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社長に学べ!<おとなの勉強は、終わらない。>

社会にでてからの勉強には、
答案用紙もないし、満点の答えもありえない……。
大きな生きた組織を動かしている経営者たちは、
そういう、誰も答えを知らないことや、
学校で教えてくれないことを、たくさん知っている!

よし、おとなの勉強をしてみよう。
いまの社会で指揮をとっている人たちから、
じかに学ばせてもらう連載の第2弾に登場するのは、
任天堂の社長、岩田聡さん(いわたさとるさん)です。


第15回 わたしは当事者でありたい。
いままでの岩田さんとのお話
第3回 ものすごく夢中になった日。 第4回 わたしの人生を変えた相棒。
第6回 常に自分に課していたこと。
第7回 修羅場を救ってくれたもの。 第8回 いそがしい場所に身をおく。
第9回 共感してくれるように語る。
第11回 話をきいて、問題をほぐす。 第12回 できるまでやるという方針。
第13回 トライアンドエラーの本質。 第14回 自分にしかできないことは?



成功を体験した集団を、
現状否定をして
改革すべきではないと思います。


その人たちは
善意でそれをずっとやってきて、
しかもそれで
成功してきている人たちなんですから、
現状否定では理解や共感はえられないんです。

世の中のありとあらゆる改革は
現状否定から入ってしまいがちですが、
そうするとすごく
アンハッピーになる人も
たくさんいると思うんです。

だって現状を作りあげるために、
たくさんの人が
善意と誠実な熱意で
やってきたわけでしょう?

不誠実なものについて
現状否定をするのはいいと思うんですけど、
誠実にやってきたアウトプットに対して
現状否定をすることだけは
「なし」だと思うんです。


わたしはいま、
任天堂がいまのこの環境なら
変わったほうがいいと思うことはあるけれども、
現状否定からは入りたくないし、
入るべきだとも思っていません。

たくさんのことを変えてもいるのですが、
否定したいから変えるのではありません。

「わたしがもしも昔の時代にいたら、
 いま任天堂がやっているのと
 おなじような方法をとったと思うよ。
 でも、環境が変わったでしょう?
 周囲が変わったでしょう?
 ぼくらが変わらなかったらどうなる?
 ゆっくり死ぬ道を選ぶ?
 それとも、もっとたくさんの人が
 未来にぼくらの作ったもので
 よろこんでくれるようになる道を選ぶ?」

ということです。
なるほどなぁ。
さっきの面談の話が、
そのまんま生きてきた考えですね!
面談をしてなかったら、わたしは、
「現状否定から入ったらダメだ」
ということが
きっとわからなかったと思うんです。

なにに対しても
「いまの世の中には
 ココが合っていないと思うから
 ココは変わるべきです」
というメッセージしか
発せなかったと思います。
そのメッセージのほうが
際立って見えるから、
いいたくなってしまいますよね。
放っておけば会社がつぶれるし、
変わらなければいけない理由は
目に見えているし……
という状態のときには
現状否定から入っても
誰もそれに反対しないんですけれども、

任天堂はもちろんそういう否定を
したいような状況ではありませんよね。

わたしは山内さん(前任社長)のことを
強く尊敬していますし、
「こんなにすさまじいことを、
 自分はおなじようになしとげられるとは
 到底思えない」
とすごい敬意を持って見ています。

ただ一方で、
この局面で自分が託されたからこそ
やらなければいけないことは
たくさんありまして。
ここで理解と共感を得るためには
微妙な舵取りが要ります。


ここがHAL研の社長に
なったときとのちがいです。
いい会社のいい時期に
社長をひきついだという……。
それは、
ものすごいおおきなちがいですね。
それにしても、
きいていてほんとに思うんですけど、
岩田さんの考えの筋道そのものが
おもしろいなぁ。
たぶん、わたしが
考えて実行してきたことのなかの
ごく一部であっても、
「ここを取りだしたら、
 誰かがちょっぴり
 役にたったりするかもしれない」

