DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える
医事相談室」

「においが気になる」

Q、最近眠りに入る前にお醤油のにおいがするんです。
煮物とかじゃなく、原液そのものの強いにおいです。
どこかにこぼしたのかと思って床を這いつくばって
嗅ぎ回ってもそんな形跡はなくて、
においもなくなるんですが、
寝ようとするとまたお醤油のにおいが・・・
毎日とは言いませんが気のせいにしては頻繁なので
ちょっと気になってるんですけど、
私の鼻がおかしいんでしょうか?

(脱いでいない方のハラチアキさん)


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こんにちは
Medic須田です。

今回の質問を見て、
「レレレ? “脱いでいない方の”ハラチアキなんて
 いるのかい?」
と思われた方も多いと思いますが、それも当然。
このハラチアキさんは僕が東京にいたときの
バイトの後輩なんです。

“脱いでいない方のハラチアキ”
という言葉を気に入ってしまった僕が、
本名を公開してもいいかどうか訊いてみたら、
快くOKをもらったので、公開となったわけです。

でも、どこで何をしている
ハラチアキさんなのかは内緒。(笑)

関係ない話なのですが、彼女に
「“脱いでない方の”なんて言わないで、
 いっそ、毛裸体でも公開してはどう?」
と、相も変わらぬセクハラまがいの
提案をしてみたのですが、

「私自身の認識では、
 生憎もう旬は過ぎたものと思っております。
 いや、私の商品価値だけでなく、
 毛裸体の話題性なんかも含め」

という、とても機転の効いた回答をいただきました。
頭のイイ子なんですよ、ホント。

さてさて、彼女の話題はこの辺にしておくとして、
質問の内容について考えるとしましょう。

今回は、
「お医者さんが、妙な症状を訴える患者さんを見たときに、
 どういうプロセスでものを考えるのか」
ということと絡めながらお話することにいたしましょう。

見慣れない症状を見たとき、例えば、検索エンジンで
キーワード検索をしたときに見られるように、
そのキーワードで引っかかる疾患を
片っ端から調べるというのも一つの手です。
例えば、ある疾患に特異的な症状があって、
それが目の前の患者にピタリと当てはまるのであれば、
この方法ほど効率の良い方法はありませんよね。

でも、この方法の欠点は、
システマティックでないために、
見落としや記憶違いがあったときに
対応できなくなるということです。

「じゃあ、システマティックに考えるってのは
 具体的にどういう方法なのさ」

という声が上がりそうですね。

もちろん、色々な方法はあるのですが、今回は
「解剖学的に考える」
という方法を紹介しましょう。

例えば、他に全く症状がない人が、
「今朝、おしっこの色が赤かったんです」
ということを訴えてきたとします。
もちろん、この後、色々なことを問診したり、
打診・触診・聴診や尿検査・血液検査等を
行なうことになるわけですが、とりあえずは、
「おしっこの色が赤い」
という情報のみから何を考えるのか、
ということを書くとします。

おしっこが赤い原因を解剖学的に考えるということで、
下の方から順に尿路系をたどっていくことにしましょう。

まず、
「尿道に出血・炎症を起こすような原因はないか」
例えば、腫瘍や外傷、結石などです。

もう少し上にたどって、
「膀胱に出血・炎症を起こすような原因はないか」
ここでも腫瘍や外傷、結石などを考えることになります。

さらに上にたどって、
「腎臓に出血・炎症を起こすような原因はないか」
となり、さまざまな腎疾患を思い浮かべることになります。

さらにもっと上にたどって、
「ひょっとして尿路系以外に原因はないか」
ということになると、ちょっと専門的になりますが、
血液疾患として発作性夜間血色素尿症などがあります。
場合によっては、患者の見間違いや、
ある種の精神的な疾患の可能性も
選択枝に入るかもしれません。

さて、以上のような方法を、
僕の愛するハラちゃんの症状に当てはめるとして、
鼻の外から順にハラちゃんの体の中に
入っていきましょう。
(ちょっとエッチだ(笑))。

まず、
「体の外に原因があるんじゃないか」
となると、ホントにお醤油か、お醤油の臭いを
発するようなものが存在して、
その臭いをかいでいる可能性を考えます。
でも、これはご本人がかなり探し回ったようですから、
可能性は薄いでしょうね。
気づいたら隣が醤油工場だった(笑)
なんてこともなさそうですし。

次に
「鼻の穴の中に原因があるんじゃないか」
と考えます。
例えば、ウイルスや細菌による炎症、
ポリープ、変形(鼻中隔が曲がっているなど)、
腫瘍性の病変 等を考えます。

さらに、
「臭いの物質を神経に伝えるところに
 原因があるんじゃないか」
と考えて、感覚細胞などの変性による
上皮性嗅覚障害を思い浮かべます。

そして、
「臭いを伝える神経・脳に原因があるんじゃないか」
と考えて、中枢性の嗅覚障害を考えます。
この中には、外傷によるものや、
腫瘍性の病変によるものなどがあります。
あるいは、精神的な疾患の可能性も疑い、
嗅幻覚なるものも考えに入れることが
できるかもしれません。

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「おい、そうやってウダウダ考えるのはいいけど、
 どれが正しいんだよ」

まあまあ、そんなに答を急がないで下さいな。
結論から申しますと、
「異臭を感じる」
という情報だけでは
これ以上の判断は付けようがないんですよね。

ちょっと考えてみればお分かりでしょうが、
鼻の中に疾患があることを確かめるには、
鼻の穴を開いて覗く必要がありますし、
頭の中に疾患があることを確かめるには、
頭を開いて覗く......ことはしないで(笑)、
単純X線写真なり、
CT・MRIなりを撮って、
画像診断する必要がありますよね。

だから、愛するハラちゃんには申し訳ないのですが、
これ以上の情報をお求めなら、
耳鼻咽喉科に行って診てもらう必要があるというわけです。

あと、ハラちゃんへのファンレターは
受け付けていませんので(笑)、悪しからず。

それじゃ、また。

1999-07-07-WED


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