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社長に学べ!<おとなの勉強は、終わらない。>


第11回 話をきいて、問題をほぐす。



HAL研究所で、名物のようにやっていた
社員ひとりひとりとの面談は、基本的には、
岩田さんひとりと、相手ひとりなんですか?。
最初の面談はそうでした。

半年に一度というのを確立したときには
現社長の谷村くんが一緒で、
その部署の管理者が同席することもありました。

面談のなかで
わたしはすごくたくさんしゃべります。
いろんな角度から質問をします。

逆にいうと、質問攻めにしないと、
ほんとうに考えていることが
ききだせなかったりしますから。
情報を得るだけじゃなくて、
与えるということもたくさんするわけですね。
だって、こんなに貴重な教育機会はないですよ。
なるほど!
だけど、話しあうテーマは全員ちがうんです。

話しあうプログラムのなかでは、
そのときにやっていた方法では、
唯一決まっているのが
「あなたはいまハッピーですか?」
という最初の質問でした。

わたしはもともと企業理念などと
おこがましいことを
いうつもりはありませんでした。ただ
「会社とはある共通の目的を持って
 みんながそれを分担して、
 力を合わせるための場所だから、
 共通の目的は決めたほうがいい」
と最初に面談したあとに考えたんですね。

それで
「商品作りを通して、
 作り手であるわれわれと
 遊び手であるお客さんを、
 共にハッピーにするのが
 HAL研の目的だと決めよう」

といったんです。

そう宣言したんだから
「あなたはハッピーですか?」
ときくのは文脈にあっているんです。
で、そうしてきくとですね……
まぁ、いろいろなんです。

「毎日会社に来るのが
 たのしくて仕方ありません」
という人もいれば
「誰々さんとうまくいかなくて」
「自分に限界を感じて」とか、
いろんな例が出てくるわけですね。
ハッピーな人はすぐに面談が終わるんですよ。
そうか、問題を解決する必要が、
今はないということですもんね。
それで、すごい人になると、
メモをこう十項目ぐらい書いてきて……
半年に一回はなにをいっても
ぜんぶきいてもらって、
なにかいってくれるわけですから。
(笑)何層にもアンハッピーが
重なってるっていうケースはありますよね?
あるんです。
そういうときは、ほぐして見せるんです。
「その問題は、
 そう考えても解決せぇへんで」
みたいな話になりまして。
そこは、コンピュータの
プログラマーだった部分が役に立ちますね。
階層にわけるわけでしょう?
問題を単純化してほぐすことには、
プログラムの経験っていうのが
ものすごい役に立っているんです。
誰もがマネできないという部分が、
どうもそこにありそうですね。
こういう話をきいたからって、
一生懸命に面談さえやっていれば
いいかというと、そうではなくて……。
世の中のことって
だいたいは複雑じゃないですか。
複雑なことに対して
仮説を立てて考えていこうとしたら、
絶対に人は単純化するわけです。

分析とはものごとを要素にわけて分解して、
そのなかで
「こうすればこれは説明がつくよね」
という仮説を立てることですから、
わたしだけでなく
みんながやっていることなんです。
だからプログラマーの特権ではないと思います。

ただ、プログラマーは
それを毎日やっていますので、
いくつも仮説を立てては
頭のなかで比べる訓練はすごくしています。
毎日筋トレをしている、
という程度の自負はあるんです。
トライアンドエラーの回数は多いですから。

プログラムをする人が
みんなそうしているのかどうかは
知りませんけど、わたしはそうしているんです。
面談する相手は、
プログラムをしている人もいれば、
受付している人もいていろいろでしょうし、
その面談というものを
どうとらえているのかもいろいろですよね。

その時には、
その「いろいろ」のほうに、
岩田さんは合わせるようにするんでしょうか。
そうです。

相手との間に理解と共感がないなら、
面談をやる意味はないですもん。
「わたしの不満を
 岩田社長にきいてもらえる最高の機会だ」
と、毎日手ぐすね引いて待っている人だって
いるかもしれないでしょう。
ええ。
その不満はそれはそれできくんです。

