第9回
親は、うまいこと怒らせるべき
小野田
ぼくは、金属バット事件が起こったときに、
「ああ、子どもたちがかわいそうだな、
追い詰められてるのかな」
と思いました。

親と意見が合わないんだったら、
ぼくみたいに家を飛び出すとか、
やってみるといいんだね。
「そのかわり、親には
もう一銭もいただきに来ませんから」
と言い切って、家を出る。
そうすれば、
金属バットで親を殴り殺す事件は
起こらないんですよ。

結局はね、
暴力に訴えるうちは、まだ甘えがあるんですよ。
親が気に入らないんだったら、
自分で独立すればいい。
たとえ何歳であろうと、
自分で働いて食えばいいんですよ。
糸井
そうですね。
親に依存しているわけですもんね。
小野田
依存しているから、親に向けて
ストライキをやったり、
デモンストレーションをやるんです。
それがああいう形になってしまう。
糸井
たまたま、
かたいものがそばにあると、
死んじゃったりするわけですね。
小野田
そうです。
甘えさせる親にも責任があるかもしれないけどね。
そんなに親が嫌で、
殺したいほど、しゃくにさわるんだったら、
とっとと家を出ればいいと思うんです。
糸井
「逃げる」じゃなくて、
「別れる」ですよね。
小野田
ぼくは、17歳のときに
そういって家を出ましたよ。
生意気だったから。
糸井
「生意気」を教える授業が欲しいですね。
たとえ親子でも
おまえとおれは違う、ということです。
「生意気」といういいかたもできるし、
「誇りある」といういいかたもできる。
小野田
そうなんだよ、誇りなんですよ。
でも、親はわかってくれないもので。

どれほど説明しても、
親は昔から
「お金に走る人間なんかが
うちの家から出ては困る」
というんですよね。
「家が貧乏だから、ぼくみたいなばかができる」
と、口ごたえをしたりして。(笑)。
糸井
「貧乏は知恵の泉だ」と
企画会議でぼくは
よくいうんですけどね(笑)。
小野田
「それをあくまでだめだというんだったら、
 家を出るから。
 そんなおやじをぼくのほうから勘当したい。
 そのかわり、
 心配しなくたって
 一銭もいただきに来ませんから」。
糸井
小野田さんがそうおっしゃると、みなさんは
「小野田さんは強いから」って
思いますよね、きっと。
小野田
いや、違うんだな。

家を出るときは、
おやじを怒らさなきゃだめなんだよ。
そこまで考えてやらないと。
そうでないと、
こっちが当てにされちゃうんですよ。

「一銭もいただきに来ません。
 そのかわり、自分ですべてやる。
 だからお父さん、
 借金を残さんようにしてくださいよねぇ」なんて
いったら、怒った、怒った。
糸井
(笑)
小野田
怒らせたら、
「あのやろう、帰ってきたって、
 びた一文だってくれるもんじゃないぞ」といって、
 おやじも頑張りますよね。
糸井
両方が頑張る。
小野田
そうなんですよ。
だから、家を出るときだって
うまいことやらなきゃいけない。
糸井
いつだって、
ちゃーんと考えていますよねぇ・・・。
小野田
親もずいぶんてこずったと思うんですけど、
「おまえ、自分でそう思うんだったら、
 自分が思うようにやればいい。
 親からブレーキやいろんな制限を
 決して受けないんだから、
 自分の思うようにやるんだ。
 だけど、大きくなって、
 親に面倒を見てもらって育った
 ほかの兄弟とくらべて
 見劣りのするようなことがあったら、
 おまえは『うぬぼれていた』ということが
 はっきりわかるんだぞ。
 それだけははっきり覚えておけ」と。
糸井
いいこといいますねえ。
小野田
だから、
親におしりを押してもらって
学校に行ったりした兄弟より
絶対に負けちゃだめなんですよ。
糸井
「うぬぼれ」というのは、
自分の力を見誤っているということだから、
工学部畑の小野田さんとしては、
自分の力の数値が違っているよ、
ということですよね。
小野田
ええ。
糸井
すごいな。
・・・やっぱり親から違うな。
小野田
向こうもなかなか
ただもんじゃない(笑)。
糸井
すごい戦いですね。

そのときに
「甘え」みたいな気持ちは
残ってはいなかったんですか。
小野田
そこまでけんかすると、
「甘え」なんてないですね。
自分ひとりで食わなきゃいけないんですから、
天涯孤独みたいなものですよ。
糸井
孤独を
とっても早く知ったわけですね(笑)。
小野田
みずから孤独にしちゃったんですよね。
あんまり我が強いというか、
わがまますぎるんですよねぇ。
糸井
おもしろいなあ。
小野田
個性が強すぎるんでしょうかね。
だから、僕、中学校へ行ったって
先生をからかってばかりで。
「こんな成績で、勉強してないんだろう」
と先生がいえば、
「2時間やっています」
「2時間も勉強してできないはずがない」
「いえ、先生、早合点しちゃいけません、
 週に2時間ですよ」
これで、また先生が
怒って、怒って(笑)。
糸井
そんな、一休さんみたいなことを(笑)!
小野田
週に2時間というのも、ちゃんと
根拠があるんですよ。

