もくじ
第1回100万部いけば、天狗になると思ってた。 2016-05-16-Mon
第2回業界のために。 2016-05-16-Mon
第3回「友達」という距離感。 2016-05-16-Mon
第4回ほんとのこと言う偽物。 2016-05-16-Mon
第5回仲間とともに、ヒマラヤへ。 2016-05-16-Mon
第6回チンケなビルも建たない金額。 2016-05-16-Mon
第7回「100万部の古賀」の次回作。 2016-05-16-Mon
第8回仲間の喜んだ声が聞こえてくる。 2016-05-16-Mon

広告制作11年目、1児の父。立浪和義が晩年、ネクストバッターズサークルに立ったときのナゴヤドームの歓声が好きでした。

ヒットがもたらす、さまざまなもの。

第4回 ほんとのこと言う偽物。

糸井
モテキ』っていう映画を撮っていたのが、
震災の頃で。監督の大根さんと話をしましたけど、
あの時期にとにかく止めずに撮影を続けるのって、
大変なことだったと思うんですよね。
止めないんだって決めるしかないわけです。
僕は、ほぼ日のごく初期の頃に、
「本気で決断したことは全部正しいというふうに思う」
みたいに書いたんだけど。
僕は『モテキ』の話を聞いたときに、
やっぱりそうだったなと思うんですよね。
古賀
うん、そうですよね。
糸井
あのとき、半端にみんなで、
被災地の物語を生ぬるく作っても、何の意味もないんで。
‥‥ある映画を作ることにお金を出すって言ってた、
その方自体はすごくちゃんとした人が、いたんだけど、
お節介にも止めたりとか、そういうの結構ありましたね。
まだ出番は来るから、みたいな言い方して。
それは、自分に対しても言ってた気がする、同時に。
そうしたくなっちゃうよな、というのもわかるし。

古賀
はい。
糸井
そのときに僕は、たとえば
「ライターだから、編集者だから
自分のできることはこういうことだ」
っていう、要は、肩書きを起点にするって発想を、
なるべくやめようと思ったんですよ、実は。
そういう経緯があって、さっきの、
ライターっていう職業をどう伝えるかという話とは、
違う考えでいるんですね。
だから、
震災のときは、個人としてどうするかっていうのを、
とにかく先に考えようと思ったんです。
じゃないと結局、職業によっては、
今はまだ何の役にも立たなくて、
なんなら来てもらっちゃ困ると
思われた可能性だってあるわけで。
古賀
そうですね、うん。
糸井
判断を間違うかもしれない、と思ったんですよね。
たとえば、僕は歌い手だからと言って、
ギターを持って出かけてった人がいっぱいいた。
だけど、その人たちに、
「君は来て欲しいけど、君は来て欲しくない」
っていう想いは、絶対あったと思うんですね。
古賀
ええ、はい。
糸井
でも、「歌い手である僕にできることは何だろう」
って発想だと、ついギター持って、行ってしまうわけで。
で、それは違うんだろうなと思って。
僕はだから、豚汁を配る場所で列を
真っ直ぐにするような手伝いとか(笑)、
そういう発想で僕らが、何をできるかみたいなことを、
できる限り考えたかったんですよね。
でもずっと悩んでました、わからなかったから。
古賀
はい、はい。
糸井
「友達に御用聞きをしよう」って、決めましたね。
震災がなくて、そういうふうに考えなかったら、
いま僕らはこんなことしてませんよ。
古賀
そうですね、うんうん。
糸井
全く、してないと思うんですね。
どうしてたんだか、わからないです。
古賀
ええ、そうですよね。
糸井
もっとつまんない、虚しい小競り合いをしたり。
あるいは、ちっちゃな贅沢、
「カラスがガラス玉を集める」みたいなことを
してたんじゃないかな。
で、それに思想を追っかけさせたんじゃないかな、
宣言して。
だけど、もたないですよね、それじゃ。

