HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN http://www.1101.com/home.html   「大坊珈琲店」 大坊勝次さんの38年            書籍『大坊珈琲店』刊行記念対談
 東京の南青山で38年続いていた 「大坊珈琲店」というお店が昨年12月に閉店しました。 たくさんの人に愛された喫茶店です。 近所に暮らす糸井重里も、このお店に通ったひとり。 かつてのお客さんだった糸井が、 店主・大坊勝次さんにお話をうかがいます。 大坊さんが淹れてくれた コーヒーを飲みながら、ゆっくりとうかがいます。 みなさまも、くつろぎながらお読みください。 ちなみに対談の場には★コーヒー好きなふたり、★http://www.1101.com/coffee/index.html★ イラストレーターの福田利之さんと 「ほぼ日」山下が、ちゃっかり同席しています。


大坊勝次(だいぼう かつじ)
1947年岩手県盛岡生まれ。
南青山の喫茶店「大坊珈琲店」店主。
1975年の開店以来、38年、
自家焙煎、ネルドリップというスタイルも
内装も変えずに営んできましたが、
2013年12月にビルの取り壊しにより、
惜しまれつつ同店を閉店しました。

もくじ
 
第1回 あのコーヒーを、もう一度。
2014-07-17
第2回 コーヒーを待つあいだに。
2014-07-18
第3回 焙煎の香り、シンバルの音。
2014-07-21
第4回 「手応え」に支えられた15年。
2014-07-22
第5回 大坊さんは、すばらしくみずくさい。
2014-07-23
第6回 ダイボーズ VS スピリッツ・オブ・ブルーマウンテン
2014-07-24
第7回 もうお店はやらないんですか?
2014-07-25

第1回 あのコーヒーを、もう一度。

「ほぼ日」のオフィスから、青山通りを渡って徒歩数分。
ちいさなビルの2階に、「大坊珈琲店」はありました。


写真/関戸勇 書籍『大坊珈琲店』より 

仕事のあいまにふらりと訪れたり、
休日の午後に足を向けたり。
糸井重里をはじめ「ほぼ日」乗組員の何人かが、
この喫茶店に通っていました。

お店にたどり着く手前、数十メートルのところから、
誘うように、その香りは漂ってきました。
深くローストされたコーヒー豆の香り‥‥。


写真/関戸勇 書籍『大坊珈琲店』より

階段をのぼって扉を開け、カウンター席に座り、
きょうの注文を考えます。
『2番にしようかな、それとも1番‥‥』


写真/関戸勇 書籍『大坊珈琲店』より

コーヒーを自分で淹れる方であれば、
上のメニューから「大坊珈琲店」のブレンドが
とても贅沢なドリップであることがおわかりでしょう。
30gの豆を100ccで淹れる。
一概には言えませんが、
一般的なブレンドの約3倍の豆を使ったドリップです。

注文を終えると、抽出がはじまります。
カウンターの中でネルドリップに集中する、
こちらが店主の大坊勝次さん。


写真/関戸勇 書籍『大坊珈琲店』より

言葉すくなに、なめらかな一連の動きで。
大坊さんのうつくしい所作は、
この喫茶店の大きな魅力のひとつでした。

注がれるお湯は、糸のように細く。


写真/関戸勇 書籍『大坊珈琲店』より

「お待たせしました」


写真/関戸勇 書籍『大坊珈琲店』より

カップを持ち上げ、ついっと傾けると、
濃厚な液体が舌の上にとろり、滑りこんできます。
たちまち広がる芳醇な香り。
こんなに濃いのに、甘い味わい。
ここでしか飲めないコーヒーをゆっくりといただき、
お店をあとにします。
口の中にたっぷりとコーヒーの香りを残しながら、
ふくふくとした満足感で歩く帰り道。

‥‥いまだに青山通りを渡ってすこし歩けば、
そこに「大坊珈琲店」がたたずんでいるような気がします。
が、このお店は昨年12月に惜しまれつつ閉店しました。

38年の営業に幕をおろすにあたり、
店主・大坊勝次さんは一冊の本をつくりました。
書名は、まっすぐに、『大坊珈琲店』。

お店を訪れるお客さんや、大坊さんの知り合いなど、
限られた人が手に取る「私家本」として
限定刊行されたこの書籍が、
この7月に一般通版として再刊されることになりました。

