最近は日本酒を取り上げるマスコミも増え
知名度も人気も高まってきています。
若い男女でも飲む人がたくさんいます。
でも、私がのめり込むほど好きになった15年前の世間では、
日本酒がほとんど注目されていませんでした。
焼酎ブームがつづいていた時期だというのもあります。
もちろん、おいしい日本酒はありましたが、
まだまだ一部の愛好家が熱心に飲むお酒で
20代前半の私のような人はまず見当たりません。
正直なところ、
日本酒業界には厳しい人たちがいまよりずっと多かった。
当時はチクショーと悔しかったことでもありますが、
日本酒の仕事を本気でしたいのか
回りくどく試される機会もけっこうありました。
日本酒についてあれこれ質問攻めにされたり
大吟醸はまだお前には早いとか言われたりして。
20代前半という年齢の若さもあったと思います。
でも、よくよく話してみると
その厳しさはお酒を愛するがゆえだったことが多く
熱心に日本酒の辿ってきた歴史について教えてくれたり
酒蔵や酒屋を紹介してくれる年上の人たちもいました。
日本酒をもっとみんなに飲んでもらえるように
一緒にがんばろうと声をかけてくれる人もいて。
だからこそ私は「日本酒をもっと広めたい」という想いを
募らせていきます。
酒蔵で日本酒を造る多くの人の
ひたむきな姿を見る機会が増えたのも大きかった。
働いている店に来てくれるお客さんには
お酒を注ぐだけではなく日本酒に関わる人たちの
背景を伝えようと余計に熱が入ります。

ところが、店の一歩外に出れば
どんなにすすめても「すぐ酔うから苦手」とか
「翌日に残る」などと言って日本酒を飲まない人たちが多く
私の欲求不満は溜まっていきます。
なんでこんなにおいしいのに飲んでくれないの、と。
また、どの日本酒のイベントに行っても
日本酒専門店に行っても愛好家の顔ぶれがほとんど変わらず
あまりファンが増えていないことに対して
危機を感じていました。
そして、毎日のように日本酒の魅力を
どうやってたくさんの人に伝えていけばいいか
頭が割れるほど考えた末に「ライターになろう」と
とつぜん、思いつきました。
雑誌という誌面を通じてならば
多くの人たちに日本酒のことを伝えられるかもしれない。
私は無謀にも考えたのです。
人に読ませる文章など書いたことがないのに。

（つづく）