- 糸井
- 震災はでかいですね。でかいです。
「君たち、このままじゃダメだろう」
なんて言ったら
「お前はどうなの」って聞かれるわけだし。
ずっと思っていたのは、
何かをしてもらう行為を、素で受け取れるかどうか。
だから、それが友達かなって思ったの。
友達だったら、何かしてもらっても
素直に受け取れるよね。 - 古賀
- そうですね。うんうん。
- 糸井
-
そうじゃない人から何かしてもらったら、
「ありがとう」に「ございます」がつく。
「いつか返さなきゃ」とかさ。
僕は、普通の「ありがとう」の関係に
なれたのかなって思っています。普通のありがとうを超えたことをやったら
友達じゃなくなると思うんです。
あげればあげるほどいいってわけではない。

- 古賀
- ああ、なるほど。
- 糸井
- だから、余計なことって思われるようなことを
やっていないかは、
いつも考えるようにしています。 - 古賀
- 震災の時に、当事者じゃなさすぎるという
言い方があったじゃないですか。
もちろん、当事者になることはできないから、
それが友達ということなんですね。 - 糸井
- 親戚でも家族でもない。
家族だともう当事者に近い感じですね。
転校していった友達くらいの距離感かな。
悪口も言える仲。 - 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 「お前、それはマズイよ」って言いながら
いろんなやり取りができてさ。
それで一本考え方が見えたかな。
古賀さんは、その辺はどうですか。 - 古賀
-
僕はちょうどcakesの加藤貞顕さんと一緒に
本を作っている途中でした。
震災には何も触れずに5月ぐらいに出版する予定でした。
でも、何もなかったような顔をして
その本がポンと出てくるのは変だよねって、
とりあえず現地に取材に行きました。現地を回って思ったのは、
ほんとに瓦礫がバーっとなってて・・・ - 糸井
- まだ全然でしたもんね。
- 古賀
- 僕らが行ったのは4月だったので、
もう、ほんとに・・・ - 糸井
- 行くだけで大変だったでしょう。
- 古賀
-
大変でした。あまりにも大変すぎて、
今のところは自衛隊の方とか、
そういう方たちに任せるしかないと。
東京にいる僕らにできることは、
自分たちが元気でいることだけだ、と思ったんです。僕らが下を向いて、つまんない本作ったり、
何でも自粛したりだとか。
そういうことになるんじゃなくて。
東京の人間が東を向いて何かやるというより、
みんなが意気消沈していたから、
意識をむしろ西に向けて、
「俺たちも頑張ろうよ」と言っていた時期でした。
瓦礫をみたら、それしか・・・

- 糸井
- 無力感ですよね。まずはね。
- 古賀
- ええ、そうです。
何もできないなと思ったので。 - 糸井
- 何もできないという思いは形を変えて、
やりあげた人達に対する感謝と一緒に、
ずーっと小さく僕の中にも残っています。
今、ないんですからね、瓦礫。
ほんとにそういう力はすごいですよ。 - 古賀
- 僕も20年ぐらいかかるだろうと思っていました。
- 糸井
- 思いますよね。気配もないですよ。ほんとに。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- ちょうど『モテキ』って映画を撮っていたのもあの頃で。
- 古賀
- はいはい。
- 糸井
- とにかく『モテキ』をやめないでやり続けるってのは、
大変なことだったと思うんです。
僕は、ごく初期の頃に
「本気で決断したことは
全部正しいというふうに思おうじゃありませんか」
みたいに書いていたんだけど、
「モテキ」の話は、大根(仁)さんからあとで聞いて、
やっぱりそうだったんだなって思いましたね。 - 古賀
- なるほど。
- 糸井
-
あの時、みんなが生ぬるい物語を
どんどん作り出そうとしました。
そんなの何の意味もないのに。
僕はお節介で「まだ出番はあるから」
みたいな言い方をして、結構止めてた。それは、自分自身にも言いきかせていたんです。
僕も、物語を作りたくなることもある。
だから、自分の肩書を中心に、
「その中でできることはないか」って考え方を
なるべくやめようとしました。
個人としてどうするかってのを
とにかく先に考えようと。そうじゃないと、職業によっては、
今来てもらってもしかたがない場合もあるでしょ。 - 古賀
- その通りです。
- 糸井
- ギター抱えて出かけて行った人がいっぱいいたけど
「君には来て欲しいけど、君はね」ってところが
絶対あったと思うんです。 - 古賀
- あったでしょうね。
- 糸井
-
ついつい、ギターを片手に
僕にできることは何ですかって発想が、
そもそも違うだろうってね。むしろ、豚汁を配る場所で
列をまっすぐにする手伝いとか(笑)
そういう発想の延長線上で
何ができるかを考えたかったんです。
でも、それが分からなかったから、
ずっと悩んでいました。 - 古賀
- ああ、そうでしたか。
- 糸井
- それで、友達に御用聞きをして回ろうと決めました。
震災がなくて、そんなことも考えなかったら
今僕らは、こんなことをしていませんよ。

- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- 全くしていないと思うんです。
どうしていたかも、わかりません。
もっとつまらない小競り合いをしたり、
カラスがガラス玉を集めるような
小さな贅沢をしてたんじゃないかな。
そこに思想を乗せたりしてね。
それじゃあ、もちませんよ。 - 古賀
-
そうですね。
糸井さんが、震災に関わると決められたことって、
慈善活動というか、
世間から見て、いいことに見えるじゃないですか。
それって、いい面と悪い面がありそうですけど。『ほぼ日』の活動を見ていると、
その辺のコントロールが上手くて、
しっかりと正しい道を選んでいる感じがします。「俺たちはいいことをしているんだ」と、
自分を規定しちゃうと、
間違ったことをしがちなので、
起点が友達というのが
よかったんだろうと思いますね。

- 糸井
- それは、やっぱり吉本(隆明)さんなんです。
吉本さんが、前々から言われてたことがあるんですよ。
「いいことをしている時は悪いことをしていると思え」
「悪いことをしている時はいいことをしていると思え」 - 古賀
- ええ。
- 糸井
-
吉本さん自身が、そう思って
生きてきたのはよくわかるんです。
吉本さんは手の届かないところにいる先輩なんだけど、
近所のアホな兄ちゃんの俺に、
こういうことを、
噛み砕いて言ってくれるわけです。その言ってくれ方が、
この間、僕は偽物だって書いたことに繋がります。
吉本さんのことを想像しながら
「吉本さんも偽物なんだ」なんて書くと、
吉本さんのファンには怒られるかもしれないけれど、
そうなろうとしたから
そうなっていらっしゃる。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- 僕らは何かのチケットを持ってて
並ばずに入場できる、
みたいなところがあるわけですよ。
でも、チケットは、
並んだり自分で電話をかけたりして取るものですよね。
だから、列に並ばずに先に入った方が
いいことができるとしても、
やはり並ぶべきだと、
吉本さんを見ててそう思います。
吉本さんちの奥さんは、
お父ちゃんは偽物だって言うわけですけど。 - 古賀
- (笑)ええっ。
- 糸井
- 吉本さんちのお父さんがいて、
奥さんが「あのお父さんは本物だった」
「うちのお父ちゃんは、本物になろうとして、
そうなっているから、本物じゃない」
っていわれますが。
僕も今更本物になれないんで。 - 古賀
- (笑)はあ。
- 糸井
-
谷川俊太郎さんも、
「僕は偽物で本物の真似をしている」
というようなことを、平気で言われます。本当のことをいう偽物ってのが
結局、僕のなれる場所なんです。そんな姿勢を社内の人達がわかってくれたので
ことさらコンセプトを述べたりしなくても、
いつものように、みんな動いてくれた感じがします。だから、僕の態度については
これからも間違わないと思います。
それは、間違わないぞっていうことでもあります。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- もし間違っていたら、
ちょっといい気になっていたら、
言ってくださいね(笑)