本のくわしい内容については、
このページの下にあるご紹介をぜひお読みください。
ちなみに、
「大坊珈琲店に縁のある35人」のひとりとして、
糸井重里が原稿を寄せています。


※こちらは私家本。一般流通されるこの度の『大坊珈琲店』は、
 このような分冊ではなく一冊の書籍に再編集されています。

 

この本の出版を記念して‥‥
といいますか、正直な言い方をすれば、
この機会にかこつけて、
「あのコーヒーを、もう一度飲みたい!」
と、強く思いました。

申し遅れました。
今回のコンテンツを担当する「ほぼ日」の山下です。
「大坊珈琲店」のいちファンとして、
この企画をお届けできることを光栄に思います。

さて、
「あのコーヒーをもう一度飲む」ために、
ほぼ日の会議室を、こんなふうにしつらえました。


カウンターと椅子です。
ここでこれから大坊さんにコーヒーを淹れていただく‥‥。
それを飲みながら糸井との対談が行われる‥‥。
ドキドキです。

壁に、いちまいの絵を飾ります。


コーヒー仲間のイラストレーター・福田利之さんが、
この日のために描きおろしてくれた作品です。


すばらしい‥‥。

福田さん、ありがとうございます。
ドキドキがだいぶやわらぎます。


せっかくなのでその福田さんにも、
この対談に同席していただくことになりました。

ふたり、カウンターで待つことしばし。
約束の時間ちょうどに、
大坊勝次さんがいらっしゃいました。

大坊さんの到着からはじまる、糸井重里との対談です。
どうぞゆっくりとお読みください。
糸井もまもなく、この部屋へまいります。

 

大坊
これは‥‥?
山下
カウンター席のようなものを用意してみました。
大坊
今回のために、ここまでしてくださったんですか?
山下
はい。
大坊さんがコーヒーを淹れてくださるのだから、
喫茶店のような雰囲気にしたいと思いまして。
‥‥あ、ご紹介します。
こちらはイラストレーターの福田利之さんです。
福田
お店には何度かうかがっているのですが、
はじめまして。
大坊
はじめまして。
山下
そこの壁にかかっている絵を、
福田さんに描いていただいたんです。
大坊
ああ(絵に近づき)‥‥これも今日のために?
福田
はい。すみません、勝手にお姿を。
大坊
この部屋に入ってきてですね、
最初にちらっと目にしたとき、
なんだかよく似てると思ったんです。
福田
そうですか(笑)。
大坊
どこが似てるかと言いますとですね、
肩から腕にかけて、
ポットを持つ手とフィルターを持つ手の
この角度が、よく似てると思ったんです。
福田
よかったです。
カウンターの上に、ちいさな木を描きました。
ぼくのなかでの大坊さんのイメージが、
「きれいに立っている木」だったので、
絵の中に入れさせていただきました。
大坊
ありがとうございます。
糸井
おおー、なになに、このセット。喫茶店?(笑)
山下
あ、糸井さん。
糸井
大坊さん、ようこそいらっしゃいました。
大坊
お邪魔しています。
なんだか、こんなに準備をしていただいて。
糸井
ぼくもいま、はじめて知りました(笑)。
そこの壁にかかっている絵は?
福田さんが描いたんですか。
福田
はい。
糸井
いつ描いた絵ですか? ‥‥あ、今回のために?
山下
そうです。
糸井
はぁー、福田さん、いいことをしましたね。
福田
はい(笑)。久しぶりにしました。
糸井
じゃあ、まあ、立ち話もなんですし、
喫茶店のセットですから座りましょうか。
山下
座りましょう。
糸井
ええと‥‥大坊さんはこの場所で
コーヒーを淹れてくださるんですか?
大坊
そのことなのですが‥‥すみません。
ここで淹れたいのですが、
ちょっといまは無理かもしれません。
山下
あ、そうですか。
大坊
見ていただくのはぜんぜん構わないんですよ。
構わないのですが、
やはり半年間、仕事から離れていますので、
上手にできないと思うんです。
ですからちょっと、自分が恥ずかしいというか。
糸井
大坊さん、ここで淹れなくてまったく構わないです。
自由になさってください。
大坊
キッチンをお借りして、隠れて淹れて、
ここへ持ってくるという、
そういうことでよろしいでしょうか。
山下
もちろんです。
大坊
せっかくこんなセットを用意していただいたのに、
すみません。
山下
いえいえ、お気になさらないでください。
糸井
おそらく大坊さんは、
お店をされていたときも
見られるのが得意ではなかったですよね。
大坊
そうですね。
あのころは仕方なくだったんです。
もう、一所懸命、視線に耐えながら。
糸井
仕方なく(笑)。
大坊
お店の見えないところで何かをやるのは
なしにしようと決めたんです。
ぜんぶ、見えるところでやろうと。
隠さずにやろうという気持ちと
自分の気弱なところが矛盾するのですが、
最初に決めたことなので。
見られることは、ずっと我慢していました。
糸井
そうしようと企画したのは自分で、
実演するのも自分なんですもんね。
決めた約束を守らなければならなかった。
大坊
はい。
糸井
きょうはお店の営業じゃないですから、
なんにも我慢しないでください。
ぼくらも「見せてくれ」って言いません(笑)。
大坊
ありがとうございます(笑)。
では、向うでコーヒーを用意してきます。

