02棋士はかっこいい

  • 藤井聡太四段がはじめて負けたのは、
    29連勝という歴代単独トップの記録を打ち出した、
    その次の対局のこと。

    対局相手は、昨年は最多対局賞も獲得した
    佐々木勇気五段(現六段)、22歳、
    期待の若手棋士でした。

  • デビュー1年目の中学生棋士の活躍。

    勝てば勝つほど面白くて、
    藤井四段の対局がある日は
    途中経過が気になって時々チェックしていました。

    初心者の僕には戦術的なすごさは
    あまり理解できないのですが、
    予想外の一手に驚いている解説者や、
    世間の反応を見るのが楽しくて、
    「すごいすごい」という声を、
    自分のことのように誇らしく思っていました。

    この、物語のはじまりに立ち会えたような嬉しさは、
    きっと今、将棋を見ている人は
    みんな感じているのだろうなと思いながら、
    ふと浮かんだのは、
    棋士はどのよう感じているのだろうという疑問。

    同じ世界で戦う者として、
    自分たちより年下のヒーローである藤井四段の活躍は
    手放しで楽しめるものでないような気がしたのです。

  • 藤井四段の連勝が途切れる前の3戦は、
    いずれも若手棋士との対局でした。

    28戦目は25歳の澤田真吾六段、
    29戦目は18歳増田康宏四段、
    そして敗れた30戦目は22歳の佐々木五段(現六段)。

    藤井四段との対局前のインタビュー、澤田六段は
    「私は悪人で結構ですので、藤井くんを応援してください」

    とクールに答えていました。

    増田四段は
    「藤井四段が勝ちすぎている現状があり、
    将棋界はぬるい所と思われるのは悔しいです」

    と、ライバル感をあらわにコメント。

    佐々木五段(現六段)は
    その増田四段と藤井四段の対局を
    部屋の隅からじっと眺め、自らの対局に備えていました。

    それぞれが、それぞれに、かっこよく、
    『将棋盤を挟んで、向き合って座る』

    将棋の基本的な姿勢が、それぞれの言動に
    あらわれているような気がしました。

    藤井四段の強さは認めた上で、
    勝つべき相手として、藤井四段を捉える。

    棋士として生きていくということは、
    相手に向き合って座る
    ということなのかもしれないと思いました。

  • 私たちの世代を乗り越えられてしまうと、
    私たちが波に飲み込まれてしまう感じがしたので、
    大きな波ですが、立ちはだかりたいと思っていました」

    藤井四段の連勝を止めた佐々木五段(現六段)は、
    対局後のインタビューで
    藤井四段についてこのように話しました。

    目の前の勝負に勝ちたいという気持ちだけでなく、
    同時に抱く、若い世代としての意地。

    将棋に向き合ってきた人だからこそわかる、
    勝負の世界で生きていくということ。

    勝たないといけない勝負があって、
    そのために向き合うべき相手がいるということ。

    改めて、棋士ってかっこいいなと思いました。

  • 佐々木五段(現六段)が藤井四段に勝った、
    次の日の朝のニュースを観ていると、
    三枚堂達也四段(現五段)が
    昨日の対局についてコメントしていました。

    藤井四段に勝てておめでとうというほど、
    佐々木勇気は弱い棋士ではない」

    共に戦う仲間への信頼もまた、かっこいい。

(つづく)

2017-08-19-SAT

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