もくじ
第1回あんこからの呼びかけに、私は「はいっ」と応えるだけです。 2013-01-01-Tue
第2回お汁粉と、私。 2013-01-02-Wed
第3回小豆とジャム。 2013-01-03-Thu
第4回饅頭のあんの、その淡さ。 2013-01-04-Fri
第5回大福、皮とあんこのハーモニー。 2013-01-05-Sat
第6回羊羹には、まだたどり着けていない。 2013-01-06-Sun
第7回最中、それは皮である。 2013-01-07-Mon
第8回あんぱんは、できたてを歓迎します。 2013-01-08-Tue
第9回たい焼きの声が聞えるか。 2013-01-09-Wed
第10回おはぎが持つ、ダイナミックレンジ。 2013-01-10-Thu

2013年あんこの旅

第7回 最中、それは皮である。

糸井
じつは先ほど、
ここに来る前に軽食をとりましてね。
観客A
あ、そうでしたか。
糸井
ですから、せっかくのあんこのお菓子を
たくさん食べられないのが非常に残念なんです。
観客B
ということでしたら、
そんな今の糸井さんに
次のお菓子はぴったりかもしれません。
糸井
ほぉ、それはなんでしょう?
観客C
ちいさめの最中です。
糸井
(ぽんと手を叩いて)「空也」だ。
介添人
失礼いたします、
こちら、銀座「空也」の最中でございます。

糸井
ああ‥‥きみがこうやって
あんこを運ぶ役割になった理由。たしかそれは‥‥
介添人
この着物を持っていたからです。
糸井
そうです、覚えていますとも。
たいへんあでやかです。
介添人
ありがとうございます。
どうぞお召しあがりください(去る)。
糸井
「空也」。
「空也」の最中。
ま、みなさんもお食べになってみてください。

全観客
(食べる)
糸井
さあ、どうでしょう。
最中とは、何でしょう?
観客D
最中とは何か‥‥。
糸井
答えを急げば、最中とは香りです。

全観客
香り‥‥。
糸井
ではもう一度。
今度は「最中は香りだ」と想いつつ、
食べてみてください。
どうぞ‥‥。
全観客
‥‥(食べる)‥‥‥‥ああーーー。
糸井
わかりましたね。
最中の皮を「味だ」と思っちゃだめなんです。
香ばしさ。
これは、人工的な焦げの香りです。
料理は焦げもおいしさですよね。
焼いた魚とか、うなぎの蒲焼きとか。
最中は、それを表現しているんです。
観客E
なるほどぉ。
糸井
ですから感動できない最中はたいていの場合、
皮に問題があるんです。
添え物だと思って、皮で手を抜いている。
全観客
(食べつつ、うなずく)
糸井
あんこと同じだけの意識を皮にも持たないと、
いい最中にはなりません。
ね、おいしいでしょ? 香りが。
観客F
おいしいです。
観客G
香ばしさがたまりません。
糸井
‥‥あなたは?(観客Bをやさしく見つめる)
あんこがお好きでないと言っていたあなた。
いかがですか?

観客B
私は‥‥最中が嫌いでした。
糸井
そうですか(やさしい)。
観客B
でも、これは‥‥。
糸井
はい。
観客B
なんだか‥‥
糸井
‥‥‥‥おいしかった。

観客B
‥‥‥‥。
糸井
‥‥‥‥。
観客B
‥‥はい。
糸井
応えました。
いまこの人は、あんこからの呼びかけに
「はいっ」と応えました。
全観客
おおーーー。
糸井
この、あんこの濃さ、やわらかさ、
皮の香ばしさ。
それらをこういう加減で合わせてみましたよ、
という「最中からの提案」があったわけですよね?
そんな呼びかけがあって、
あなたはそれに応えたわけですよね?

観客B
‥‥というか、
糸井さんの話を聞いてたら食べたくなりました。
糸井
うーーーん‥‥
そうなんでしょうけど‥‥
でもほら、私はあんこに取り込まれてますから。
私、あんこだから。
すなわちそれは、あんこに応えたわけですよ。
観客B
あ、そうか‥‥。
糸井
いいですか、何度も言いますが、
私たちは呼びかけに応えるだけです。
「あんこ世界」から降りてきた、
最中という提案をぼくたちは、
「さようでございますか」と受け取る。
観客C
「はいっ」と応える。
糸井
そう。
立て膝で、両の手を大地につけ‥‥
「はいっ!」

全観客
わははははははは!
糸井
なぜそんなに笑っているのでしょう‥‥?
お話を「空也」に戻します。
観客D
失礼しました。
「空也」のお話を。
糸井
「空也」の最中に「はいっ」と応える理由には、
このちいささもあります。
このちいささが、いいんです。
お茶席でも使える。
それと、1個がちいさいと、
食べ終わったという実感があります。
観客E
はい、あります。
糸井
物足りない感じはしませんよね。
このちいささのわりには
きゅっとしまってて、けっこう重いんですよ。
この濃さのあんこで食べさせるっていうのが、
「空也」の最中なんです。
で‥‥。
ここで、またもや、
私は「とらや」の話に戻らざるを得なくなります。
観客F
「とらや」さん。
たびたびお名前が登場しています。
糸井
ある日、「とらや」の最中を食べたぼくは‥‥
(小声で)ショックを受けた。

全観客
ほおぉーー。
糸井
ほんとうに驚いたんだから。
思わずツイートしたんだから。
観客G
どういうところに驚いたのでしょう。
糸井
あのね‥‥
「最中の絵を描いてごらん」と言われたとします。
たいていの場合は、まあ、
「ほぉ、印象派ですね」と評される絵を描くんです。
それはそれで、いいんですよ。
ところが「とらや」の場合は‥‥
ピカソ登場、みたいな。
全観客
ピカソ!
糸井
じゃーん、ピカソ登場。
観客G
それを食べてみたい‥‥。
糸井
食べてください、売ってますから。
食べればわかると思います。
と、まあ、
「とらや」の話になるとまた長くなるので、
このくらいにしましょう。
なんにせよ、最中は皮です。

全観客
最中は、皮。
糸井
復唱、ありがとうございました。
‥‥で、着物の人が次にもってくるのは?
どのあんこのお菓子でしょう。
第8回 あんぱんは、できたてを歓迎します。