もくじ
第1回あんこからの呼びかけに、私は「はいっ」と応えるだけです。 2013-01-01-Tue
第2回お汁粉と、私。 2013-01-02-Wed
第3回小豆とジャム。 2013-01-03-Thu
第4回饅頭のあんの、その淡さ。 2013-01-04-Fri
第5回大福、皮とあんこのハーモニー。 2013-01-05-Sat
第6回羊羹には、まだたどり着けていない。 2013-01-06-Sun
第7回最中、それは皮である。 2013-01-07-Mon
第8回あんぱんは、できたてを歓迎します。 2013-01-08-Tue
第9回たい焼きの声が聞えるか。 2013-01-09-Wed
第10回おはぎが持つ、ダイナミックレンジ。 2013-01-10-Thu

2013年あんこの旅

糸井重里は、あんこを好みます。 こよなく、好みます。 そんな糸井とともに 「ほぼ日刊イトイ新聞」は、あんこを巡る旅に出ましょう。 饅頭、大福、羊羹、最中などを食べながら語ります。 笑う門と、あんこのお話には、きっと福がくるのでしょう。

第1回 あんこからの呼びかけに、私は「はいっ」と応えるだけです。

新年あけましておめでとうございます。

新春企画・糸井重里によるあんこのお話は、
ほぼ日内にしつらえた特設会場、
「あんこの間」にて開催されました。

こちらが、「あんこの間」の演壇です。

会場の基調となるカラーは、白。
新年のまっさらな気持ちと、大福の皮をイメージしました。

写っている女性は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の乗組員。
本日、糸井の介添人をつとめる者です。
彼女がこの役に選ばれた理由は、「着物を持っていたから」。

その介添人が、糸井を呼びにいきます。

介添人
新年のご挨拶と、あんこのお話をちょうだいしたく、
お迎えにあがりました。

介添人
さあ、ご案内をさせていただきます。
まいりましょう、「あんこの間」へ。
糸井
あんこの、まーーーー。

介添人
‥‥‥‥こちらでございます。

介添人
ご入場ください。
観客たちが首を長くして待っております。

 
すすっと引き戸をあけたら‥‥
流れ出したのは「雅楽」のBGM。
笙、篳篥、龍笛のおごそかな調べが、
会場内の空気をみやびなものに変えています。
拍手で迎える観客たち。
 
やわらかな笑みをたたえ、ゆったりと、
糸井重里は演壇の椅子に歩み寄り、座ります。
すると、なにを思ったか語りべは、
やにわに身につけていたくびまきをほどくと、
自らの眼前にふわりと両手で広げるのでした。

全観客
ざわざわざわざわ‥‥。
糸井
やあ、諸君。
こうして諸君と話ができるのは、
私にとっても、たいへんうれしいことである。
観客A
(小声で)‥‥あの幕の意味は?
観客B
(小声で)たぶんまだ、
キャラ設定ができていないんだと思う。
観客A
(小声で)待ちましょう。
観客B
(小声で)待ちましょう。

糸井
諸君。
いままで諸君とのあいだには、
こういう垣根があったのかもしれない。
しかし、もはやこういう時代ではない。
もっと親しく話し合おうじゃないか。
もう、私のことを王だと思うな。
観客D
王?!
観客B
ひとまず「王」という設定にしたようです。
糸井
妻だとも思うな。
観客D
妻?!
糸井
私はただの大統領だ。
観客D
だ、大統領?!
観客A
‥‥(小声で)どうしましょう、
このくだりを記事にして伝えるのはかなり難しいです。
観客B
(小声で)‥‥もう、このまま書きましょう。
糸井
私はただの日本国大統領だ。
観客E
日本に大統領は‥‥??
糸井
いないのなら(笑)、私がやります。
観客A
あ、いまちょっと笑った(笑)。
観客B
よっ!(笑)
観客C
よっ、大統領!
観客D
まってました大統領!
糸井
こんな垣根は、なくしてしまってぇ‥‥!
(くびまきをたたんで首に巻く)

糸井
目と目を合わせ、新年のご挨拶を。
2013年、明けましておめでとうございます。
全観客
おめでとうございまーす!
糸井
あんこの話をしましょう。
全観客
わーーーーーー!(盛大な拍手)
介添人
お茶でございます。
糸井
うん、ありがとう。

