見栄をはらない仕事論。古賀史健×糸井重里
第5回 目立ちとモテの距離感。
- 古賀
- 糸井さんって、
自分のなかにヒーローみたいな人たちがいて、
その人たちの出版のお手伝いなどを
されてきてるじゃないですか。
例えば矢沢永吉さんの『成りあがり』だったり。
- 糸井
- ああ、そうですね!

- 古賀
- その時の糸井さんの気持ちは、
「俺が前に出る」というよりも、
やっぱり「この人の言葉を聞いてくれ」
みたいな感じなんですよね。
- 糸井
- 全くそうですね。
「僕はとっても驚いたよ」とか、
「僕はとってもいいなと思ったよ」とか、
間接話法で僕の本になるんですよね。
だから自分を前に出す必要は全くなくて。
- 古賀
- うんうん。
- 糸井
- 美味しいリンゴを売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういう八百屋から買ってくれる人が増えたら、
また新しいリンゴが売れるじゃないですか。
さらには
「あんまり買ってもらえないから
リンゴを作るのやめようと思うんだよね」
っていう人に、
「俺売るから、ちょっとまだ作ってよ」って頼めたり(笑)。
ぼくはそういう八百屋さんになりたいんですよね。
- 古賀
- (笑)そうですね、うんうん。
- 糸井
- 具体的に、『ほぼ日』で売ってる海苔はそうだからね。
- 古賀
- そうなんですか。
- 糸井
- お爺さんが
「もうそろそろめんどくさいことやめようと思うんだ。
漁協に普通に出そうと思うんだよ」
「まあまあ、待て待て」って。
その商売ですよね、僕の商売の仕組みって。
アートをおさめる建造物としての
アートってあるじゃないですか。
そういうのを作るのに似てますよね。
- 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 古賀さんもそういえば、そういう仕事してますね!
- 古賀
- そうですかね(笑)、うん。
今だったら、やっぱりいろんな出版社さんに
知り合いがいますし、やりたいと言ったらやりたい企画が
できるような状態になりました。
でもやっぱり、自分がやりたいと言ったことが
なかなか実現しなかったり、
頼まれたお仕事だけしかできなかったり
という時期は長くて。
- 糸井
- はい。
- 古賀
- 糸井さんはたぶん、
『成りあがり』でやったことが今、『ほぼ日』の中で
毎日のようにできてるんじゃないのかな
と思うんですよね。
こんな面白い人がいるから、対談して、
この人を紹介しようとか、
TOBICHIで、「こんな人がいるから」と言って、
その人の展覧会を開いてとか。
- 糸井
- 場所作り、ですよね。
- 古賀
- そうですね。場所を作って、その人達を紹介していく。
僕が今やりたいことと、糸井さんが『ほぼ日』で
やってることはすごく重なる部分があるんです。
『ほぼ日』って、もちろん毎日「今日のダーリン」という
大きなコンテンツはありますけど、
糸井さんが「俺が俺が」って前に出てる場所では
ないじゃないですか。
それよりも「こんな面白い人がいてね」
って紹介する場所になっていて。

- 糸井
- うんうん。
- 古賀
- その自分が前に出すぎない姿勢というのは、
『成りあがり』を作った頃から一貫しているんですか?
- 糸井
- でも「あなたには目立ちたい気持ちはないんですか?」
って聞かれたら、「ものすごくありますよ」
って僕は言うんじゃないですかね。
ただそれはどういう種類の「目立ちたい」かと言うと、
いや、いらないかも、
って思える程度の「目立ちたい」(笑)。
浅いところでは目立ちたがりですよ、僕は、たぶん。
でもちょっとその気持ちを掘りさげるだけで、
急にどうでもよくなりますね。
- 古賀
- それは、それこそ30ぐらいの時に、
目立って痛い目にあったりした経験があるから……。
- 糸井
- じゃないですね。

- 古賀
- そうですか。
- 糸井
- 目立って、得るものが、たかがしれてると見えたんですよ。
人生で一番目立ちたがりだったのって多分
高校生のときですよね。
- 古賀
- はいはい(笑)
- 糸井
- 性欲の代わりに表現力が出るみたいな。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- 高校生のときは、何をしてでも目立ちたいわけです。
みんな俺をもっと見ないかなって気持ちを、
服装に出してみたり(笑)。
それは動物の毛皮の色みたいなもので、天然ですよね。
でもやっぱり目立つより、
近くにいる人にモテちゃうことの方が
本当は嬉しいんですよ。
だから若いときは彼女がいるのが一番理想ですよね。
- 古賀
- ほうほう。
- 糸井
- 彼女さえあれば俺は他になにもいらないみたいな。
若いときって恋愛至上主義に近いんですよ。
そこに僕も突っ込んでいきたかったんですよね。
目立つことと愛する女性がいることを天秤にかけたら、
絶対女性のほうが大事ですよ。
- 古賀
- はいはい。
- 糸井
- ワーワー目立って大勢からモテちゃったとしても、
それは距離が遠いものだから、
寄せちゃいけないんですよね。
- 古賀
- なるほど。
- 糸井
- ファンに手を付けることになるんですよね。
とっても上手くいってもね。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- 僕みたいな加減で目立ちたがったり、
目立ちたがらなかったりしてる人たちが、
古賀さんの世代にいることは、気づいてますよ。
若い人たちが僕を見て、いいなって思う理由の1つは、
そんなにガツガツ目立とうとしなくても、
1つの面白い世界はつくれるんだな
ってわかるからですよね。
目立ちすぎたり、消えたりするより、
そのくらいの方が楽しいんだよ。
だってね、すごく人気のある
アイドルグループの子達だって、
別に、個人としては、モテてないですよ。
- 古賀
- 遠くでモテてますよね。
- 糸井
- そうです。距離なんですよ。
それより、たまたま行った誰かの送別会で
隣にいた女の子に、
「私、送っていって欲しいんだけど」
って言われたら、
もうバリバリに鼻の下のばしますよね。
「そのくらい、いいよ」って(笑)。
- 古賀
- (笑)そうですね、うんうん。

- 糸井
- 「目立つ」ことについて大事なのは、その距離の話です。
いずれみんな、それはわかっちゃうんじゃないですかね。
何かを「まだ足りないんだよ」って
僕は今、あんまり思わないんですよ。
大体足りたって思うんです。
- 古賀
- うんうん。
でも「遠くの5万人とか遠くの50万人にモテてる俺」
っていうのを喜ぶ人も確実にいますよね。
- 糸井
- それはものすごく面白いゲームですもんね。
僕の中にも、それを面白がる気持ちはなくはないです。
例えば僕の書いたものが
まさしく100万人に読まれたとする。
それは「ええー?」っていう嬉しさがあるじゃないですか。
例えば、ヒマラヤとかさ、
ああいうのが見える場所に立ったことあります?
- 古賀
- いや、ないです。
- 糸井
- ないですか。
たまたまヒマラヤが見える場所に立ったりしたときに、
「大きいなー」って思うじゃないですか(笑)。
- 古賀
- ナイアガラの滝で感じました(笑)
- 糸井
- あれは、いいですよね。
- 古賀
- いいです、いいです、うん。
- 糸井
- で、「来て良かったなー」って思うじゃないですか。
- 古賀
- 思います、思います、はい。
- 糸井
- 「もしナイアガラの方に行くんだったら、
近く通るんだったら絶対行った方がいいよ」
って人に言いたくなる良さじゃないですか。
大勢にモテる面白さはそこですよね。
- 古賀
- はああ。