DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える
医事相談室」

もし、ぼくに医者の友だちがいたら、きっと、
いろんなくだらないことを、
雑談として聞いてみるにちがいありません。

「医学」や「医療」は、自分や家族が病気でなくても、
つまり、かならずしも切実でなくても、
知的好奇心を刺激する「おもしろい学問」であると思うのです。

この相談室に座っているのは、免許のある医師でなく、
医師になるため修業中の「medic(医学生)」です。
須田ペニー君といいます。読書家で、それなりにまともです。
どうやら気軽に質問もできそうです。
自分でわからないことについては、
先輩や先生に取材して、なんとか答えを探してくれそうです。
たぶんウソはつきませんし、きっとデタラメも言いません。

いわゆる権威ある相談室ではないけれど、
「気さくで・まじめな・おもしろい」相談室になりそうです。
切実でない質問や相談をお待ちしております。

起立性低血圧について


いつもためになるお話ありがとうございます。
今日は、私が以前から悩んでいることについて
相談したいとおもいます。

もう小学校のころからなんですけど、
立ちくらみがひどいんです。
だけど、立っているとOKなんです。
私の場合長い事(30分位)座って、
いきなり立つとおこるんです。
腰が曲がっていることで、
血が流れにくくなっているらしく、
立った瞬間頭の後ろ半分に一気に血が逆流していく
カンジです。
目を開けているのに見えなかったり、
モヤがかかったようになって手や膝がガクガクして
立っているのが困難になる事もあります。
そして、30秒もすると治ります。
こんなことが、1日に数回あります。

前に、病院に行ったほうがいいといわれたのですが、
そのまま今に至っています。
ただ単に貧血なだけなんでしょうか?
それとも姿勢が悪いだけなのでしょうか?
是非ともお答え宜しくお願い致します。
あっ、それと、私身長が174cmあるんであるんですけど
関係ないかな?
それでは。
                     
(ゆう)


お久しぶりです。
みなさん、夏休みはどうお過ごしになりましたか。

僕の方は9月9日に夏休みが1日だけ取れました。
って言っても、この日は土曜日なんですが(笑)。

何しろ、うちの病院と来たら土曜日も勤務なものですから、
研修医としては、土曜日に休みを取るというだけで
一苦労なんです。
僕が今配属している科は、
ちょっと「一週間休み取らせて下さい」とは
言いにくい所でして、
とりあえず1日だけ休みをもらった次第です。

僕らの病院では研修医があちこちの科を
ローテートするのですが、
うまい具合に夏休みの取りやすい科にいると、
どっと休みが取れたりすることもあります。

え?
「ところで、その唯一の休みはどうするの」
って?

この日は、東京の大学時代の友達が
多摩川でバーベキューをするそうなので、それに参加します。
多摩川の川べりを偶然通りかかった方がいらしたら、
バーベキューしながら下品な笑い声を挙げている集団を
探してみて下さい。
もし、
「須田ぁ! もっと飲めぇ!」
なんて声が聞こえたら、ひょっとしたらその中に
僕が混じってるかもしれません。


さて、今回の質問は「立ちくらみ」です。
「めまい」「ふらつき」「失神」などでいらっしゃる方には
救急外来でずいぶんとお目にかかります。
そんなときに何よりも手がかりになるのは意外にも(?)
問診でして、その「ふらつき」が起こった
状況・時間・増悪因子(←悪くさせるもの)などを
詳細に調べることで原因が分かってしまうことが
結構あります。

今回のゆうさんのご質問で
最も手がかりになりそうなところは

「立っているとOKなんです。
 私の場合長い事(30分位)座って、
 いきなり立つとおこるんです」

というくだりです。

大概のお医者さんなら、これを見た瞬間キーワードが
頭の中にひらめくはずです。
(こういうの、"Flash Diagnosis" なんて英語では言うとか)

「勿体ぶらないで早く教えてよぉ」

はいはい(笑)、じゃあお教えいたしましょう。
そのキーワードは「起立性低血圧 
(orthostatic hypotension)」です。

毎度使わせてもらっている『今日の診療』の
CD-ROMによりますと、

「起立性低血圧は起立時に血圧が低下することを意味する.
 起立時の血圧低下によって,立ちくらみ,
 起立時の暗黒感や冷汗の出現,
 歩行時のふらつき感,失神発作などを訴える.
 これらの症状を認めたら起立性低血圧の有無を調べる.」

