- 糸井
- 『モテキ』っていう映画を撮っていたのが、
震災の頃で。監督の大根さんと話をしましたけど、
あの時期にとにかく止めずに撮影を続けるのって、
大変なことだったと思うんですよね。
止めないんだって決めるしかないわけです。
僕は、ほぼ日のごく初期の頃に、
「本気で決断したことは全部正しいというふうに思う」
みたいに書いたんだけど。
僕は『モテキ』の話を聞いたときに、
やっぱりそうだったなと思うんですよね。 - 古賀
- うん、そうですよね。
- 糸井
- あのとき、半端にみんなで、
被災地の物語を生ぬるく作っても、何の意味もないんで。
‥‥ある映画を作ることにお金を出すって言ってた、
その方自体はすごくちゃんとした人が、いたんだけど、
お節介にも止めたりとか、そういうの結構ありましたね。
まだ出番は来るから、みたいな言い方して。
それは、自分に対しても言ってた気がする、同時に。
そうしたくなっちゃうよな、というのもわかるし。

- 古賀
- はい。
- 糸井
- そのときに僕は、たとえば
「ライターだから、編集者だから
自分のできることはこういうことだ」
っていう、要は、肩書きを起点にするって発想を、
なるべくやめようと思ったんですよ、実は。
そういう経緯があって、さっきの、
ライターっていう職業をどう伝えるかという話とは、
違う考えでいるんですね。
だから、
震災のときは、個人としてどうするかっていうのを、
とにかく先に考えようと思ったんです。
じゃないと結局、職業によっては、
今はまだ何の役にも立たなくて、
なんなら来てもらっちゃ困ると
思われた可能性だってあるわけで。 - 古賀
- そうですね、うん。
- 糸井
- 判断を間違うかもしれない、と思ったんですよね。
たとえば、僕は歌い手だからと言って、
ギターを持って出かけてった人がいっぱいいた。
だけど、その人たちに、
「君は来て欲しいけど、君は来て欲しくない」
っていう想いは、絶対あったと思うんですね。 - 古賀
- ええ、はい。
- 糸井
- でも、「歌い手である僕にできることは何だろう」
って発想だと、ついギター持って、行ってしまうわけで。
で、それは違うんだろうなと思って。
僕はだから、豚汁を配る場所で列を
真っ直ぐにするような手伝いとか(笑)、
そういう発想で僕らが、何をできるかみたいなことを、
できる限り考えたかったんですよね。
でもずっと悩んでました、わからなかったから。 - 古賀
- はい、はい。
- 糸井
- 「友達に御用聞きをしよう」って、決めましたね。
震災がなくて、そういうふうに考えなかったら、
いま僕らはこんなことしてませんよ。 - 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- 全く、してないと思うんですね。
どうしてたんだか、わからないです。 - 古賀
- ええ、そうですよね。
- 糸井
- もっとつまんない、虚しい小競り合いをしたり。
あるいは、ちっちゃな贅沢、
「カラスがガラス玉を集める」みたいなことを
してたんじゃないかな。
で、それに思想を追っかけさせたんじゃないかな、
宣言して。
だけど、もたないですよね、それじゃ。

- 古賀
- 震災に関わることって、
世間的には善いことに見えたりすると思うんですが、
そこには良い面と悪い面と、あるじゃないですか。
糸井さんとか、ほぼ日の活動を見てると、
そこをすごく上手くコントロールしてるというか、
言い方が変ですけど、
しっかりと正しい道を選んでるなという感じがして。 - 糸井
- うん。
- 古賀
- 俺達は善いことをやってるんだっていうふうに、
自分を規定しちゃうと、結構、間違ったことをしがちで。
だから、その「友達として」っていう最初の起点が、
たぶん他とは違うんだろうなと思いますね。 - 糸井
- やっぱり吉本(隆明)さんですよね。
吉本さんが、前々から、
『善いことをしているときは、
悪いことをしていると思うくらいでちょうどいい』
って言っていて。
それくらい、全く逆に考えるべきだと。
元々は、親鸞という人のことを考えてるときに
思いついたことなんだろうけど、
吉本さん自身が、そうしようと思って
生きてたってことは、よくわかるんですよ。

- 糸井
-
僕にとって、吉本さんは、
手の届かないぐらい遠くにいる先輩なんですね。
でもその先輩は、
手が届く場所に、いつでもいてくれるんですよ。
ふと、それ何ですかって聞いたら、
近所のアホな兄ちゃんの俺に、
こうだってことを教えてくれるわけ。そういう吉本さんのことを想像しながら、こないだ、
僕は、ほぼ日で「僕は偽物だ」ということを書きました。
吉本さんのことを偽物なんだよって言うと、
ファンはものすごく怒るかも知れないけど、
本人は、そうなろうとして、なってるんですよ。たとえば、何かのチケットを、
僕らももらうことがあるけど、基本は並んで、
あるいは、朝何時に電話をかけて取るのが基本だと。
入場料を払って見るのが基本だ、みたいなことを、
吉本さんを見てると思うんですよね。 - 古賀
- ええ。
- 糸井
- そういう姿勢がベースにあります。
「邪魔だ邪魔だ」と言って火消しが駆けつけるのと、
俺達は違うんだと。
順番に列へ並んでいる人たちを、突き飛ばしてでも
前に出た方が、もっと善いことができるかも知れない。
だけど、そこは無駄になっても、
コストだ、ぐらいに考えて動く、というのは、
ずっと、ずっと吉本さんを見てて思うことで。
吉本さんちの奥さんなんて、
「お父ちゃんは偽物だ」って言うわけです。 - 古賀
- (笑)はああ。
- 糸井
- 吉本さんのお父さんのことは
「あの人は本物だった」って言うんだけど、
夫である吉本さんについては、
「良い人だけど、うちのお父ちゃんは、
そうなろうとして、なってるから本物じゃない」
って、言うんですね。 - 古賀
- はい。
- 糸井
- 俺、今さら本物になれないんで(笑)、
そういう吉本さんの方法しかないんですよ。
結局、「ほんとのこと言う偽物」っていうとこが
なろうとして、なりえる場所というか。
谷川俊太郎さんなんかも、
「僕は偽物で、本物の真似をしている」
というようなことを平気で言いますし。

- 糸井
- 震災のときは、あれが僕たちの姿勢として、
共有できてたんじゃないですかね。
それはある種、うまくいったと思うし、
社内の人達は、案外そのことをわかって
動けていた気がする。
(同席する、ほぼ日スタッフに)
そこは不思議なぐらい通じたよね? - ほぼ日
- そうですね。糸井さんは、
こうしようとか、ことさらコンセプトを
述べたりっていうことは、そんなにはなくて。
みんな、いつものように動いていた感じはします。 - 糸井
- 態度については、だから、
これからも僕たちは間違わないんじゃないかな、
というような気がします。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- 間違わないぞ、と思うし。
もし間違ったら言ってくださいね、って。
ちょっといい気になってたら(笑)
