もくじ
第0回冒険のはじまりのはなし 2017-03-28-Tue
第1回まったく無関係なことをたくさん書いた 2017-03-28-Tue
第2回発信ではなく受信してるんです 2017-03-28-Tue
第3回偉そうくならない 2017-03-28-Tue
第4回僕はお話しがしたいんです 2017-03-28-Tue
第5回アマチュアはいいとこ取り? 2017-03-28-Tue
第6回ご近所の人気者になりたい 2017-03-28-Tue

外にからだを開いた文章を書きたいです。ちょっと高い牛乳を買ってみる、終電で映画を観に行くなど、ささやかな挑戦の味が好き。

田中さんの「書く」をめぐる冒険</br>田中泰延×糸井重里

田中さんの「書く」をめぐる冒険
田中泰延×糸井重里

担当・曽根千智

「信じられないくらい長いのに、その8割が映画に関係ない」

7000字におよぶその映画評を書いた人、それが田中さんです。
自由で、気ままで、正直で。でも、すごくおもしろい。
脱線に次ぐ脱線に振り回されながら、それでもにんまりしてしまう、
このおもしろさの正体は、なんなのか。

24年間勤められた広告代理店を辞め、
今あらためて「書く」と向き合う田中さん。
でも、実は書きたいことなんてない?
「僕はおしゃべりしたい」ってどういうこと?

「書く」をめぐる、冒険のはじまり。
糸井重里が伴走します。

プロフィール
田中泰延さんのプロフィール
糸井重里さんのプロフィール

第1回 まったく無関係なことをたくさん書いた

糸井
僕、田中さんのこと、なんか書く人っていうふうな認識、
何もなかったですけど。
田中
はい。
糸井
東京コピーライターズクラブのリレーコラム、
誰かがちょっと紹介していて、それで知って。
 
それまで田中泰延名義で、
ああやって個人の何かを書くことはなかったんですか?

田中
一切なかったんです。
糸井
(笑)
田中
で、あのう、僕たち、広告の仕事だと、
キャッチコピー20文字、ボディコピー200文字とか、
それ以上長いものを書いたということが、
もう人生にはないですから。
一同
(笑)
田中
それまで一番長かったのが、大学の卒論で。
これは人の本の丸写しですから、書いたうち入らないですね。
芥川龍之介の『羅生門』の小説だけで200枚くらい書きました。
糸井
切ったり貼ったり?
田中
切ったり貼ったりして。
でも、その時に担当教授にそれを見せたら、
「とりあえず卒業させてあげますけど、私は知りません」
って言われたんですよ。
まぁ、その切ったり貼ったりが、
とんでもない所から切ったり貼ったりしよう
という意識はあったんです。
糸井
あぁ。
田中
ほんの1行、「きりぎりすが泣いている」っていうのがある。
それに関しては、「じゃあ、なんていう種類のきりぎりすが、
この1100年代くらいの京都にはいるか」とか、
まったく無関係なことをたくさん書いたんですね。
糸井
はいはい。
田中
だから、今にちょっと近いかもしれない。
糸井
それしか書いてないんですか?
田中
それしか書いてない。
糸井
ラブのレターとか?
田中
まったくもう、苦手で。
2010年にツイッターに出会ってからですね。
140文字までしか書けないので、広告を書いてる身としては、
こんな楽なんだっていうことで始めたんです。
糸井
ちょうどいいんですよね。
田中
はい。
 
で、ある時、そのコラムやツイッターなんかを見た人から
連載を頼まれまして。
「分量はどれくらいで?」って聞いたら
「ツイッターでも2、3行で映画評をしていることもあるので
2、3行でいいです」と。
糸井
(笑)

田中
映画を観て次の週にとりあえず7,000字書いて送りました。
一同
(笑)
田中
2、3行のはずが7,000字になってたんですよね。
糸井
で、その最初に書いた映画はなんだったんですか?
田中
『フォックスキャッチャー』っていう、
わりと地味な映画なんですけど。
糸井
あぁ。
田中
オリンピックのコーチが、選手を自分の所で育ててるんだけど、
それが男性間の愛憎の乱れにっていう実話なんですが。
それを観て、2、3行書くつもりだったんですよ。
そうしたら、初めて、勝手に無駄話が止まらない
という経験をしたんですよね。
糸井
あぁ。
田中
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
糸井
うれしさ?
田中
なんでしょう。
「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」とか
想像すると、ちょっと取り憑かれたようになったんですよね。
糸井
あぁ。一種こう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
田中
あぁ、そうですね。
糸井
頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし、
本当にそこの幸運はすごいですねぇ。

