おいしい店とのつきあい方。

088 飲食店の新たな姿。そのその8
本当のサービス。

マクドナルドの試み
そして「テーブルデリバリー」という言葉。
飲食店の人たちにとって、
なかなかに重くて深い言葉なんじゃないかと思う。

私たちはただ、お客様の代わりに
商品をキッチンからテーブルまで
「運んでいる」だけなんです。
だから「テーブルサービス」とはあえて申しませんからネ!
それがテーブルデリバリーという言葉のもつ意味。
「商品提供」ではなく「商品配達」。

ファストフードではなく
フルサービスのレストランの人たちは
商品を提供するということに対して、
おおいに気をつかいます。
私たちはもてなしのプロなんです‥‥、
というコトを示す絶好の見せ場のひとつであると同時に、
もっとも基本的な仕事。
それが商品提供。
こころがけることはいくつもあります。

まず商品提供のタイミングを見極める。

料理を運んでいった先のテーブルが、
前の料理で片付いておらず、
せっかく運んだ料理を置く場所が
なかったりすることのないように
テーブルの上の状態を絶えず確認しなくちゃいけない。
それぞれのテーブルの食事のペースを感じながら、
厨房が料理をタイムリーに作るようにヒントを出すのも、
サービススタッフの大切な仕事。
商品提供において、サービススタッフはオーケストラの
主席ヴァイオリニスト‥‥、
つまりコンサートマスターの役目を果たすというわけです。

料理ができあがったら、
お店のムード、料理のムードに
合わせた運び方を選んで運ぶ。

お客様が優雅な気持ちに浸るお店のサービスは、
その優雅な気持ちをかき乱さぬよう
優雅でなくてはならない。
サービスの鉄則です。
元気が売りの居酒屋のすばらしく優秀な店長が、
系列のフランス料理のお店に配属されて、
サービスが元気すぎて叱られる‥‥、
なんてことは案外よく起きる。
経験豊富なサービススタッフは、
お店に入ったらまずそこの空気を
胸いっぱいに吸い込みなさい。
客席ホールの片隅にたち、
お客様の様子をしばらく眺めた上でサービスをする。
優雅な店の優雅なムードも、
その日、その時で微妙に異なり、
例えば華やかに優雅な夜があったかと思うと、
しっとりとした優雅なお昼時もあったりする。
だからお店の空気で体を満たして
サービスしなきゃいけないんだよ‥‥、と。

そんな優雅なムードの店で、
せわしなく料理を運ぶスタッフに出会うことがある。
見ると料理が蒸気に包まれて、
出来立てで熱々の状態を早くテーブルに届けなくてはと
一生懸命なサービス精神が伝わってくる。
優雅な時間のおいしいアクセント。
臨場感にワクワクします。

料理を目的のテーブルに運び終えたら、
食べやすいように料理を置く。

食べる人からあまりに遠いところに置かれた器。
とりわけることを目的とした大皿が、
大人ではなく子供たちの前に
無造作に置かれてしまうようなこと。
食べやすさ、楽しみやすさ配慮しない配膳は、
サービスと呼べないただの作業。
日本料理における、真ん中に主菜。
右手に汁、左手にご飯という配膳も
食べやすさを考慮した約束事。
食べにくく提供された料理は、
うつくしく食べることができぬ料理になってしまう。

そして最後に、笑顔とおいしい食べ方のヒントを添え
商品提供という一連のサービスが完結します。

サービスとは「接客」。
お客様に接することすべてをサービスと呼び、
料理を以て接する仕事を
テーブルサービスと呼ぶのでしょうネ。
そして今、フルサービスをうたうレストランの中で、
どれほどの店が本当のサービスをしているのか。
あなたたちはテーブルサービスでなく、
ただのテーブルデリバリーをして
自己満足しているのではありませんか?
と、マクドナルドが産業の喉元に突きつけた匕首。
産業はどうかわそうというのでしょう。

2019-07-11-THU