- 糸井
-
視線は読者に向かってるんじゃなくて、
自分が読者で、自分が書いてくれるのを
待ってるみたいな。
- 田中
-
おっしゃるとおり、
いや、それすごく、すっごくわかります。
- 糸井
- これ、お互い初めて言い合った話だね。
- 田中
- いや、そんな、ねぇ、糸井重里さんですよ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- いやいや。
- 糸井
- これ説明するのむずかしいですねぇ。
- 田中
-
むずかしいですね。
でも、発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
-
受信してるんです。
で、自分に言うことがない人間は書かないって
思ってたら大間違いで。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
-
読み手というか、「受け手であるっていうことを、
思い切り伸び伸びと自由にこう、味わいたい!」って思って、
「それを誰がやってくれるのかな」「いや、俺だよ」っていう。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- あぁ、なんて言っていいんだろう、これ。
- 田中
-
なんでしょう。
その、映画を観るとしますね。
次にいろんな人が今ネットや雑誌で評論をするじゃないですか。
そうしたら、「何でこの中に、この見方はないのか?」。
それを探してあったら、もう自分書かなくていいんですけど、
「この見方、なんでないの?じゃあ、今夜俺書くの?」
ということになるんですよね。
- 糸井
-
あぁ、俺、なんであんなに田中さんの文章が
おもしろいかっていうの、今やっとわかった。
広告屋だったからだ。
因果な商売だねぇ。
- 田中
-
そうなんです。
広告屋はね、発信しないですもんね。
- 糸井
-
しない。
でも、受け手としては感性が絶対にあるわけで。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
俺の受け取り方っていうのは、
発信しなくても個性なんですよね。
で、そこでピタッと来るものを探してたら、
人がなかなか書いてくれないから、
「え、俺がやるの?」っていう、
それが仕事になってたんですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- 自分がやってることも、今わかったわ。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 僕ね、嫌いなんですよ、ものを書くのが。
- 田中
- わかります。
- 糸井
- 前からそう言ってますけど(笑)。
- 田中
-
僕もすっごい嫌(笑)。
みんな嫌なんですよ、本当に。
- 糸井
-
「じゃあ、自分ってないの?」っていう問いは、
何十年としてきたと思うんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
で、たぶん僕もそうですし、田中さんも、
「お前って、じゃあ、何も考えもないのかよ」
っていうふうに誰かに突きつけられたら、
「そんな人間いないでしょう」っていう一言ですよね。
そこを探しているから、日々生きてるわけでね。
- 田中
-
あのぅ、糸井さん、ご存じかどうかわからないけれども、
糸井重里botっていうのがあって。
糸井さんの言った言葉を発する、ちゃんとしたbotではなく、
糸井さんふうに物事に感心するっていうのがあるんですよ。
だから、いろんなことに関して、
「いいなぁ、僕はこれはいいと思うなぁ」と(笑)。
- 糸井
- あぁ、あぁ。
- 田中
-
つまり、糸井さんのあの物事に感心する口調だけを
繰り返しているbotがあるんですよ(笑)。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
- で、「僕はこれは好きだなぁ」。
- 糸井
- そればっかりですよ、僕もう。
- 田中
-
ですよね。だから、そのbot、すごいよくできてて、
何に関しても、「僕はそれいいと思うなぁ」。
- 糸井
- だいたいそうです。
- 田中
-
「好きだなぁ」。
でも、その時に何か世の中に対して、たとえば、この水でも、
「この水、このボトル、僕好きだなぁ」っていうのを
ちょっとだけ伝えたいじゃないですか。
相手に、「僕これを心地よく今思ってます」って。
- 糸井
-
そうですね。
それは他のボトル見た時には思わなかったんですよ。
- 田中
- ですよね。
- 糸井
-
で、そのボトル見た時に思ったから、これを選んだ。
でも、また選んでいる側ですよ。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
受け手ですよね。
で、あえて、なんでいいかっていうのは、
僕自分に宿題にしているんですよっていう。
で、いずれわかったら、またその話をする(笑)。
で、これはね、雑誌の連載ではできないんですよ。
インターネットだから、いずれわかったときに
わかったように書けるんですよね。
- 田中
-
でも、とりあえず、その日は、とりあえず
「これがいいなぁ」ってことをまず伝えることができますよね。
- 糸井
- そうです、そうです。
- 田中
-
で、それは、「前もちょっと話したけど、
ツラツラ考えて、何がいいかわかった」
って話がまたできるんですね。
- 糸井
-
そうです。
だから、やりかけなんですよね、全部がね。
田中さんがやっているのも
だいたいパターンはそれですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
はぁ‥‥。
このことをね、言いたかったんですよ、僕、ずっとたぶん。
自分がやっていることの癖だとか形式だとかっていうのが、
まぁ、飽きるっていうのもあるし、
それから、なかなかいいから応用しようっていうのもあるし、
そこをずっと探しているんだと思うんですね。
田中さんは、じゃあ、その、
そこで付けてしまった癖が20何年分あって、
- 田中
- はい。
- 糸井
-
で、自分が名前で出していくっていう立場になって、
これ変わりますよね、自分。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- (笑)
- 田中
-
これがむずかしい。今、青年として、
「青年失業家」として、岐路に立っているのは、
やっぱり会社でコピーライターをやっている、
そのついでに何かを書いてる人ではなくなりつつあるので、
じゃあ、どうしたらいいのかっていうことで。
すごい岐路に立っているんですね、今。
(つづきます)