DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

Q:世の中は、サプリメントとか健康食品が
ずうっと流行中です。もう、数え上げたら
きりがないくらいあります。みのもんたが紹介しただけでも
100マン種類くらいあるんじゃないでしょうか?
どれが効いてどれが効かないですか、
なんて質問してもはじまらないので、
「信頼できる専門家が心がけている健康法」はなんでしょう?
それが、真向法であっても、
アスピリンであってもかまいません。
「いつも笑顔です」だっていいです。
教えてください。あるいは調べてください。
お願いします。

以下、回答です。

みのもんたですか。いいですねぇ。
なんかあの人の口上を聞いていると、
昔、お祭りの見せ物小屋の前で蕩々とあやしい宣伝文句を
並べていたおじさんを思いだしてしまうのですが、
皆さんはいかがでしょう。

さてさて、
今回は「信頼できる専門家が心がけている健康法」ですかぁ。
僕の身の周りにいる人々が
「信頼できる専門家」かどうかは知りませんが、
とりあえず身の回りのいくつかのエピソードを紹介しながら
教訓を導き出すという形でまいりましょうか。


(毒物について詳しい先生との宴席での会話)
先生:「森君はお酒が強いねぇ」
私 :「はい。あ、先生はお酒は飲まれないんですか?」
先生:「うん。もともとALDH(←二日酔いを防ぐ酵素)が
    僕には少ないみたいで、飲めないんですね。
    そもそもアルコールは
    依存性のある毒物に過ぎませんからね。
    ワインにポリフェノールが含まれているから
    健康になるなんて言う人がいますが、
    それよりよっぽど量の多い
    アルコールや糖分のことを
    忘れてるんじゃないかなぁ」

教訓
自分の専門分野に関わってくる問題では、
テレビ屋さんよりも圧倒的に知識を持っているため、
良いと言われることでも一度疑ってかかる。


(胸部外科の手術後に)
私 :「胸部外科の先生は
    煙草を吸われる方はいないみたいですね」
先生:「そりゃそうさ。
    煙草吸いまくって真っ黒で弾力もない爺さんの肺と
    まだ煙草なんて吸ったことのない若い女の子の
    色つやがいい肺を何十回も見比べれば、
    煙草なんて吸う気にならないよ」    

教訓
百聞は一見にしかず


(アメリカで睡眠薬として使われているメラトニンという
ホルモンについて レクチャー中に話題になった時の会話)

先生:「おい、君たちの中で
    メラトニン使ったことあるやついるかい?」
私 :「あ、僕持っています」
先生:「そうかそうか。どうやって手に入れた?」
私 :「インターネットで個人輸入しました」
先生:「へーっ。僕は友達からもらったんだけどさ、
    どう、あれの使い心地どうだ?」
........(以下しばらくメラトニンの話題が続く)

教訓
医者といえども人の子、
話題になっているものに対する好奇心は人一倍旺盛のよう。


(病院で一緒に実習している同級生Aとの会話)
私 :「Aってさ、本当に風邪引かないよなぁ」
A :「失礼ね。それじゃ、まるで私が
    馬鹿みたいじゃない(笑)」
私 :「いや、そういう意味もちょっとあるんだけどさ(笑)。
    ひょっとして何か風邪を引かない秘訣でも
    あるんじゃないかなと思って」
A :「合唱やっているから家に帰ったら
    イソジンで念入りにうがいしてるんだけど」
私 :「念入り?」
A :「もう一歩奥まで液が入ったら、
    “うえっ”と戻しそうになるくらいまで
    のどの奥でうがいするってこと(笑)」

教訓
健康のためには地道な努力が必要なのは誰でも同じ。

以上、いくつかのエピソードを見ていただきましたが、
「驚異の新成分“βなんちゃらイソなんちゃら
 グルコなんちゃら”配合ドリンク」
「あなたも一日で変われる“脳内変革”」
なんて、水戸のご老公の印籠みたいなのは
なかなか話題に出てきませんね。

実は、医学部に入る前までは(今でも?)、
こういう不思議なものがけっこう好きな私でしたが、
実際に目の前で色々な病気の人を見ていると、
「そう簡単に病気が治る方法なんてありゃせんわな」
と、思い始めたのは確かです。
だって、そんなのがあったら
とっくに目の前の患者さんに使ってますもんね。

逆に、○○式ダイエット法で失敗して拒食症になったり、
○○健康法のおかげで治るはずの病気をいっそう悪くしたり
なんて人を見ていると、そういうリスクを負ってまで
特別な健康法をやりたくなくなるんですわ、これが。
だから、最近摂っていないビタミンをたまには多めに摂るとか、
うがいを多めにするとか、結局その程度なんですね。

そういえば、星新一のショートショートで
こんなのがありました。
「かつて驚異的な平均寿命の長さを誇っていた
部族の存在が明らかになり、その部族が残していた壁画に、
究極の健康の秘訣が記されていることが分かった。
壁画の解析が進み、それが現代語に訳されることになった。
壁画が表していたのは次の言葉であった。
“早寝早起き、腹八分目” 」

今回はこんなところで。

1998-11-18-WED


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