- 糸井
-
吉本ばななさんが、
「糸井さんは、もう本当にいろんなものから
吹っ切れているようだけど、やっぱりちょっと、
作家を偉いと思ってる」
「それはものすごく惜しいことだと思う」
っていうのを、ポロッと言ったんだよね。
- 田中
- あぁ、あぁ。
- 糸井
-
拍手してる自分に、力がこもっちゃうのかなぁ。
だから、絵描きにも拍手するし、
映画作ってる人にもするんだけど、
やっぱり表現者に対する拍手が
ちょっとでかすぎる、みたいな。
- 田中
- はぁ、なるほど。
- 糸井
-
もっとしょうもないものへの拍手っていうのが
同じ分量でできてるはずなのに、
人に伝わるのはね、やっぱり表現者に対する拍手だから、
そこはしょうがないのかなぁ。
でも、自分の仕事やろうって思うんですよね。
わかんない。
「これいいなぁ」っていうのの、
うーん‥‥、「これいいなぁ業」ですよね。
- 田中
-
はい。
もう、「これいいなぁ」ですよ、本当に。
- 糸井
-
それですよねぇ。
それで表現者はやっぱり、文壇だとか
表現者の集いの中での、サロンの人ですよね。
- 田中
-
そうですね。
閉じられた中で、「あの人は偉大であった」と言うこと。
- 糸井
-
それは居心地がよさそうだなっていうのは思うんだけど、
趣味のいい暮らしをするみたいになっちゃうのがなぁ。
僕としてはもっと下品でありたいというか(笑)
- 田中
-
だから、永遠に馬鹿馬鹿しいことをやるっていうのは、
これは一種の体力ですよね。
- 糸井
- 体力ですね、そうですね。
- 田中
-
でも、これをやらないところに陥った瞬間、
偉そうな人にやっぱりなるんで。
いや、前ね、吉本さんのお話でしたっけね、
お花見の時の。
- 糸井
- うんうん。
- 田中
-
午前中から、吉本隆明さんが
いろいろセッティングをしていると。
- 糸井
-
そう。自転車でブルーシートを背中に背負って、
1冊そこで読む本を持って。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
俺は度忘れしてるんだけど、そこに1人で行って、
場所取らなきゃいけないから、
全部ブルーシートに石を置いて。
で、自転車止めて、夜、人が集まるまで本読んでるんです。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- うーん‥‥、すごいねぇ。
- 田中
- すごいですね。
- 糸井
- たしか鍋のセットか持って行ったんじゃないかな。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
でも、鍋が上手じゃなくて。
鍋の具材を、「さぁやろう」っていう時に火が点いて、
グツグツ言い出すと、一遍に入れちゃう。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- それで、「ちょっと、吉本さん、それはどうかと思いますよ」。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
「あぁ、そうか、そうか」って言うんですよ。
だいたい「そうか、そうか」っていうことで、
すぐ謝っちゃうんです。
- 田中
- すぐ謝る(笑)。
- 糸井
-
いや、そういう見本を見てたせいがあると思う。
間違わない場所みたいなのを、
僕はなんか吉本さんを見てたのが、
すごいでかいような気がしますね。
- 田中
-
そうだね、本当にすごい大事なことで、
「偉そうくならない」
これは大阪弁ですけど、「偉そうくならない」って、
すごい大事だなって。
- 糸井
-
だから、「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」って
思いつくまでは書けないわけで。
だから、僕、結構金のかかるコピーライターで、
車の広告するごとに1台買ってましたからね。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
-
だから、「いいぞ」って思えるまでが
やっぱりちょっと大変っていうか、
だから、どこかでやっぱり受け手であるっていうことに
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
(つづきます)