- 糸井
- 俺だって、仕事嫌いなのに、
こんなにいろいろ手出して、ね。
人から見たら、よく頑張ってるな、っていうぐらいは
やってるのって、何なんでしょうね(笑) - 古賀
- いや、本当にそれ、わからなくてですね、うーん‥‥
たとえば僕、3連休とかあったとしたら、もう、
1日半ぐらいで仕事のことを考え出しちゃうんですよね。
だけど、ワーカホリックなのかといえば、
ちょっと違うんです。

- 古賀
- ほんとに、子供の頃『ドラゴンクエスト』とか
『スーパーマリオ』にハマってたのと、
あまり変わらなくて。ドラクエにしても、
おもしろさとつらさと両方あるじゃないですか。
「なんでずっとこんなスライム(もっとも弱い部類の敵)
なんかと戦ってなきゃいけないんだ、
早く竜王(ボスキャラクター)のとこへ行きたいのに」
っていうような感覚と、結構近いんですよね。 - 糸井
- うんうん。
- 古賀
- 仕事をしていく上で、
やっていく1個1個は本当にめんどくさくて、
まるでスライムと戦うような日々なんですけど、
でも、そこやっとかないと竜王には会えないしな、とか。
ゲームって、クリアしないと気持ち悪いじゃないですか。
そのことに大きな喜びが伴うわけでもないんですが、
でも、そのクリアに向けて動いているというのが、
要は、目の前に課題があったら解かずにはいられない、
みたいな感じに近いのかなあと。 - 糸井
- それは今、会社を作ってから思ったことですか、
それとも前から同じですか。 - 古賀
- 前から同じです。
でも、前はもっと露骨な出世欲みたいなのが
あったんですよね。 - 糸井
- ひとりの方が。
- 古賀
- ひとりの方が。
ライターの中で一番になりたいとか‥‥ - 糸井
- 永ちゃんですよね。
- 古賀
- そうですね(笑)。
あいつには負けたくないとか、
そういう、小さな欲はすごくありました。
今それが同じようにあるかというと、
そこのとこで競争して消耗するのは、なんか勿体ないな、
という気持ちがあって。
結局、ひとつのところしか見えてないわけなので。
外に目を向けたときの面白さを、
今ようやく知りつつある感じですね。

- 糸井
- その意味でも、組織をつくってよかったですね。
- 古賀
- そうですね。ほんとに、はい。
- 糸井
- たぶん僕も同じ気持ちです。
さっきのヒマラヤの話じゃないけど、
仲間の喜んだ声が聞こえてくる、
というのはでかいですよね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- 昨日僕、うちのいんちきラジオやってて、
「気休めのことを、みんな悪く言い過ぎるよ」と。
気休めあってこその人生だし、人間なんだし、
たとえ気休めだったとしても、元気になれたんなら、
もうそれでいいんだよみたいな。 - 古賀
- その通りですね。
- 糸井
- 言い切っちゃって(笑)。俺なんかもう、
「気休めの鬼」を目指すって‥‥ - 古賀
- (笑)

- 糸井
- 口から出まかせで言ってたんだけど、
結構そうだなあ、と思って。
お相撲さんとか、
よく「触らしてください」とかって言われるけど。
触ったからって、何になるわけでもない(笑)。
でも触って喜んでる人はいて、
なんか、そこがちょっと似てる気がして。
お相撲さんだって、
めんどくさいなっていう気持ちもあるだろうけど。 - 糸井
- 僕は、古賀さんがやってる仕事よりは
もうちょっと、主役が自分じゃなくて、
自分が苗を植えるみたいな仕事が、増えてるんですね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- 自分が植えた苗が育って、
実った米やら果物やらを食べて喜ぶ人がいるっていう、
循環そのものを作るようになって。
そうなることで、面白さが、
飽きない面白さになったんですよ。 - 古賀
- それは、最初から、その喜びを得ようと思って
やったことじゃないですよね。 - 糸井
- 解決して欲しい問題があるからやるんだ、
っていう形はとってるけど、
でも、問題がなくても、やりたいと思うんじゃないかな。
たとえばね、近所の中学生に「時計壊れちゃったんだ」
って言われたときに、
「おじさんはね、昔時計職人だったんだよ、
貸してごらん」みたいな、そんなことのような気がする。
「どうだ、って1回だけ言わせて」みたいな(笑) - 古賀
- (笑)そうですね‥‥はい、わかります。
- 糸井
- もうそれで十分だから。
「お礼に‥‥」なんてこと言われても、
「あ、それは要らない」みたいな(笑)
その「どうだ、って1回だけ言わせて」は、
年取っても残るね。

- 古賀
- そうですね。特にライターをしていると、
目の前に編集者がいるんで、
まずはこいつをびっくりさせたいというのが
あるんですよね。
で、全然期待してなかっただろう原稿を
120点で出せたときに、「どうだ」というか、
そういう喜びはありますね。 - 糸井
- うん、何でしょうね。
あとは、昔からよく言ってるんだけど、
じぶんが死んだあとの、お通夜のエピソードで。
もう本人がいないんだから集まらなくてもいいのに、
「あの人の周りにいた友達が、
死んだときに楽しそうに集まってる」ってことで、
どのぐらい僕が楽しい人生だったか
わかるじゃないですか。 - 古賀
- そうですね、うん。
- 糸井
- そこは、ずっと思ってることですね。
家族だけで小さくやります、っていう
お葬式があるじゃない。これはこれでいいと思う。
でも俺は、それはそれとして、誰が来てもいいよっていう
お葬式を、すごく望んでるんですよね。
お葬式にかこつけて遊んで欲しいというか。
最期まで触媒でありたいというか(笑) - 古賀
- そうかそうか。確かに、結婚式って、
自分と奥さんが主役じゃないですか。
いわば「俺達をちやほやしなさい」
っていうことを強要する場で。 - 糸井
- そうですね。
- 古賀
- お通夜とかお葬式っていうのは、
もう自分はいないから主役じゃないけど、
君達は楽しんでくれ、と。それは全然違いますよね。 - 糸井
- そうですね。
お葬式用の写真を僕は、絶えず更新してますからね。 - 古賀
- (笑)そうなんですか。
- 糸井
- うん。いま2枚候補があって、
今日死ぬと、どっちかになるんです。
それはもう、周りにも言ってあって。
ものすごく楽しみにしてるんです。
その未来に向かって、今日を生きてるんですよ、たぶん。
いいものですよ、なかなか(笑)。
みんながこう、遊びに来て、集まってくれるから、
亡くなったらもうね、50円玉ぐらい包んで、こう。 - 一同
- (笑)
- 糸井
- 来てくれた人に「金で済むことなら」って。
「おお、すごい。50円か」みたいな(笑)。

- 糸井
- まあ、古賀さんも、僕の年までの間が
ものすごく長いですから、
いっぱいおもしろいことありますよ。 - 古賀
- 楽しみです。
- 糸井
- うん。楽しみだと思われるような
おじさんでいたいです。
(二人の対談はおしまいです!)

