酒がぜんぜん飲めないのに、
酒蔵の仕事がつとまるのか
不思議に思う人もいるかもしれません。
たしかに、僕の仕事は、
酒を口にしなくてはならない機会が
けっこうあるし、
たいへんなときがないといったら
嘘になります。
味わいを判定するときには
利き酒をしなくてはならず、
飲みこむことはしなくても、
ずーっとつづけていると
香りだけで酔ってきて
正直、しんどいです。
まだ経験はないですが、
何百種類もの日本酒を利き酒する
コンテストの審査員には、
残念ですがなれる自信がありません。
お世話になっている、
取引先の方々と飲まなくてはならないときや、
酒のイベントの打ち上げでは、
ひたっすらチェイサーに水を飲んで
なるべく酔わないように気をつけています。
(こっそり吐いちゃうこともあるけど)
というように、
僕はからきし飲めない体質なのですが、
だからこそ日本酒の味には敏感だと思っています。
ちょっとの雑味や、
マイナスだと感じる味わいも
見逃せなくて。
僕がつくりたいのは、
ものすごくきれいな味です。
そんな酒をつくるために、
お金はかかるけれど建物を新しくしたり、
いい機械があれば積極的に
導入したいと考えています。
でも、それだけじゃなくて、
何年も使えるように
きちんとメンテナンスしたり、
錆びつかないように手入れは欠かせません。
清掃だって徹底的にやります。
あらゆるところを毎日拭いていますし、
壁や床がサラサラしていないと許せないんです。

だって、きれいな酒をつくりたいのに、
酒蔵がきれいじゃなかったら
嘘くさいじゃないですか。
すべてにおいて言い訳するような、
嘘くさいことって僕はやりたくなくて。
そんなことやっているような、
情けない自分はイヤなんですよ。
思うに、
酒づくりって
できるできないじゃなくて、
やるかやらないのかの二択しかないし、
その繰り返しが大切だと思うんです。
やりたいけれどできるかわからないから、
どうしようか悩んだり諦めるんじゃなくて、
やると決めたらやれるように
ひたすらがんばる。
僕は理想とする酒をつくるために
いいと思ったことは、
とにかく何でも取り入れて、
やってみるようにしています。
じゃないと、
他の蔵にクオリティが負けちゃうとか、
いつか日本酒の世界から
はじき出されてしまうかもしれないって、
恐怖感があって。
ちょっと考えすぎかなと
思うこともあるのですが。
どうやったらもっとおいしくなるのか、
寝ても覚めても
トイレに入っていても
ずっと考えつづけてしまいます。
(つづく)
