- 糸井
- 今日は「13歳で大人になろう」
というテーマで、お話を。 - 養老
- はい。
- 糸井
- 理論社の『よりみちパン!セ』シリーズで
養老さんが書かれた『バカなおとなにならない脳』。
これを読むと、マッカーサーが
第二次大戦直後の日本人は
「12歳の少年のようなもんだ」って言ったと。
でも逆に僕は、
「むかしの日本人は12歳で
ちゃんと大人だったんじゃないか」、と(笑)。 - 養老
- ええ。
- 糸井
- ようするに、知識の量だとか、
偏差値とかの基準で
はかられる知恵だけでなく、
身体感覚に基づいた「肉体的な知恵」を、
常識として、子供のうちに
身につけておくべきなんじゃないか、
ということなんです。 - 養老
- このあいだ
笑福亭鶴瓶さんと対談したときにも
「普通のまともな人が、
いちばん頭がいいんじゃないの」
という話が出てきてた。 - 糸井
- 考えてみると、
今って無理やり「ハタチの大人」を
作ってるだけだという気がしますね。 - 養老
- 不思議な世の中になっちゃったね。
- 糸井
- そうですね。
- 養老
- 昔はね、
そこらへんのじいさんばあさんがね、
けっこう常識人だったでしょう。 - 糸井
- うん。
- 養老
- 今はね、そういう人たちのほうも
非常識になっちゃって(笑)。 - 糸井
- なるほど。
- 養老
- 酸いも甘いも噛み分けてる、
そういう人が減ってきたんじゃないかな? - 糸井
- ‥‥「決断させられた体験」が
ないんじゃないですかね。 - 養老
- ああ。
- 糸井
- このあいだ、
高倉健さんが主演された
『単騎千里を走る』という映画を観て
やっぱり大事なのは、
村に長老がいて、で、その長老が
「ちゃんと決断してくれること」。 - 養老
- はい。
- 糸井
- 賛成だとか反対だとかじゃなく、
ちゃんと言ってくれれば、
決断してくれれば、いいんだよ!
そうしたら俺は納得する、と。
そんな「決断してくれれば!」が
テーマで、いたく感心しまして(笑)。 - 養老
- うん。
- 糸井
- で、若い観客は面白がるんですよ。
現代の常識とは、ちょっと違うからね。
僕らにとっても、半分は、笑える。
でも、本当は映画の通りなんじゃないかと。 - 養老
- 実際はね。
- 糸井
- どっちが賛成だ反対だっていう
ところばっかりにとらわれてるけど、
どっちでも後でなんとかなるわけだから、
そこで、もっと大事なのは、
理解し合うこととか、「腑に落ちる」ことなんだって。 - 養老
- 小樽のトンネル事故で
それに似たようなことを感じたね。
あったでしょ?
国道のトンネルが崩れて。 - 糸井
- ええ、はい。
- 養老
- 事故現場に発破かけると、
二次災害になるかもしれないとかで、
恐る恐る発破作業していて、
結局、一週間くらい進まなかった。 - 糸井
- うん。
- 養老
- そのときに、
道路を管理してたトップが
雲隠れして出てこなかったんですよ。 - 糸井
- 決断ができない。
- 養老
- そのときに、たとえば
もうたぶん絶望的だから
もっとはやく作業を進めよう、とか
なんらかの決断をする人間が出てきていたら、
あんなに時間をかけることもなかったし、
ひょっとしたら、まだ無事だった
生存者を助けられたのかもしれない 。 - 糸井
- そういう「決断」って、
かつては、みんなできたのかなぁ。
13歳で大人になろう。
僕たちが生きていくのに必要な知恵が、いま、どんどん失われている!?
それは、たとえば、他人とつきあうこと、子どもと一緒にお風呂にはいること、野菜をつくってみること‥‥。そんな「常識」をアタマじゃなくて、からだで学ぶこと。
現代人が忘れそうになっている、「からだの知恵」について解剖学者の養老孟司さんと糸井重里が、語りあいました。