糸井
(ひとくちお茶を飲む)‥‥あのね、
あんこはね、いいぞぉ〜。
みなさんはたぶん、
あんこに対する信仰が薄いんだと思うんです。
いいですか、
あんこはもともとは豆です。
小豆(アズキ)。
小豆を煮る。
最初は豆として煮られたり茹でられたり、でした。
それが「砂糖」という貴重なもので
甘く煮られるようになった。
それが発祥したのは、どこですか?
観客C
‥‥どこでしょう。
糸井
小倉山です。
全観客
あーー。
観客C
「小倉あん」って、言いますよね。
糸井
それまでは、
豆を甘く煮るということ自体がなかったんです。
じゃあ、京都の小倉山で、
はじめて小豆を甘く煮たのは、誰ですか?
観客C
‥‥誰でしょう。
糸井
知りません。

全観客
(軽くコケる)
糸井
そのへんはさ‥‥
徹底的に調べないのが俺の特徴だから。
観客E
あえて、ある程度までしか調べない(笑)。
糸井
ぜーんぶ知ってしまうと、それで終わっちゃうから。
たのしみを残しておかないと。
なんていうの? 男と女みたいなものですよ。
愛するというのは、
すべてを知ろうとすることとはちがうんだよ。
で、ま、話を戻せば小倉山です。
小倉山は、
『小倉百人一首』とあんこをつくったんだよ。
全観客
ああー。
糸井
低い山だよ。
観客E
低い。
糸井
剣が峰ではないんだよ。
観客F
はい。
糸井
エベレストでもないんだよ。
観客G
ええ。
糸井
ましてやチョモランマでもない。
観客A
そのふたつは同じ山です。
糸井
もちろんマッターホルンでもない。

観客B
小倉山が低いことは、よくわかりました。
糸井
私は、小倉山によく行きます。
あのあたりはもう、化野(あだしの)に近いから、
死体を埋めた場所なんです。
全観客
ほぉーー。
糸井
で‥‥ええと、なにが言いたいのか‥‥
もうだんだんわかんなくなってきた。
観客B
だ、大統領。
糸井
だーいじょうぶ、なんとかするから。
つまり、
死人が埋まってるような場所で、
甘いものがうまれた。
そういう場所でうまれるっていうことは‥‥
わかりますか?
あっち側からこっち側に
やってくるということなんです。
ですから、あえて言うならば、
あんこというものは
「黄泉の国からの捧げ物」なんですよ。
全観客
‥‥おおおーーーー。
糸井
なあ?
しゃべってるうちになんとかなるもんだろ?
全観客
はい。
糸井
俺はいつもこうやって原稿を書いている。
全観客
(笑)
糸井
だから、小倉山。
すべてが止まって落ち着いてしまった、
その時間の凪(なぎ)のような場所で、
ふわああああぁーっと、
向こう側からくるのが‥‥あんこなんだ。

観客B
いいなぁ(笑)。
糸井
まぁ、そういうものですから、
あんこについて
がつがつ知ろうとし過ぎないことです。
こっちからは、行かない。
向こうから迎えに来て、いただく。
ご招待に合わせて‥‥
(ものすごく真面目な顔で)ありがとうございます!

全観客
(笑)
糸井
みんな笑うけどさ、ほんとだよ?
あんこが私に呼びかけてくださる。
私は、応答する。
観客C
応答する。
糸井
そう、レスポンス。
観客D
レスポンス。
糸井
攻めてはいけない。
‥‥恋愛もそうでしょう?
攻めたててはいけません、
(すごくソフトな口調で)迎え入れるんです。
観客E
はあーー(笑)。
糸井
まあ、なかなかすぐには真似できないと思います。
でもこれが、
あんこ世界を自分のものにするということです。
観客D
あんこ世界!
糸井
自分のものにするということは、
逆に言えば、
「あんこ世界のものに、私がなってしまう」
ということです。
私はあんこに、取り込まれます。

全観客
おおーーー(笑)。
糸井
(観客の笑いを気にもとめず)ゆだねる。応答する。
「はいっ」と応える。
観客F
レスポンス。
糸井
あのね‥‥
応える姿勢、これは立て膝です。
観客G
立て膝。
糸井
しゃがんで、立て膝。
手は大地につけます。
こうやって‥‥。
そうして‥‥あんこの呼びかけに対して‥‥
「はいっ!」

全観客
わはははははははは!!
糸井
(観客の爆笑を気にもせず)あんこからの呼びかけに、
私は「はいっ」と応えるだけです。
観客A
よっ、大統領!
全観客
(拍手と爆笑)
第2回 お汁粉と、私。