田中
その後、雑誌に頼まれて寄稿っていうのもあったんですけど、
雑誌は、それに対して僕に直接「おもしろかった」とか
「読んだよ」とかないので、印刷されて本屋に置いてあっても、
なんかピンと来ないんですよね。
糸井
はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
田中
反応がないというのが。
糸井
若くないのに、そのね。
一同
(笑)
田中
45歳にして(笑)。
糸井
いや、でもその逆転は、25歳の人とかが感じてることですよね。
田中
そうですね。
糸井
はぁ、おもしろい。そんなの、すごいことですね。
だって、酸いも甘いも、40いくつだから
一応知らないわけじゃないのに。
田中
シャイな少年みたいに、ネットの世界に入った感じですね。
糸井
コピーライターズクラブのちょっとした文章って、
あれは、嫌じゃなかったんですか?
田中
もう、初めてのことなんで、
「あ、なんか自由に文字書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。
糸井
新鮮ですねぇ。あぁ、それはうれしいなぁ。
田中
糸井さんは18年間、毎日やってらっしゃるわけでしょう?
糸井
(笑)
田中
休まずに。

糸井
うーん‥‥、お互いにやってからだと言えることだけど、
たとえば、松本人志さんがずっとお笑いやっているのと同じで、
「大変ですね」って言われても、
「いや、うん、大変?みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
田中
「みんな大変だろう」って(笑)。
糸井
野球の選手は野球やってるし、あえて言えば、
休まないって決めたことだけがコツなんで、
あとは、なんでもないことですよね。
仕事だからね、おにぎり屋さんはおにぎり握ってるしね。
田中
なるほど。
糸井
たぶん田中さんはいま、そうだと思うんですよね。
田中
大してね、食えないんですよ。これが。
これからの時代、コンテンツ、文章っていうのを
お金を出して読もうっていう人がもうどんどん減るから、
何を書いても生活の足しにはならないので。
糸井
ならない。
田中
で、前は大きい会社の社員で、
夜中に仕事終わった後書いてましたけど、
辞めた今はそれを書いても生活の足しにならないから、
じゃあ、どうするんだ?と。

糸井
イェーイ(笑)。
田中
とはいえ(笑)。
糸井
僕、いま27歳と話してますね。
田中
そうですね。
糸井
そうだね(笑)。
「誰かに相談したの、それは」?
田中
すごい、悩み相談、若者の(笑)。
糸井
愉快だわ(笑)。
田中
ただ、僕の中では相変わらず、
未だに、何かを書いたからお金ではなく、
「おもしろい」とか「この結論は納得した」とか
その声が報酬になってますね。
家族はたまったもんじゃないでしょうけどね、それが報酬だと。
糸井
だけど、自分が、文字を書く人だとか、
考えたことを文字に直す人だっていう
認識そのものがなかった時代が20年以上あるっていう、
不思議ですよね。
「嫌いだ」とか「好きだ」とかは思ってなかったんですか?
田中
読むのが好きで。
糸井
あぁ。
田中
「ひたすら読んでました」っていうのはあったんですけど、
それで自分がまさかダラダラと何かを書くとは夢にも思わず。

糸井
うーん、こういう表現は初めてしたんでわかんないけども、
読み手として書いてるっていうタイプの人がいる。
自分にもちょっとそういうところがあって。
コピーライターって、書いてる人っていうより、
読んでる人として書いてる気がするんですよ。
田中
はい、すごくわかります。
糸井
だから、視線は読者に向かってるんじゃなくて、
自分が読者で、自分が書いてくれるのを待ってるみたいな。
田中
おっしゃるとおり、いや、それすごく、すっごくわかります。

             (つづきます)

第2回 発信ではなく受信してるんです