見栄をはらない仕事論。古賀史健×糸井重里
第2回 「業界のために」って本当かな?
- 糸井
- 古賀さんは自分が書いた本が
100万部売れても、天狗にならないわけですよね。
逆に今まで成功した人が声を高くしたり、
急に態度を切り替えたりすることが
多すぎたんでしょうかね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- ラーメン屋さんでも繁盛すると、
店主の人が国の税制について語りだすじゃないですか。

- 古賀
- はいはい(笑)
- 糸井
- タクシーの運転手さんなんかでも。
- 古賀
- そうですね(笑)
- 糸井
- タクシーの運転手さんに繁盛はあんまり関係ないか(笑)。
でも僕もコピーライターとして売れたあとに、
自分の声が大きくなってしまうのは心配していたことで。
そして僕の場合は天狗になっちゃったんですよ、きっと。
- 古賀
- それはどれぐらいのタイミングですか。
- 糸井
- 30歳そこそこで。
- 古賀
- へええ。
- 糸井
- 天狗になっていないと自分では思っているのに、
過剰に攻撃されたり、無視されたりしていると、
それに対して矛と盾で言うと、
盾のつもりで対抗しちゃうんですよね。
- 古賀
- わかります。
- 糸井
- 「君たちが攻撃している場所に俺はいないよ」とか
「そこまでチンケな人間じゃないよ」みたいなことが
言いたくなって、
お座敷があって座布団があると座る
ってことをするんですよね。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- 例えば、女子大で講演してもらえませんか
と頼まれた時に、
言うことなんかあるはずないじゃないですか。
なのに「やってくださいよ」なんて言われると
悪い気はしなくて、
鼻の下長くして「そう? 行こうか?」なんつって。
結局のところ、楽しいのは控え室までで。
- 古賀
- (笑)

- 糸井
- いざとなったら、
僕の話を聞く気の人がいるとは思えないし、
やってはいけないことをやったかなというような感じで。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- あとはテレビのお仕事ですよね。
テレビに出ると、いろんな人に会えるので
ハッキリとそれは良かったなと思うんですね。
でも、そのおかげで、
余計な拍手や非難を受けて……。
- 古賀
- 非難が嫌なのはわかりますが、拍手も余計ですか。
- 糸井
- 余計ですよね。
だって、過分に褒められると、途中で
「俺はそんな人間じゃない」
って言えなくなるんです。
だから賞賛は黙って、受け止めるようにしていました。
例えば「天才だね」、「言葉の魔術師だね」みたいに
言われた時に、特に否定はしないんです(笑)。
- 古賀
- (笑)。
でも糸井さんがメディアに出るのは、
コピーライターという仕事を
みんなに認知させる意識もあったんじゃないか
と僕は思ってました。
- 糸井
- はい。
- 古賀
- 糸井さんはコピーライターとして売れていた当時、
「たった1行でそんなにお金もらえていいね」
みたいなお話も周りからされたと思うんです。
- 糸井
- あります。あります。
- 古賀
- それに対して、「いやそんなことないよ」
って言いたい気持ちと、
あえてそこにのっかって
「俺は1行で1000万なんだ」
みたいに吹聴する気持ちと
両方あったんじゃないかと思うんですけど。
- 糸井
- それはね、
当時は自分で言ってたことが、
たぶん厳密に言うと嘘だったと思うんです。
例えば、若かろうが年取っていようが、
大手の企業にいようが中小企業にいようが、
誰でも「業界のために」っていう言い方、
ものすごくしちゃうんですよ。

- 古賀
- はい。
- 糸井
- 「業界のために」って言葉には
そう言ったほうが自分が楽だから
っていう気持ちとかが、混ざるんですよね。
わかりやすい例でいうと、
僕がサーカスの団長だったとして、
「サーカス面白いよ」
って言われるようになったら、
周りのサーカスの人にも
「これからもサーカスの火を絶やさずにね、
ほんとサーカスって面白いですから」
って、自然に言えますよね。
だってサーカス業全体が上手くいってたほうが
自分も上手くいくから。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- エゴだって言い切るつもりはないけど、
自分の居心地がいい状況を、人は誰でも作りたいんですよ。
だから「業界のために」って声高に言うのは、実は自分でも
本当の意図はわからなくなっちゃうと思うんですよね。
- 古賀
- はい。
- 糸井
- 出版業界は特に多いですよね。
「これからの出版界はどうなるんだ」みたいな議論が。
でも業界全体が盛り上がるより、実は
自分の好きな人の作る本が売れるほうが
嬉しいんですよね。
- 古賀
- うんうん。そのとおりですね。
- 糸井
- 業界のために一生懸命やってくれる人がいるのは、
ありがたいことだと思いますけど、
その業界に人が入ってくるのは、考えてみれば
ライバルを作ってるようなものですからね。
お笑いの人なんか
「俺は若手のいいやつなんか芽を摘んでやる」
って露骨に言うじゃない。
- 古賀
- はいはい、言いますね。
- 糸井
- そのほうが、ちょっと本気な気がして。
「お笑い業界に、どんどん若い人が
入って来たらいいですね」
ってプレイヤーとして言うのは、
本当かなと思います。
- 古賀
- ああ、そっか、たしかに。

- 糸井
- だから「業界のために」という言葉は
ほんとうにほんとうかって、
三日三晩1人で自問自答したら、
その言葉を言う気持ちに
ちょっと混ざりものがある(笑)。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- だってこの商売をやろうと
生まれた時から決めてた人なんか、
あまりいないじゃないですか。
歌舞伎役者の方とかは別ですけど。
- 古賀
- ええ、ええ、そうですね。
- 糸井
- だから例えば、古賀さんが今から自転車を
すごい好きになって、素敵な自転車屋を作って、
どんどん上手くいったとしたら、
ライターの仕事は
「うん、たまにやりたくなるんだよね」
って程度ですよね(笑)。
- 古賀
- (笑)。はい、そうですね。