でもわたしは、わたしのいいたいことも
ちゃんといっているんです、そのあいだに。
なるほど!
ただきくだけじゃ、
だって、つらいじゃないですか。
(笑)平等なのね、そこでは。
ただ、すくなくとも
不満を持っている相手なら、
不満がたまっていればたまっているほど、
きかないとこちらのいうことは
入らないですよね。

なにかをいおうとしたのに
クチをさえぎられて
「それはこうだよ」といったら、
「あぁ、この人は
 なんにもわかってくれない」
と思ってあたりまえですよね。


ちいさいころのわたしは病弱で喘息持ちで、
転校したあとに
いじめられっ子だったことがありまして、
そういうときに
弱者の立場をけっこう経験しているんです。

たまたま入った会社もちいさかったですから、
おおきな会社とかに対しては弱い立場ですよね。

そういう弱者の立場というのを
自分が経験できたことは
すごくよかったと思うんです。

いまはいちおう
「そうじゃない立場」
ということになりますよね。
だけどわたしは
そういうところでの経験が
絶対に捨てられないし、
わたしは昔にたいへんだったことに対して
うらみを晴らすという気持ちが
ほんとにないんですね。
はい。
岩田さんと長くつきあっている人が、
みんなそう思っていることですよ。
人が相手のいうことを
受けいれてみようと思うかどうかの判断は
「相手がトクになるからそういっているか」
「相手が心から
 それをいいと思っていっているか」の、
どちらと思ってきかれているかが
すべてだと思うんですね。


「私心というものを、
 どれだけちゃんとなくせるのかが、
 マネジメントではすごく大事だ」と、
わたしは思っているんです。
戦略的なビジネスのやりかたというのが、
じつはもうとっくに限界にきていて、
「敵をどう壊滅させるか」だとか、
「どういうふうになにを奪いさる」だとか、
そういうふうに
戦いになぞらえるようなことで
うまくいくという時代は、
もうほんとは
とっくに終わっているんじゃないかと
ぼくもよく思うんです。

面談にしても
それを交渉としてとらえる見方が
一般的なんだろうと思うんです。

相手には相手の利害があり、
自分には自分の利害がある……
その利害がぶつかるんだから、
かならず衝突はするけれども、
おたがいに譲りあったところに
最適値を見つけるんだという
発想をするかぎり、
面談というのはほんとに
たいへんなことになっちゃいますよね。

それなら岩田さんだって
そんなに笑いながらはやっていられないし、
相手との信頼関係とかいっている場合では
なくなるんですね。

だけど岩田さんはいま、
利害関係の話をいっさいせずに
面談の話をしてきたところがすごいと思う。
わたしには社内の仲間に対しては
利害の発想はないですもん。

もちろんわたしが
ネゴシエーションをしたことが
ないわけでもないですし、ビジネス上、
交渉を不要だという気はありませんが、
こと会社で
おなじ目的を果たす仲間とのあいだで、
それをする必要はないでしょう?
それは、岩田さんが、
理論的にも感情的にも
信じきっていることなんでしょうね。
はい。
つまりどちらかが
納得いっていないという場合は
あると思うんです。
社と社員とは労使関係にある、
という考えかたもあるでしょうし、
「理屈としては仲間といっしょに
 やっていくべきなんだけど、
 おまえのいうことはハラが立つ!」
という場合もあるわけです。
(笑)あります、あります。
おそらく面談のなかでは
ハラが立ったことが
ないはずはないと思うんですが、
「わたしもいいますからね」
とさっきいったところで、
バランスをとっているんでしょうね。
いいたいことはいわせますし……
いいたいことをいった後だったら、
ある程度、入るんですよ、人間って。
(笑)あはははは。
最後には、
「そうすかねぇ」
とかいって帰っていったりするんです。
「俺はやめてやる!」
といったわけでもなく面談に来て、
目の前に座っているということだけで、
もうすでに仲間ではあるんですね。
そうなんです。
敵として面談はしていないですから。
そこがおもしろいですね。


第11回おしまい。明日に、つづきます
2005-03-15-TUE