「書く」って、なんだろう?
鉛筆と紙があればできる
とてもシンプルな行為でありながら、
誰かに思いを伝えたり、考えをまとめたり、
いま起きていることを未来へ残したり…
「書く」には、いろんな力がありそうです。
ほぼ日手帳2019では、
「書く」という行為にあらためて注目して、
書くことのたのしさや不思議さを
考えたり、おもしろがったりしてみようと思います。
この特集では、仕事やプライベートで
書く・描くことをしている十人のみなさんに
愛用の「書く道具」を見せてもらいながら
話を聞いたインタビューをお届けします。
十人十色の「書く」を、おたのしみください。

書くってなんだ?

vol.7
荒井良二

手に力を入れずに、あたまの中をらくにして
すいすいっと描くのがいいんです。

2019年版ですてきな手帳カバーの
絵を描いてくださった荒井良二さん。
ふだん使っている「描く道具」を持って
ほぼ日に来てくれました。

プロフィール荒井良二(あらいりょうじ)

絵本作家。
1956年山形県生まれ。
JBBY賞で産経児童出版文化賞・大賞、
日本絵本賞大賞を受賞。
2005年には日本人初となる
アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞。
山形県で2年に一度開催するアートイベント
「みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ」
アーティスティック・ディレクターを務める。

ーー
今日はありがとうございます。
ほんとうにたくさんの種類の
道具をお使いなんですね。
荒井
いやあ、これはほんの一部ですよ。
アトリエには、まだまだ、まだまだ、
たーくさんあります。
ーー
今日持って来てくださったのは‥‥
荒井
マーカー、油性ペン、ボールペン、
字を書く用のGペンやコミックペン。
あとは絵の具、墨、ガッシュ(不透明水彩絵の具)、
色鉛筆、インク、クレヨン‥‥そんなところかな。
これを持っていくなら
こっちも持っていかなきゃなあって
止まらなくなっちゃった(笑)。
ーー
この道具たちから、荒井さんの絵の世界が
生まれているんですね。
ところで、荒井さんは「描く道具」を
どんなふうに選んでいますか。
荒井
自分の中での流行りがあるんですよ。
ボールペンの新しいのが出ていたりすると、
とりあえず買って、使ってみたりね。
太いマジックで絵を描いたりもするし、
ほんとうにいろいろです。
(‥‥と話しながらスケッチブックに絵を描く)
ーー
うわあ。荒井さんが
手をささささーっと動かしただけで、
もう、かわいいねこの横顔が!
荒井
線を描くとき、色でいえば
最近は、インディゴとか黒をよく使います。
それから、ぼくは悩んでいるときほど
太いペンで、太い線を描くようにしているんです。
悩んでいるときに、細い線で描いてしまうと
どうしても描き込みすぎて、
悩みが細かいところに出ちゃうんですよ。
ーー
なるほど。
悩んでいるときほど、思い切って。
荒井
そう。
こういう太いマジックだと、
いさぎいいじゃないですか。
細いペンだと時間がかかるし、
よけいなことをしはじめるからね。
ーー
使う道具には
自分の中での流行りがあるとのことでしたが、
ずっと使っているものもありますか。
荒井
ありますよ。
たとえば、いまねこを描くのに使った
色鉛筆がそうです。
昔は「プリズマカラー」という
名前だったんだけど
いまは「カリスマカラー」に変わったみたい。
インディゴっていう色が、すごくいいんですよ。
ーー
ああ、たしか、ことしの手帳カバー
「いつだったかわすれたけどあれたのしかったね」
ラフスケッチも、この色鉛筆で描かれていましたね。
荒井
そうそう!
ステッドラーとかヨーロッパの鉛筆に比べて
カリスマカラーは芯がやわらかいんです。
ぼくは筆圧が強くて、色鉛筆の芯が折れやすいから
手に力を入れずに軽く描くんですが、
これがいちばんしっくりくるんですよ。
ーー
芯はかなり、とがらせているんですね。
荒井
鉛筆は、カッターでいつも
とがった状態にしておかないと、
気になっちゃってだめなんです(笑)。
でも、描いているときにしょっちゅう
ボリボリと芯が折れちゃう。
だから、折れた芯をとっておいて
それを指で直接こすって
描いたりするのに使います。
これもね、なかなかいいんだよ。
ーー
折れた芯を、指で!
おもしろいです。
荒井
鉛筆だって、
最後までまっとうしてあげたいからね。
ーー
ところで荒井さんは、
いつもそのように、
立って描いているんですか。
荒井
いつも立ってますよ。
椅子は、ほとんど使わないです。
何時間も立ち続けてても
ぜんぜん平気ですね。
ーー
何時間も‥‥すごいです。
荒井
うん。こうやって‥‥
あとね、描くときは
できるだけ力を入れないで描くと、
あたまの中もらくになるんです。
反対に、力が入ってしまっているときは
あたまにも意識がいきすぎて、よくないんです。
だから、力を入れずに
あたまの中をらくにするといいんだよね。
こうやって、すいすいっとね。
ーー
あたまの中をらくに。
荒井
うん。手に変な力が入って
「うまく描けないなあ」と思っているときは
思考もかたまっちゃっているはずだから。
絵の具が手についたりしたら、
わざと、手を紙に置いたりしますよ。
なんにも考えないようでいて、考える。
考えているようでいて、考えない。
ーー
今回の手帳カバーには
「いつだったかわすれたけどあれたのしかったね」
というタイトルをつけていただきましたが
実はそれ以外にも、
いくつか候補を考えてくださったんですよね。
ラフにもいろいろなタイトル案が手書きしてあって、
荒井さんの考えの軌跡を
少しうかがえたような気がしました。
荒井
今回のカバーの場合は、
「ねこって、こうだよね」っていうところを
出せたらと思って、
ああ、これもあるな、これもありだな‥‥って
浮かんだものを、書いてみた感じです。
ーー
ふだんから考えていることは、
思い浮かんだときに
どこかにメモしたりしますか。
荒井
いやあ、ないですね。
メモとかしないです。
昔は手帳に書いてみたりしましたけど、
ぜんぜん見返さないし(笑)。
ーー
絵本のタイトル案を考えるときなどは?
荒井
ああ、それこそ
この手帳カバーのラフみたいな感じですね。
机に、もう使わないゲラとか、
裏が白いA4の紙の束とB4の紙の束が
だーんと置いてあるんです。
新聞に書いちゃうこともあるし、
最近だったらamazonの袋とかにも
書きますね(笑)。
ーー
袋にまで‥‥(笑)。
と、お話ししているうちに
ねこの絵もすっかりカラフルに!
今日はほんとうに、ありがとうございました。
荒井
こちらこそ!
いま、「山形ビエンナーレ2018」
準備をしているんだけど、
よかったら遊びに来てくださいね。

(次回は、西田善太さんが登場します)

photos:eric

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この特集は、2018年9月に銀座ロフトでおこなった
「書く!」展の展示内容を再編集したものです。
イベントのレポートはこちら。