- 糸井
- 決断できない、っていうのは
当たり前のことが言いにくくなった、
ってことでもあるわけですよね。 - 養老
- このあいだの
耐震強度偽装事件なんかが、いい例ですよ。
ヒューザー物件よりも
潰れそうな家なんてたくさんあるのに、
そういう話はいっさい、出てこない。 - 糸井
- 最悪の状況ってところについては、
一言も言ってはいけないってことですよね。 - 養老
- そうでしょう?
- 糸井
- この事件について思ったのは
日本人って、木造の感覚のままに
鉄筋の時代を迎えちゃったんじゃないかっていう。
法隆寺なんか、
鉄の筋が入ってなくても
1000年間たってますから。 - 養老
- そう、そういえば、
うちの郵便箱が壊れたんですけど、
大工さんが、えらく凝っちゃって。
すごい大きいやつ作ってきたの。
それがね‥‥、
虫の形してんですよ! - 糸井
- 大工さんが、郵便箱に
創作意欲を発揮しちゃったんですね。 - 養老
- 自然木の枝でつくった足が
6本ついてるんですが、
これを拾ってくるのに
いちばん時間かかったって(笑)。 - 糸井
- つまり、今はなかなか
大工さんの腕の見せ所がないんですよね。 - 養老
- そう!
それが言いたかった。 - 糸井
- ある種、怒りを
ぶつけてるんですね(笑)。 - 養老
- ふつふつと湧き出る創作意欲が
押さえ込まれちゃってて。
ふだんはプレハブやなんか
作らされてるから(笑)。 - 糸井
- それと
自分としては抵抗があるんだけど、
ずっとがんばり続けているのが、
誰かに子供が生まれたとき、
「まだあんまりかわいくないね」
って言うんですよ。 - 養老
- へえ。
- 糸井
- 若い父親なんかは、
ほんとうに嫌な顔するんですよ。 - 養老
- そうでしょう(笑)。
- 糸井
- 「あなたは、嫌な顔するだろう。
顔では笑ってるけど、なんて男だとうらむだろう。
しかし、いずれわかるぞ、と。
3ヶ月、4ヶ月たってから
いまのことを思い出せば、
ああ、あれは赤黒い猿だった、と」(笑)。 - 養老
- ははは(笑)。
- 糸井
- みんなに言っては
そのたびに嫌がられてきたけど、
あとでかならず
「糸井さん、
あれは正しかった」って(笑)。 - 養老
- 落語の「子誉め」がそうですよね。
- 糸井
- なんて言うんだろう、
そこまで言えちゃうほどの
親しさがあれば、大丈夫なんですよね。 - 養老
- 逆に言うと、
親しくないと言えない。
今って、人間関係が遠く、
よそいきになっちゃったから。
それをいちばん感じるのが、
若い人の付き合いかたですよ。 - 糸井
- はい。
- 養老
- 僕らの時代は、顔を突き合わせ
面と向かってしゃべる時代。
僕らの娘の時代になったら、
学校行ってしゃべるより、
家へ帰って来てから長電話する。
つまり、
顔を見ないで「声だけ」になってる。 - 糸井
- ええ。
- 養老
- それで、今はメールでしょ。
顔もなければ、声もない。 - 糸井
- そうですね。
- 養老
- 相手にとっては常に不在で、
こちら側だけが存在するっていうのが、
今の若い人のつきあい。
大学の授業でも、学生が質問してこないから
携帯メールでいいから質問しなさいと言うと
だーっと送られてくる、とかね。 - 糸井
- まるで無記名投票だ。
- 養老
- 結局、人と付き合うことから
逃げてるわけですよ。 - 糸井
- そうですね。
表に出るっていう感じを
とにかく避けるように。
つまり、個人情報を
社会のなかに出さないように。
個人情報さえ出さなければ
安全だって思われてる。 - 養老
- なんか、
「隠れる」ようになっちゃったね。 - 糸井
- 「しくみ」のなかに隠れていれば、
打撃を受けないですむだろう、
ってことなんでしょうかね。