ミリオンセラーの、あとの景色は。

第2回 その「業界のために」は、ほんとうか。
- 古賀
- それは、おいくつのときに?
- 糸井
- 30代の半ばだったかなあ…
いや、当の本人はそのとき、
自分はまさかなってるはずない、
と、思っているんですよ。

- 古賀
- でも、今振り返ってみると…
- 糸井
- うん。
自分自身に少し注目が集まり始めて、
過剰に攻撃されたり、
無視されたりということが続くと、
矛と盾で言えば盾のつもりで、
肩を張り始めるんです。

- 古賀
- …分かる気がします。
- 糸井
- 「俺はそんなところにいないよ」とか、
「俺はそんな人間じゃないよ」とか、
そういうことを、盾のつもりで、
言いたくなっちゃうんですよね。
- 古賀
- なるほど…
- 糸井
- しかも、それに加えて、
講演会に呼んでもらったり、
テレビに呼んでもらったり…
そこで必要以上の、拍手や非難を受けて。
- 古賀
- そうでしょうね。
- 糸井
- そうこうしてるうちに、
周りが褒めてくれたときに、
「そんなことないですよ」って、
言えなくなってるんです。
「言葉の魔術師だね」とか、
「天才だね」なんて言われても、
特に否定しなくなっている。

- 古賀
- …でも、糸井さんのその時期というのは、
「あえて」そうしていたという部分も、
あったりしなかったんですか?
- 糸井
- あえて、ですか?
- 古賀
- はい。
テレビも含めて、
色々なメディアに出て行ったのは、
「コピーライター」という仕事を、
みんなに知ってもらいたいという気持ちが、
あったんじゃないかと思いまして。

- 糸井
- ああーー。
その、「あえて」ですね。
- 古賀
- というのも、
今まさに僕自身、
それを考えているところなんです。
今回ヒットに巡り会えたことで、
少しずつですけど、
話を聞いてもらえるようになって。
- 糸井
- はい、はい。
- 古賀
- このタイミングで、
自分の職業である「ライター」というものを、
声高に唱えていくべきなのか。
それとも、今まで通り裏方の人間として、
面白い人たちの声をさらに大きくする、
マイクや拡声器の役に徹し続けるべきなのか。
それをちょっと、決めかねていて。

- 糸井
- うん、うん。
- 古賀
- たとえば、極端な話ですけど、
当時の糸井さんに、
コピーライターという仕事に対して、
「たった1行でそんなにお金もらえていいね」
って、誰かが言ったとしますよね。
- 糸井
- はい。
- 古賀
- そのとき、そういう言葉に対して、
「そんなことないよ」って言いたい気持ちと、
あえてその言葉に乗っかって、
「一行一千万円だからね」と言ってみる気持ち、
両方あったんじゃないかと思うんです。
- 糸井
- …いや、その気持ちはね、
自分でも果たしてどうなのか、
よく分かっていなかったですね。

- 古賀
- よく分からないまま、
そういう場面が、増えていくというか…
- 糸井
- うん。
ただ、今考えると、
「あれはうそだったかもしれないな」
という気持ちが、混ざってました。
- 古賀
- うそ、ですか。
- 糸井
- 「業界のために」という言い方を、
平気でしてしまっていたなと。