01中学生棋士・藤井聡太四段

  • 世界一周から帰ってきて1年、
    僕は今、将棋の世界にいます。

    将棋の世界といっても、
    棋士になったわけではなく、
    イースター島で出会った旅人に誘われて、
    将棋に関わる仕事をしているのです。

    そして、なんだか楽しそうな気がしたから、
    くらいの理由で出会った将棋の世界は今、
    藤井聡太四段という、一人の中学生棋士の登場で
    かつてないほどの盛り上がりをみせています。

  • この仕事をはじめて、まず驚いたのは、
    プロ棋士になれるのは1年に4人だけだということ。

    養成機関である奨励会のリーグ戦を勝ち上がっていき、
    最後の難関の三段リーグを
    上位の成績で突破することができてはじめて、
    プロ棋士になることができるのです。

    その難関を14歳2か月という
    最年少記録で勝ち上がった中学生、
    それが藤井四段でした。

    プロ入り初めての対局、
    藤井四段は加藤一二三九段に勝利し、
    初戦を白星で飾ります。

    しかし、その勝利を報じるニュースは今ほど多くはなく、
    僕自身も「中学生なのにすごいな」

    と思っていたくらいでした。
    半年後、棋士の高野秀行六段は藤井四段について、
    「性能の良いマシンが参戦すると聞き、
    フェラーリやベンツを想像していたら、
    ジェット機が来たという感じ」と表現します。
    しかし、このときはまだ、
    藤井四段のジェット機のような強さには
    誰も気づけてはいませんでした。

  • そんな中、abemaTVで将棋チャンネルが開設され、
    「藤井聡太・炎の七番勝負」という企画が始まります。

    デビューしたての藤井四段が7人のプロ棋士に挑戦する、
    といった内容で、7人のプロ棋士として、
    羽生善治三冠をはじめ
    そうそうたるメンバーが集められました。

    「藤井四段は何勝できると思いますか」

    というアンケートがTwitter上で実施されたのは、
    この企画が放送される直前。

    この時、藤井四段はデビュー以来
    負けなしの4連勝中だったにも関わらず、
    半分くらいの人が「0~2勝」と予想、
    「5勝以上」できると考えていた人は1割くらいでした。

    僕自身も、さすがにデビュー間もない中学生が
    トップ棋士に勝つのは難しいだろうと思っていたのですが、
    終わってみれば、6勝1敗。

    2戦目の永瀬拓矢六段に負けただけで、
    残りの6戦は、最後の羽生三冠戦も含め、全て勝利。

    そして、そこから快進撃がはじまったのです。

    デビューからの連勝記録である10連勝を超え、
    15連勝、20連勝、
    ついには歴代の連勝記録である29連勝まで勝ち続けました。

    日に日に注目度が上がります。

    扇子やクリアファイルなどの藤井四段グッズはすぐに完売。

    藤井四段の対局がある日には
    将棋会館にたくさんの報道陣が押し寄せ、
    リュックや財布、昼ごはんまでが
    ニュースとして取り上げられるようになりました。

    この頃には「中学生なのにすごい」とは
    誰も思わなくなっていて、
    ただただ一人の棋士としてのすごさ、
    その純粋な強さに、世間が魅了されていた感じがしました。

  • ある時、藤井四段の対局を
    「なんだか勝ちそうな気がする」

    と思いながら観ている自分に気づきました。

    将棋初心者の僕に形勢判断ができるはずもないのに、
    どうしてだろうと思い、
    ある棋士の先生に話してみたところ、
    「それが彼の強さなんですよ」との回答。

    強い棋士からはエネルギーが溢れ出ていて、
    それが対局相手や観ている側に伝わることがある、
    とのことでした。

    強さとは何なのか、そんなことを考えました。
    藤井四段は、勝ち続けたから強いのではなく、
    強かったから勝ち続けることができたはずです。

    でも、藤井四段の強さが認識されたのは、
    デビューから半年ほど経ってから。

    勝ち星の数によって、みんながその強さを知ったのです。

    そして、それによって今度は、
    目に見えないはずの強さまでもが伝わるようになりました。

    連勝という事実によって、連勝できる強さが可視化され、
    そして可視化された連勝できる強さが、
    次も勝つかもしれないという強さを作り出す。

    強さとは、結果と期待の間に、
    時間軸を超えて存在するものなのかもしれないと思いました。

  • 世界一周から帰ってきて出会った、将棋の世界。

    藤井四段の今後が楽しみで、
    盛り上がっている将棋界のこれからも気になります。

    面白い世界はこんなところにもありました。

(つづく)

2017-08-12-SAT

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