見栄をはらない仕事論。古賀史健×糸井重里
第3回 3年後の未来へハンドルを切る。
- 糸井
- 古賀さんはライター業界のためになにかしよう
とか考えるんですか。
- 古賀
- 僕はやっぱり「業界のために」みたいなことを
言っちゃうし、考えるんですよね。
例えば
「10年前、20年前はあんなにかっこいい先輩たちがいたのに
今の自分たちがそのレベルになれてるんだろうか」
って考えると、やっぱり昔の思い出の方が
格好良く見えるんですよ。

- 糸井
- そうですね。
- 古賀
- 出版業界が今、若くて優秀な人たちが
かっこいいなって思う場所になってるかどうか
って考えると、たぶんネット業界の方が
キラキラして見えるはずですよね。
だから僕も多少の羽振りの良さのようなものを
出していったほうがいいのかなって。
サッカーの本田圭佑さんが白いスーツ着たりとか、
ポルシェに乗って成田にやって来ましたとか、
やってますよね。
- 糸井
- 彼はたぶん、あえてやってますよね。
- 古賀
- はい。ああいうキラキラ感の演出を
出版業界の僕みたいな立場の人間が、
多少はやった方がいいのかなと思ってたんです。
でも、前回の糸井さんの話を聞いて、
三日三晩自分に
「本当に業界のためを思ってるのか?」
と問いかけたら……(笑)。
- 糸井
- (笑)。

- 古賀
- やっぱりどこかには
「チヤホヤして欲しい」という気持ちが
ふくまれてるんですよね。
でもそれを良くないことと片付けるのは、
あまりにも勿体ないと思うんです。
原動力になりますから。
- 糸井
- その気持ちを本当になくしたら、
人間じゃなくなっちゃうしね。
- 古賀
- はい。だからチヤホヤされたい気持ちと向き合って、
そこを下品にならないように原動力に変えて、
自分を前に進めていくのが、
今、僕のやるべきことなのかなという気はします。
- 糸井
- でも、ほんとのこと言うと、
それがやるべきことなのかどうかもわからないんですよね。

- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- つまり変なハンドル切り方をして曲がってみないと、
真っ直ぐが見えないみたいなとこがあって。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- 僕は社内で「昔はみんな外で立ちションベンしてたんだよ」
って話をよくするんです。昔は田んぼと都市の境目みたいな
トイレのない場所だらけだったわけですから、
みんな外では立ってオシッコしてたんです。
今では考えられないですよね。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- だから今の基準でいい悪いって言うのは簡単ですよ。
答えがわかってて、その後押しをしているわけだから。
でも、今だったら袋叩きにあうけど、
昔は普通にやっていたってことも山ほどあるんです。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- 今、ネットが広まったら、
スタートラインでそういう基準をゼロにして、
すぐにチェックし合うみたいなことになるじゃないですか。
しかも「歯に青のり付いてない?」みたいな
アラ探しから始まる。
青のり付けちゃった方が、人として健全な免疫を
作れるんじゃないかなと思うんですよ(笑)。
ネットの方が華やかに見えるって今は言われるけど、
ネット業界でやっている人は
痙攣的に楽しいんじゃないですかね。ピリピリするような。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- やっぱり相手を追い抜く方法を自分でわかっていながら、
追い抜かれるのを待つみたいなわけじゃない。
- 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- 僕がコピーライターやってる時にも、
追いながら、追われるという状態はありました。
でも僕の時代が月刊誌の尺度で動いてたとしたら、
今の時代は週刊さえ超えて、時間単位ですよね。
ぼくは、インターネットのなかで、
裏の裏まで読んでるんだごっこを
ピリピリしながらやっているのは、
何にも育たない気がします(笑)。
- 古賀
- (笑)。
先日糸井さんが今日のダーリンで
「ずっと、3年先のことなんかわからない、
と言っていたのだけれど、
3年後を見ていることはできるし、
そこに向かって何かをするべきだと思う」
という話を書かれてたじゃないですか。
- 糸井
- あれビリビリくるでしょ。
- 古賀
- はい(笑)。僕はどちらかというと
「今日明日しかないんだ、
だって遠い未来はわからないじゃん」
っていう立場だったんですよね。
でも考えに考えたら、3年先にこっちに向かってるとか、
あっちに向かってるとかの大きなハンドルは切れるんだ
っていうのは、結構ビリビリきましたね(笑)。

- 糸井
- それを僕は今の年でわかったわけです(笑)。
- 古賀
- ああ〜。
でもその3年後という時間軸の設定が、すごく大事ですよね。
見えもしない10年後20年後を語りたがる人って……。
- 糸井
- それは嫌だね。
- 古賀
- そうですね。でも、そこで満足してる人たちは、
若い人たちにも、ある程度年齢がいってる人たちにも
沢山いる気がします。
- 糸井
- うんうん。
例えばの話、大きな災害があった後に
「あんなことが起こりうるのだから、
今日っていうのを充実させていこう」
というのは、立派な考え方だと思うんですよ。
その考え方にしっかりと重心を置いてたら、
「3年後はわからないから、今をやり残すことなく
精一杯ちゃんと生きようよ」
というのは説得力あるんです。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- たぶん僕も、一時期は本当にそう思えたんじゃないかな。
でも、今を必死に頑張ることを続けていったら、
「この後、どうしましょう?」
って聞かれることが多くなるじゃないですか。
それに対して「俺もわかんないけど…」
って僕はずっと言ってきたけど、今は
「3年前からしたら、今日ぐらいのところはわかっていたな」
って思うようになったんですよ。