と説明されています。
で、どうやって「起立性低血圧の有無を調べる」のかと
申しますと、

「診断には,チルトテーブル上で仰臥位として,
 ついでテーブルを起立位とした際の血圧変化を
 1分ごとに血圧を測定するか,
 肘動脈に挿入したカテーテルを介した
 圧トランスデューサーで血圧を連続的に記録する.
 こうして血圧低下の有無をみて診断する.
 日常臨床ではとりあえず簡易的にベッド上で
 数分間仰臥位として血圧を測り,ついで起立位にして,
 起立直後,1分,2分,3分後と血圧を測定する.
 いずれも,起立時に収縮期血圧が20mmHg以上低下
 あるいは拡張期血圧が10mmHg以上の低下を認めたとき
 起立性低血圧と診断する.」

チルトテーブルだの圧トランスデューサーだの
馴染みのない単語が並んでいますが、
普通の病院で行われるのは
「寝ているとき・起きた直後・起きた後の血圧を測って
 下がり方が大きくないかどうか」
を確かめるというだけの簡単な検査です。

恐らく、ゆうさんが病院に行って
「こういう症状があるんです」と訴えれば、
「じゃ、血圧測ってみましょうか」となるでしょうし、
ちょっと時間があれば、寝ている状態での血圧と
起きた状態での血圧を測ることになるのではないかと
思います。

で、もし
「やっぱり起立性低血圧だねぇ」
ってなことになったらどうなるのでしょうか。
恐らく多くの場合、
「何もしない」というのがほとんどだと思います。
(場合によっては薬を処方される可能性もありますが)
というのは、文面を読む限り、ゆうさんは
「立ち上がったときだけふらつくだけで、
 他は健康な若くて美しい女性」
だということが推測できるからです
(「勝手な推測だ」って?)。

もちろん、病的な起立性低血圧というのももちろんあります。
起立性低血圧を起こす病気として
教科書に載っている病名を列挙すれば、

Shy-Drager症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、
線条体黒質変性症、多発性硬化症、脳血管障害、
アミロイドーシス、糖尿病性神経障害、
パーキンソン病、鬱病、褐色細胞腫、ポルフィリン症、
ギラン・バレー症候群、不整脈、向精神薬の副作用........

などなど、おどろおどろしい病名が
キリがないくらいあります。

もちろんこれらすべてについて調べるのは不可能ですが、
普段元気に暮らしていて、他の症状も特に見られない人が、
これらの病気を持っている可能性というのは
非常に少ないと考えられます。
ただ単に、自律神経の調整作用に多少の齟齬があるだけの
起立性低血圧(←実際はこれが圧倒的に多い)で
他に症状がないとすれば、心配は要らないでしょう。

それから、ゆうさんの質問にある

「腰が曲がっていることで、
 血が流れにくくなっているらしく」

については僕も詳しく分かりません。
整体師の先生や、カイロプラクティックの先生の中には
こういうことをおっしゃる方がいらっしゃるのかも
しれませんが、起立性低血圧が腰の曲がりで説明できるとは
解剖学的にちょっと考えづらいと思います。

(もし姿勢について詳しいことをご存じの方がいらしたら、
「腰が曲がることによってどこの血管の流れが悪くなるのか」
「そのことで起立性低血圧の症状の説明が付くのか」
をお教えいただければ幸いです)

腰の曲がったお年寄りに起立性低血圧が多いかというと
そんなことはなさそうですし、
若い女性と比べるとむしろ少ないのではないでしょうか。

あと、

「あっ、それと、私身長が174cmあるんであるんですけど
 関係ないかな?」

についても、

「ひょっとしたら、スラッと背が高くて、
 しかも色白の華奢な女性で、
 もともと血圧が低かったりして、
 どこか薄幸な感じも漂わせてたりなんかして、
 ぎゅっと抱きしめたくなっちゃう様な感じの女性なのかも
 しれないなぁ。あ、でも僕より背が高いのかぁ。
 でもいいよなぁ.........」

などと勝手な妄想は広がっていくのですが(笑)、
これについても起立性低血圧とはあまり関係はなさそうです。
(こちらについても因果関係を説明できたり、
データをお持ちの方がいらっしゃればぜひお便り下さい)

あ、ちなみに僕の身長は168cmです。
全然関係ないですが(笑)


さて、まとめますと

・症状としては起立性低血圧で恐らく間違いないと思う
・他に症状がなければ心配は要らないが、
 一度病院に行って簡単な検査くらいは
 受ける価値はあるかもしれない
・腰の曲がりと背の高さは恐らく症状とあまり関係ない

といったところでしょうか。


それでは、また。

メディック須田さんへの質問や、激励、感想は、
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2000-09-06-WED

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