第13回
生きるということを忘れるな
糸井
島で、ギリギリの毎日を
経験してきた小野田さんにとって
いま、楽しみは何ですか。
小野田
うーん・・・
生きているということが
いちばん楽しいんじゃないかなぁ。
というのは、
自分のやりたいことがやれるから。
糸井
生きていれば
やりたいことがやれる。
小野田
戦死した人たちはみんな、
何かやりたいことがあった。
あるいは、やれる能力があったのに
死んでいったんですよね。
みんな能力があって、
それが一瞬にしてなくなったんだから、
かわいそうなんです。

たしかにいろいろ苦しいこともあり、
嫌なことがあっても、
生きているから
自分がやりたいことがやれるんでしょう? 

生きているということは
いちばんありがたいですよ。

生きているんだから、
苦しいことがあって当たり前なんですよね。
糸井
苦しみも、含めてね。
小野田
伸びていくために、
生きていくために
困難にぶつかるのは
当たり前だと思えば、別に何でもない。

何か新しいことをしようというときに、
失敗はあたりまえ。
はじめからできるわけはないんですよね。
生きる楽しみというのは、
その試みと失敗と成功を
次から次からやっていけることだと
思うんですけど。
糸井
まるで碁盤を眺めている
碁打ちみたいなお話ですけど、
そうなんでしょうね、きっとね。
小野田
いまの子どものなかには、
「誰が生んでくれって頼んだ」
なんてことをいう人もいるらしいんですけど、
それ、ぼくもいいました(笑)。
そしたら母親が
「おまえが生まれたいって、いったから」
って。
糸井
親もほんとに
うまいこといいますね(笑)。
小野田
「おまえがおなかのなかで
 『生んでくれ』といったから、
 だから、死ぬ思いで産んでやったんだよ。
 おまえは世のなかへ出て
 自分で力いっぱいにやりたいというから、
 だから、産んでやった」
糸井
ああ・・・
いい言葉ですね。
小野田
「そんなこといった覚えない」
「じゃ、おまえに聞くけど、おまえ、
 おしめかえてもらったの覚えているか?」
糸井
かえてくれっていいましたよね、
オギャーオギャーとね。
小野田
でも、覚えてないね。
「それ、見ろ。
 それより1年前に
 おまえは世のなかへ出たいって
 いったんだぞ。
 覚えてないだけなんだ」
って。
糸井
いやいや、
小野田さんの性格は
やっぱり遺伝だわな。
小野田
「いまさら何いうか、嫌なら死になさい、
 とめはしないよ。
 生まれて嫌だというんだったら
 死になさい、決してとめない」。
禅問答みたいですけどね、
そういうことをいう母親だった。
糸井
人間の孤独の喜びと悲しみを
知っていらっしゃいますね。
小野田
母親のいうとおりなんです。
もう生まれてきちゃったんですよ。
しようがない。
勝手に親が産んだんじゃないです。
やっぱり自然の摂理で、
母親に体力もあったから、
「生まれたい」
って出てきちゃったんですよね。
糸井
お母さんは、また
どういう育ちをしたんでしょうね、と
たどりたくなりますね。
小野田
母親も、なかなかですよ(笑)。

みんな生まれてきたんですよね、
やっぱり死にたくないんだから。
生きるということを忘れちゃ、
もうおしまいですよね。
糸井
ベネッセのパンフレットに
そっくりそのまま
載せたいような・・・(笑)。
小野田
簡単にいえば、
人間は、死にたくないんです。
だから、生きることを考えるんだから。
糸井
人間、そういうふうにできている。
で、ろくでもないことを考えるやつも
ちゃんといるということも
わかっているし・・・。
小野田
そう。もっと因数分解で
簡単に考えればいいんです。
糸井
・・・ですよね。いや、そうなんだあ。
これで、いま聴いている
ベネッセのスタッフたちも、
ぼくがぜひ小野田さんを
ゲストに招きたいといった理由が
わかったでしょう?
ベネッセ
(うなずく)
糸井
でも、ほんとにおもしろかった!
・・・ここまでとは。
おもしろかったあ。

このお話、たき火を前に聞いたら、
もっと心にしみたでしょうね。
この部屋じゃなくて、
真っ暗やみで
火をたきながら話していたら・・・。
小野田
そう、こういう話は
ほんとはキャンプファイヤーなんかでやると、
いちばんいいんですよ。
糸井
今度、ぼく、企画しますから、
ぜひ・・・。
大人を呼んで、
そしてキャンプファイヤーをやって、
小野田さんが好きなようにしゃべる。
どうでしょうか?
小野田
ええ。やりましょう。
糸井
じゃ、ぜひ、お願いします。
いつだかはちょっとわかりませんけど。
暖かいときに、ですね。
ああ、楽しみです。
2015-05-08-FRI
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