- 糸井
- いま、父親と子供って
 一緒にお風呂にはいっているかな?
- 養老
- どうでしょうね。
- 糸井
- プールの授業とかで
 海パンをはいている人、
 はいてない人の混じっていた世代が、
 もう親の世代になっているだろうし。
- 養老
- 他人と一緒に風呂に入るのが
 嫌だっていうのって、
 銭湯がなくなったこととも、
 関係あるんじゃないですかね。
- 糸井
- ああ、そうかもしれないですね。
- 養老
- 全寮制の学校とかでも
 共同のトイレが
 使えないっていう学生がいたりとか。
- 糸井
- 隣に人がいると、イヤなんだ。
- 養老
- それから、母親が
 つきっきりでお給仕しないと
 ご飯を食べられない、とかね。
- 糸井
- 隣に人がいると、食べられない?
- 養老
- 人工的につくられた、
 極端にクリーンな環境って
 やはり、うまくいかないんですよ。
 キャンベラとかも、そうでしたし。
- 糸井
- オーストラリアの?
- 養老
- シドニーとメルボルンの中間地点に
 人工的に作られた街なんですけど、
 70年代、僕が行ったときには
 精神を病んでしまっている人の割合が
 すごく、高かった。
 官公庁が多くて、下町がない。
 街って、人間の身体と同じで、
 脳みそから生殖器までなきゃだめなんですよ。
- 糸井
- それは、
 下町のような猥雑な部分、
 つまり「ウイルス」みたいなものもふくめて。
- 養老
- そう。
 それらが欠けてるとね、
 うまくいかないんです。
- 糸井
- 外国に住んでいた人に聞くと、
 平均的な日本人の潔癖度って
 他の国の人たちとかと比べると、
 ちょっと高いみたいですね。
 養老さんは、
 乳酸菌みたいな人ですけど(笑)。
- 養老
- なんですか、それ(笑)。
- 糸井
- 乳酸菌って
 世間で公認されてる唯一の菌でしょ?
- 養老
- ああ、なるほど。
- 糸井
- 他の菌は認めないけど、
 乳酸菌は喜んで採るじゃない。
 「これ、ちょっと
 酸っぱくなってない?」って言っても、
 「いや、乳酸菌がね」って言うと、
 たいがいオッケーになりますよね?(笑)
- 養老
- でも、菌なんて
 みんな、いっぱい持ってるんだよ。
- 糸井
- そういう、いろんな菌の
 目方まで含めて「人間」ですよね。
 相当な量らしいじゃないですか。
 腸の中の、いろんなものって。
 養老さん、
 毎日お風呂に入ってます?
- 養老
- 毎日かどうかわかんないけど、
 ま、たいていね。
- 糸井
- 毎日かどうかわかんないって言うだけで、
 若い人からは、
 「え?」って言われちゃいますよ。
- 養老
- そういった過度な潔癖性も
 今の「よそいき」の人間関係と
 どこかで関係しているような気がしますね。
- 糸井
- すべてを、人工的で
 クリーンに整えてしまったら
 やはり、おかしくなってしまう。
 人間が住む街や環境には
 ウィルスのような存在も、
 ある場合には、必要だってことですね。
 
        
           
         
               
            