という要素がきっとあると思うんです。
糸井さんがかつて
わたしにそうしてくださったようにね。
岩田さんは、
やっぱり、逃げなかったんですよね。

質問されたら答えるとか、
頼まれたら断るのか残るのか
はっきりさせるとか、
いちいちあらゆる問題から
逃げてこなかったのでしょう。


それが今日のお話のすべてを乗せる
お皿になっているような気がします。

たとえば「自分」を乗せないことなら、
誰でもいくらでも語ることができますよね。

世間のまちがったことについても
たのしいことについてでも、
なんでもいうことができますよ。
「あなたの立場としてどう?」
ということを抜かしたときには、
なにも考えなくても
噂話で会話をすることができるし、
一生それで生きていくことでさえできる……

だけどどこかのところで
自分の身をそのなかに投げてみるだとか、
「おまえはどうだ」ときかれたときに
逃げないで「わたしは」と答えることを
どれだけやったのかが
人生の濃さを決めているのかもしれないと
ぼくは思うんです。
そして、岩田さんはそういう人なんだと。
それをちょっとちがう言葉で表現しますと、
わたしはきっと当事者になりたい人なんです。
あらゆることで
傍観者じゃなくて当事者になりたいんです。


だけどその一方で
当事者になるというのは
自分の利益のためではないんです。

誰かのお役にたったり、
誰かがよろこんでくれたり、
お客さんがうれしいと思ったり、
それはなんでもいいんですが、
当事者になれるチャンスがあるのに
それを見過ごして
「手を出せば状況がよくできるし、
 なにかを足してあげられるけど、
 たいへんになるからやめておこう」
と当事者にならないままでいるのは
わたしは嫌いというか、
そうしないで生きてきたんです。

そうしないで生きてきたことで、
たいへんにもなりましたけれども、
たくさんおもしろいことがありました。


「後悔したくないし、
 力があるならそれをぜんぶ使おうよ」
という感じなんですね。
「あそこであいつが
 ああしたということが、
 失敗の原因でしたね」
とか、どちらが利口かを
競争しあうようなことをしていても、
現代社会では生きていけちゃうけれども。
ええ。

逆にわたしはそういう
批評家や評論家ではいたくないんです。
ワイドショーを見ているときの
たのしさとおなじですよね。

それはある種のたのしさは
あるかもしれないけれども。
まぁ、
リスクをとらないところには
達成感はないですから……
といってしまうと、
根はバクチ打ちなのかなぁ。
いや、生きるっていうことは、
きっと、バクチなんでしょう。
生物そのものが
賭博的に作られているのでしょう。
遺伝子の結合はバクチですからね。
ぼくはNHKの「地球大進化」という
シリーズが大好きなんですが、
あの番組って「負けが勝ち」という話なんです。

「勝っていたヤツは
 変化によってぜんぶいなくなりましたが、
 前に負けていたヤツが
 ここにこっそり隠れていて、
 次はそいつらの時代になりました。

 ただ、そいつらも
 すごくうまくいったんだけど、
 また変化があってだめになっていって……」

という、その過程が
地球の生物の大進化なのだそうです。
成功体験が
変化に順応できないというのは、
まさにそれなんですね。
はい。
キリスト教が
「まずしい人はさいわいなり。
 天国はあなたたちのものであろう」
というのも、それを
あらわしているのではないかと思いました。

負けは次の勝ちであり、
勝ちというのはその時点で
もう終わっているという……
やっぱりさっきのトライアンドエラーの話に
つながっていきますよね。

岩田さんの話はものすごくおもしろいし、
経済誌の取材なんかでいうと
「岩田社長、任天堂に入って
 はじめてこんなにしゃべりました」
と任天堂の話をききたがるのでしょうけれども、
今回はそういうテーマにいかないで
終わりたいと思うんです。

第一部の試行錯誤に
岩田さんのすべての起点は
つまっていると思うし、
任天堂という会社については、
もちろん山内さんというものすごい人との
掛け算にしないと話のできないことでしょうし。
ええ。そうですね。
わたしは糸井さんとは
ぜんぜん違う道をあゆんできて、
ぜんぜんちがう価値観で生きていて、
ぜんぜんちがうタイプなんですけど、
前々から妙に
いろんなところで共振するんです。
そうなんですよね。

そのことがまた、これからなにかになるのを
たのしみにしていましょうか。
はい。
糸井さん、どうもありがとうございました。
岩田さん、ありがとうございました!


(「社長に学べ!」第2弾は、おわりです。
 ご愛読をどうもありがとうございました)
2005-03-22-TUE