06逆転のきっかけ

  • 将棋は点数を取り合って合計得点が多い方が勝ち
    というわけではなく、
    交互に駒を動かして微妙な形勢を判断しながら、
    最後はどちらかが自分の負けを宣言した時に、
    勝敗が決まります。

    何手も先の変化を読み合い、
    自分の理想に近い局面を目指して
    一手ずつ順番に進めるのですが、
    自分の手番だからといって必ず有利になるわけでもなく、
    よくない手を指せば
    そのせいで一気に劣勢になることもあります。

    そういった手は悪手と呼ばれ、
    もちろん悪手自体もよくないのですが、
    ひとつの悪手に引っ張られすぎてしまうことのほうが問題で、
    小さな悪手がさらなる悪手をよび、
    その結果、なんでもないような小さなミスによって、
    そのまま負けてしまうような対局もあるのです。

  • 藤井四段は詰将棋が得意で
    終盤が強いという前評判がありました。

    しかし、対局を見ていると
    毎回逆転しているという感じではなく、
    そのことを将棋が好きな友人に尋ねたことがあります。

    その友人曰く、
    確かに、藤井四段は逆転勝ちが多いというわけではなく、
    どちらかというと逆転負けがない将棋を
    指している印象がある、ということでした。

    藤井四段は悪手を指すことはあっても、
    そのひとつのミスだけで踏みとどまり、
    そこからしっかりと態勢を戻しているのがすごい、と。

    つまり、終盤が強いのは間違いないけれど、
    終盤が強い=逆転が多い、というわけではなく、
    しっかりと読み切ることで、
    優勢だろうが劣勢だろうが常に最善手を探すことができ、
    それによって逆転負けをすることが少ない、
    というのが藤井四段の終盤の強さなんだろうなと思いました。

  • 高校野球で逆転勝ちが多いことでも有名な
    早稲田実業の和泉実監督が
    「逆転は、逆転した方ではなくて、
    逆転された方に理由がある。
    さっきまで有利に運んでいたはずなのに
    どうして守りきれなかったのか、
    その理由がわかっているのはきっと負けた方だと思う」

    というような話をしていました。

    相手がいい手を指すことで、
    もしくは自分が悪手を指してしまうことで、
    盤上にあらわれる逆転の雰囲気に対して、
    慌てず冷静にその時の最善手を
    見つけることができるかどうか。

    逆転というと、逆転した側に目がいきがちですが、
    実はそのきっかけを持っているのは逆転された方で、
    いかにそのきっかけを渡さずに守りきれるかが、
    勝負において大切なんだと思います。

  • 複雑な局面から手品のような一手で形勢を逆転する
    「羽生マジック」で知られている羽生二冠は、
    逆転のコツについて、
    「どんな局面でもベストと考えられる
    普通の手を指しているだけで、
    特に逆転を狙った一手を指しているわけではない。
    ただ『これでいける』という判断基準が人より甘く、
    それが逆転の一手につながっている可能性がある」
    と話しています。

    どんな局面でも冷静に幅広い視点で考えるということ。

    これは逆転のきっかけを与えないために必要なことであり、
    同時に、逆転のきっかけをつかむために
    必要なことでもあったのです。

    すごく単純なことのようにも思えますが、
    きっと、それを理解していながらも
    完璧にはできないからこそ、
    逆転が続くシーソーゲームにドキドキするし、
    それこそが、人間同士の対局の
    面白みなのかなと思いました。

(つづく)

2017-09-16-SAT

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