- 糸井
-
書き手も2つ方向があって、
書いたりすることで食っていけるようにするっていうのが、
いわゆるプロの発想。
それから、書いたりすることっていうのが、
食うことと関わりなく自由であることで書けるから、
そっちを目指すっていう方向と、2種類分かれますよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
僕もきっとそれについては
ずっと考えてきたんだと思うんですね。
で、僕はアマチュアなんですよ。
つまり、書いて食おうと思った時に、
俺はなんか自分がいる立場が、なんかこう、
つまんなくなるような気がした。
いつまで経っても旦那芸でありたいっていうか、
「お前、ずるいよ、それは」っていう場所からいないと、
いい読み手の書き手にはなれないって思ったんで、
僕はそっちを選んだんですね。
で、田中さんはまだ答えはないですよね。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- どうなるんだろうねぇ。
- 糸井
-
アマチュアであることとね、「ご近所感」ってね、
結構ね、隣り合わせなんですよ。
で、アマチュアだってことは、
変形してないってことなんですね。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- プロであるってことは、変形してる。
- 田中
- 変形?
- 糸井
-
つまり、これは吉本さんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、
「自然に人間は働きかける。働きかけた分だけ自然は変わる」。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
「それは作用と反作用で、
変わった分だけ自分が変わっているっていうのが、
これはマルクスが言ったんですね」と。
で、「何かするっていうのはそういうことで、
相手が変わった分だけ自分も変わっているんだよ」と。
だから、その意味では、プロはもうアマチュアに
戻れないだけ体が歪んじゃってるわけです。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
-
でも、どの部分で歪んでないものを
維持できているかっていうところに、
もう1つ、「ご近所の人気者」っていうのが。
- 田中
- なるほど(笑)。
- 糸井
-
だから、心の中に置いておいて、
「お前、そんなことやってると、笑われるよ」と。
そういうのが持ち続けられるかどうか。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
うち、夫婦ともに、たぶんアマチュアで。
「プロになるスイッチ」を時限スイッチみたいに入れて、
で、その仕事終わったら、アマチュアに戻る。
だから、なんだろう、そういうタイプの人は、
世の中にやっぱりいて、それはプロから見たら、卑怯ですよね。
- 田中
- うーん‥‥。
- 糸井
-
「あんた、いいとこ取りじゃない」みたいな。
でも、スイッチ換えて、仕事を両方っていうか、
2つの人格をするって、
なかなかしんどいし心臓に悪いんですよね。
だから、アマチュアは体力要るんですよね。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
だから、アマチュアである人のほうが、
プロだと「次もあるから、それやっちゃだめだよ」
っていうことを考えたり、
「そこで120パーセントも出したら、
そういうイメージが付いちゃうから、もうだめだよ」
みたいなことをへっちゃらなんですよね、アマチュアって。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
で、たぶん、カミさんとかはそれをやってる人なんで、
僕はそこでもっとすごいことしてるなぁと思うから、
自分がアマチュアでいられるんでしょうね。
「プロって弱みなんですよ」
と肯定的にも言えるし、否定的にも言える。
ただ、「何でもない人として生まれて死んだ」っていうのが、
人間として一番尊いことだっていう価値観は、
僕の中にはどんどんこう、強固になっていきますね。
(つづきます)