古賀
震災に関わることって、
世間的には善いことに見えたりすると思うんですが、
そこには良い面と悪い面と、あるじゃないですか。
糸井さんとか、ほぼ日の活動を見てると、
そこをすごく上手くコントロールしてるというか、
言い方が変ですけど、
しっかりと正しい道を選んでるなという感じがして。
糸井
うん。
古賀
俺達は善いことをやってるんだっていうふうに、
自分を規定しちゃうと、結構、間違ったことをしがちで。
だから、その「友達として」っていう最初の起点が、
たぶん他とは違うんだろうなと思いますね。
糸井
やっぱり吉本(隆明)さんですよね。
吉本さんが、前々から、
『善いことをしているときは、
悪いことをしていると思うくらいでちょうどいい』
って言っていて。
それくらい、全く逆に考えるべきだと。
元々は、親鸞という人のことを考えてるときに
思いついたことなんだろうけど、
吉本さん自身が、そうしようと思って
生きてたってことは、よくわかるんですよ。

糸井
僕にとって、吉本さんは、
手の届かないぐらい遠くにいる先輩なんですね。
でもその先輩は、
手が届く場所に、いつでもいてくれるんですよ。
ふと、それ何ですかって聞いたら、
近所のアホな兄ちゃんの俺に、
こうだってことを教えてくれるわけ。

そういう吉本さんのことを想像しながら、こないだ、
僕は、ほぼ日で「僕は偽物だ」ということを書きました。
吉本さんのことを偽物なんだよって言うと、
ファンはものすごく怒るかも知れないけど、
本人は、そうなろうとして、なってるんですよ。

たとえば、何かのチケットを、
僕らももらうことがあるけど、基本は並んで、
あるいは、朝何時に電話をかけて取るのが基本だと。
入場料を払って見るのが基本だ、みたいなことを、
吉本さんを見てると思うんですよね。

古賀
ええ。
糸井
そういう姿勢がベースにあります。
「邪魔だ邪魔だ」と言って火消しが駆けつけるのと、
俺達は違うんだと。
順番に列へ並んでいる人たちを、突き飛ばしてでも
前に出た方が、もっと善いことができるかも知れない。
だけど、そこは無駄になっても、
コストだ、ぐらいに考えて動く、というのは、
ずっと、ずっと吉本さんを見てて思うことで。
吉本さんちの奥さんなんて、
「お父ちゃんは偽物だ」って言うわけです。
古賀
(笑)はああ。
糸井
吉本さんのお父さんのことは
「あの人は本物だった」って言うんだけど、
夫である吉本さんについては、
「良い人だけど、うちのお父ちゃんは、
そうなろうとして、なってるから本物じゃない」
って、言うんですね。
古賀
はい。
糸井
俺、今さら本物になれないんで(笑)、
そういう吉本さんの方法しかないんですよ。
結局、「ほんとのこと言う偽物」っていうとこが
なろうとして、なりえる場所というか。
谷川俊太郎さんなんかも、
「僕は偽物で、本物の真似をしている」
というようなことを平気で言いますし。

糸井
震災のときは、あれが僕たちの姿勢として、
共有できてたんじゃないですかね。
それはある種、うまくいったと思うし、
社内の人達は、案外そのことをわかって
動けていた気がする。
(同席する、ほぼ日スタッフに)
そこは不思議なぐらい通じたよね?
ほぼ日
そうですね。糸井さんは、
こうしようとか、ことさらコンセプトを
述べたりっていうことは、そんなにはなくて。
みんな、いつものように動いていた感じはします。
糸井
態度については、だから、
これからも僕たちは間違わないんじゃないかな、
というような気がします。
古賀
そうですね。
糸井
間違わないぞ、と思うし。
もし間違ったら言ってくださいね、って。
ちょっといい気になってたら(笑)
第5回 仲間とともに、ヒマラヤへ。