見栄をはらない仕事論。古賀史健×糸井重里

第6回 仕事とお金とヒット論。
- 古賀
- 5万10万、あるいは億の人達に
なにかを届けようとするとき、
糸井さんはお金っていうものをどのように考えていますか。
例えばミリオンセラーになったら1億円だな、とか。
- 糸井
- 僕はお金に対してはちょっと警戒心があって、
「お金好きです」ってときどき発言するようにしています。
人はお金のことをすぐに想像するので、
そこに対して無防備でいると、
その人の小ささに合わせて
自分のイメージをつくられちゃうんですよね。
「好きじゃないフリをしていたのに、お金好きじゃねえか」
って思われるんです。
- 古賀
- むっつりスケベみたいな(笑)。

- 糸井
- そうですね(笑)。
お金の話は、リスクなんですよね。
人の邪魔をするために、
お金の話を出すのは非常に都合がいいんですよ。
- 古賀
- 邪魔するのに都合がいい、とはどういうことでしょう。
- 糸井
- あいつは、自分の欲望のために何かしてる
って言われるんです。例えば古賀さんが、
これは面白いぞってことを考えて、
「俺もそれやりたいです。参加させてください」
って言った人に、
「君がそれをやればやるほど、
古賀さんが儲かる仕組みなんだよ」
って誰かが横から言ったら、
古賀さんは動きにくくなるんですよ。
- 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- だからもっと屈託なくおもしろいことをやるためには、
「お金について僕はこういうふうに思ってますし、
具体的にこうですよね」ってことを、
わりといつも見えるようにする必要があるんです。
それこそ自分とお金のイメージを管理しないと
いけないですよね。
- 古賀
- うんうん。
糸井さんはお金自体が喜びの源泉になることはありますか。
例えば1億円もらって、嬉しい!みたいな。
- 糸井
- それは全くないですね。
- 古賀
- ないですか。
- 糸井
- なぜないかというと、
僕が求めて得られるようなお金の数字って、
ちっちゃいからですよ。

- 古賀
- (笑)
- 糸井
- どうしたって、ちっちゃいですよ。
町を歩いたときに、チンケなビルが
いっぱい建ってるじゃないですか。
「これあなたのお金で建ちますか」
って言われると(笑)。
- 古賀
- 建たないですよね(笑)。
- 糸井
- 前提として、「チンケな」ビルって言ったでしょ。
- 古賀
- ええ(笑)。はいはいはい、わかります。
- 糸井
- つまり、古賀さんが「本が売れて儲かったでしょ」
って言われてるお金の額って、
チンケなビル以下なんですよ(笑)
- 古賀
- そうですよね、うん。
- 糸井
- なんでビルが建つかっていうと、
本当はお金を借りて作るから、建つんですよね。
でもやっぱりそれにしても、その借りたお金は
タネ銭にしかすぎないわけで。
- 古賀
- はいはいはい。
それに気づいたのは、
糸井さんが何歳ぐらいのときですか。
- 糸井
- とっくです(笑)。とっくにわかってました。
- 古賀
- そうですか。20代とか30代とか。
- 糸井
- 30代ですね。
20代では全く、そういうタイプのお金は見えないですから。
30代の初めぐらいで、
千万単位のお金が、
ああ千万単位ってこういうことか
って思うときがありましたね。
自分じゃずいぶん儲かったなって思うんですよね。
でも、意味ねえなって。
実はみんなが思ってるお金の半分は税金ですよね。
- 古賀
- うんうん、そうですね。
- 糸井
- となると、プロ野球選手の年俸とかを見ていても、
「この人が来年怪我しちゃったら、
この年俸は実は、こんなもんなんだよね」
って想像できるようになるんですよね。
そしたら、お金がないがゆえに人をうらやましがったり、
ひがんだりしてる人達が言ってることって、
お門違いすぎて。
- 古賀
- そうですね、うんうん。

