ミリオンセラーの、あとの景色は。

第8回 そうなろうとするから、そうなっていく。
- 糸井
- そろそろ、締めましょうか。
仕事が辛いで終わるもの、あれですし(笑)

- 古賀
- 最後にひとつ、お聞きしても良いですか?
- 糸井
- ええ。
- 古賀
- 先日、『今日のダーリン』で、
「3年後の話」というのを、書かれてましたよね。
- 糸井
- あれ、ビリビリくるでしょ。
書いた俺も、ビリビリ来たの。
- 古賀
- すごく、ドキッとしました。
まず前提として、
見えもしない10年後や
20年後を語りたがる人って…

- 糸井
- いますね、いる。
前提として、それは嫌ですよね。
- 古賀
- でも、そういう人たちって、
結構たくさんいると思うんです。
年齢に関係なく、若い人にも、
ある程度歳を重ねている人にもいて。
- 糸井
- 語ること自体で、満足しちゃうからね。

- 古賀
- それが嫌だというのもあって、
僕は今までどちらかというと、
一年先も何があるか分からないのに、
三年先のことなんて分からないよ、
という立場だったんです。
今日と明日を、一所懸命にしたいというか。
- 糸井
- ええ。
- 古賀
- でもそこで、
あの『今日のダーリン』を読んで、
ものすごくハッとしたというか…

- 糸井
- そうだったんですか。
- 古賀
- あそこに書かれていたように、
たとえば、結婚をしたい相手に、
「3年先のことはわからない」と言えるだろうか、
なんてことを、深く考えると…
- 糸井
- ね(笑)

- 古賀
- 少なくとも、
3年後はこっちに向かっていたいとか、
あっちに向かっていたいとか、
そういう「大きなハンドル」は
切れるんじゃないかと思って。
- 糸井
- それを僕は、今の年になって、
ようやく分かったわけです(笑)
- 古賀
- いやぁーー…
あれはほんと、ビリビリきました。

- 糸井
- ちょっと似た話で思い出すのが、
吉本隆明さんが生前、
なにか善いことをしてるときは、
ちょっと悪いことをしてると思うくらいでちょうどいい、
ということを、仰っていたんですね。
- 古賀
- はい、はい。
- 糸井
- それに関してね、
何よりも吉本さん自身が、
そうしようと思って生きていた、
ということが、わかるんです。
- 古賀
- 吉本さんご自身が?
- 糸井
- うん。
吉本さんちの奥さんはね、
吉本さんを「ニセモノ」って言うんです。

- 古賀
- ニセモノ…
- 糸井
- 吉本さんのお父さんは「ホンモノ」だったと。
あのお父さんは本当にいい人だったけど、
うちのお父ちゃん、つまり吉本さんは、
そうなろうと努力してなってるから、
ホンモノじゃないって言うんですね。
- 古賀
- …なるほど

- 糸井
- 面白いですよね。
僕にとって、手の届かないぐらい、
遠くにいる大先輩の吉本さんは、
奥さんにとっては「ニセモノ」なんです。
それについて吉本さんご本人も、
「僕はニセモノだ」なんて言っちゃうし。
- 古賀
- はあぁ…
- 糸井
- つまりね、吉本さんも、
そうなろうとしたから、
そうなっているんですよね。

- 古賀
- そうなろうとしたから、
そうなっている。
- 糸井
- うん。
あの谷川俊太郎さんも、
「僕はニセモノで、ホンモノの真似をしてる」
というようなことを、平気で言うんです。
- 古賀
- へえぇ…
- 糸井
- たぶんね、
そういう方法しかないんですよ、きっと。
「本当のことを言うニセモノ」というのが、
そうなろうとして、そうなれる場所なんです。

- 古賀
- …うん、分かる気がします。
- 糸井
- さっきの「3年後の話」も、
ちょっと似てると思うんです。
そうなろうとして、
そっちの方にハンドルを切るから、
そうなっていくというか。
- 古賀
- だから、そのハンドルを…

- 糸井
- どこに向けて、
切っていきたいか、ですよね。
- 古賀
- はい、まさしく。
いやぁ… 今日は、面白かったです。
- 糸井
- ありがとうございます。
こちらこそ、楽しかったです。
- 古賀
- ありがとうございました。
