もくじ
第1回「決断」するということ 2006-05-01-Mon
第2回当たり前のことが、言えない 2006-05-02-Tue
第3回よそいきの人間関係 2006-05-03-Wed
第4回人に「呼ばれる」ちから 2006-05-04-Thu
第5回身体でおぼえる知恵 2006-05-05-Fri
第6回身体感覚を取り戻す 2006-05-08-Mon

13歳で大人になろう。

第6回 身体感覚を取り戻す

養老
いまは、身体の使いかたを
知らない人たちが増えてますよね。
糸井
そうですね。
養老
武術家の甲野善紀さんが、
介護のお手伝いをしているらしいんですが、
患者をベッドから抱き起こすとき、
若い介護士が、よく腰をいためてしまう。
それは、
身体の使いかたに問題があるからだ、と。
古武術を身につけている
甲野さんが指導してやると、
おどろくほど、楽に起こせるようになるらしい。
糸井
ようするに、理屈じゃない。
身体をどう使えばうまくいくか、
を知っているんですね。
それって、
学校で学んでるだけでは、
身につけられない、
身体感覚的な知恵、ですよね。
養老
その、感覚ということで言えば、
母親のおっぱいを浸したガーゼと、
よその母親のおっぱいを浸したガーゼをね、
生後1ヶ月の乳児の頭の両側に置いておくと、
もう、どんな赤ん坊も、かならず
自分のお母さんの母乳の方を選ぶの。
糸井
それは、すごい!
養老
でも、それを
父親にやらせてみても、全然わからない。
つまり、もう
感覚が消えちゃってるんですよ。
糸井
なるほど。
養老
そのことが
もっとはっきりしてるのは、
絶対音感ですね。
子供のときには
みんな、絶対音感を持っている。
でも、大人になるにつれて、
全部なくしていくんです。
糸井
それは、
不便だから、ですか?
養老
そう。
言葉を使うときに、
声の高さで認識しちゃうと、
すごく、不便になる。
絶対音感をなくした方が
言葉は使いやすいんですよ。
文明社会では、そういう感覚を、
どんどんなくしていってる。
糸井
でも、うちのかみさんが
飼い犬に話しかけているところとかをみても、
言葉って「中身」だけじゃないですよね。
語感や言葉の調子とかで
確実に「通じている」と思えるし。
養老
じつは、我々現代人も、
会話の中でそういう「調子」のような部分を、
ちゃんと、感じてるはずなんだけど、
気づいていないんですよ。
語感で意味を把握している部分もあるのに、
言葉の表面だけをすべてだと考えてしまう。
糸井
記号的な意味だけ。
養老
そうそう。
携帯のメールや
インターネットなんかがいい例ですよ。
画面に表示された
言語の表面的な意味だけしかとってないんです。
糸井
表面的な記号からだけでなく
語感をふくめた、
肉体的な身体感覚を通じて、理解する。
それって、ペットを飼うと
多少でも、取り戻せる部分がありますよね。
養老
そうですね。
だから飼ってるんですよ、みんな。
糸井
今日の話でいえば
大工さんの余剰エネルギー、とか
コミュニケートする能力、とか
野菜のつくりかた、だとか‥‥。
養老
みんな
身体の使いかた、に関係すること。
頭で考えているだけでは
やっぱりダメなんです。
「身体感覚」に基づいた知恵を
取り戻さなければ。
糸井
13歳で大人になろうっていうのは、
そういう肉体的な知恵を
常識として、子供のうちに
身につけておくべきだってことなんですね。

<終わります>