- 観客A
- 「木村屋」のあんぱんは焼きたてがおいしい、
ということでしたが、
そういう意味では、次のこちらも同様かもしれません。 - 糸井
- ほぉ、それはなんでしょう。
- 観客A
- たい焼きです。
- 糸井
- ああー、なるほど。
たい焼き。
たしかにそれもそうですね、できたてがベストです。 - 介添人
- 失礼いたします。
たい焼きをおもちいたしました。 - 糸井
- ありがとうございます。
‥‥着物のことについては、もう言いません。
- 介添人
- はい。
- 糸井
- なぜなら、私の話もこの長さになると
実際の連載ではけっこうな回数になっていて、
これが掲載されているころにはきっと
お正月の雰囲気でもなくなっているからです。 - 介添人
- はい(笑)。
どうぞお召しあがりください(去る)。 - 糸井
- さて、たい焼き。
これはもう、大福以上に庶民のものです。
超・庶民的、おやつ。
- 観客B
- とても親しみやすい印象があります。
- 糸井
- 小麦粉を焼いたもので
あんこを挟んでいるわけですからね。
あえて言うならば、
上品めかしてはいない、野卑な食べ物です。
駄菓子の範疇に入ると言っていいかもしれません。 - 観客C
- なるほど、駄菓子。
- 糸井
- メリケン粉を焼くっていうのは、
おやつの中ではいちばん庶民的なものなんです。 - 観客D
- あー、はい。
- 糸井
- たい焼きのおいしさは、
「小麦粉を焼いたもので、あんこを挟んでいるだけ」
という中での勝負になりますよね。
このすくない要素の中で、
どこをどう工夫してお客さんをよろこばせるか。
「あんこがたっぷりですよ」とか、
「おおきいですよ」とか。
そういう、たい焼きの声が聞こえるかどうかが、
勝負どころなんです。 - 観客E
- たい焼きの声‥‥。
- 糸井
- たい焼きの声が聞こえてましたか? みなさんには。
- 全観客
- ‥‥ざわ‥‥ざわざわ。
- 観客F
- ‥‥耳を、傾けていなかったような気がします。
- 糸井
- そうですか‥‥。
ぼんやりしないでください、お願いしますよ(真顔)。
- 全観客
- はい(真顔)。
- 糸井
- たとえば、ふくらし粉を入れた、たい焼きもあります。
重曹の匂いがちょっとする、たい焼き。
私はあまり好みませんが、
それはそれでふんわりしたカステラみたいに考えれば
おいしいと言えるかもしれません。
要は、そのたい焼きの場合には、
「ふわふわですよ」が、声になるわけです。
これがうちのサービスですよ、っていう声。 - 全観客
- (うなずく)
- 糸井
- たい焼きは、
いまでこそわりとお金がとれるようになりましたが、
もともとは1個ずつの単価が
あまりとれなかったところからはじまっています。 - 観客G
- 駄菓子のような。
- 糸井
- そうです。
自分んちであんこを煮て、
原料費のところから工夫して、
どこでどういうふうに利を得るかを
けっこうかつかつのところで考えながら
やってきたんだと思います。 - 観客A
- なるほど‥‥。
- 糸井
- とはいえ、道具も機械もあんまり要りません。
材料もありふれたもので高くはかからない。
ですから、良心の見せ合いでもあります。 - 観客B
- たい焼きは、良心‥‥。
- 糸井
- 庶民の食べ物としての良心を見せつつ、
きちんと利を得ていく。
そのバランスを考えたうえでの表現が、
各店の「たい焼きの声」なんです。
ですから‥‥聞いてあげてください(真顔)。
- 全観客
- はい(真顔)。
- 糸井
- さて、目の前にあるこのたい焼き。
このたい焼きには、とても馴染みがあります。
これは「浪花家」のものでまちがいありませんね? - 観客C
- 正解です。
麻布十番「浪花家総本店」より調達してまいりました。 - 糸井
- 「浪花家」のたい焼きは、膨らみがすくないです。
それで‥‥。
あ、みなさんどうぞ、召しあがってください。
(お茶をひとくち)それで、
なんていうんだろう‥‥
あんこが閉じこもっていないんですよ。
あんこと小麦粉が一体となって、
焦げちゃってるところがあるんです。 - 観客D
- (食べつつ)ほんとだ‥‥。
- 糸井
- ね、あんこがあふれてるでしょ。
「わー、小麦粉とまざっちゃって、
いっしょになって焦げちゃったー」
- 観客D
- ‥‥いまのセリフは、あんこのセリフでしょうか。
- 糸井
- 当たり前です(凛としている)。
- 観客D
- 失礼しました。
- 糸井
- 「小麦粉といっしょになっちゃったー」
となって焦げたところがカリッとして‥‥
あれです、ほら、いま流行っている
餃子の「羽」ですか、あの感覚に近いんです。
- 全観客
- ああーー、はい。
- 糸井
- それが、「浪花家」のたい焼きの声だと私は思います。
- 全観客
- (食べつつ、うなずく)
- 糸井
- あと、たい焼きについては‥‥
そうですね、
歴史的なことで言えばとても新しいものだと言えます。 - 観客E
- そうか‥‥そうですね。
- 糸井
- あんこの発祥にくらべたら、はるかに最近のことです。
焼くための道具がないとできないんですから。
あきらかに工業以後です。 - 観客F
- なるほどー。
- 糸井
- たぶん、たい焼きよりも、
太鼓焼きのほうが先にあったんじゃないかな。 - 観客F
- あ、今川焼き。
- 糸井
- そうそう、そっちのほうが道具がシンプルですからね。
もっと言うと、
「きんつば」なら鉄板だけでもできる。 - 観客G
- あー、きんつば。
それもご用意すればよかった。 - 観客B
- ‥‥あの、すみません、
きんつばって、なんですか? - 糸井
- ‥‥ああ(観客Bをやさしく見つめる)、
あんこがお好きでないと言っていたあなたですか。
きんつばというのは、
鉄板の上にあんこをのせて、つくります。
- 観客B
- あんこを鉄板で焼くだけですか。
- 糸井
- いや、粉をといた生地であんこを包むんです。
あの粉は、小麦? 米粉?
‥‥そのあたりは知りません。
徹底的に調べないのが私の特徴です(雄々しく)。 - 観客B
- ありがとうございます、調べておきます。
- 糸井
- たい焼きは、このあたりで。
‥‥さて、次がラストですね。
着物の人、持ってきてください、カモンです。