漢文という科目がありますね。
あれだけはちょっと予習してこないと、
読めないんです、
漢字ばっかりですからね。
漢文だけは、先生に
「おい」と指されたときに困るから。
漢文は、週に2回授業があったから、
前日に1時間ずつ。
「先生、早合点しちゃいけない、
 漢文だけだ」(笑)。
糸井
(笑)おっもしろいなぁ。

昔の人のほうがもっと
上下関係が厳しかったはずなんだけど、
上下に対して
ぜんぜん無視していらっしゃいますね。
小野田
そうなんです。
とにかく抵抗しちゃうんですよ。
相手の先生、負けましたもの。
理に合わんことだったら、
上の人間であっても
いつもけんかになるんです。

とにかく理に合っていれば、
「はい、そうですか」ですけど、
理に合わないと、
反発するんですよね、
自分が納得できないと。
糸井
ああ、そうなのか・・・。
小野田
結局、僕は
人にああだこうだと
押しつけたくないんですよ。
自分が押しつけられたくないから。

自由で思うようにやったらいい、
右から行こうと左から行こうと
自分の行きたいほうから行けばいい。

だけど、行くんだから、時間までにきっかり
そこへ行けよ、と。
これだけは責任をとってやらなきゃいけない。

だから、後に
ほかの兄弟とくらべて見劣りしたら、
それは、だめなんですよ。

それぞれの人が、自分で目的だけをちゃんと
はっきりさせていれば、
途中に何が起ころうと、
あんまりやかましく
いわなくたっていいんです。
そういうやりかたが結局いちばん能率が上がるし、
みんな、やりやすいと思う。
糸井
寄り道、
回り道はオーケーで。
小野田
ええ。
左の人に「右でやれ、右でやれ」といったって、
困りますよね。
左の人は、やっぱり左でやることを
まず認めてもらわなきゃ。
糸井
その人が生まれてきたということを
肯定されてないといけない
ということですね。
小野田
その人の個性とか特徴、性質は
認めてあげないと、
「角を矯めて牛を殺す」ようなものでね。

ただ、我々は一緒に並んでいるんだから、
他人に迷惑をかけないことだけが
最低の条件であって、
それ以外、どうでもいいじゃない。
糸井
戦時下では、
そばに部下のかたがいらっしゃいましたよね。
部下に対しては、
どのような関係を持っていたんですか。
小野田
まあ、兄弟分というんだろうかね。
糸井
・・・はあ。
自分が上になったときも
上だと思わないで、
兄弟分といういいかたになっちゃう。
小野田
子どもと接するときと同じように、
やってはならないことをしたときは、
それはきちんといいます。
それ以外は、だめなことがあったって、
別にいいんです。

まあ、そんなばかなことは
そうそうしないですよね、
同じ場所でずっといっしょに
やっているんだから。
糸井
つまり、小野田さんご自身が
なかなか人のいうことを聞く人間じゃないから、
それがわかっているんですね。
「暴力や権力で縛っても、
 人はいうことなんか聞くものじゃない」
ということを
最初から知っているんですね。
小野田
そうなんです。
糸井
重要なことですね。
小野田
人間だから、やっぱり
おどかしつけて使えるなんて、思いませんよ。
おどかしたら逃げちゃいますよ。ねぇ。
やっぱり何でも納得してやらないと。
その任務を納得してやってくれなきゃ、
だめですよ。
糸井
ローマ古代史の先生と話していて、
ポンペイの展覧会に行ったら、
ぐるぐる回して粉をひく
石うすがあったんです。

それを指差してぼくが、
「こういうことを奴隷がやっていたんですね」と
知ったかぶりして、何げなくいったら、
「いいえ、奴隷もやるんですけど、
それは、罰としてやるんです」
と説明してくださった。

「こんな労働ばかりを奴隷がしていたら、
 奴隷が反乱を起こすし、逃げちゃう。
 映画のなかで目にするような奴隷の労働というのは、
 基本的には罰としてやらせる労働を
 大げさに現しているだけです。
 奴隷に対して厳しくしてばかりいたら、
 自分の身が危ないですから」。

もう古代に答えはあったんですよね。
小野田
そうですね。
人間のことですからね。
同じなんですよ。
2015-05-08-FRI
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