(つづきます)
2014-07-17-THU
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書籍『大坊珈琲店』

著者:大坊勝次
写真:関戸勇 装幀:猿山修
価格:本体3,000円+税
発行:誠文堂新光社

amazonでのご購入はこちらから。

このコンテンツのきっかけになった一冊です。
その内容について、
誠文堂新光社の担当者さんから熱意が静かに込められた
すてきな紹介文をいただきました。
それをそのまま下に掲載させていただきます。

 

表参道の交差点にほど近く、
38年間変わらぬスタイルで営業を続けた喫茶店
「大坊珈琲店」が、ビルの取り壊しにより
2013年12月に惜しまれつつ閉店した。
コーヒー好きに知られた名店で、
店主の大坊勝次が豆選びから焙煎、ブレンドを行い、
ネルドリップで作るコーヒーは、濃いめながらも
ほのかな酸味と甘味が苦味をまろやかに包み込む、
すっきりとした味わい。
その一杯を求めて文化人を含む多くの人たちが通っていた。
店主の焙煎からコーヒーを淹れるまでの
無駄のない動きを楽しむ人も。
むく材のカウンターもイスも壁も焙煎の煙で燻され、
BGMはほどよく絞られたジャズ。
器、本、絵画、花など、店内の細部にいたるまで
店主のこだわりが感じられ、
コーヒーを味わうための最適な空間が整えられていた。
本書は、それらのこだわりと
コーヒーの作り方が綴られたエッセイ
「大坊珈琲店のマニュアル」と、
写真家・関戸勇による店内外の写真、
縁のある35人の寄行文で構成。
大坊珈琲店を知る人には懐かしく、
コーヒーや喫茶店が好きな人も追体験することで、
コーヒーの味わいと空間に浸れる内容となっている。
本書はもともと閉店時に
1000部限定で制作された私家本を改訂したもの。
デザインは私家本同様、猿山修が手がけ、
大坊珈琲店を思わせる
静謐な雰囲気が漂う装幀となっている。
大坊勝次の文章、
「大坊珈琲店のマニュアル」のページは、活版印刷。
好きなコーヒーや喫茶店がひとつあるだけで、
日常が豊かになることを感じさせる一冊。

【寄稿者】
 佐藤隆介/永六輔/矢崎泰久/武部守晃/葉山葉
 小林庸浩/十文字美信/長谷川櫂/天児牛大/糸井重里
 平松洋子/杉山英昭/嶋中労/門上武司/小川幸子
 川口葉子/五十嵐郁雄/鳥目散帰山人/横山秀樹/升たか
 遊佐孝雄/本多啓彰/渋澤文明/立花英久/立花文穂
 切明浩志/岡戸敏幸/金憲鎬/芦澤龍夫/沖本奈津美
 長沼慎吾/清田大志/金恵貞/大野慶人 /小沢征爾
 (掲載順)



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