけるんですよ。
もう、つまり、自分の血筋に対する怒りですよね。
- 田中
-
はい、はい。
- 糸井
-
そうすると、お母さんが、
「あるよ。寝る前にちょっと」って言うんですよ。
- 田中
-
(笑)
- 糸井
-
これ、涙が出るほどうれしかったです。
- 田中
-
それは素晴らしい。
- 糸井
-
で、僕は「寝る前にちょっと」を探す人なんです。
「みんなこうしろ」とも言えない。
俺は探したんだもん、だって、それを。
で、今の泰延さんのこの、青年、青年‥‥、
なんだっけ、扶養者じゃなくて(笑)
- 田中
-
「青年失業家」。
- 糸井
-
失業家(笑)。
なんていうかな、自転車でランニングの人のね、
横にいる自転車の人みたいな。
- 田中
-
あぁ、伴走してる。
- 糸井
-
気持ちで見るわけです。
で、「どうなの?」みたいな(笑)。
- 田中
-
本当ですね。
でも、「青年」と勝手に名乗ってますけど、
- 糸井
-
27歳ですからね。
- 田中
-
27歳、心は。
ただ、会社を辞めた理由の1つには、とは言いつつ、
人生、すごい速く感じてきたなと思って。
20代の頃と40代を比べたら、もう倍以上。
日が暮れるのも早くなるし。
だから、祖母が死ぬ前に言った、忘れられない一言があって。
80いくつで死んだ、うちの祖母がね、こう言ったんですよ。
「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
その一言でものすごい時間をね(笑)
- 糸井
-
素晴らしい。
- 田中
-
60何年のこの時間をピョーンって、
そりゃあ速いわなぁっていう。
- 糸井
-
それ、泰延さんが言うより、
俺、もうちょっと深くわかりますね。
- 田中
-
僕まだね、実感がない。
「この間18やったのに、もう80や」って、その1行でね(笑)。
- 糸井
-
あいたたたた(笑)。
- 田中
-
「はやっ!」って。そうなんです。
- 糸井
-
それですよ。
で、それは翻って、「ご近所の人気者」の話なんですよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
だから、一番近い所で僕のことを人体として
把握している人たちが、「ええな」って言う、
「今日も機嫌ようやっとるな」って言う、お互いにね。
- 田中
-
はいはい。
- 糸井
-
ここにやっぱり落ち着けたくなってしまう。
で、それをご近所のエリアが、本当の地理的なご近所と、
気持ちのご近所と、両方あるのが今なんでしょうね。
- 田中
-
あぁ。でも、その、やっぱりそのネットを介したり、
印刷物を介したりするけど、その「ご近所」っていうのは、
フィジカルなことが、すごい大事だと思ってて。
- 糸井
-
大事ですね。
- 田中
-
これも、1週間前に、糸井さんの楽屋に、
大阪のロフトにちょっと5分だけでも訪ねていく。
で、今日がある。
と、全然違うんですよね、やっぱり。
- 糸井
-
(笑)
- 田中
-
何かね、ちょっと顔見に行くとか、ちょっと会いに行く。
やっぱりその身体性が、すごい大事だなと思って。
- 糸井
-
うんうん。
と、1時間の予定のところを2時間。
収まらないよ、やっぱり(笑)
お疲れ様でした。
今日はどうもありがとうございます。
- 田中
-
ありがとうございました。