DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

「私は老衰で往生できるのか?」


Q、
ある地方都市の支店につとめる30歳のサラリーマンです。
タバコも酒もほどほどにしています。
人生80年だとすると、私の寿命はあと50年。
できれば、畳の上で静かに老衰でイキたいと願っています。
でも、新聞などで有名人が、ガンや、成人病で
亡くなる記事をよく読みます。
画に描いたような、老衰による静かな往生というのは、
実際難しいものなんでしょうか?
私がこのまま老人になったら、どんな原因で往生すると
考えられるのでしょうか。
一般的な死因の割合など教えてください。
(スケベじじいになりたい30歳 修二)

スケベじじいですか、いいですねぇ。
僕が考える定年後の生活ですが、
女子大の非常勤講師をしながら、
趣味で料理教室に通うというものでして、
これだと一日中若い女の子に囲まれながら暮らせるかも、
と密かに楽しみにしております。

さてさて、今回の質問は老衰と日本人の死因に関してです。
で、とりあえず分かりやすい
日本人の一般的な死因について、以下に示します。
これはインターネット上で手に入れてきた
平成7年の資料ですが、最近の大きな順位変動は、
心疾患が脳血管疾患と入れ替わったことくらいで
(と言っても、大きな差ではありません)
あとは大きな変動はないようです(数字は%)。

第1位 悪性新生物 28.5
第2位 脳血管疾患 15.9
第3位 心疾患 15.1
第4位 肺炎 8.6
第5位 不慮の事故 4.9
第6位 老衰 2.3
第7位 自殺 2.3
第8位 肝疾患 1.8
第9位 腎不全 1.8
第10位 糖尿病 1.5

(ちなみに、「悪性新生物」とは、
ガンのことと考えておけばいいでしょう)

このベスト10を見ていて思うのは、
やはり俗に言う「日本人の3大死因」が
いかに多いかということでしょう。なにしろ、
この3つだけで死因の6割がカバーできるのですから。
また、意外に多いのが、不慮の事故・自殺でしょうか。
特に中高年齢者の自殺が、
最近は増加傾向にあるという話を聞きます。

で、修二さんの気にしておられる「老衰」ですが、
驚くことに全死亡者数の2.3%を占めるに過ぎません。
では、なぜ老衰はこんなに少ないのか、
また、我々が老衰で死ぬにはどうすればよいのか(?)
を考えてみたいのですが、その前に「老衰」とは何か
ということをきちんと定義する必要があるでしょう。
手元にある『医学大事典』によると

「通俗的には、老いて人体の各機能の衰弱した状態を言う。
高齢者が死亡し、死因が十分に把握し得なかった場合に
老衰死という名がよく用いられた......」

ということです。
実際はこのあとに生物学的な「老衰」の意味が
ダラダラと書かれているのですが、
ここは敢えて無視してこの「通俗的には.....用いられた」
の部分にこだわってみましょう。

この部分を読むと、
「老衰という名前の疾患があるわけではないが、
シチュエーションによっては
老衰死と名付けなければならない死に方もある」
というニュアンスが伝わってくるような気がします。
例えば、昔のように自宅で死ぬことが多かった時代には、
胃ガンでものが少しずつ食べられなくなりながら
痩せていき衰弱した人などは、「老衰死した」と
カウントされていたことも多かったのではないでしょうか。

残念ながら普通に病院に通っている人の場合には
大方の原因はつかめてしまうものなので、
老衰が死因の2%しかなくとも、
まったく不思議なものではないし、むしろ、
この「老衰死」もその人の経過をフォローできていれば、
ほとんどの場合、特定の原因がつかめたのではないかと
僕は推測しています。

では、「老衰」ということを以上のように考えると、
修二さんのいうように「老衰でイキたい」という人は
どのようにすればよいのでしょう。
先ほどのベスト10を見てみると、
我々が考える「老衰死」に最も近い経過をたどるのは、
意外にも(異論はあるでしょうが)第1位の
「悪性新生物(ガン)」に罹った上で、
しかも積極的な治療を拒否した場合
ということになるのではないでしょうか。

一般的にガンに罹ると、少しずつ痩せていって
精気がなくなってくることが多く、
脳血管障害や心疾患で多く見られるように、
突然の衝撃的な発作で大きなダメージを受ける
という感じではありません。
痛みなどをきちんとコントロールしながら
心地よく「イカせてもらえる」ことができれば、
修二さんのイメージに近い「イキ方」ができる可能性は、
ベスト10の他の原因に比べれば高いのではないかと
僕には思えるのです。

ですから、なるべく他の病気にかからないようにするべく、
ある年齢以上になったら
「高血圧にならないよう注意する」
   (→脳血管障害、心疾患の予防)
「高脂血症にならないよう注意する」
   (→心疾患の予防)
「風邪にかかったら、ひどくならないように注意する」
   (→肺炎の予防)
「高血糖にならないよう注意する」
   (→糖尿病とその合併症の予防)
「酒の飲み過ぎに注意し、肝炎があったら
 肝硬変にならないよう早めに治療する」
   (→肝疾患の防止)
「外を出歩くときには車にひかれないように注意」
   (→事故の防止)
などを心がけることにすべきでしょう。
何か、どこにでもある健康相談のように
なってしまいましたが、これがいかに重要かは、
病院で多数の入院患者をみている医療従事者だったら
誰もが思い知っていることです。

例えば、日本人の死因としてジワジワ増えている
虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)の患者さんの
検査結果を見ていると、一部の例外を除いて、
「高血圧・高脂血症・高コレステロール血症・高血糖」
と判で押したように書かれています。
これらは、やはり判で押したような健康管理をすれば
防げたはずのものであることは
賢明な皆さんであるならお分かりでしょう。
「バランスの取れた食事と、適度な運動、
 できれば定期的な健康診断」
なんて、耳にタコができるくらい
聞いているのではないでしょうか。

最後に、修二さんが「どんな原因で往生するか」
ということに関してですが、
先ほどの統計をみてくれれば分かるのですが、
「ガン・心疾患・脳血管障害」と答えただけで
6割は当てはまってしまうので、
「その3つのうちどれか」なんて答えたいところですが、
それではきっと許してもらえそうにないでしょう。

30歳という年齢を考えると、
たとえ目の前にその人が現れたとしても
(極度の肥満とか持病がある場合などは除きますが)、
何も材料がなければなかなか特定はできないでしょう。
とりあえず定期健康診断などの健康相談などの場を借りて、
今までの数値の結果を持ち出しながら
お医者さんに聞いてみるとよいかもしれません。

「僕ってどんな疾患にかかりやすそうですか?」
「それって防げますか?」
「それは死因になり得ますか?」
と率直に尋ねてみたら
きちんと答えてくれない医者は少ないと思いますからね。

では、今回はこんなところで。

1999-02-18-THU


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