- 糸井
- いわゆる会社員の発想でお金を考え続けると、
やっぱり何もできなくなりますよね。
会社をつくろうとすると、
大きくてこのぐらい借りなきゃならないな、
小さければこのくらいだろうな、
って大体想像つくじゃないですか。
それ、すごい大きいお金なんだけど、ちっちゃいですよね。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- その点で、何かをスタートする時に僕は、
とにかくお金を借りない発想になりがちです。
なぜならわらしべ長者の方が、
最初から羊羹1本もらうより、やりやすいからです。
みんなが「俺たちが出したお金どうしてくれるんだ」
って言うかもしれないって考えるとね。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- その辺は、ちょっと先輩っぽく教えられますよね。
- 古賀
- でもそれと、じゃあお金はなしでやるよっていうのも、
また違いますよね。
- 糸井
- 全然違います。ちっちゃいお金でウダウダしてると、
小さなパイの奪い合いみたいになっちゃいますから。
- 古賀
- そうですね、うん。
- 糸井
- やっぱり通じる相手にだけ仕事をしていると、
趣味の世界に入っちゃって、
わからない人にはわからないって
言いたくなっちゃうと思います。
- 古賀
- そうですよね。
自分が書いた本がミリオンセラーになって、
1つわかったのは、これだけ売れてもみんな、
『嫌われる勇気』っていう本のことを
全然知らないんですよ。
自分で言うのもなんですが。
- 糸井
- 自分の周りは大騒ぎしてるけど、実際はそうですよね。
- 古賀
- はい。ミリオンセラーの本って、
あまねく人たちのところに届くものって思ってましたけど、
実際に経験してみると、
「あ、みんな全然知らないし、誰にも届いてないな」って。
もちろん100万人という数はすごいんですけどね。
糸井さんのなかには、「ヒットする」っていうのは、
こういうものだ、という定義はあるんですか。
- 糸井
- 『ほぼ日』始めてからは、もうヒット多様性になりましたね。
- 古賀
- ヒット多様性。
- 糸井
- 生物多様性みたいにね。
これもヒット、あれもヒットになりました。
せいぜい黒字っていう程度だけでヒットのものもあれば、
結構売れたけどヒットとは言いにくいものもある。
やることそれぞれに、
ルールをいっぱい持つようになりましたね。

- 古賀
- それはコンテンツごとに、
これだったらヒットはこのぐらいの基準で、
というものが糸井さんのなかにあるということですか。
- 糸井
- 「全てがコンテンツです」と言い始めて、
何がヒットかって自分で説明できるようになるわけですよ。
例えば古賀さんは『ほぼ日』の前の事務所と
今の事務所を両方知っていて、
「引っ越して成功でしたね」と言いましたよね。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- それは金銭的に言ったらマイナスになってますよね。
だけど、この引っ越しはヒットなんですよ。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- たぶん僕は『ほぼ日』をはじめて以後、
みんながすでに持ってる価値観じゃ評価されないところに、
自分の価値観を増やして、
評価していくようになったんでしょうね。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- ただヒット多様性といえども、
やっぱり100万部も売れれば
信用や発言権を得ることができますよね。
そうすると、そこと掛け算になって、
次の本を打ちやすくなる。
それはとっても大事なことなんだと思います。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- 2冊目は、すでに、
「100万部の古賀が」
っていう話題ができあがる。
面白いことだよね。
- 古賀
- 面白いですね。
- 糸井
- 立て続け感が、すごく面白いですよね。
一発屋って言葉に続いて、
二発屋っていう言葉が出てこないかな。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- 三発屋はどうだ。それじゃ床屋だよみたいな。
- 古賀
- (笑)
糸井さんのなかでは、
今も一山当てたい気持ちはあるんですか。
- 糸井
- 今のヒット論みたいに言えば、
小さくても、いつも一山当てたいです。
楽になりたくて仕事してるわけだから。
- 古賀
- それ、おっしゃいますよね。
- 糸井
- 苦しくてしょうがないわけですよ、僕は。
仕事嫌いだし(笑)。