鳥類学、進化生物学、人類生態学、
地理学、文明史など幅広い分野を
縦横無尽に研究し続ける
ピュリッツァー賞受賞の世界的研究者、
ジャレド・ダイアモンドさんが
糸井重里と対談しました。
とくにおもしろかったのは、
糸井の投げかける問いに
ダイアモンドさんが鮮やかに答えていくさま。
ニューギニアの紛争解決法や、
地理学の大事な教えなど、
興味深い例とともに語られる
ダイアモンドさんの視点は、とにかくクリアで
「物事の考え方」のヒントが詰まっていました。
第2回
アメリカから来ました。
鳥の研究者です。
糸井 ダイアモンドさんはニューギニア島での
フィールドワークなど、
自分を受け入れてくれるかどうか
わからない人たちに、たくさん会われてますよね。
そのとき注意されていることって、ありますか?

ダイアモンド そうですね、新しい場所に行くときには
まず、関わりのある人を通じて
相手に私を迎え入れる気があるかどうか
確認してもらいます。

それから、まず、土地の人と初めて会ったときには
「自分は何者で、なぜここにいるか」を
説明するようにしています。
「アメリカから来ました。鳥の研究者です」
といったことを伝えるんですね。
合わせて少しだけ、
鳥の鳴き声を真似るときもあります。
ポポポポポポ‥‥(真似をする)
一同 わあぁー。(拍手)
ダイアモンド そうすると相手の人たちにも、
私が鳥やニューギニアのことを
まったく知らないわけじゃないということが
理解してもらえますから。
ニューギニアの人たちも鳥が大好きだし、
非常に関心を持って見ているので、
共通の話題ができるんですね。
糸井 言葉ではなく、
感覚の部分を共有するんですね。

ダイアモンド そうですね、
やはりお互いに共有できる
「鳥が好きという感覚」が入り口になります。
あと、私がニューギニアが好きだということも、
見るとわかるのかなと思いますね。
糸井 ええ、ええ。
ダイアモンド それと私は新しい土地に入った最初の日から、
土地の人々に「どんな鳥がいるの?」とか
「あれは何と呼ぶの?」というのを、
どんどん、どんどん聞いてはメモするんですよ。
次の日にはもう、
土地の人々がそれぞれの鳥を何と呼ぶのか、
100~150個くらいメモしているわけです。

また実際に、森の中などを
話をしながら歩いていくことでも、
関係をつくっていきますね。
たとえば彼らは私に
「奥さんもらうのにいくら払った?」
「畑はどれだけ持ってる?」
「何種類のイモを植えてる?」
なんて聞いてきますし、
私は私で、彼らにいろんな質問をしますから。
糸井 「伝える」ということについて
すこし違う話になりますけど、
ダイアモンドさんの本って学術的な内容でありながら、
普通の人にもしっかりと面白さが伝わるものに
なっていますよね。

ダイアモンド そこがうまくいっているのだとしたら、
こういうことかもしれません。
絵や音楽、本などの「表現」というものは
全てコミュニケーションで
発する側だけじゃなく、受け手の側がいますよね。
だから私は「どう伝えるか」にもとても興味があって、
常に考えているんです。
糸井 あ、なるほど。
ダイアモンド また、私は大学で教えていますので、
学生たちの反応を見られるのも大きいです。
書きたいテーマを見つけたら、
私は授業で教えるようにするんです。
教えることで
「私が実はわかっていない部分」や
「どんな説明がわかりやすいのか」
「みんなが何を聞きたいか、聞きたくないか」
などがわかってくるので。
糸井 それはよく、わかります。
ダイアモンド 実は私、もともと今回の本に
「伝統的社会における女性の役割」
という章を入れようと思っていたんですね。
でも実際に大学で教えてみたところ、
女子学生たちの反応が、非常に悪かったんです。
憤慨したり、ものすごくがっかりしたり、
信じたくない学生もたくさんいるようでした。
というのはやっぱりアメリカの価値観からすると、
伝統的社会での女性たちへの扱いというのは、
かなり、ひどいものですから。

それを見ているうちに、
「伝統的社会における女性の役割」というのは
学術的にとても大切なテーマだとは思うけれども、
「まあ、入れなくてもいいかな」
と思って外したりしました。
糸井 そこは、あっさりと外してしまうんですね。
ダイアモンド ええ、本は読者に向けて書いているものですから。
その章を入れることで、読者の半数から
それほどまでネガティブな反応を
されてしまうのなら、ね。
糸井 教えていただきたいのですが、
ダイアモンドさんは非常に引いた目で、
物事を見ていらっしゃいますよね。
それは、どのようにして
偏りのないフラットな視点を
獲得してこられたのでしょうか。

ダイアモンド そうですね‥‥あの、
その部分についてあえて言えば、
実は、私の視点というのは
フラットではないかもしれません。
糸井 あ、そうですか。
‥‥と、いいますと?

ダイアモンド まず、私の生まれはボストンで、
アメリカの北東部で28年過ごしました。
そこで育ったわけですから、
ボストンという土地からは拭いきれない
非常に強い影響を受けています。
たとえば、寒い地方の松林を見ると、
自動的に「ああ、綺麗だな」と
思ってしまうような刷り込みがあります。
糸井 たしかに、生まれた土地の
「刷り込み」などは、拭えないですね。

ダイアモンド ええ、そうしたことが私の視点に、
どうしても影響をしていると思うんです。
糸井 はああー。
ダイアモンド また私はその後、ヨーロッパに行きまして、
イギリスとドイツで4年半を過ごしました。
この、色合いが違う2つの国からも
それぞれ大きな影響を受けました。

それからアメリカ西海岸のカリフォルニアに移りました。
その頃からニューギニアに通うようになったのですが、
そこでもまた、非常に大きな影響を受けました。
ニューギニアというのは
本当にとても強い力のあるところで、
ニューギニアにいたあとで別の場所に行くと、
景色がぜんぶ白黒に見えるくらいの
感覚があるほどなんです。
糸井 そうなんですか。
ダイアモンド ええ、そしてその後、47年間、
私はカリフォルニアで暮らしてきました。
ただ、カリフォルニアの生活はちょっと
それまで他の地域で受けてきた印象と比べて
強い影響を自分に与えていないと思いますが‥‥。

‥‥そういうわけで、長くなりましたが
私は、私自身の視点については
「ボストンとニューギニアに
 ドイツとイギリスが混じっていて、
 あとはちょっとそこに
 カリフォルニアがまぶされているかんじだな」
と、思うんです。
糸井 はああー、そういうことですか。
偏りのない視点というものはなくて、
ダイアモンドさんはご自身の視点を
いろんな偏りの混ざったものとして
できるだけ正確に捉えようとされている、
ということなんですよね。
いや、面白いです。

ダイアモンド あちこちの土地の影響を受けていることで
「引いた目を持ちやすい」という面はあると思いますが、
やはり、私は私なりに偏っていますよね。
糸井 ええ、ええ。
その視点で言えば、
同じくぼくもそうでしょうし。
(つづきます。)
2014-08-11-MON
(対談収録日/2013年3月)


第1回
すべての原点は、好奇心。
第2回
アメリカから来ました。鳥の研究者です。
第3回
「いまいる自分」から自由になるために。
第4回
価値観は変わる。また、変えることができる。
第5回
「対立」が起きたとき、私たちは。
第6回
いつ生まれたの? どこで生まれたの?